zoku勇者 ドラクエⅨ編 71

主の為に……vsギュメイ・1

「……此処は帝国なんだ、もうあんたとの戦いを避けるのは諦めてる、
けどよ、どうしても一つ、聞いておきたい事があるんだよ……」

「何だ、……申してみよ……」

ギュメイは厳しい表情を崩さず、ジャミルもギュメイを睨付ける……。
ダウドには眠っているモンをしっかり守る様合図し、アイシャも
いつでも攻撃呪文を発せられる様、詠唱準備、アルベルトも警戒
態勢を取った……。自分達を助けてくれたが、目の前の男は敵なんだ、
躊躇っては駄目なんだと……。

「あんた……、帝国がどれだけ罪も無い人間を苦しめてるか……、
現状を知ってるんだろ?」

「……」

ギュメイは沈黙モードに突入。だが、ジャミルは言葉を止めず……。
ぷっつんキタモードに入る。

「……我の使命、大事な主、ガナサダイ皇帝をお守りする事のみ、
それ以外は皆無……」

「……だったらっ!その主の悪事を止めるのも部下の使命じゃ
ねえのかっ!間違ってる事やってんのに何で止めねえんだっ!!
それが真っ当な武人のやる事だってのかっ!!……はっきり
言ってあんたは主のやってる事から見て見ぬ振りして目を
背けてるだけだろ……」

「……あの方は……、決して間違った行いなどしていない、我は
最後まで陛下を信じるのみ、……生意気な口を利くな、何も
分からん尻の青い青二才の突貫小僧めが……」

「……嘘つけこの野郎っ!」

(でも、このおっさん、帝国の連中にしては思考が随分真面な方よネ、
ゲルニックとかと比べたらサ……)

「サンディ、それ以上何も言うな、黙ってろ!」

(……はああ~い……)

ギュメイは再び長剣の矛先をジャミルの方に向ける。何とか話し合えば
もしかしたら、と、希望を持ちたかった。だが、相手は主に絶対を誓う
堅物の将軍……。和解など夢の又夢……。もう完全に迷いを捨てるのだと、
拳を振るわせ、唇を強く噛みしめた……。しかし、一見、虎の容姿にも
見えるギュメイだが、よく見るとやっぱりヒョウである……。

「そうかい、あんたがその気ならもう俺らだって迷わねえよ、
助けてくれた事は全てドブに流す、……それでいいんだろっ!!」

「そうだ、それでいいのだ、お前達と我は敵同士、最初から何も
変わらぬ……、偽善ごっこはもう終わりだ、では、いざ参る!!」

ギュメイは長剣を構えフェシングの様に連打で突いて来る。その
動きの素早さにジャミル達は戸惑い、初っぱなから押されてしまう。
やはり彼は動きからしてヒョウだった。だが、んな最初からまいって
たら倒せやしねえとジャミルは気力を振り絞った……。

「アイシャっ!バイキルトを、……頼むっ!」

「任せてっ!えーいっ!」

「させぬ……、度が過ぎる、女は大人しくしていろ……」

「……いやあーーっ!!……あっ、うううーっ!!」

ギュメイはまずはバイキルトで味方をサポートしようとした
アイシャを歯止めに入る。アイシャは斬り上げで行動を妨害され、
暫しの間動けなくなってしまうのだった。

「……大丈夫かっ!?……なろおお~っ!」

「わ、私は平気よ、でも、ごめんなさい……」

「……他者に気を遣っている暇など弱者のお前達には有らぬぞ!」

「……え?えええっ!?うわーーっ!!いやだいやだーーっ!!」

やはり三将の最後の一人と言われているだけ有り、ギュメイの強さは
生半可ではなく。ギュメイは次に回復魔法を使えるダウドを狙い、
魔神斬りを放って来た……。幸い、1度目はどうにか外れたが、
衝撃の拍子でダウドの頭の上に乗っかっているモンが、ポテっと
下に転がり落ちた。

「……外したか、不覚……!」

「モ、モンっ!……あわわわーーっ!」

「……倒れよ!」

「うわあーーーっ!?」

「……ダウドーーっ!!」

地面に落ちたモンを慌てて拾い上げようとし、隙を見せたダウドに
後ろからギュメイの長剣の刃が容赦なく襲い掛る。……ダウドは
背中をばっさり切られ、大ダメージを負う……。

