zoku勇者 ドラクエⅨ編 81
試練を超えろ!・4
「……へへ、そうだよ、コイツはオラを殺そうとした、そら天罰が下って
当たり前サア……」
「お、お前は……?、う、うっ!?」
「「!!!」」
「……クッ、さあーーーッ!!」
「……オエ~モンっ!!」
錯乱する志乃の隣に姿を現す山豚クソ男……。しかし、故人にも係わらず
臭ってくる悪臭の嵐……。アイシャとアルベルトは揃って口を押さえ、声を
出せず……。サンディは大混乱、モンも大パニックに……。
「コイツだよお!生前から志乃さんを追掛け回して、酷い事して……、
死んだ後も悪霊になって志乃さんに取り付いているんだよお!」
「ああ、そりゃ見りゃ分かるよ、いかにもな悪人面だ、……けど、オメー
良く平気だな……」
そう言いながらジャミ公もしかめっ面をして鼻と口を押さえる……。
「もうそんなの慣れちゃったよお!お願い、皆、志乃さんを
助けたいんだ、力を貸して!」
ジャミル達は分かっているとばかりに返事をダウドに返す。……悪臭、
臭いに耐えつつ……。
「……悪いケド、アタシはパスッ!限界ッ!じゃあっ!取りあえず、
オーエンだけはしといてあげる!……ふぁいとっ!」
と、サンディはジャミルの中へ逃走。いつも通り。しかし、どっちみち
彼女にいて貰っても騒ぐだけでどうにもならないので、別にヨシとする。
「気をつけて、コイツ、悪事を重ねて死んだ後、長年も放浪している内に、
本体がモンスター化してるんだ……」
「……そうか、最悪の糞ケースだな、こりゃ……、うっ……」
しかし、やはりこの異様な悪臭はどうにかならんかと……、臭いに
慣れてしまっているダウド以外のチームの皆さんは勘弁してくれと
思うのでありまひた……。
「……私、私……、こんな醜い顔では……、も、もう、生きていけな、
ううう……、誰も、誰も私を……、愛してはくれない……、うう……」
「志乃さん……?」
再び志乃が顔を覆って泣き出す……。悲しみに暮れている志乃とは
対照的に、山豚クソ大男は志乃を嘲笑うかの様に大声を上げてゲラゲラ
笑い出すのだった……。
「……コイツっ!いい加減にしろおーーっ!!」
「本当に最低よ……」
「モンモン!ウシャーー!!」
山豚クソ大男に怒りを向ける、ダウド、アイシャ、モン……。そして、
アルベルトは……。
「僕、思うのだけれど、もしかしたら志乃さんは……、生前の死の直前の
記憶と……、亡くなった後、彷徨っている時の今の状況と……、ごっちゃに
なって錯乱しているんじゃないかな……」
「ァ、ァァァ……、私、私の顔……、醜い……、化け物……」
「ガハハハ!志乃よう、オメエ、生きてる時よりもェェ顔しとんじゃ
ろうがよお、そう、怪物みてえなよう、どうだぇ、ドブスになった気分は!
