刃を持った魚

誰かの思い出の湖

国の北東に大きな湖があった。そこには怪獣と、怪魚がいると聞いた。そこで私は、そこへ行って怪獣と怪魚を見て、できれば話もしたいと思った。
その湖は、国内でかなり大きな業績を残した魔法魔術研究者が、小さい頃によく遊んだ場所だそうだ。そして、彼が研究での功績に対してインタビューを受けた際、この湖での思い出話をして、怪獣と怪魚の情報が国内に広まったのはその時だったらしい。
彼の思い出話に怪獣と怪魚が出た、ということはまたその逆も然り。きっと怪獣と怪魚と話をすれば、彼の昔のこともさらにわかるかもしれない、そう思って私は湖へと向かった。
怪獣はいなかった。けれど、怪魚とは会えた。しかも、出会った時からかなりフレンドリーで、すぐに話は思った方向に展開していった。

昔は湖の近くに小さな村があったらしい。そしてそこに生まれ育ったのがかの研究者であった。村は小さかったが、子どもたちの数はまあまあいたそうだ。みんなと仲良く、幸せに暮らしていた。彼は子どもたちの中で最も頭が良かった。なので将来は城下町に行って、頭の良さを活かせる仕事に就く、皆がそう期待していた。そして、ご存知の通り、実際そのようになって、現代地球のノーベル賞に相当する、またはそれ以上の賞を取った。しかし、その道のりは、皆が想像もしない展開になっていた。

幼き日の悲劇

その研究者が12歳であった頃、彼の友人の1人が消えた。そしてその足跡が、近くの山に続いていた。そこは禁足地であった。その山に彼は友人を探すと言って入ろうとした。それを止めようと、隣の家の少女が追いかけてきた。追い抜いて、彼が山に入るのを止めたが、少女自身が山に踏み入ってしまっていた。
すぐには何もなかったが、その夜、村は突然の雷雨に見舞われた。導かれたように窓に近づき空を見上げた彼女は、雷に打たれた。そして、消えてしまった。
彼は、城下町にその山について研究している人がいると聞き、そこに勤められるように努力した。その努力が報われたのかわからないが、城下町の別の研究所には入れた。ところが、彼の不幸はまだ続くのである。

下っ端研究者時代

彼が入った研究所では、魔法・魔術の開発研究を行なっていた。その中に「結界」の分野があったので、彼はそれを主に研究していた。ある時、そこで実験事故が起こった。その時彼と共に実験をしていた同僚は優秀であったが、その後姿を見せなかった(彼が気づいてないだけで実は時々は来ていたそうだけども)。そのせいで、研究はこれまでのようには進まず、何も成果は出てこなかった。成果が出ないので、給料も下がり、また研究に専念するため、研究室に何日も籠ることもあり、ろくな食事も睡眠もできないことが何度もあった。



彼は一旦、その研究から離れて、休暇をとった。
その間は一切研究のことは考えなかった。

状況は変わらなかった。

と思われたが、彼が休暇中に訪れた町の、ある靴屋の店主が、謎の差し入れを寄越してきたのである。それがなんだったのかは誰も公開していないが、それがきっかけで色々とアイデアが浮かんだようだ。しかし、やっぱりそのどれも上手くいかなかった。そこで、彼はそれらをうまく組み合わせて、さらに新たに自分のアイデアを取り入れた。そのようにして頑張っていった結果、ものすごく大きな研究結果が出た。それにより彼らはノーベル賞みたいなものを取り、全国民が知る研究者たちとなった。その中で最も貢献度が大きい彼を、みんなが讃え、そして彼はその後の世界変貌で、自分たちの研究結果を利用され、命を落とすことになったのだ。

刃を持った魚

刃を持った魚

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-06-25

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  1. 誰かの思い出の湖
  2. 幼き日の悲劇
  3. 下っ端研究者時代