zoku勇者 ドラクエⅨ編 70
vs・ゲルニック
「……ヲマエ、ラ……、ココ、カラ……、イキテハ……、
カ、エ、サン……、ホホホ、ヲ、ホ~ホホ~ホ~ッ!!」
遂に狂った崩壊ゲルニックだけでも嫌らしい中、ゲルニックを
守る様に集まって来た、数々のモンスターの群れが……。
ゾンビナイト、ワイトキング、ナイトリッチ……、ゾンビ系の
嫌らしい敵である……。
「……う、うげっ!?ゲ、ゲルニック、口から何か垂らしてる
よお~!!」
「……血?……、それから……、でも、目を背けてはいられないわ、
戦わなくちゃ!」
「……ああ、ジャミル、周囲のモンスターは僕らが何とか……、
それまで君一人で頑張れるかい?」
「任せとけっ!んじゃ、お前らは雑魚の方頼むぜ!」
「「了解っ!!」」
「だああーーっ!!」
ジャミルは床を蹴り、ドラゴンキラーを構え、崩壊ゲルニックへと
突っ込んで行った。……吐き気を催す様な、奴から漂って来る腐った
異臭……。そんな事には構っていられず、目の前の哀れなモンスターを
只、必死で倒す事だけである……。
「……ヲホホ、オホ、ホ~ホホホッ!!」
「……凍り付く息?うっ、け、剣がっ!!……テメっ!!……アッ!?」
崩壊ゲルニックは凍り付く息を吐き出し、ジャミルを追い詰める。
盾を装備出来ないジャミルは咄嗟にドラゴンキラーでガードするが、
ゲルニックはドラゴンキラーを凍らせてしまったのである。
……凍り付く息の勢いでジャミルは一人、かなり遠くの壁方面へと
叩き付けられ、仲間達との距離を離されてしまう……。
「……ジャミルっ!!」
「アイシャ、駄目だ!こっちに集中して!ジャミルを信じなくちゃ!」
「……わ、分かってるわ、ええーいっ!!」
「うう~、オイラも今日は補助ばっかりやってられませーんっ!
ほりゃっ、とりゃっ!こんにゃろこんにゃろ!アホーっ!バカーっ!」
「……シャーーっ!!」
ダウドも武器を振り回し、攻撃の方へと回る。モンも彼方此方飛び回り、
モンスター達の頭にガジガジ噛み付き捲る……。
「……まいったなあ、俺の武器、こんなにしやがって、うわっとっ!?
……ふぃ~、あ、あぶねえ~……」
躊躇せず、ゲルニックはどんどん凍り付く息をジャミルへと
お見舞いしてくる。禄に攻撃魔法も使えない今の一人戦闘状態の
ジャミルは、やはり職業をもう少し考えときゃ良かったなあと、
今更ながらちょっと後悔……。
(……ちょっとッ、ジャミ公っ!アンタマジで大丈夫なん!?
しっかりしてよっ!)
「大丈夫だよ、けど、情けねえ話、少し皆の力が欲しいのも本当だ……、
って、危ねえって言ってんだろがっ!!」
「……ホホ、ホホホホホ、……ホヲヲーーっ!!」
「あ、ああっ!?……皆っ!?」
有ろう事か、崩壊ゲルニックはジャミルの武器が使えない間に、更なる
外道攻撃を開始……。モンスターと戦ってくれている仲間達に向け、
バギマの連続攻撃を開始したのである。
「止めろっ!テメーの相手は俺だってのっ!……うあーーっ!?」
(……ちょ、ジャミ公ーーっ!!)
ゲルニックは再びジャミルの方を向いたかと思うと、今度は
ジャミルに向かって凍り付く息を吐く。顔までは免れたが、
身体が凍り付いてしまい、動けなくなってしまう非常事態に陥る。
そして、外道攻撃に苦戦する仲間達……。
「……何これ何これえーーっ!?何か飛んで来たよおーーっ!?