「……こ、こんな、ハードなの、聞いてない……、本当に怖すぎる
よお~……、あうう、べ、ベホイ……」

「……では、今度は正面から行かせて貰う!」

更に……、ギュメイは今度は素早くダウドの目の前に立つ。
回復魔法を唱えられないまま、恐怖で震えるダウドの胸へと
ギュメイは再び長剣を突き刺さすのだった。

「も、うう、もう……、イヤら、こんな生活……、バトル生活より……、
や、野菜生活がいいよお~……」

「……止めろーーっ!僕らが相手だっ!!」

「……ざけてんじゃねえぞっ!も、もう許さねえっ……!!」

「……」

だが、ギュメイは余裕で続けて今度は4人全員へと五月雨斬りを
連発……。先程の攻撃で大ダメージを既に受けているダウド……、
動けないアイシャ。4人は攻撃面でギュメイに禄に刃向かう事も
出来ないまま、窮地に追い込まれた……。

「……ち、畜生……、いっつ~……」

「小僧、どうした?先程の勢いは……、もう終わりか?……ならば!」

「……あ、ああっ……!?マジ、やべえぇ……」

「二度とその口が開かぬ様……」

ギュメイは抵抗しようとしたジャミルに向かい2度目の魔神斬りを
繰り出す。今度は的を外さず、魔神斬りは見事にヒットし、防御力の
低いジャミルの胸へと炸裂し、ジャミルは血を吹いてそのまま倒れた……。

「……終わったか……、あれだけの生意気な口を叩ける相手と
見て期待したが、やはり口だけであったか……、ゲルニックが
気に食わなかったとは言え……、力を貸してやる価値も無く、
無駄な愚かな行為だった……」

「……ちょっとッ!アンタっ、何て事してくれちゃってんのよッ!
ジャミ公ーーっ!」

サンディはジャミルの中から妖精モードで飛び出すと、道具袋から
薬草を取出し、傷の回復をしようとするのだが……、ギュメイは無言で
サンディを強く掴み、捕獲するのだった。

「……いったああ~いっ!ヤダッ!レディに何すんのっ!放してよッ!」

「神聖な戦いに割り込み余計な事をするな、……命が惜しければな……」

「……何が神聖よッ!こんなの只の弱い者イジメじゃんっ!やっぱ
帝国の野蛮なサムライだねっ!さ、さっき言ったコト、ゼンゲン
テッカ~イっ!!」

「……ピオリムーーっ!」

「む……?小娘、復活したか……、!?」

「それっ!ゴスペルソング発動っ!!」

運良く溜まったテンションゲージでダウドは瀕死ながらもゴスペル
ソングを発動させ、4人のHPを回復。ジャミル達は急いで攻撃を
阻止しようとギュメイを取り囲む。

「おのれ……、刃の塵と消えよ、ゴミ共めっ!」

「……きゃーんっ!うえっ!?」

ギュメイは掴んでいたサンディを乱暴に放り投げるが、危機一髪で
ジャミルが素早くキャッチ。ジャミルはサンディに出来るだけ
遠くに避難する様に目で合図した。

「分かったッ!も~、でも、ホントにこんな過酷な戦いをよくも
このオトメのアタシにィ~!……アンタ達がしっかりしないから
アタシがこんな目に遭うっ!……デブ座布団っ!ほらっ、行くよっ、
……お~も~いいいいィ~んですケドお~!」

サンディはモンをぶら下げ、よたよたと安全な場所へと飛んで行った。
取りあえず、二人の安全を見届け、4人はギュメイへと猛反撃を開始……、
するのだが、また再び圧倒的なギュメイの力に窮地に追い込まれる事に……。

「……お前達と我とでは差が圧倒的にあり過ぎるのだ、
分かるであろう!」

「「……うわあーーっ!!」」

「……きゃあーーっ!!」

「お前達は4人でなければ何も出来ん、だが我はっ!」

皆の絶叫が響き渡る中、ギュメイは容赦なく再び五月雨斬り連続、
+魔神斬りを繰り出す……。ダウドが繰り出したゴスペルソングも
無駄になり、4人は再び傷だらけの状態へと戻った……。

