zoku勇者 ドラクエⅨ編 82
試練を超えろ!・4
「……やっぱり、志乃さんを救うには、この方法しかねえな……」
「!?」
「えっ、ジャミル!何か思いついたの!?」
「ああ、少々……、骨が折れる……、嫌、それ処じゃねえ……、
やっぱり無理かな……、オウッ!?」
「ジャミルううー!教えてェェーーっ!!」
「あ、あのな、だから……」
……ヘタレはアップでジャミルに顔を近づける。……鼻の両穴から
垂れた、まるでジェリービーンズの様な鼻水をぷらぷら揺らしながら……。
ちょっと困った事になったとジャミルは思う……。
「モンーーっ!!」
「ちょ、何だモンっ、オメーまでっ!……てか、オメーはケツを
近づけるんじゃねえっ!」
モンにデコピン×1
「……モギャーモン!」
「もう~、モンちゃんたら、嬉しいからって悪戯はダメっ!」
「ウシャモンブー!」
アイシャはモンに注意しながらも笑顔を見せる。てか、嬉しいのか?
……嬉しいから屁が出る寸前のケツを近づけんのか……?と……。
傍迷惑なモーモンであった……。しかし、アイシャには絶対やらないで
あろう。主な被害者は殆どがいつものヘタレとジャミ公だけである。
「……で、ジャミ公、アンタの足りない頭で思いついた方法ってナニ?」
「うん、僕にも教えてよ……」
「……ガングロ、今何か余計な事言ったろ、後で覚えとけよ……」
「フン、すぐ忘れるからいーのッ!」
「……畜生、えーとだな……、……」
ジャミルが考えていた事。それは……。離れ離れになっており、何所を
彷徨っているか分からない、志乃の恋人の御霊と志乃を巡り合わせて
やる事……。だが、それは果てしなく不可能に近く、難易度の高い事……。
「う、うう……」
「あ、志乃さん……?」
後ろから聞こえた声にダウドが反応。どうやらラリホーの効果が
切れた様だった。ちなみに……、諸悪の根源である山豚大クソ男は
先程地獄から使者が来て、漸く連れて行かれた。最後の最後まで抵抗、
暴言をわめき散らし、志乃に呪いの言葉をぶつけ……、本当に、死んで
いようとも最悪なクズであった……。
「志乃さん、大丈夫……?あのね、もうあの変なヤツはいないんだ
よお、地獄に連れて行かれちゃったから……、だから、もう何も心配
しなくていいんだ……」
「……そうですか……、はい、私……、夢を見ておりました……」
「夢……?」
「愛しいあの人、殿方様の夢を……」
ジャミル達も慌てて側に寄る。諸悪の根源がいなくなったから
なのか、志乃の表情は先程よりも穏やかになっており、落ち着きを
取り戻していた。
「殿方様はいつもお優しかった、私が旦那様に暴力を振るわれて、
顔が傷だらけになって……、醜い顔になって、泣いていた時……、
殿方様は優しく私を慰めて包み込んでくれたのです、志乃はいつも
可愛いよと……」
「……志乃さん……」
「殿方様……、いえ、ダウドさん、あなたが私に掛けてくれた優しい
お言葉、あなたを見ていると何故か殿方様を思い出したのです……」
志乃はダウドの表情をじっと見つめる。そして、涙を一滴溢した。
「あ、あ……、あのののっ!志乃さんっ!?」
「殿方様……」
そして見ていたジャミルは思う。考えていた通り、やっぱり……、かと。
「モンモン!ダウド、モテモテモン~!モモモ~!こうしたらもっと
モテモテモン!」
「……ちょっ、モンっ!何するっ……」
……モンはダウドの頭の上に飛び乗る。……今回は太鼓叩きではなく、
ダウドのオールバックヘアをぐちゃぐちゃに掻き乱して悪戯、ダウドは
ヘアスタイルが崩れた……。
「……こらあーーっ!!」
ダウドが大声を出すとモンはきゃっきゃ言いながらアイシャの方へ
飛んで逃げる。アルベルト達も苦笑……。
「全くもうっ!誰に似たんだよおっ!……いつもの事だけどさあ!