……竜巻っ!?……バギマだっ!モン、危ないっ!!」
「モォ~ンっ!?」
「……何なのよっ、もうーっ!バカーーっ!!イオラーーっ!!」
「……怯むな、皆っ!こんな時こそ落ち着くんだっ!!」
「……モン、もう頭の上は危ないから、オイラの足下にっ!わわっ、
こっちからもっ!」
「……絶対負けないわっ!」
ダウドは迫り来るモンスター集団と応戦しながら必死でモンを守る。
アイシャは飛んで来るバギマをイオラで弾き返そうとする。
……ぶつかりあう竜巻と炎……。僅かだがアイシャのイオラの方が
押している……。ゾンビモンスター達にも追い詰められている手前、
もうMPの消費も気にしていられず、アルベルトもギガスラッシュ
連打……。だが、ゲルニックの卑劣な外道攻撃は、チクチクと確実に
仲間達の体力を奪っていた……。
「早いとこ、ケリを付けねえと、この後のバトルが……、ううー、
けど、これじゃ動けねえ、……んーーっ!あううーーっ!……割れろ
おおおーーっ!!」
「……ヲ?ホホホ……?キ、サマ……」
ジャミルは思い切り身体に力を込め、自分を拘束していた氷を
気合いで叩き割る。これにはゲルニックも驚き、何が起きたのかと、
仲間達の方の攻撃の手を一旦止める……。
「……ソ、ウ、カ、ヲホホ……」
「ぷわーっ、助かったしーっ、もう~っ、アタシまで凍っちゃう
処だったじゃん!」
サンディも慌ててジャミルの中から飛び出す。これ以上、ジャミルの
中にいても、巻き添えを食らうと思ったのだった。
「……何?ゲルニック、少し落ち着いたのかな?オイラ達への攻撃、
止めてくれた?」
「……す、隙を見せちゃ駄目だっ!今の内にっ!!モンスター達を!!」
「ジャミル、頑張って、もう少しよ!」
「え~と……、やったっ、テンションゲージ溜まってるっ、
ゴスペルソング、それっ!!」
「モンもやるモンっ!……おならソングモンっ!ぷぷぷっぷ~♪」
「……何だか臭うけど、回復効果が二倍みたいだわ……」
「うん、モンのおならって、実は凄いシークレット効果が
あったのかな……?」
「……んなアホなーーっ、オ、オイラの歌ってモンのおならと
同じなのーーっ!?嫌ーーっ!!」
……音痴ソング……、ダウドの歌声+モンのおならソングは
ゲルニックに苦戦しているジャミルの元まで飛んで行き、
身体を癒やしてくれた。
「何か良く分かんねえけど、ダウドの音痴と、モンの屁だ……、
何だろう、微妙だけど、合わさって……、俺の傷全快した……?」
「でも、剣、凍ったまんまじゃん、どーすんのっ?まさか、アンタ
素手で突っ込む気じゃないでしょーネっ!?」
「……嫌、どうせなら……、このまんまで攻めてやるっ!
……アイスドラゴンキラー攻撃っ!!」
「……ほえええっ!?」
サンディが目を白黒させる中、またジャミ公が無茶を始めた。
凍ったままのドラゴンキラーを構え、再度崩壊ゲルニックへと
突っ込んで行った。凍ったドラゴンキラーは返ってゲルニックの
身体を傷つけており、ダメージを与えている様である……。
「どうだっ、テメエでやった事だかんな、自業自得だっ!
このまんま氷の刃で粉々に砕け散れっ!」
「そのチカラ……、ワタシノモノトナレ……」
「……何?……う、うわあーーっ!?」
「ちょ、ジャミ公ーーっ!!」
ゲルニックはジャミルに向かって静かに手を翳す……、と、同時に、
ジャミルはゲルニックが発する黒いオーラに包まれるのだった。
「……このチカラ、サイキョウカモシレン……、モット、ハヤク……」
「……あああーーーっ!?……嘘だ、身体から……、力、抜ける……」
「まさか、アイツ……、もしかして、直にゴーインにジャミ公から
天使の力を無理矢理奪い取ろうとしてんのッ!?ちょっとっ、
じーさんっ、止めなよっ!きゃあーーっ!?」
「ウジメ、ジャマヲスルナ、ホホ……、ホ~ホホホ!」
サンディはゲルニックを慌てて止めようとするが、やはり
無理だった……。ゲルニックに弾き飛ばされ、サンディも
気を失ってしまい……。
「……アルっ、向こうっ、……ジャミルとサンディの悲鳴がっ!!」
「分かってるっ!……でも、まだこいつらがいる、僕らもすっかり
取り囲まれてしまってる、何とかしないと動き様がない、
……ジャミルを助けに行けないよ!」
「でも、倒しても倒しても出てくるんだもん、……ううう~……」
「モン、モォ~ン……」
「嫌、嫌よ……、ジャミル……、神様……、セレシア様、お願いします、
どうかジャミルをお守り下さい……」
「行くよっ、アイシャ、ダウド!此処であいつを押さえておかなければ
この先に進む事も、ジャミルも救えない、全力で戦おう!」
「……が、頑張るよお~……、うう~!」