「は、はあ、はあ、……この野郎……」

「……我はその気になればお前達など一撃で葬り去る事が出来る、
……これが我とお前達との力の差よ……」

ジャミルは上向きになったまま、瀕死の状態で呻く。ギュメイと
対峙してから、まだ一度も奴にダメージを与えられていない、
……どうやっても与えられないのである。

「……何とかしなくては、このままでは本当に何も出来ないまま……、
僕達、負けてしまうよ……」

「……も、もういいよお~、負けたってええ~……、う、うう~、
しょうがないじゃん……、こんなんじゃこの先のボスも勝てっこない、
無理だよ……」

「……ダウドっ!?」

「ヘタレっ!こ、この野郎っ!お前、何言ってやがるっ!」

「ダウド……」

こんな時に又も発動してしまったダウドのヘタレ病……。瀕死状態の中、
アルベルトもアイシャもダウドを心配そうな目で見つめる……。
しかし、いつもの只のヘタレ病ではない事をこの後、ジャミル達は
思い知るのである。

「だって、絶対に勝てないよ、こんなの……、どうせこのまま
やられるんなら……、……オ、オイラもう降参します……、
ごめんなさい……、だから、助けて……」

「……ダウドーーーっ!!」

遂にダウドはギュメイに向かって謝り始める……。ダウドはもう完全に
自信を無くし、諦めてしまう事を覚悟した様だった。ジャミルも本気で
ダウドに怒鳴るが、ダウドはもう、ジャミル達の方を見ていなかった……。

「ほう、随分と物わかりの良い奴もいた者だ……、自分の弱さを
認めているのか……」

「……は、い……」

「ダウド、君、本気で……」

「……っ、分かった、……もういいっ、マジで帰れ、後は俺達だけでやる、
……早く行けよ……」

「うん、ごめん、みんな……、勝利を願ってるよ……、本当、役に
立てなくて……、ごめんよ……」

「……ま、待ってよダウド!回復魔法が使えるのはあなただけなのよ!
ねえ、ジャミルも止めてよ、このままじゃ私達……」

アイシャの悲痛な訴えにもジャミルはどうする事も出来ず……。実際、
ギュメイの強さにジャミルも本音ではどうしたらいいのか分からず
迷っていた……。ダウドは静かにその場から姿を消すのだった。直後、
ジャミルは……。

「しゃ~ねえよ、あいつもこれまで頑張ってくれたんだ、よしっ、
俺らだけでマジで頑張らなくちゃな!行こうぜ、アル、アイシャ!」

「……分かった、僕も全力で行くよ!」

「うんっ、クヨクヨしてても仕方ないもの!よ~しっ!」

「……?」

ギュメイは仲間に裏切られたのにも係わらず、何故か気力を取り戻した
ジャミル達を不思議な表情で見つめた。この連中は勝てないと分かって
いながら、何故ちっとも絶望しようともしないのだと。さっぱり、何も
分からないと言う様に……。