ガハハハッ!!」
「……こ、この豚っ!おい、まずはアイツを黙らせんぞ、やっちまおう……」
遂にジャミ公も切れ始める……。ジャミ公に頷く仲間達……。皆は
戦闘態勢に入る……。怒りで悪臭もそろそろ気にならなくなって来た
様だった……。
「ダウド、あの豚は俺らで何とかしとく、オメーは志乃さんを……」
「……だ、だけど、アイツは……、あっ!?」
「……チィッ!!本性を現しやがったなっ!!」
「……グワはははははーーーッ!!」
山豚クソ大男はボストロールキングへと姿を変え、4人の前に立ち塞がる。
まだ、ジャミルとアルベルトはLV1のまま、本来の力を取り戻せていない
……。それでも、戦わなければならない……。唯一真面に戦えるのは、
本来のLVを取り戻したアイシャ、ダウドのみ……。しかし、肉体打撃系
モンスターは破壊力が恐ろしく、HPが少なく、防御力の低いアイシャは
運悪く痛恨の一撃でも繰り出されば、やはり一撃でやられる可能性も……。
回復魔法が使える自分が外れてしまえば……。ダウドが悩んでいると……。
「ダウド、私なら大丈夫!モンちゃんだっているんだから!今、
志乃さんの心を救ってあげられるのは、ダウド、僧侶でもある
あなたの役目なのよ!」
「ウシャーモン!」
「アイシャ、モン……、オイラ……」
「ウ、ウゥゥ、もう、私、ワタシ……、シヌコトも……、デキナ、イ、
の……、……ドコに、いけばいいの、ううう……」
ダウドはアイシャ達に呟きながら、悲しみに暮れ、苦しんでいる志乃の
方を見る。そして、決意するのだった……。
「みんな、ありがとう、オイラ、志乃さんを助けるよお!」
「よしっ、分かったら行けっ!此処は大丈夫だ!」
「ダウド、頼むよ!」
「うんっ!」
ダウドはジャミルとアルベルトに返事を返し、志乃の元まで走ろうと
する。しかし、ボストロールキングが妨害に入ろうとする……。
「何が大丈夫なんだ?オメエ、あーんっ!?……あッ!?」
しかし、ボストロールキングはつんのめってあっさり倒れた……。
ジャミ公が蹴り倒したのである。凄まじい地響きがしたが、ダウドは
構わずその間に、志乃の元へ駆け寄る。……LVが低かろうが何だろうが、
ジャミルとアルベルトは今の自分達にも出来る、非道下劣攻撃に入った……。
スリッパ乱舞を連打するアルベルト、チンコを蹴り捲るジャミ公……。
頭上から屁を放き捲るモン……。
「……あッ!ア~ンッ♡」
「お仕置きっ、モギャーモンっ!」
「……くっ、せえええーーーっ!!だああーーーっ!!」
「いくわよっ!……メラゾーマっ!!」
最後はアイシャが真面目に決めてくれ、皆の連携により、ボストロール
キングは特に苦戦せず、あっさり倒れ、元の山豚大クソ男に戻った……。
「ぐ、ぐううう~……、こ、この野郎……」
「ま、どうせ元があんまり強くなさそうだったしな、間もなくオメーは
地獄から迎えの使者が来て連れて行かれる筈さ、もう完全に昇天するんだ、
覚悟しとけ……」
「あっはっ!やったじゃ~ん、アンタ達ーーっ!エライエライっ!花マル
あげちゃうっ!」
「オメーもよう、あのな……、ま、いいけどさ……」
臭いの現況が成敗されたと分かった途端、サンディが調子良く
飛び出して来た……。……ジャミル達は必死で志乃に呼び掛けて
いるダウドの方を見る。今はダウドに任せておくしかないと……。
「……志乃さん、志乃さん、オイラだよ、分かる?ダウドだよ……」
「イヤ、もう……、誰にも……、見られたくないの、醜い顔、酷い顔、
ワタシ、の……」
「違う、違うよお、志乃さん、綺麗だよお、全然変わらないよお……」
「本当……、に……?」
「うん……」
「ダウド……、お?」
「ケケ、ウケケケ、ケケケ……、ゲゲッゲゲ……」
最後の抵抗なのか、ヤケクソなのか、山豚クソ大男がいきなり
笑い出した……。
「んだよ、気持ちわりいなあ~……」
「おい、ォメーラよお、これで本当に終わると思ってんじゃ
ねえだろうな……?」
「どう言う事だよ……」
「今に分かるべ、……あの雌豚こそが真の悪だ、もう誰も……、あの女の
荒んだ心は止められねえんだあ、ゲゲゲゲ……」
「……殿方様、教えて下さい、志乃は……、本当に、本当に
醜くないのですか……?」
「当たり前じゃないか、志乃さんは志乃さん、そのままだよお……」
「有り難う、殿方様、……嬉しい……、あなたは本当に優しい人……」
志乃は枯れた顔から大粒の涙を再び溢す。……直後……。
「……あ、あうっ!?」
「……ほほほ、これでも……、醜くないとおっしゃるのですね……」
「……う、志乃……さん……?」
志乃はどうした事か、突如豹変……。ダウドの首に手を掛け、力を
込めようとしている……。いきなり首を絞められそうになるダウドは
慌てふためき、悶える……。
「……ダウドっ!おい、この豚野郎っ!て、てめえ、こりゃ一体
どう言う事なんだっ!説明しやがれっ!!」
「うへへへ、始まったな、……楽しいだァ~……」
「モーン!モーン!ダウドーー!!」
「……ちょ、これ、やばくネ?まさか、あの女が黒幕だったって
コト……?」
「……そんなっ!?」
「ジャミル、は、早く、……ダウドを助けないとっ!」
見守っていた仲間達も騒然。事態は混乱し始める……。ジャミルが
問い詰めても、山豚クソ男は倒れたまま、只笑っているだけ……。
このままではダウドが殺されてしまう……。アルベルトの言う通り、
ダウドを助けようとジャミルは飛び出そうとするが
……。
「くっ、ダウド、待ってろっ!今……」
「……こ、来ないでっ!」
「……ダウドっ!?」
首を掴まれたままの苦しい状態で、ダウドが必死に返事を返す……。
ダウドはジャミルの助けを拒否している。ジャミルはま~た
切れそうになる……。
「何言ってんだよっ!……その女はオメーを殺そうとしてんだぞ!!」
「ち、ちが……、う、よお、し、の、さんは……、そんな人じゃ……、
ない、……うう……」
「……ダウド、……畜生……、おいっ!何でアンタこんな事すんだよっ!