誰とは言わないけど!」
「……人の方見ながら文句言うなっつーのっ!」
ダウドはヘアスタイルを直そうと、縛っていた後ろ髪も一旦解く。だが、
オールバックを解除するとヘタレはまるで別人の様に突如美少年に
なる為、その光景を目撃する耽美、ジャミ公はヒヤヒヤしているんである……。
「……してないっっ!!」
「……ああ、殿方様……、殿方様……」
「……え、えええっ!?」
等々志乃が本格的に泣き出し、ダウドに抱き着いたのである……。
ダウドは一体何が起こったのか、分からず、只管アウアウ困り果て、
顔から煙を吐き、ジャミ公の方を向いて助けを求める……。
「これって、志乃さん、もしかしてっ!ダウドに恋なのっ!?」
「嫌……、俺の思った通りだな、志乃さん、あんたの亡くなった恋人、
……似てるんだな?髪下ろした時のこいつにさ……」
「……えええーーーっ!?お、おおお、オイラにィィィーーっ!?」
ジャミ公は興奮するアイシャの頭を抑えながら志乃の方を向いて
淡々と……。これにはアルベルトもサンディもびっくり……、大口を
開いたまま動きが止まる……。
「はい、初めてダウドさんをこの森で見掛けた時から……、優しい処も……、
何もかも、殿方様とそっくりでございました……、あなた様が、もう一度、
自分と言う人間、志乃と言う人間と向き合うと言う事、逃げない事を教えて
くれました……」
「……うぎゃーーっ!志乃さんっ!駄目っ、駄目だよおーーっ!オ、
オイラなんか……」
「暫く、そのままでいさせてやれよ……」
ジャミ公は二人から目を反らす。同意するかの様に、アイシャと
アルベルトも……。仕方ないわねェとばかりにサンディも。モンも
ジャミ公の方に又ケツを向けた。今後はジャミ公にケツを向けるのが
モンの新たなマイブームになるかも知れない。
「……だから……、こいつめ……」
「……殿方様、殿方様……」
「えーと、こうでいいのかな?……~~と……」
ダウドは志乃の身体を側に抱き寄せる。……何せ、余り可愛い女の子と
縁の無いヘタレの事、幽霊とは言え、こんな事は初めてであった……。
そして、ダウドに抱かれた志乃はダウドの姿に幻を見ていた……。
「……志乃、一緒に行こう、来世へ……、また、会おう、必ず……」
「……殿方様……、はい……」
志乃の身体が光り出す。そして……。焼けただれていた顔が、元の
美しい彼女の顔に戻って行く……。この不思議な森でダウドや皆に
出会った事で、山ブタ大クソ男の呪縛から解放され、彼女は現世での
苦しみを漸く乗り越える事が出来たのである……。
「あ、志乃さん、もう、大丈夫なの……?」
「はい……、ダウドさん、有り難うございます、これで……、お志乃と
しての人生を終わりにし、生まれ変わって又、来世で殿方様を探し、必ず
巡り会います……」
「そう、だね……、もう、邪魔する奴はいないんだもんね、志乃さんとは
行く処が違う訳だし、もう本当に大丈夫だね……」
「はい……」
志乃はダウドの抱擁から離れると、皆に頭を下げ、お礼を言う。その姿に、
ダウドはちょっぴり寂しさを感じたのだった。
「……此処は本当に不思議な世界でした、私も旦那様も……、元は
異世界の者でした、死を迎えた私は、気が付いたらこの森を彷徨って
いて……、あなたと出会ったのです……」
昇天の時間が近づき、志乃の身体が一掃の光を増す。ジャミルも
ダウドも……、皆も、これから来世へと向かう、旅立ちの志乃の
姿を見守る……。