「ええ!モンちゃん、サンディ、ジャミルの事、お願いね!」
「モン~、みんな……」
「しっかりネっ!ジャミ公の事はアタシ達に任せてっ!」
「ヲフォ、フォフォ、フォ、……ヲフ~ヒヒッヒ……、テイ、コク……、
ヲフォ、フフフヒ、ワタシ、ハ……、テイコ、ク……、ヘイカ……、ヒヒ、
ヒヒィヒイー!」
仲間達は目の前で不気味に笑う崩壊ゲルニックを見据えた。
無理矢理に取り込んだ天使の力で精神は崩壊、身体はもはや
ボロボロに……。本人自身ももう、自分が何をしているのか、
一体何の為に存在しているのか、全く分からない様だった……。
「アルっ、バイキルトよっ!」
「スカラだよおっ!」
「有り難う!アイシャ、ダウドっ!うおおおーーっ!!」
ジャミルが離脱している今、攻撃担当はアルベルトに任せる
しか無い……。アイシャとダウドにそれぞれのサポート魔法を
唱えて貰い、アルベルトは崩壊ゲルニックへと立ち向かって行く……。
「ヒヒ、ムダ、ダ……」
「ああっ!補助魔法がっ!……力がっ!くっ、こんな事で怯んだり
しないぞっ!……う、うっ!?」
「アルーーっ!!」
ゲルニックは折角二人が掛けてくれた補助魔法を一瞬で掻き消して
しまう。しかも、天使の力を取り込んでいるゲルニックは守備力も
半端でなく、アルベルトは早速追い込まれてしまう……。
「……このままじゃ駄目っ、私もっ!メラミーーっ!!」
「……アイシャっ!」
攻撃魔法でアルベルトの援護に入ろうとしたアイシャ、だが、
焦りもあり、奴がマホカンタを使える事を忘れていたのだった……。
「……きゃっ!?」
ゲルニックはそのままアイシャへとメラミを弾き返した……。
アルベルトも身体を張り、ドラゴンキラーを構え、アイシャを
ガードし守ろうと盾になる。
「……うう、お前なんかに……、やあーーっ!」
「……ヲフォ?フォフォフォヲーーっ!!……ヲフォフォーーっ!?」
アルベルト、跳ね返って来たメラミごと逆にゲルニックへと、
ドラゴンキラーでぶつけ返した。……メラミに包まれたゲルニック、
全身火だるまになりながら絶叫する……。
「ハア、ハア……」
「アルっ、ごめんなさい!……大丈夫っ!?」
アルベルトは汗だくになりながらも、自分を心配するアイシャに
向かって静かに笑みを見せた。
「……大丈夫だよ、まだまだこんなんじゃ、僕、また姉さんに
怒鳴られてしまうよ……」
「大変だよおおっ!ゲルニックが……、また、身体が膨張してるっ!!」
「……うわああっ!?」
「フェヒヒ、ヘヘヒヒィ、ワタシハ……、シナヌ……、テイコク……、
コノホノオゴト、オマエタチ、ヤキ、コロ、ス……、ヲフォフォフォ、
フェ~ッヘッヘッヒ……」
何処までも非常識なゲルニックの力に、アルベルト達も寒気を
覚える……。炎の中で燃えながらも狂った様に笑うゲルニックは
メラミの力までをも吸収、更に大きく拡大、最悪のフォームと
なった……。ゲルニックは炎の球体を投げつけ、攻撃してくる……。
「……嫌ああーーっ!!わ、私の……、私の魔法の所為……」
「あちちちっ!……熱いよおおーーっ!!」
「……くっ、こ、こんなっ!ううう~っ!!」
「モンーっ!……みんなーーっ!」
「ダメだってっ!……デブ座布団っ!アンタ、アイシャに
言われたコト、忘れたんじゃないでしょーネッ!アタシ達は
此処でジャミ公を守るのよッ!」
「モン……、分かってるモン、でも、モン、モン……」
サンディは飛び出して行こうとしたモンを必死に止めるが、
モンを止めた物の、本当は彼女もどうしていいか分からず。
ジャミルを守るとは口で言ったが、もしも皆が倒れて
しまったその時は……。
「……あれ?モ、モン……?ジャミルが今……」
「!……マ、マサカっ、マジっ!?」
そして……、回復担当のダウドは大火傷を負い、等々力尽きそうに……。
その間にも、ゲルニックは容赦なく攻撃の手を緩めず……。3人は
絶体絶命状態に陥っていた……。
「も、もう……、本当に駄目だよお、……ご、めん……、オイラ達、
棺桶行き、決定だね……」
「ダウドっ!……しっかりっ!!……諦めちゃ……、駄目だ……、
こんな処で……」
「……ジャミル……、……あれ?……!!アル、ダウド、
……み、見てっ!!」
3人共、絶望で気力を失い掛け、諦めと言う言葉に飲み込まれそうに
なっていた時……、ゲルニックに異変が起きていた。ゲルニックは
雄叫びを上げ、遂に苦しみ出したのだった。
「……ほ、本当に……、取り込んだ天使の力の制御が効かなくなって
来たのかも知れない……」
「もう、アイツも限界なんだね……、自業自得かなあ……」
「ワタ、ワタワタワタ……、ワタタタタ!ワタシワーーっ!!