訳を教えろっ!!」
ジャミルは必死で志乃へと呼び掛ける……。志乃はダウドへと力を
入れていた首から少し手を緩め、ジャミルの方を見た……。
「いいの、いいの……、もう……、そっとしておいて下さいましっ!!」
「……!?う、うわっ!!」
「……げほっ!……志乃……さん……」
志乃は突如、一旦ダウドから手を放し、地面へと突き飛ばし、
ダウドは気を失う……。ダウドから手を引いた志乃は今度は
矛先をジャミルへと変え、髪の毛を伸ばして来る……。素早い
ジャミルは間一髪で逃れるが……。志乃の暴走は止まらず、表情も
険しく、鬼女の様に完全に豹変し、ジャミル達へと襲い掛って来た……。
「……悲しい、苦しい……、誰か、助け……、ほほほほ!皆死んで
しまえーーっ!!」
「……志乃さんっ!お願い、止めてっ!!」
「……や、やっぱアタシ、無理っ!さよならーーッ!!」
「本当に……、彼女が黒幕なら……、倒すしかないのか!?」
「……ちいっ!?」
「へっへっへ……、ざまあ見ろ、もう誰もあの女を止められるやつァ
いねえんだい……、あ~、気分がいいぜ……」
恐らく、志乃に関する全ての鍵を握るのは、山豚クソ大男だけだろう。
だが、ヤツを問い詰めている暇も無し、志乃は髪の毛をびゅんびゅん
振り回し、ジャミル達へと手を出そうとするのを止めず……。
「やっぱり……、もうやるしかねえか……」
逃げ惑っていたジャミルは足を止め、志乃と向き合う覚悟をする。
戸惑っていたのではこのままどっちみち全滅してしまう……。
幸い志乃はモンスターではない、だから……、LV1のジャミルでも、
何とか戦えると……、そう思ったのだが……。
「……許さない、難い……、この世の全てが……、どうして、私、は……」
「……志乃……?」
……再び、志乃に異変が起きる……。志乃の身体が震え始め……、
膨張し、羽織っていた着物が破け……、ジャミル達より体格が数倍は
有る、醜い化け物の姿へと完全に変貌を遂げた……。
「……私だって、幸せに生きたかった、どうして、……幸せに生きる事が
許されないなら……、何故私は生まれたのォーーーッ!一体何の為に
生まれたァーーーッ!!」
志乃の怒りのオーラは勢いを増し、ジャミル達全員を一気に吹っ飛ばし、
それぞれを大木へと叩き付ける……。アルベルト、アイシャも気絶……。
唯一難を逃れたモンは一生懸命皆へと呼び掛けるが、皆、返事をしない……。
「モン、モン、しっかりして、アルベルト……、……アイシャ……」
「あちゃあ~、こりゃもうダメっしょ、ジャミ公も完全にオダブツよ……、
って、そんな場合じゃないーっ!コラジャミ公、アンタ倒れちゃダメ
じゃん!しっかりしろおおーーっ!!」
「……う、うっ……、ってええ~……、まいったな……」
「あ、あっ……?」
「ジャミル、モンっ!」
どうにか、ジャミルは大丈夫だった様だった。とは言え、吹っ飛ばされた
時の衝撃でダメージを負っているのも事実……。ジャミルは何とか身体を
動かそうとするが、激痛で動けず……。うっすらと目を開けると、志乃は
倒れているダウドの方へ又向かっている。
「た、助けねえと……、ダウド……、く、くっ……」
「……モンーっ!」
「……ジャミ公、大変だよっ!デブ座布団がヘタレの処にっ!」
「……モ、モンまで……」
モンはジャミルの代わりにと、ダウドの処へ飛んで行ってしまった。
何とか志乃が来る前に、ダウドを起こそうとするのだが、やはりまだ
ダウドは完全に意識を失ったまま。……思い切って、おならを引っ掛け