「元気でな、今度こそ幸せにな……」
「さようなら、志乃さん……」
「どうかお元気で、大切な人と又、必ず巡り逢えます様に……」
「又いじけて来世でも暴走するんじゃねーわよっ!いい?どんな人生だって、
いい事も悪い事も絶対あるんだかんネッ!」
「おねーさん、さようなら、モンモン!」
「う、ううう~、志乃さあ~んっ!も、もう……泣いちゃ駄目だよおーーっ!!」
「……あり、が、とう……」
やがて、志乃の姿が完全に消える……。昇天したのだった。ジャミ公は、
鼻水垂らして泣いてんのはオメーだろうと……。して、ダウドは思う。
出来れば、こんな悲しい出会いと別れはもう勘弁して欲しいと。
「あっ、此処……、元の場所よ……」
「……」
彷徨える悲しき幽霊少女、志乃の魂を無事に昇天させた後、ジャミル達は
不思議な森からいつの間にか元の河原付近へと戻って来ていた。
「はあ、僕らもどうにか森から出られたみたいだし、ダウドも、
良かったね……」
「うん、アル……、えぐぐう~……、オイラね、いつの間にか、又、
新しい魔法を習得していたよ、この手の中に癒やしの力を感じたんだ、
ザオリクとベホマズン……、きっと、志乃さんの優しさが……オイラに
力をくれたのかな……?」
「そうだね、きっとそうだよ、僕も……、頑張らなくちゃ……」
「モォ~ン……、森さんも消えちゃったんだモン、何所にいったのモン?」
「本当ね、此処は本当に不思議な世界だわ……」
アルベルトに慰められ、ヘタレ再び号泣。モンもヘタレの定位置の
頭の上に乗り、一緒にしみじみと号泣。
「マジで今回はダウドが大活躍だったな、頑張ったな……」
「えへへ~、それ程でもお~……」
「ホントッ!ジャミ公より、ずっと仕事してたよッ!アンタ、案外結構
天使の素質、あるんじゃん?」
「ホ、ホント……?……全部終わったら、オムイ様にお願いしてみようかな……」
「うるせーガングロっ!……ヘタレもっ!調子に乗んなっ!」
「……何だよお!」
「あ~あ、それにしても、アタシ、疲れたから寝る、ちゃんと起こしてヨ、
ジャミ公!」
「……ったく、オメーは何もしてねえだろうがよ……、やれやれ……」
サンディはジャミルの中へ。すると、ヘタレの頭の上のモンが文句を
言い始めた。
「……何だか乗り心地良くないんだモン、これじゃちんぽこ出来ないモン、
ダウド、早く髪の毛元に戻してモン!ブーブー!」
「……何だよお!モンがオイラの髪いじくったんだろっ!、あ~もう!皆、
ヘアスタイル整えるから待っててっ!」
「へいへい……」
「あははは、ごゆっくり……」
「モンブーだ!」
「も、もう、二人とも、落ち着きなさいよ……」
ダウドはブツクサ言いながら、いつものオールバックヘアスタイルに
戻しに掛る。モンは抱っこして貰おうとアイシャの処へ飛んで行った。
しかし、最近、又モンも大きくなって来ており、食欲旺盛すこぶる健康で
体重も、もりもり増えて来ているので、彼女もモンを抱くのが段々と大変に
なっていた。まあ、アイシャの事なので、気にはしていないが。
「お待たせー!ドヤ!ヘアスタイル直したよお!」
「……おう、てか、何がドヤだ……」
オールバックヘアに戻るとすっかりいつものダウド。やはり、この
スタイルを見ている時が、ジャミルも異様に安心……。
「何だっ!おりゃあいつも通り平常心だっつーのっ!」
「♪プーモン!チンポコヘアーモン!」
「あらら~、やっぱりモンちゃんはそっちが落ち着くかしら、ふふっ!
