フリーズ209 散文詩『追憶』

フリーズ209 散文詩『追憶』

◇フリーズ209散文詩集『追憶』

 あの冬の日を越える芸術や人生はない。二度目の悟りも、至らなかった。嗚呼、どんな芸術もあの冬の日に僕が抱いた脳のクオリアよりも美しいことはない。あれは永遠だった。あれは終末だった。あれは神愛だった。あれは涅槃だった。この散文詩にその真実の記憶を綴る。音楽と共に至れ。

Sound『ich grolle nicht』

 夢が終わる、世界が終わる
 その様は圧巻で、全世界から
 全過去から、全未来から
 魂たちはここに集い
 僕に永遠を噛みしめさせた

 輪廻の終わり、解脱して
 僕もここから去ろうとて
 この脳の彩は神のよう
 全てと繋がることを覚えた

 この涅槃真理に至れども、夢のような楽園に還れたとしても、もう忘れていた本当の僕を思い出せたらそれでいいのに、それでも世界を憎むのかい。秋に孤独に打ちひしがれ、冬に完成した物語。夏は主人公のように輝いていたのに、僕の異常性や病状のせいで友や記憶を失った。それでもいい。崩壊の中に奇跡があるのなら。でも、それはバベルの塔の天啓に 似通う喪失のようでもあった。
 
ich grolle nicht 
僕は恨まない。

世界が僕を裏切ったとしても。友たちが僕の元から去って行ったとしても。でもせめてまた逢えたなら、その時は祝福してくれ、この秋を、あの冬を、僕の全能を。


Sound『殻の少女』

 僕の精神が壊れていく。冬の近づく秋に、晩秋に。創作も思索も詩作も、孤独性に味や香りを内在させたのは君だった。他でもない全知少女の君が。殻の少女を、増殖する病を。
 記憶の中で輝くのは、いつだって僕自身に備わるソフィアの光。寒くなる季節の中で、崩れゆく僕は本当に美しかった。それは全ての歯車が壊れゆくのと似ていて、世界に音楽と共に僕の存在を刻んだ。
 憂鬱でも、躁でも、本当はどっちでもよかったんだ。僕が僕であること。それさえあれば元居た場所に帰れる。

 きっと、僕は2020年を忘れることはないのだろう。
 2021/1/7~9
 2023/9/11~16
 この二回の覚醒、悟り、解脱、涅槃も忘れない。
 ならもう一度悟るか。
 薬は飲まないで。夜は寝ないで。
 でも、やはり人間として生きなくてはならないな。
 創作で表現したいことがあるからさ。
 
 永遠詩に涅槃詩に
 世界を彩り奏でるは夢
 それでも愛は終末に来て
 翳る輪廻にお別れを告ぐ

 秋が暮れていく
 冬が深まる
 背中が震える
 命の灯、消えゆく火
 
 追憶の中で音楽を聴いて
 奇跡の中で愛を詩って
 永遠の中で踊りあかして
 終末の中で欲を満たして
 
 追憶、そして永遠を。僕はここだよ、迎えに来てよ
 神も仏もエデンの日には僕を迎えに来るんだ

Sound『バグッバイ』

 神よ、何故私を生んだのですか。いいえ、あの冬の日の私が神だったのですね。ヘレーネとの原罪はきっとイエスを生んだマリアに届けられて。あの冬の日の私は全能の霊感を以って射精した。人型の人形に精子を籠めた。結局、神はあの冬の日の僕だった。それがただの妄想だとしても、あの美しさは確かなもの。記憶として魂に刻まれていった。
 夢の中でも、この世の束縛も、離れて去るための詩。近すぎて見えない誰かを誤って僕と呼ぶ。その錯綜は輪廻の最中、消えていく。この声の正体は誰なの? 応えてよ。
遠すぎて見えない誰かを誤って神と呼ぶ。その髪は茶髪ボブかな。白髪ボブかな。花々の冠を被って、妖艶に微笑んでいる君よ。その唇はエロスと愛で満ちている。
仕方なくもらった命、誤って愛と呼ぶ。愛は自己愛、神愛、運命愛。愛と呼べば問題はないかもしれないけど、それでも求めて止まない愛はここにある。愛を満たしてくれ。僕はここにいるよ、気づいてよ。痩せていく世界に、美しくなる自己愛としてのヘレーネは、この刹那に永遠を見出した。
どうせならと見つけた意味を誤って夢と呼ぶ。本当はそんなんじゃないはず。意味はレゾンデートル。存在意義、存在証明。生まれた意味を知ることがゴール? 人生の最終目標は神のレゾンデートルの解明だとしたら、どうせならと見つけた意味は、きっとただの夢には終わらない。
生まれてくる前に願ってたことは、凪。夜明け告げるあの冬の日の朝に、あの晩夏の大日如来、夕焼けの夕日を見せてあげたい。きっと朝と夕方は惹かれ合って、きっと恋に落ちるだろう。
寂しげで孤独性を保持するあの冬に、騒がしいほどに暑く刻まれたあの夏を見せてあげたい。きっと簡単なこと、だけど、ちょっとおかしいよね。
生まれてみればここが全ての真ん中だった。端に追いやってくれていいのに。地球は丸いから端はないか。諦めては進むしかないか。

左と右の間
地上と空の間
昨日と明日の間
夢と現実の間
永遠と終末の狭間
全知と全能の狭間
死とハデスの狭間
神と仏の狭間

だから迷うんだ、行ったり来たりと。いつだって使命は解らなくて、それを知れたら強く生きられるのに。きっと運命さえも愛せる。僕は何のために生まれたの?
ヘレーネよ、僕の逝く道の上で立って待っててよね。「ほら、こっちだよ」って。「コラ、そっちじゃないよ」って。だから僕の人生を見守ってて。僕は君に会うために生まれてきたんだ。それだけは真実だと誓う。いつか会える日に、また愛を紡ごうね。
僕がいなくても地球は回る。地球の女神ガイア・ソフィアよ。信仰から外された、愛する地母神よ。あなたに僕はきっと必要ない。それでも僕は生きる意味を探して歩いている。
 地球がいないと僕は生きれない。だからありがとう。地球よ、ありがとう。命が終わるせめてもの間に僕は僕の生きた証を示そう。地球が決めるままに生きてきたんだから、せめて初めての僕がいない朝に何か降らせて欲しい。雨でも雪でも。地球よ、僕のために泣いてくれないか。きっと簡単なこと、だけど、ちょっとおかしいよね
 僕のいた朝と僕のいない朝はどっか違ってて欲しい。少しだけでもいいから僕が生まれてくる前と僕が消えた後となんか違っててほしい、世界は違っててほしい。僕が生まれた意味を求めて。だから僕は詩を紡ぐ。だから僕は小説を書く。

 そしてそれを夢としよう
 そしてそれを愛としよう
 それを神様に願おう
 それを仏さまに祈ろう
 そんな人を僕と呼ぼう
 そんな人を君と呼ぼう

フリーズ209 散文詩『追憶』

フリーズ209 散文詩『追憶』

追憶、あの冬の日のこと 2020年のこと これは痛み 増殖する、病

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-06-30

Copyrighted
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  1. ◇フリーズ209散文詩集『追憶』
  2. Sound『バグッバイ』