テイコクヲーーッ!!……ヲヲヲ、オボエテイローーッ!!
……テンシドモ、ニンゲンドモメェェェーー!!」
「……ゲルニック、哀れな人ね……」
「もう、覚えてませんよ、忘れたいよお……」
最大級の精神崩壊を起こしたゲルニック……、自らの行いで、
最後は無残にも身体が破裂して砕け、……散って行った……。
「ちょ、待ってっ!あいつ自体が消滅しちゃったら、ジャミルの
天使の力はっ!?そもそも、ど、どうやってジャミルの中に元に
戻すのっ!?」
「……そ、それは……、ダウド……、僕らも……」
再び仲間達に絶望が襲い掛る、その時……。
「お~いっ、アルっ、アイシャっ、ダウドーっ!」
「……ジャミルっ!?……、ど、どうし……、ふぇっ……」
モンとサンディを連れたジャミ公が現れる。……いつの間にか
非常識マンが復活していたのだった。しかももう、ピンピン
している。ボロボロになり、崩壊ゲルニックとの死闘で疲れて
いた3人だが、ジャミルの姿を見て、開いた口が塞がらず……。
「モン、ジャミル、もう元気になったモン♪」
「本当にィ~、このバカ、もう心配するだけムダよっ!」
「……ま、また君はっ!どうしていつもそうなんだよっ!
……心配ばっかり掛けてっ!いい加減にしろーーっ!!」
「そうだよおーーっ!!……オ、オイラ達、どれだけ……、
あうううーーっ!!」
「……ジャミルの……、バ……」
「ちょ、ちょっと待ってくれや!俺にだって何がなんだか
分かんねえんだよ、只、自分の中で……、何か急に力が戻って
来たなって感じたら、目が覚めたんだよ……」
「そっか、もう、ゲルニックの中で天使の力の崩壊が始まって
いたから、ゲルニックが消えてしまう前に、ジャミルの力だけは
元に戻ったんだわ……」
アイシャは目頭を擦りながら、そう推測してみる。……きっと、
セレシアがジャミルを守ってくれたのだと。……そう信じたかった……。
そして、やっぱりジャミルって、底知れないパワーの原始人さん
なのね……、と、泣き笑いの笑みを浮かべた。
「そうだっ、ゲルニックの奴はっ!?……そうか、あいつ、
自爆しちまったのか……」
「うん、自分の事しか考えないで、暴走した結果だよ……」
アルベルトは残っているゲルニックの身体の残骸らしき、破裂した
無残な物体を見る。……他には、ゲルニックが愛用していた杖だけが、
ぽつんと取り残されていた。
「……全く、猛毒を吸っちゃったんだねえ、気の毒としか言えないよ、
自業自得だけどね……」
「……おい、ダウドっ、何で俺の方見るんだっ!……しかも
猛毒とは何だっ!猛毒とはっ!!」
「あだだだっ!何だよおっ!散々皆に心配掛けておいてっ!