ても何しても……。迫る志乃の足音がどんどん大きくなる。
「やーモン、やーモン!ダウドー!目を覚し……モモモ、モモン~ッ!?」
「邪魔……よ……、……」
遂にモン、志乃に捕まる……。身体を掴まれたモンは、雅に今、志乃に
握り潰される寸前だった。だが、寸出の処で、志乃の心の中で、とある、
懐かしい声が響いていた……。
「約束するよ、……志乃、私が必ず、君を、幸せに……」
「……殿方、様……」
「……モ、モン……?」
再び志乃の動きが止まる。恐る恐るモンが目を開くと、志乃は姿が
元に戻っており、倒れているダウドへと涙を溢していた。
「……う、志乃さん……?」
其所で漸くダウドも意識を取り戻し、自分の目の前で跪き、
泣いている志乃の姿を目にするのだった。
「……志乃さん、大丈夫っ!?」
「……ダウド、さん……」
ダウドは慌てて志乃に呼び掛ける。私はあなたに酷い事をしたのに、
理解出来ない……、どうして……、志乃は心の中で封印していた
懐かしい思い出と、自分を今、必死で心配してくれているダウドとを
重ね合わせ、ある決意をした。自分が自分でいられる間にと……。
「お、俺も、動かなくちゃ……、畜生……、何やってんだよ、
あいつら……」
「何かジャミ公、スゲーなさけねーんですケド……、後頭部の巨大な
コブさぁ~……」
「……ガングロ、うるっせえ!……いちちち……」
「……殿方様……いいえ、ダウドさん……、私の意識が表に出ていられる
内に……、どうか、あなた様にお願いがあります……」
「……志乃さん?」
志乃は両手を胸の前で組み、目を閉じ、ダウドへ向け、静かに
言葉を継げた。
「……私と言う存在、志乃と言う人間の存在を完全に消して欲しいの
です、私と言う人間、お志乃などと言う人間は、最初からこの世に
存在しなかった事にして下さい……」
「志乃さん、あんた……」
「な、なななな!何言ってるんだよお!そんなのダメに決まってる
じゃん!そんな事言ったらっ!……オイラ、怒るよお!……ヘタレの
オイラでも怒るからね!……ガルルルーー!!」
「けれど、これはあなたにしか出来ない事、僧侶で有るあなた様なら……、
私の汚れた魂を完全に浄化出来る筈です……」
「あ、っ……」
「ダウド……」
ジャミルはダウドの方を見る。志乃がダウドに頼んでいる事。それは、
自分の魂をニフラムで浄化して欲しいと言う事。天使が迷える魂を導き、
来世の新たな人生へと導くのとは違い、……魂、つまり、彼女の存在
そのものを消し、成仏させて欲しいと言う事……。
「そんな……、どうしてさ、どうしてなのさ……」
「……私……、は……」
志乃が悲しそうにぽつりと言葉を漏らす。直後……。けたたましい
笑い声が聞こえた。倒れている山豚大クソ男が笑い出したんである……。
「こ、こいつは面白えやあ、志乃、おめえ、遂に自分自身を否定しだしだか、
わはは!これは愉快愉快だぁ!」
「おい、大概にしとけや、この野郎……」
「何かマジでムカツクっつーのっ!コイツッ!」
「……ウギャウギャ~モンっ!!」
「ウハハ、うはははーーっ!!」
ジャミル達に非難ゴーゴーの中でも、山豚クソ大男は構わず楽しそうに
ケタケタと……。人の不幸を何所までも笑っていられる、……故人とは
言え、最悪部類のクズクラスに入る程の大クズにジャミルも相手に
するのをイヤな程の寒気を覚えた……。
「どら、楽しませてくれたお礼に、少しだけアイツの事を教えてやろう、
あの女、志乃はよう、オラん処に嫁ぎに来る前に、交際してたクソ男が