「行くぞっ!ギュメイっ!!」

「……お前達は無頓着のバカなのか……、まあ良い、どんな小さな虫でも
刃向かって来る以上、全力で相手をさせて貰う!」

この無頓着のバカ共の本当の恐ろしさを……、ギュメイは後にその身を
持って味わう事に……。

そして、その頃のモンとサンディ……。

「う~ん、う~ん、……モン?」

「あー、デブ座布団、気が付いたワケ?」

「ここ、あのあったかい光があるお部屋モン……、モン?」

気が付くと、此処は回復魔法陣のあるあのフロアであった。モンは
魔法陣の中に入ってみる。優しくてあったかい癒やしの光がモンを
包んでくれた。

「……にへええ~、モン……」

「う、うわっ、ちょっとキモっ!でも、そんなに気持ちいいの?どら……、
あっ、ヤダー!マジ、カイカンなんですケドーっ!」

「にへええ~……、?!だ、誰か来るモンっ!?」

此方へと足音がカツカツと聞こえて来る。モンはいち早くその足音に
反応したのだった。

「ちょっとッ!この部屋ってモンスター来ないみたいな感じなんです
ケドっ!……い、一体誰が来るって……、え?」

「この部屋なら確か……、それにしても、オイラまた……、
どうしたらいいの、とんでもない事を……、え?」

「モン~?」

「ヘタレ……」

部屋に入っていったダウドは顔が真っ青になる……。魔法陣の部屋に、
サンディとモン。二人が来ていた事に気づき……。

「……あ、あ、あ……、サンディ、モン……」

「モン、どうしてダウドだけ一人でいるモン?……ジャミル達は
どうしたの、モン?」

「そうよッ!何、その青ざめたツラっ!……もしかして、アンタ一人……、
ジャミ公達見捨てて逃げ出してきたんじゃないでしょーネッ!!」

「うわ~~っ!ご、ごめんよおおーーっ!!」

「あっ!何で逃げんのッ!ちょいお待ちッ!こらーーっ!!」

「……シャーーっ!!」

ダウドはサンディとカオス顔のモンに追掛けられ、再び外壁の
壊れた橋の周辺へ……。このまま此処から下に飛び降りてしまえば、
逃げられるかも知れないとそう思った矢先。

「キャーー!!」

「サンディ……?モンっ!!」

サンディの悲鳴が聞こえ、慌てて踏み止まり、急いで声のした方に
すっ飛んで行くと、モンとサンディが大魔神の集団に囲まれており、
ピンチに陥っていた……。

「シャーーっ!シャーー!」

「バカっ!アンタが勝てるわけないっしょ!やめなよッ!」

「モンーーっ!?」

「……デ、デブ座布団ーーっ!」

モンは大魔神の一撃で吹っ飛ばされ、地面に倒れた。モンとサンディの
危機に、ダウド、遂に飛び出す……。

「……止めろっ!オイラが相手だああーーっ!モンっ、しっかりっ!」

「モン、ダウド……」

ダウドは急いで躊躇せず、直ぐにモンにベホイムを掛けると定位置の
自分の頭の上に乗せる。モンを傷つけた大魔神に対し、怒りのテンション
ゲージが上がると同時に、ヘタレな自分に怒りが沸いて来た……。遂に
ジャミル達を見捨て、自分一人だけ逃げてしまった自分に……。

「……どうせオイラはヘタレだよ、何も出来ないんだ……、ジャミル
みたいになんかなれっこない、でも、でも……、うう、うあああーーっ!!
ばかやろおおーーっ!!」

「ヘタレーーっ!?」

ダウドは錯乱し、乱暴にハルベルトを振り回し、大魔神を追い詰め、
いつの間にか、一体は無我夢中で繰り出した一撃に突かれ、只の石の
固まりとなり崩れ落ちていた。もう一体の焦った大魔神はダウドの
豹変にびびったのか、逃走してしまう……。

「……あれ?オ、オイラ……」

ダウドは自分の手の中に微かな力を感じ取る。そしてそっと呪文の
詠唱を始めた……。

「べ、ベホマラー……、で、出来たっ!……出たっ!」

LVが上がったのである。初の全体回復魔法であるベホマラーを漸く
習得したのだった。

「あ、あははっ!モンっ、サンディっ、オイラ、やったよお~~っ!
遂にベホマラー、覚えられたんだっ!これで少しは役に立つよおー!
ジャミル達を助けられるよおーーっ!!」

「へえ~、よかったじゃん!これってアタシ達のお陰!ネ?」

「モン~!ダウド、早く皆の所に戻るモンー!」

「え?あ、ああ……、あう……」

モンにそう言われ、ダウドは再び事を思い出し、落ち込みだした。
……自分はギュメイの力の恐ろしさに怯え、皆を置いて一人で
逃げ出してしまったのだと。

「……ダウド、どうしたのモン……」

「ダメだよ、だって、だって、オイラ……、ジャミル達を見捨てて
逃げてきちゃったんだ、今更どんな顔して戻れば良いのさ、きっと皆
怒ってる、アルもアイシャも……、戻った処で何しにきたんだって
怒られ……、あだだだっ!!」

「ウシャーーっ!!」

「あだだだだ!モンっ、止めてーっ!止めてよおおーーっ!!
……ぎゃーーー!!」

モンはいつもより力を倍込めてダウドの頭に噛み付く。だが、モンの
様子がおかしい。……泣いている様であった……。

「バカ、バカモン……、ジャミル達、今頃苦しくて辛い戦いを
してるんだモン、助けに来て誰が嫌だなんて思うモン……、
シャー……」

「モン……」

「ハア、アンタって、ホンッッと、筋金入りのおバカヘタレっ!そりゃあ
後で怒られるのは目にみえてるケドさ、ジャミ公達はアンタが
戻って来るの信じてるに決まってるじゃん!ほ~んと、お節介で
単純で夢ばっか見てる連中なんだからネ……」

