『無花果』

赤く熟したなら
貴方に食べて欲しい


『無花果』


腐り落ちる寸前が一番美味しいと
秘密を打ち明けるように耳打ちされ
途端に耳朶は赤く染まり
頭はそればかりを想像しだす

ただ震えることしかできないのです
悪い大人の手管に騙されただけと
賢い友達は言うけれど今更よ
アタシはもう食べられるのを待つ無花果

思えばずっと待っていた気がする
その相手は貴方だろうと分かってた
何も知らぬ少女のままでいる気なんて
更々なかったから無遠慮に踏み出す

この爪先に優しく触れて落としたキスが
アタシの全てを根底から変えてしまった
どんなに素敵な男の子も貴方以外は同じ
欠伸が出るくらい詰まらないわ

手慰みにしてくれた外国のお話は
聞いてる振りで聞いてない
夢物語よりアタシはここで満足よ
何処にも行かず貴方を想うわ

何処にでも行ける貴方を
ただ待ち続ける女がいるということ
そのことをしっかり頭に置いて
好きなところに行けばいい



「一度でも口にしたら蟻地獄」

『無花果』

『無花果』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-06-30

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