……で、でも、モンちゃんはっ!駄目でしょっ!!」
「……うええ~……、てかっ、……チンポコヘアーって何さっ!!」
「……プッ……、オホン、いや、失礼……」
「……アルったら……」
して、直ぐにモンもダウドの頭の上に戻る。いつも通り……。アイシャと
ダウドも自分達のLVと力を取り戻し、残るはアルベルトとジャミ公だけ。
装備がひのきの棒、布の服だけなのも、このコンビだけになってしまう。
「それにしても、オメー、前の話でも自分の旦那と顔が似てるって
間違えられたろ……、(aoku勇者・続編……、参照)まあ、あんときゃ、
変な女魔導師だったけど、って、何でこんな話引っ張り出してんだ、
俺は!」
「もしかして、ジャミル、オイラに又ヤキモチ焼いてる?……ん~?
どうなのかなあ!?」
「……うるっせーっ!そんな頭の上でモチなんか誰が焼くかっ!この野郎っ!!」
「そんな頭……、言ったなあーーっ!何だよおーーっ!!バカジャミルーーっ!!」
……と、言う事で、また落ち着いて来た途端、いつものバカコンビの
醜い取っ組み合いも始まる。アルベルトは咳払いすると、スリッパを
取り出そうと……。
「モチ……、モギャーー!!お腹すいたモーーンっ!!」
「あう……」
そして、ジャミ公がつい余計な言葉を口走った為、根本的な問題も
ほじくり返す。4人もモンも、再会して、あれから何も口にしていない。
ジャミ公は困って、鼻クソもほじくり返そうと……。
「ジャミル、真面目に話進めてくれるかな……?僕らだって空腹は
我慢してるんだよ、どうするんだよ、あれ……」
「はい、すいません……」
「……モギャーー!!キャンディー!でっかいお肉!食べたいモンーーっ!!」
モン、腹が減ったと遂に暴れ出す……。やっぱり、皆がいるとどうしても
甘えてしまうので、我侭モーモンに戻ってしまうのである。もう手元に
キャンディーも何もないので、アイシャも困ってしまう……。
「モン、いい加減にしないかっ!これも試練なんだよ!君にとってのっ!」
「……モォ~ン?試練……?モンもモン?」
「そうさ!」
「アル……、あの、そんなに怒らなくても……、ね……?」
アイシャはモンを庇おうとするのだが、アルベルトは首を強く
横に振った。
「僕らも必死に皆で頑張って、この世界での試練を乗り越えようと
しているんだ、モンだって同じ仲間じゃないか!辛くても一緒に
頑張って欲しいんだよ……、世の中には、志乃さんみたいに……、
生きるのが毎日辛くて……、本当に悲しい思いをしている人も
沢山いるんだよ……、争いで明日のご飯が食べられないかも知れない
子供達だって……」
「モォ~ン……」
暴れていたモンは申し訳なさそうにアルベルトの方を見上げるの
だった。そして思い出す。カデスでの辛い出来事。ジャミルと一緒に、
お腹が空いても真面な食事を食べられず、一生懸命我慢した事、
……カデスを出る事が出来ないまま、死んでしまったボンの事……。
「……アルベルト、みんな、ごめんなさい……、モン……」
モンは皆に頭を下げる。その様子を見ていたアルベルトもモンに謝る。
「分かってくれればいいんだ、僕もつい言い過ぎちゃったけれど……、
モン、一緒に頑張ろう、これからもね……」
「うん、モォ~ン!」
だが、やはり何か口にしなければ力が出ないのも現状……。人間
食べなければ生きてはいけない。此処に来た時から既に腹が
減っていたダウドも限界であった。
「そ、そうだ……、一旦カナトの処……、戻るか……?」
「モンっ!?」
カナトと聞いて、モンが目を輝かせる。アイシャとアルベルトには
少し話はしたが、ダウドとサンディはまだ彼の話は初耳。何せ、
ジャミ公とモンは先にカナトに食事を助けて貰ったフライング
前科犯だった……。
「誰なのさ?カナトって……」
「ジャミルとモンを助けてくれた男の子モン!ちっちゃいけど
とってもしっかりしてて、お料理が上手なんだモン!」
「ふ~ん……、お料理上手……」
ダウドはジャミ公をジト目で見る。再会した時、どことなく
ジャミ公が何となくだが、顔が丸くなってコロコロしていて