「サンディ……」

「本当はモンだって辛いモン、悲しいモン……、虎のおじちゃんは
モンを助けてくれたモン、でも、戦わなくちゃなんだモン、大丈夫、
モンももう迷わないモン、一緒に行くモン、ダウド……」

「モン、本当に大人になったね、オイラなんかより、遙かにさ……、さ、
おいで、行こう!」

「♪モン~っ!」

……プ~ッ、プッ……

「……」

モンはダウドの頭の上に飛び乗るといつも通り屁を放いた。
……や、やっぱり、まだ全然大人じゃないと思うダウド。今、
戻ってもジャミル達に拒絶されるかも知れない。それでも、
折角覚えたこの力を今は皆の為に精一杯使わせて貰おうと、
そう思ったのだった。

「どうした?もう終わりか?ならば、そろそろ勝負を付けさせて
貰おう……」

「ちく、しょう……」

再びジャミル側……。回復役を失い、あれからギュメイにも何の反撃も
出来ないまま、だった。疲れて呼吸荒く、地面に座り込んでしまった
ジャミルに長剣の矛先が迫る。

「もう真面に口もきけぬ状態か……、何故あの小僧の様に素直に、己を
大切にしないのだ……」

「うるせーよ、ま、負けるなんて絶対思わねえよ、……絶対勝つんだ、
何が何でも……」

ギュメイは周囲を見渡す。既に力尽き、倒れてしまったアルベルト、
アイシャもHP、MPが既に底が尽き掛け、肩で息をしている
状態である。

「そうよ、絶対諦めないんだから……」

「……そろそろ戦いから解放し、楽にしてやろう……」

「っ……」

ジャミルは硬く目を瞑る。ギュメイの繰り出す三度目の魔神斬りに
耐える覚悟だった……。

「……だめえーーっ!!やめてーーっ!!」

「……バカっ!アイシャーーっ!!」

其処へ……、両手を広げたアイシャが立ち塞がりジャミルを庇う。
アイシャは無言でそのまま地面へパタリと倒れた。

「アイシャ、アイシャ……、なあ、嘘だろ?返事しろよ、おい……、
いつもみたいにバカって言ってくれよ、頼むからさあ……」

「遂に力尽きたか……、哀れな……、勝てないと知りながら、これも
全て引く事をしなかったお前の罪だ、思い知ったであろう……」

「……」

ギュメイは倒れたアイシャを抱き抱えたまま項垂れるジャミルの
方を見た。しかし、こんな小僧共が良くも此処まで……、と。
実はギュメイにも焦りが出始めていた。元々ギュメイ自体、
彼のMPは極端に少なく、使えるタイミングも限られている。
こんなガキ共、魔神斬り、五月雨斬り1度目でほぼカタが
付くと思っていた。だが、甘かった。予想以上にジャミル達が
抵抗し、ギュメイのMPを殆ど減らしてしまう程、バトルが
長引く事を予想していなかったのだった。

(……こやつら、これ程まで渋といとは……、もしかしたら……、い、
いや……、そんな事はない、……我は負けん!)

「……今度こそお前達の旅立ちだ、此処まで頑張った事は
褒めてやろう、歯を食い縛れよ……」

ジャミルは側に落ちている自分の剣、ドラゴンキラーを拾い上げた。
例えどんな状況に遭っても決して諦める事はしたくない、最後の
最後まで徹底的に抵抗してやろうと思った……。

「む……、まだ戦おうとするか……、では、これにて、さらば……」

「……ベホイムっ!」

「あ、あれ……?身体……、!!」

ジャミルは突如飛んで来た回復魔法、唱えた主の姿に目を見張る。
其処にいたのは、申し訳なさそうな顔をしたダウド、そして、
サンディ、モン……。

「……ダウドーーっ!お前ーーっ!!」

「あうーっ!ジャミルっ、……ご、ごめんっ!!」

「ストーップ!ジャミ公っ!今はヘタレをシメてるバアイじゃないの
分かってるっしょっ!早く二人も助けなくちゃ!」

サンディの言葉でジャミルも我に返り冷静になり、HP0に
なってしまったアルベルトとアイシャ、二人を見る……。そして、
ギュメイの前にはモンが……。

「……シャ~……」

「モンっ!こらっ!何で来てるんだよっ!早く逃げろーーっ!!」

「何だ、あの時のモンスターか、何だ?お前も我の相手となると
言うのか?……刃向かうのか?」

モンはジャミルの叫びにも動じず、目の前のギュメイから
目を反らさずじっと顔を見つめるのだった。

「モン、虎のおじちゃん、モン達を助けてくれたモン、だから、
ちゃんとありがとうって言いたかったんだモン、……でも、
おじちゃんはやっぱり帝国の言う事聞いてジャミル達を
いじめるモン、嫌いだモン……、許さないモン……」