いてだな、オラに隠れて、ウチに来た後も、隙を見つけてはこっそり
会ってたんだや、オラ、それが許せんで許せんでの、ある時だな、
買い出しに外に出掛けて行ったあの女の後をこっそり付けて……」
その後は、山豚クソ大男の口から語られなくても、志乃の身に
何が起きたかは直ぐに分かった。……何所まで外道なのかと
心底ジャミルは腹が立って来た……。
「ゲヒヒ、実に痛快だったでな、泣き叫ぶヤツの目の前でだな、
オラ、そのクソ男を半殺しにしてやっただあ、オラに逆らうから
コイツもコゲな目に遭うだと、志乃、そうさ、ぜ~んぶオメエが
悪ィんだっ、……ゲひひっひヒヒ……」
「……嫌、や、止め……、て、お、おおお……」
その時の状況を思い出したのか、志乃は錯乱し、自身をコントロール
出来無くなり、再び怪物化しようとしていた。ダウドはそんな志乃を
落ち着かせようと必死で彼女を宥めようとするが、一体どうして
やったらいいのか分からなくなってきていた……。
「……志乃さん、もういい、もういいよお~、だから……」
「……殿方様……、いいえ、違う、あなたは……、お、おお……」
「ん~、何かさあ、あの人、ヘタレの顔見る耽美、泣いてるよネ?
どうしたんだろ?」
「……まさか……」
と、ジャミルが呟いた時、モンがぴょんぴょん飛んで暴れ出し、
ジャミ公の頭の上に飛び乗る。……そして、興奮して怒りだし、
頭の上で太鼓を叩きだした……。
「ウギャーモン!ちんちんぽっこぽっこフルちんちんモンーーッ!!」
「プッ……!」
「おいい~!こんな時に何ふざけてんだっ、モンっ、オメーはっ!止めろっ!
……ガングロっ!オメーも吹いてんじゃねえっ!」
「分かってるモン!でも、あの大ブタ、早く地獄から迎えに来て貰わないと
なんだモン!モンギャモンギャ!」
「オメーの気持ちも分かるよ、けど……、中々昇天しようとしねえんだから
仕方ねえだろ、それに……」
本当はジャミルも相手にするのも嫌なのだが、でも、もう少し、色々と
山ブタ大クソ男から、聞いておかなければならない事もまだある。
……志乃の死の真相の事や……。
「「ジャミルーーっ!」」
「おっ、アル、アイシャ!」
漸く気絶から回復した二人も駆け付ける。ジャミルは手短に、二人が
気絶している間に起きたこれまでの事を説明した……。
「そうか、やっぱり、志乃さんが豹変した原因は……」
「……志乃さんは悪くないのよ、そうよ……」
話を聞いたアルベルトとアイシャも悲しそうに目を瞑る。地面には、
相変わらず薄気味悪い表情を浮かべたまま倒れている山豚クソ大男……。
一体どうすれば、さ迷える志乃の悲しき魂を救ってやれるのか……。
とにかく、まずは山豚クソ大男から全ての真相を聞き、志乃の死の
原因を問い詰めなければならないと……。ジャミルは溜息を付いた。
「……おい、率直に聞くぞ、志乃さんは一体何で死んだんだ……」
「ハア?聞こえねーィ!?」
「……こい、つ……」
何所までも人を小馬鹿にし、挑発する山豚クソ大男にジャミルも
怒りが爆発寸前であった。だが、その役目を買って出たのは……、
このお兄さん。
「……秘技・スリッパ連打……!滅……!!」
……パンッ!パンッ!パンッ!パパパパパンッ!!パァーーンッ!!
……ボワッ!!
「うおおおーーっ!?な、何だこれわあーーっ!?あ、頭が焼ける
だァァーーッ!!……アッチィィィーーーッ!!あひゃあーーーッ!!」
「ふふ、どうかな……?少しは人の痛みをお前も思い知ったか?