元気だった理由を何となく理解した……。
「カナトのつやつやトマト美味しかったモン♪元気もりもり、うんちも
もりもりになったモン!」
「お、おいっ!こらっ!ばらすんじゃねえっ!あ……」
「はあ、そう言う事か、ま、仕方ないよね、僕は別に何も……」
と、アルベルトは言うが、何となく不機嫌であった……。
「だって、しょうがねえじゃんかよう~、助けて貰った時、食事
ご馳走してくれたんだからよう~……」
「モォ~ン……」
ジャミ公とモンは指と指を合わせてちょんちょん、唇を突き出し
同じポーズを取る。しかし、ジャミ公は他のメンバーよりも運が
良かったのだからどうしようもない……。……アイシャも、別に
もういいじゃないのとは言ってくれたが……、カレー屋、牛丼屋と
喚いていたハラペコダウドはどうしてもご不満だった。けれど、
カナトに世話になっている間も、ジャミ公は皆の事を気に掛け、
心配していたのも事実。この後、新たな騒動に巻き込まれる
羽目になり、皆が真面な食事に有り付けるのはもう少し、先の
話となる……。これも本当に乗り越えるべき試練の一つだった……。
「それにな、カナトもお前らに会ってみたいって言ってたし、
全員無事に揃ったら又何時でも遊びに来てって言ってくれた
からな、どうだい?ちょっと戻って見ないか?」
「そう……、その……、彼の行為は嬉しいけど、でも……」
アルベルトは久々に眉間に皺を寄せた。アルベルトもカナトには
会ってみたいと思ってはいるのだろうが、糞真面目な彼の事、
アイシャやダウドも既に自分達のLVを取り戻している故、
アルベルトも一刻も早く自分のLVも取り戻したかったのだろう。
言葉に詰まり、悩み始める。
「おいおい、んな顔すんなよ、別に悩む程の事じゃねえだろうが……、
カナトはスゲーいい奴だぜ?」
「そうなんだけど、さ……」
「けど、その子の家、何所にあんの?こっから大分距離が離れ
ちゃったんじゃないの?」
「……そ、そりゃ……、けど、少し歩きゃ直ぐ戻れる……、と、
思うんだけど……」
「何だよお、はっきりしないなあ~!」
ダウドにもせっつかれ、困るジャミ公。カナトの処に戻りたかったのは、
決して休ませて貰いたいからが為でなく、もう少しカナトに色々と話を
聞いてみたいと言う気持ちもあったのだが……。
「私は別にいいと思うわ、カナト君に会ってみたいもの!ずっとそう
思ってたの!」
「わ~い、モンモン!」
と、アイシャは同意してくれ、モンも嬉しそう。だが、やはり
アルベルトは浮かない顔。……眉間の皺が消えていない……。
「ジャミル、悪いけど……、僕は此処に残る、自分の因縁の相手を早く
探さなくちゃ……、何時までもこんなみっともない姿では……」
「アル……」
「それに、試練は自分の手で乗り越えなくてはいけないんだから、
皆の力を借りずにね、二人が試練を乗り超えた様に……、だから、
僕一人でも大丈夫、皆は先にその……、彼の処に行って貰って
構わないよ……」
「……あのな、それじゃまたバラバラになっちまうだろ!困るじゃねえか!」
「だったら……、僕やジャミルの力を取り戻す事を先に優先的に
考えて欲しい、僕らは一体この世界に何の為に派遣されたと思って
るんだよ……、変な観光旅行に来てるんじゃないんだ……」
「俺はカナトに助けて貰ったんだよっ!だからもっと色んな話が
したいだけだっ!もしかしたら、試練を乗り越えたら……、
アイツとも本当に会えなくなっちまうかも知れねえんだ、こんな
おかしな世界なんだ、いつ、何が起きても不思議じゃねえ、だからさ……」
「……だから、会いたければ皆で行けばいいじゃないか……、僕は
遠慮するから……」
「……頑固だなっ、オメーもっ!」
「アル、ジャミル……、止めて、ねえ……、こんな時にケンカは駄目よ!」
「あ~あ、始まっちゃったよお~……」
此処に来て、ま~た揉め事が起きる……。糞真面目なアルベルト、
呑気なジャミ公、両者の対立が起きてしまう……。いつもの事ながら、
アイシャもダウドも困りモードに突入してしまった……。
「ん~ッ!うっさいわねえーっ!全然休めないじゃん!……って、アラ?