「そうか……」

「……モンーーっ!バカヤローーっ!!」

ジャミルは慌ててモンを助けにと飛び出して行こうとする。だが、
それをギュメイが長剣を向け阻止した……。

「……な、なっ!?」

「小僧、安心しろ、手を出したりはせん、我はこやつが気に要った、
モンスターで有りながら、愚かな人間の主を守ろうとする、その忠実な
心がな……、武人の心意気が有る……」

「モン~?……ジャミル達は主じゃないモン!友達だモン!シャーー!!」

「小さき者よ、良く聞くが良い、我はこやつらを倒し、お前を引き取ろう、
新しい主の我の元へと仕えるのだ……、どちらを主とした方がお前の為に
なるのか……、分からせてやろう……」

「……え、ええ~~ッ!?」

「そんな、モン……」

サンディもダウドも騒然……。ギュメイはジャミル達を始末した後、
モンを引き取り、本気で部下にと目論んでいた……。

「……分かったモン、モン、おじちゃんに従うモン……」

「……ほう?」

「ちょっ、デブ座布団っ!アンタ何言ってんのッ!?」

「そうだよおおーー!」

「モンっ!オメ、いい加減にしろっ!!……デコピンオラオラ
100連打だぞっ!!」

「ま、また変な種のデコピン作る……、ジャミル、指、大丈夫なのかな……」

ジャミル達が声を張り上げて抗議する中、モンは黙って項垂れる。
そして、何か考える仕草をしているかと思えば、ジャミルの方に
向かって舌を出し、尻を向けおならをするのだった。

「モーモンの小僧、少し待っててやる、早く用を済ませろ……、
……お前の仲間達と共にいられるのもこれで最後かも知れぬぞ……」

「おじちゃん……、ありがとモン……」

ギュメイは一度長剣を側に置いて手放すと腕を組み、少し瞑想に入る。
敵ながら本当に何処までも余裕の有る・持てる、貫禄の有る男である……。

「こ、こいつっ!んな時にふざけやがってっ!もう勘弁……」

「モン、ジャミル達の事、信じてるからだモン……、絶対負けないって……」

「モン、お前……」

「……」

見つめ合うジャミルとモン。モンはジャミル達が絶対勝つと信じ、最悪、
帝国の捕虜となる覚悟をしたのだった。モンは目に涙を浮かべていた。
そんなモンにジャミルは……。

「分かったっ!モン、お前の覚悟、俺も受け止めるよ……」

「ジャミル……、うん……、絶対勝って、……モン……」

ジャミルはモンの頭をわしわしと強く撫でる。モンはたまらず堪えていた
涙を等々溢す。

「はわわわ~!こ、これ、事実上、モンが人質になっちゃうんじゃ
ないかあ~っ!大変だあ~~っ!」

「そうよ!ヘタレっ、アンタも責任重大なんだかんネっ!しっかり
してよっ!」

「ダウド、戻って来てくれたって事は、もう一度俺らと一緒に戦って
くれるんだろ?」

「あ?……う、うん、だからオイラ戻って来たんだ、皆に嫌われるの
覚悟で……、でも、何とか途中でベホマラーを習得出来たんだ、モンと
サンディのお陰でさ……」

ダウドは照れながらモンとサンディ、両者の方を見る。サンディは
とーぜんっしょ!の態度。

「オイラ、少しはお役に立てるかな、これで……」

「……バーカ!立てるかなじゃねえだろっ!……ちゃんと役に
立ってるんだよっ、オメーはっ!い、いい……加減に分かれぇ
ぇーーっ!!」

ぴんぴんデコピン×16連射

「……いだああーーっ!もう~っ!何だよおーーっ!でも、ジャミル、
有り難う……、オイラ、これからもこんなだけどごめんね……、さあ、
アルとアイシャを助けなきゃ!」