ジャミルのアホっ!!」
……やっと落ち着いたかと思えば、再び始まるジャミダウコンビの
アホ喧嘩。まあ、取りあえず、ジャミルも無事に元に戻って良かった
かなと……、アルベルト達も安堵した。
「はああ~あ、やっぱコイツ、心配するダケ無駄なんだね、じゃ、
アタシまたアンタの中で寝てるからね、……もう起こさないで
よっっ!!」
サンディは呆れ顔で、発光体に戻るとジャミルの中に消える。
……ジャミルとダウドはま~だ取っ組み合いの喧嘩をしていた。
「くそーっ!……このヘタレウンコーーっ!!便所に流れろーーっ!!」
「……言ったなあーーっ!!ドウテイエロジャミルーーっ!!」
「シャーモンシャーモン、ウシャーッ!!」
「……モン、今日はレフリーはいいから……、え~と、君達、
頭出して、いくよ……、覚悟はいいかな?」
……パンッ!パンッ!……パンッ!!
「取りあえず、袋の中に上薬草が有った筈、後、魔法の聖水も、
HPとMPの回復をしておこう、アイシャも大丈夫かな?ごめんね、
疲れてるのに……」
「……にゅっ!?……ふにゅ~、ご、ごめんなさい、私、いつの間にか
寝ちゃってた、うにゅにゅ~……」
「ううん、いいんだよ、本当はもう少し休憩していきたいんだけどね……」
アルベルトに起こされ、慌ててアイシャが目を擦る。バトルで疲れも
出てしまっていたが、バカ2人の喧嘩をぼけっと眺めている内に、一気に
疲労感が出てしまい、うっかり眠ってしまったのだった。
「……おいいいっ!よくもやったなっ!この腹黒っ!!……いいえ、
すみませんでした……」
「これ、最新型なんだよ、凄いだろ?ボタンを押すと大きくなる
スリッパなんだよ……」
アルベルトは笑顔でマグロ型サイズのスリッパをジャミルの頭に
押しつける。見ていたアイシャは、益々アルベルトも分からなく
なって来るのだった……。
「モォ~ン、お空飛びますモ~ン♪」
「モン、それに乗って遊んじゃ駄目だよ、さあ行こう、まだまだ戦いは
始まったばかりだからね……」
アルベルトは真面目な顔でマグロ型スリッパを小さくし、仕舞う。
ジャミルは、やっぱり、帝国より、何よりもコイツが一番……。と、
考えるのも恐ろしいので、思考を切り替える事にした……。
「よし、此処の扉だな……、うわ……」
モンが倒れていた場所の扉から外に出ると其処は城の外壁。歩いて
行くと、……ふと頭上に壊れて崩壊した橋……。外壁通路を進む
4人の前に疲れている中、再びモンスターと遭遇。また、ボストロール、
2人組だった……。
「ゲ、へへ……」
「の、野郎……、いい加減にしとけっ!邪魔だっ!!見るのも
ウゼーってのっ!」
「本当に厳しいなあ~、もう~……」
「……ダウド、頑張ろう!ほら、元気出して!」
「どんなに意地悪したって、私達は負けないんだからっ!」
「ウシャシャのシャーモンっ!」
4人は行く手を塞いで来るボストロール達と対峙……。休む
暇も無し。これが戦いなのだと割り切るしか無い。前に進む為、
突破するしかなかった。
「♪ぐう~へっへっへ~!」
「……きゃっ!?い、いやっ!!」
ボストロールはデブの癖にいきなりジャンプしたかと思うと、
地響きを立て、守備力の低いアイシャの方に着地。……アイシャを
取り囲む。事態に気づき、ジャミル達は慌ててアイシャ救出に
向かうが、既にボストロールの一匹がアイシャ目掛け、痛恨の
一撃を繰り出す。アイシャは無言でその場にパタリと倒れた。
「……アイシャーーっ!てめーらっ!……よ、よくもーーっ!!」
(おーおー、相変わらずアイシャのコトとなるとスゲーんですケド……、
もう勝手にしろって感じ?)
「モン、アイシャ、アイシャ~……」
「畜生……っ!」
「ジャミル、アイシャは大丈夫だよお、まだ息はしてるから!
