悟り
ある日、友人とこんな話をした。
「あの整体をしてる先生がさ、こう言ったんだ」
「何て?」
「恋愛、結婚には興味がないって」
「どうしてかな?」
「悟りたいんだって」
「へぇー、すごいね」
友人は驚いた顔で、
「悟ってどうするのかな」
「どうもしないんじゃない?」
「え、そうかな。スーパーマンみたいになっちゃうんじゃない?」
「それはないよ。変身するわけじゃあるまいし」
僕は手を十字に組んだ。
「スペシウム光線でも出す?」
「それはウルトラマン」
「そうだった」
「光の国から僕らのために~」
「あ、光の国の使者は間違いなく悟っているな」
「そうだね、間違いない」
友人は少し真面目な顔で、
「でもさ、本当に悟ってどうするのかな」
「世のため人のために何かするんじゃない?」
「どういうこと?」
「正体を隠して動く」
「あ、わかった。変身する前の格好だね」
「そう。見た目は何ら変わらない」
「凡人だ」
「うん。凡人のフリをする」
友人がジーッと僕を見る。
「君、さては知ってるな」
「何を?」
「悟っている人を」
「秘密」
「え?」
「秘密だよ!」
「教えて!」
「教えるまでもないよ」
「なんで?」
「そんなのそこら中にいるから」
「えー、うそー!?」
僕は真剣な表情で、
「本当さ。心眼を使えば分かる」
「心眼?」
「うん、目で見るんじゃない。もしくは、考えるんじゃない、感じるんだ」
「それ、何かのセリフであったような」
「おう、カンフー映画だ」
「なるほどー!達人だ!」
「そのとおり」
友人は喜んで、
「達人に会いたい!」
「会えるよ」
「どこへ行けばいい?」
「自分ん家に行って、顔を洗って、鏡を見るんだ」
「え?」
「何年後かには分かる」
「え?え?」
「目指せ!悟り!」
「意味わかんねえー!」
悟り