な~んかまた、変な険悪ムード満々なんですケド……、ヤバッ!?
ま、また何かもめ事ッ!?」
こんな時に、また出て来てしまうサンディ。ジャミ公とアルベルト……。
両者、まるでライオンとヒョウの様に黙って睨み合っていた……。
「……モン、カナトに会いたいんだモン~……」
「モンちゃん、……だ、駄目っ!」
「だから会いに行けばいいじゃないか、モンは空が飛べるんだからさ、
僕はもう完全に決めた、此処に残るからね……」
「おう、いいさ!勝手にしろってんだよっ!俺はカナトの処に行く、
お前らはどうするんだ?」
「う、うわ!……無理な選択肢……」
「……どうしよう、アルベルト、又怒らせちゃったモン~……」
「ほっとけよ、モン、機嫌が悪いのはアイツが勝手に怒ってるだけだよ!
勝手に好きに噴火させとけ!」
「……こんな不愉快な気分にさせているのは一体誰の所為だと
思ってるんだよっ!」
「それはこっちの台詞だっつーのっ!!」
「あら、あららら~、な、何かマジでホントにやばくネ?これ……」
……ジャミルとアルベルト、遂に衝突が起きる……。ジャミルは
アルベルトの襟首を掴む程の勢いになる。アホなおふざけ毒舌合戦で
ない、本気のヤバイケンカである。こんな異世界まで来て、もう~、
この二人は何なのさあー!と、ヘタレも困り果てる……。そして、
二人の余りのガキっぷりにアイシャも切れた……。
「いい加減にしてっ!二人とも子供みたいっ!何よ!こんな時こそ、
皆で一致団結して今一番どうしたらいいか考えるのが先決じゃないの
よう!だから、もっと落ち着いて……」
「うるさいっ!……うるせーガキにガキって説教されたかないわっ!!」
「……アイシャ、少し黙ってて!」
「何ようーっ!ジャミルのバカっ!アルのバカっ!も、もう……、
知らないんだからっ!!……ひっく……、うっ……」
「……あわわわーーっ!」
ケンカの仲裁に入ろうとしたアイシャ……、泣き出してしまい、
その場は等々手が付けられなくなった。そもそも、い、一体、何が
どうしてこんなに大喧嘩になったんだっけと、ヘタレ大混乱……。
アイシャが泣いてしまった言うに、ジャミ公もブンむくれ、無視、
今回は知らん顔である……。
「……アイシャ、ごめんなさい、モンが、モンが悪いんだモン……、
モンが我侭言ったり、カナトに会いたいって言ったから……」
「ひっく、ひっく……」
「何言っているんだよ、別にモンは悪くないだろ、僕の意見を聞いて
くれないジャミルが一番悪いよ、僕は別に異世界で折角出来た
友達の処に行くなと言っている訳じゃない、只、僕は此処に
残りたいって言っているだけ、それだけなのに……」
「……何おーー!?」
「「……うるっさーーいっ!もうーっ!オメーラいい加減にしろーーっ!
