亡霊
過ぎたことを悔やんでもしかたがない、と人は言う。失ったものを嘆いてもどうしようもない。忘れてしまえ、と。でもそれは、過ぎたことや失ったものに対して礼儀を欠いた態度であるように僕には思える。かつて優しく微笑みかけてくれた幸福の予感に、後ろ足で砂をかける行為のように思える。
(三秋縋『君の話』)
過去のきみを慈しむことは
現在のきみに対する暴力だろうか
巡る季節を前に僕は立ち尽くす
きみの変わらない部分と変わりゆく部分
そのどちらをも等しく愛せたなら
そのどちらをも等しく憎めたなら
なんて、僕は馬鹿だな
きみを愛したり憎んだりしたところで
きみに届くはずもないのに
僕はいつまでも、性懲りもなく
記憶のきみに縋り、慰められている
こんな僕をいまのきみが見たら呆れるだろうな
愛想を尽かされるのも必然かもしれない
僕は流れる時間に逆行しようとする人間だ
過去をよすがにしていつまでも前に進めない人間だ
けど、果たしてそれがほんとうに悪いことだろうか?
過去を蔑ろにして前進するくらいなら死んだ方が増しだ
僕は惨めだと嗤われようが過去のきみを手放すつもりはない
過去のきみを無いものにしようとするつもりはない
亡霊