さ、もう一発やられたくなかったら……、お前が知っている事を
全て話して貰おう、消えて貰う前に……」
「分かった分かったァーーッ!!話すから、話すだァァーーッ!!
火を消してくれヤァァーー!!」
「……うふふ~♡」
……アルベルトのスリッパ乱舞は、遂に炎を出す様にまでなって
しまっていた。スリッパから出た炎は山豚クソ大男に燃え移ろうと
していた……。
「アル、凄いわ……、また隠れて修行したのかしら……」
「ひゅ~、スッゲーわねえ~……、アイツも……」
「モンモン!」
嫌、お前ら……、感心してる場合じゃねえだろ、何か突っ込んでくれやと
ジャミルは……。
「ふう、だけど、タチの悪い悪霊に噛ましたのは初めてかな……、
あ、心配しなくていいよ、このバージョンは流石に君には
やらないから、うふふ……」
不適に笑うアルベルトを見、やられて溜まるかと思うジャミル……。
そして、やはり、この腹黒が一番恐ろしいと改めて思ったのだった……。
「……畜生、どれもこれも……、志乃、オメーがああ!全て悪いっ!
オメーのクソ親がオラん処にオメーを預けたからだなあ!それから
オラも不幸になった、全部、オメーが悪いんだああーーっ!!
……うがががーー!!畜生、志乃おおーーっ!オラは例え地獄へ
召喚されても這い上がってやる、そしてずっとオメエを苦しめて
やるだあーーっ!!」
「……な、マジで本当に……、何てヤツだ……、救い様がねえよ……」
「へっ、へ、この雌ブタはオラが散々弄んだ結果、どうしようねえ、
クソガキもこさえやがった、心底醜いみっともねえ姿になって、飢えた
餓鬼みてえに腹を膨らませてな……」
山ブタ大クソ男、遂に狂い出す。もう全ての責任を志乃に押しつけ
ようとしている……。生前、不幸な少女、志乃を性欲遊びの妾として
引き取り、人生を完全に狂わせた男。死んでからもストーカーの様な
悪霊として志乃を追掛け回し、苦しめていた。余りのクソっぷりに
ジャミル達も言葉を失う……。だが。遂に、この男も切れた……。
「……お、おおお、やはり、私はもう消えたい、誰からも、もう私を
記憶の中に留めていて欲しくはありません、ダウドさん、どうか……」
「……」
ダウドはハルベルトを持ち直し、静かに立ち上がる。そして、
志乃の方を見る……。
「志乃さん、何ももう心配しなくていいよお……」
「……ダウド?……まさか……」
「ダウドさん……?」
「……消えるのはお前の方だああーーっ!……こんの外道めえーーっ!!」
「……う、うわっ!?」
ジャミ公が焦った通り、ダウドはハルベルトを持ち、外道な山ブタ
大クソ男に突っ込んで行く……。志乃では無く、山ブタ大クソ男の
方をニフラムで完全に浄化させる気である。だが、ダウドの行為を
ジャミルが慌てて止めた……。
「ダウドっ!待てっ!」
「はあ、はあ……、ジャミルっ!何で止めるんだよおおっ!!」
「落ち着けっつーんだよっ!オメーはっ!ったく、切れるとオメーも
どうしようもねえな!」
そりゃ、やっぱりマブダチ同士だもん、アンタ達、にてんのヨと、
サンディは暴け、二人の方を向いて、死刑!のポーズを取った。
モンも一緒に。
「……おい、オメーらも何だよっ!」
「さ~あネえ♪」
「モォ~ン♪」
「……ぐっ、腹立つ……、とにかくだな、落ち着けって言ってるんだっ!」
「分かったよお~……」
ダウドは仕方無しに呪文の詠唱を諦めた。けれど、落ち着きの無い
ジャミ公に落ち着けと言われた為、ダウドは不満顔……。
「ダウド、君の気持ちも分かるよ、けれど、まだこいつから全ての
真相を完全には聞き出せていないんだ、辛い事かも知れないけど、
僕らは……、志乃さんの身に起きた出来事を全て知らなければ
ならないんだ……」
「アル……」
けどなあ、オメーもさっきブチ切れて、等々スリッパから炎出した奴が
何言って……。
「何だい?ジャミル……」