……もう一度川に落ちて頭冷やしてこーーいっ!!」」
サンディもマジギレ……、力を込め、ジャミルとアルベルトを川に
向かって蹴り倒し、二人は川に転落……。しかし、頭は冷えただろうが、
全然反省の色無し。……結局、本日も夜を迎えてしまう……。最悪の
雰囲気のまま……。もう現場は何が何だか分からなくなって来ていた。
少し寄り道になるのを分かっていつつも、独りぼっちでいつも暮らして
いるカナトを皆に紹介して、友達になってやって欲しいと思うジャミル、
早く自身の力を取り戻したいと願うアルベルト……。意地っ張りのアホ達の
思いは一体何所まですれ違う……。
4人は険悪な雰囲気を解除出来ないまま夜を迎え、数時間が経過する。
相変わらず禄に食事も取っていない。何とか食べた物と言えば、
そこら辺に生えている僅かな食べられる雑草をアイシャの魔法で
焼いただけ……。だが、ジャミ公もアルベルトも飯の事なんぞ忘れ、
怒り浸透であった。今夜も川縁付近で野宿。アイシャは泣き疲れて
眠ってしまい、モンも元気なくしょんぼり……。サンディも怒ったまま
ジャミルの中に引き籠もる。ヘタレは……、瞑想しながら想像の中で
ご馳走を食べていた。気の毒過ぎである。
「おい……」
「何だよ……」
「そうやってオメーが独りよがりに取った行動の所為で、
カラコタん時、どれだけ皆に迷惑掛けたか分かってんのかよ……」
「忘れていないよ、申し訳なかったと今でも思ってる、でも、迷惑
掛けたとか、やっぱり君に言われたくない、腹が立つ……」
「……あーそうかいっ!」
「……」
ジャミルはアルベルトに再びケツを向け、ゴロ寝……。苛々が止まらない
アルベルトの方も、正直、ふて腐れている時間も勿体ないと思っていた。
こんな事している暇があるなら、自分一人でも勝手に動いてしまいたい
心境だった。どうこうしている内、ジャミルも本当に眠ってしまう。
ダウドとモンも。一人、寝付けないでいるアルベルト……。やはり、
自分だけで単独行動を……。そう思っていた矢先。
「……雨?」
「!?うわ、うわうわうわっ!!」
「何だよおおーーっ!!」
「きゃーーっ!?」
4人は突然の大雨に襲われる羽目に……。この異世界に召喚されてから、
これも初めての事態……。眠っていたジャミル達も飛び起き、何とか
避難先を探すものの、何も見つからず。漸く雨が上がった時には、既に
夜も明け、全員びしょ濡れだった。
「ふるぶるモン~、寒いモン……」
「こ、これじゃ……、風邪引いちゃ……、ひっくしょん!」
(申し訳ないんですケド、アタシは取りあえず此処だから……、
良かった……)
「こう言う時、野宿って困るね、えへへ……」
「……」
ジャミ公とアルベルトの大喧嘩から泣きっぱなしだったアイシャは、
何とか笑顔を取り戻そうとしているのか、健気である。しかし、
眠っている間も泣いていたのか、瞼は相当腫れている。きっと
今日はお天気と一緒に、二人もからっと気持ちが晴れて仲直り
してくれると。いつもの様に。アイシャはそう願っていた。だが、
そんな彼女の気持ちを掻き消すかの様に……。
「ふん、オメーが素直にカナトの所に行くのを承諾してりゃ今頃……、
こんな目に遭わずに済んだんだっつーのっ!」
「モォ~ンっ!?」
「ま、また……、ジャミルは……」
「だから……、勝手に行けばいいって言ってるだろう!?僕の事なんか
構わずにっ!」
「うるせーなこの野郎っ!」
「も、もう……、流石の僕も頭に来た、このーーっ!!頑固バカ
ドロボウ盗賊っ!!」
「うるせーっ!腹黒貴族めーっ!シーフって言えーーっ!!頑固は
どっちだーーっ!!」
「うわわわーーっ!!」
再び第二ラウンド開始。アホ二人、遂に取っ組み合いになり、両者等々
地面に転がる……。ダウドはもう、見ていられないよお!と言った様に