「……」

ダウドは急いでアイシャとアルベルト、二人の蘇生へとザオラルの
詠唱を始める。たく、相変わらず、傲慢ヘタレめと思いながらも、
ジャミルはプッと吹いた。

「な、何さ……」

「いや、後でちゃんとアルとアイシャに謝っとけよ……、それから、
仕置きのデコピンも落ち着いたら別にしっかりやるからな……」

「……があああ~んっ!?」

「あれ、私……」

「僕、確かギュメイ将軍に……、!?」

そんなこんなでダウドの必死の謝罪のザオラルにより、アイシャと
アルベルトは無事に息を吹き返す。幸い、アルベルトは1回、
アイシャは2回程度で無事に復活。目を覚した二人は、目の前で
手をついて土下座するダウドの姿にぽか~んと……。

「ダウド、もういいよ、ちゃんと戻って来てくれるって
信じてたからね……」

「そうよ、それにベホマラーを習得出来たんでしょ?うふっ!
凄いじゃない!」

「う~、どうして皆……、優しいのさ……、うう、でも、モンが、
モンが……」

ジャミルは泣き出してちゃんと喋れなくなってしまったダウドに代わり、
状況を説明。ギュメイがモンを帝国の傭兵として欲しがっている事、
もしもジャミル達が敗北した場合、問答無用でモンはギュメイの
部下として連れて行かれてしまう事を話す。

「……酷い、モンちゃんはそんな事望んでないわよっ!」

「これは絶対負けられないよ!」

「だから……、全力で勝つんだ、何が何でもな、このままモンを大人しく
帝国になんか、ギュメイに渡してたまるかっ!」

4人はギュメイを強く睨む……。4人の視線に気づくと、再び動き出す
ギュメイは自らの長剣を手にする。

「最後のやり取りは終わったか?……実は、我も先程からずっと考えて
いた事がある……」

「な、何をだよっ!?」

「お前達は我に絶対に勝つ事が出来ない、それは運命としてもう決まって
いる事だ……、だが、今の我はMPが果てしなく0に近い、雑魚のお前達に
全力を出しすぎたのだ……、しかし、技など無くても、我は余裕でお前達に
勝利する事が出来る、ハンデを付けてやる……」

ギュメイは長剣を4人に向け構える。それに答える様にジャミルも
ある決意を考えていた。

「だったら俺らもあんたに合わせる、このままMPは回復しねえ、
素のままでお前に勝つ……、魔法はダウドの回復サポートのみに
任せる……」

「何だと……?」

「「ええええっ!?」」

「ちょっと、バカッ!ジャミ公、何言ってんのっ!こんなの技無しで
勝てるワケないじゃん!アンタらギリギリなんだからっ!本気で
言ってるっ!?」

「サンディ、うるせー!ちゃんと対等に技無しで勝って、俺らだって
武人だって事、証明してやるんだっつーの!」

「バ、バカ、アンタってマジで大バカ……、も~好きにすればッ!?」

サンディは呆れ、発光体になり、ジャミルの中へ……。こうなるともう
ジャミ公は止まらない。アイシャとアルベルトはお互いの顔を見て
頷き合った。ダウドは顔が青ざめて真っ青だった……。

「分かった、僕達もそれでいい……、ギュメイ将軍……」

「ええ、絶対負けないわ……」

「……あううう~!」

ギュメイは何処までも命知らずな4人に呆れて物が言えず。MPが
有ってもあれだけ追い詰められていたではないか。なのに……。だが、
ギュメイは無茶を言い出した阿呆な突貫小僧に次第に興味を持ち始めて
いた。……最初はどうしようもない、只の命知らずな馬鹿な連中だと。
本気で手合わせ、勝負をしてみたいと。そんな気持ちがギュメイの
心の中に沸いて来ていた。

「みんな、本当に絶対勝ってね、モン、約束モン!」

「ああ、見てろよ!」

「モンちゃん、直ぐに戻ってくるからね……」

「僕達は絶対負けないよ!」

「えうう~、うう~、モン~……」

(……一度は敗北し、状況も不利になっていると言うに、一体
この連中のこの図々しい自信は何処から来ていると言うのだ、
……不可思議なり……、まあ、所詮夢物語……)

ギュメイは左手へ手にした長剣に、より一層力を込めるのであった……。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 71

zoku勇者 ドラクエⅨ編 71

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-06-08

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work