そう思ったのだが、やはり腹黒は恐ろしいので何でもねえと言っておき、
それ以上は追求出来ないジャミ公であった……。
「……志乃さん、大丈夫……?」
「有り難うございます、あなたは……」
「私はアイシャです、ダウド達の友達よ……」
女の子同士、アイシャは優しく志乃に寄り添おうとするのだが、だが、
アイシャの若く可愛らしい、綺麗な顔を見た志乃の様子が又豹変した……。
「そう、……さぞかし、薄気味悪いでしょう、私の醜い顔など……、ァ、
アアアーーッ!!」
「……志乃さんっ!?そんな……」
「駄目だっ、アイシャ、こっち来いっ!」
アイシャの顔を見た志乃は嫉妬してしまい、逆効果に……。ジャミルは
慌ててアイシャを引っ張り避難させる。志乃の精神の状況は益々悪化する
ばかり。ダウドは一旦、志乃を落ち着かせる為、彼女にラリホーを掛け、
眠らせた……。
「……志乃、さん……」
「私、そんなつもりじゃ……、ど、どうしよう……」
「けけ、嬢ちゃん、無駄だって言ってんだよ、あのブスはよう、世の中の
全てを怨んで、自分の人生を怨んで、嫉妬してよ、ありとあらゆるモン、
全てを憎んでんだかんなァ、あ~あ、捻くれて可哀想だこと~、にっ、
ひひひっひ!」
「……うるさいっ、志乃さんは綺麗だよおっ!そ、……そうさせたのは
一体……誰なんだよおーーっ!!」
「さあ~、知らねえナ、アイツが死んだんも全てアイツ自身が勝手に
した事だかん……、ひい……」
「だから……、僕らはそれを知る必要が有るから……」
「……わ、分かった、分かっただ、ひいい~、こんな恐ろしいヤツが
この世にいるとは、オラおもわなんだ、は、早く地獄でも何所でもオラを
迎えにきてくんろーーっ!!」
「……」
「……汗」
アルベルトは山ブタ大クソ男の頭に再び押しつけたスリッパを仕舞う。
ジャミ公は見ているだけで冷や汗を掻き、山ブタ大クソ男がほんの
少しだけ、気の毒になった。……本当にほんの少しだけ……。ヤツが
漸くやっと話した、志乃の死の真相……。それは余りに悲しく、聞いて
いるのも辛い状況となった。
「……」
山ブタ大クソ男に恋人を殺された志乃は完全に心を閉ざし、辛い中、
唯一の支えであった、恋人を失い。本当に何もかも信じられなくなり、
精神が錯乱した彼女は、馬小屋に閉じこもり、油を撒き、抱えた恋人の
遺体と共に、自らの顔に硫酸を掛けた後、小屋に火を付け自殺……。
当然、妊んだお腹の子も死を迎える。余りにも悲惨でエグい志乃の
最後に、アイシャは怯え、震えて泣いていた……。亡くなった後、
魂が消える事を望んだ彼女は結局、消える事許されず、浮遊霊として、
この世を彷徨う事となり、亡くなった恋人との霊とも会えず。更に、
志乃の亡骸は、川に無残に投げ捨てられる。志乃が死んだすぐ後、
事故死した、山ブタ大クソ男の地縛霊に巡り会い、志乃は捕まって
しまい、死んだ後も彼女の悲しみと屈辱、不幸は続く……。
「……あ、アタシ、も~ヤダッ!何でこんなに暗くなんのッ!
……ううう~ッ!」
サンディも又、ジャミルの中へ逃走……。知らなければいけなかった
事とは言え、残酷な真実に、ダウドを始め、4人は言葉を失う……。
だが、全てを話した山ブタ大クソ男は、どうだ、オラ、偉いだろう、
げへへとばかりに笑っていた……。
「……お前はもういいモン!あっちいきゃーがれモン!ブッブ!」
「……ぶぎゃああーーーーッ!?」
全て真相を話し終えたクソにもう本当に用は無い。モンに特大の屁を
お見舞いされ、豚気絶……。もうヤツはどうでもいいので、早く地獄
からの迎え来てくれやを待つばかり。だが、問題はまだ山積みである……。
後は、一体どうやって、悲しみに汚染され、怪物化してしまった悲しき
志乃の魂を救い、彼女を昇天させてあげればいいのか……、だった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 81