頭を抱えるのだった……。サンディもどーしよーもないネ、これ……、と、
言うばかりにジャミ公の中から飛び出した。
「……やめてモォ~ン!やめてモォ~ン!」
「もうヘタレもデブ座布団もほっときなって、気の済むまでさせて
あげるしかないじゃん、当事者達同士でサ……、……あれ?」
「……」
突如、又何かが地面にドサっと倒れる音がする……。アイシャである。
「ちょっ!……アイシャ、ダイジョブっ!?ねえっ!!」
「ダウド、アイシャが大変モン!!」
「……アイシャっ!凄い熱だよお!大雨でやられた所為と……、
後は……」
「クソ貴族ーーっ!クソ食って腹壊せーーっ!!」
「野獣ゲスーーっ!少しは言葉を慎めーーっ!!」
ダウドはそう言いながら、地面で取っ組み合いをしているジャミ公と
アルベルトの方を見る……。雨の所為もあるが、やはりアイシャはこの
二人の所為で精神的にも相当なショックを受けているのだろうと……。
流石にもう、ヘタレも我慢の限界であり……。
「いい加減にしろおーーーーっ!!」
「……」
……掴み合いをしていたジャミ公とアルベルトは、ヘタレが出した
大声にびっくりし、一旦ケンカの手を止め、何事かと、大声を出した
張本人の方を向いた。そして、又の非常事態にこの後すぐ気づく事に……。
「ケンカなんかしてる場合じゃないだろっ!アイシャが大変なんだよお!!」
「……?ああっ!!」
「アイシャっ!!」
ジャミルは地面に倒れているアイシャに駆け寄り、直ぐに
抱き起こすと声を掛ける。……身体全体が相当熱い……。
ジャミルはアルベルトの顔を見上げた……。
「アル、これやべえぞ、相当参ってる……」
「は、早く、治療を……!ダウド、頼めるかい!?」
「分かってますよお!けど、あんたらはもう少し頭冷やした方が
いいですっ!」
……と、言う事で……、ジャミ公とアルベルトは再びサンディに
蹴られ、夜明けの冷たい川の中へと飛んで行った……。んでもって、
モンにお仕置きの生屁をプレゼントされるのだった。そんなこんなで、
アイシャの体調不良により、ケンカも探索も一時中断……。ダウドは
アイシャへと決死の魔法治療に取り掛かる……。
「はあ、オイラが魔法力取り戻せてなかったらと思うと……、
ぞっとするよお、力を取り戻すのは大変だったけど、良かった、
ありがと、あの時、オイラの背中押してくれてさ、ジャミル、アル……」
「ダウド……」
「……」
ジャミルもアルベルトもそれきり黙ったまま、大人しくダウドの
アイシャへの治療を見守っていた。そして、両者共改めて思うので
ある。……一番ヘタレなのは自分達だと。
「ダウド、アイシャ……、大丈夫モン?」
「うん、何とか熱さえ下がっちゃえば……、でも、一番良いのは
やっぱり何か栄養のつく物を食べさせてあげる事だと思うけど……、
オイラ達もだけど、ここ数日、碌な物食べてないしで、こんな所じゃ……」
「モン~……」
「何かお手上げってカンジよネ~……、ったくっ!アイシャが
こんなになるまで分からないんだから、アンタ達って相当のバカっ!!」
「……」
「サンディ、よしなよお~……、アル……?」
「ごめん、もう少し頭を冷やして来る、大丈夫、勝手な事はしないから……、
ダウド、アイシャの事、どうか宜しく……」
「アル……」
アルベルトはそのまま川縁の方まで歩いて行く。ジャミルはジャミルで、
流石に懲りたのか、何も言わず黙りこくったままだった……。アルベルトは
一人、河原にしゃがみ込むと、猛烈に、カナトの所へ行くのを拒否した自分を
後悔し始めた……。
「姉さん……、やっぱり僕は力の及ばない未熟なダメ貴族です……、
僕は結局自分の事しか考えていないんだ、姉さんに普段からいつも
怒られていた通りです、これでは何時まで立っても……、皆を守れる
聖騎士になんかなれっこない……」
zoku勇者 ドラクエⅨ編 82