『制服という名の首輪』。 ―― 底辺校の友人が、何も言えなかった午後

『制服という名の首輪』。
―― 底辺校の友人が、何も言えなかった午後。

帰り道の……北勢線。
電車の揺れの中で、向かいの席のオッチャンが、ぼそっと言った。

「ほう、四日市高校の制服やな。あんた、頭ええんやな」

反射的に、笑うしかなかった。
でも、心の中では……すぐに血の気が引いていくのがわかった。

隣に座っていたのは、地元では“底辺校”と呼ばれている高校の制服を着た、同級生だった。

その言葉を……彼がどう受け取ったのか。
私は……彼の顔を直視できなかった。

きっと、彼にも聞こえていた。
「お前は底辺校の制服やな。頭、悪いんやな」
――そんな、言葉にならなかった……オッチャンの“心の声”。

制服って……そんなラベルを貼る道具だったのか。

小学校には、制服なんてなかった。
大学も、そうだ。

でも、なぜか高校にはある。
しかも、やたらと“学校ごとに違う”。

その違いは……個性なんかじゃない。
あれは、階層だ。

進学校の制服は、「称賛」を背負う。
偏差値の低い学校の制服は、「見下し」を背負わされる。

制服は、もはや“個人情報”だ。
首にぶら下げた、自分の“序列”。

どこに通っているか、何点とったか、どの大学に行く予定か――
そんなもんまで、勝手に読まれてしまう……名札みたいなものだ。

私は、アメリカの中学校で教師をしていたことがある。
当然、生徒たちは、みんな私服だった。

髪の色も自由。靴もバラバラ。
それで、何か問題があったか?
……ひとつも、なかった。

秩序は、制服で保たれるのではない。
人が人を、リスペクトするとき……秩序は、自然と生まれる。

あの日、同級生は、何も言わなかった。
けれど私は……彼が、制服を呪ったことを、知っている。

それ以来、私はこの制度を、疑い続けてきた。

なぜ子どもたちは……
10代という、もっとも不安定で、柔らかい時期に……
「学校名」という鋭いタグを、背負わされなければならないのか。

制服は、平等の象徴ではない。
あれは……階層社会の、静かな首輪だ。

そして……
あの日の電車で起きたことは、
今この瞬間にも……全国のどこかで、繰り返されている。

制服は、ほんとうに「誰のため」にあるのか。
いま一度、問い直したい。

『制服という名の首輪』。 ―― 底辺校の友人が、何も言えなかった午後

『制服という名の首輪』。 ―― 底辺校の友人が、何も言えなかった午後

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-07-06

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