でも、早く回復しないとっ!……と、とととと、わあーーっ!!」
「……ダウドーーっ!!」
アイシャの様子を確認していたダウド、ボストロールは今度、
ダウド目掛け、矛先を変え、襲い掛かって来た。ダウドも
慌ててハルベルトを振り回し、何と、ハルベルトの先が
ボストロールの一匹の頭に命中するが……。
「や、やったあ!……あれ?」
「……グルル……」
「うぎゃあーーっ!!……う、うっ!?」
だがボストロールは動じず、頭部にハルベルトが刺さったまま、
怒り狂い、そのまま捕らえたダウドの首に手を掛け、ぐっと力を
込め絞めようとする……。
「ぐぐ、苦し……、うう~……」
「……ざけてんじゃねえぞっ、てめーらっ!!」
ジャミ公、武器では無く、渾身の一撃の回し蹴りでボストロール
2匹をぶっ飛ばす。……ボストロールは揃って同じ体制のまま、
間抜けな格好で、同時に尻を向けて倒れた……。
「……げ、げほ……、ごほっ……」
「ダウド、大丈夫かい!?」
「ううう~、も、もう~……、厄続きだよお、……酷いい~!」
「おい、彼処に扉がある、取りあえず逃げようぜ、アイシャも
倒れちまったしな!」
「そうだね、急いで回復をしてあげないと!行こう、ダウド、
立てるかい!?」
「ダウド、ダウドのヤリモン、はい!」
「……あ、ありがと、モン、……ううう~……」
モンはボストロールの頭に刺さったハルベルトを引き抜くと、
ダウドに渡してやる。ジャミル達は何とか見えた扉の中へ、
急いで傾れ込むのだった……。
「はあ、はあ……、ったく、冗談じゃねえぞっ!」
「……此処は城内の別広間みたいだね、……何とか先に進めると
いいけど……」
「モン?……向こうの方から……、何だかあったかい場所、
感じるモン……」
「あ?こ、こらっ、モンっ!待てよーーっ!」
「……モンっ、1人で行ったら駄目だっ、危ないよっ!」
「も、もう嫌ら、……あううう~……」
ま~た、モンはモンで、1人、勝手に何処かへ飛んで行ってしまう。
ジャミルは急いで気絶しているアイシャを背中に背負い、皆とモンの
後を追掛けるのだった……。
「……モンーーっ!コラーーっ!!」
「♪モン、あったかい場所、見つけたモン♪」
「な、何……?あ、あれは……」
「魔法陣かな……、光が溢れて……」
モンが見つけた場所。それは光が溢れている魔法陣だった。
恐る恐る、魔法陣の中に入ると、本当に何とも言えない優しく
温かい光が皆を包み、傷ついた身体も瞬時に回復、MPも万端に
なったのだった……。
「う~ん?あれ?私……、……!?」
「おおっ、アイシャ、目ェ覚したかっ!」
目を覚したアイシャはきょとんとする。ボストロールに襲われ、
気が付いたら何故かジャミルに背負われていた。……途端に
アイシャは状況に気づき、顔を真っ赤にするのだった……。
「はあ、色々あったけど、どうにかこれで先に進めそうだな……」
「うん、本当だね……」
「あ、あのっ、……みんな、私も心配掛けてごめんなさいっ!
……よ、よいしょっ……」
「……?」
アイシャは慌ててジャミルの背中から飛び降りる。顔を赤く
したままで。……だが、本音はもう少しこのまま、彼の背中に
負ぶわれていたかっ……
「……キャーーっ!思ってないっ!思ってないわようーーっ!!」
「……な、何だ?変な奴、ま、いいか、お、丁度階段があるぞ!」
「うんうん、もしも何かあれば、此処の魔法陣の処に戻って来れば
いいんだもんね♪」
「ダウド、そんなんじゃダメモン!……カケル君、勇気をあげるモン!
……プ~……」
「……ちょ、今時誰も知らないからっ!……それに勇気じゃなくて
おならじゃないかあーーっ!」
モンもすっかりいつものワル調子に戻った様で、ヘタレるダウドの
頭の上に飛び乗り、暴けて悪戯を始めた。……ジャミル達は頭を
抱える反面、この先、もうモンにも、何事も起こらない様に願う
ばかりである……。
「さ、行こうぜ、お前らもな、ふざけてる場合じゃねえぞ、……アル、
何だその顔はよ……」
「い、いや、君がその台詞を言うと何だかね……」
「……わ~ってるよっ!どうせいつもふざけてる俺には似合わねえ
台詞だよっ!」
「あ、こらっ、ジャミルっ!」
ジャミルはブリブリ、切れて先に1人、先の階段を登っていってしまう。
しまった……、と、アルベルトは頭を掻いた……。
「アルったら、刺激しちゃ駄目じゃないのっ!」
「ごめん、僕ってつい、正直だから……、あ、……は、早く
僕らも行こうっ!」
アルベルト達もジャミルの後を追掛け、慌てて階段を登る。幸い、
上のフロアにまだジャミルは居てくれたが、見えた扉の前で
何やら扉と睨めっこしている……。
「……ど、どうしたの……?」
「よう、あの扉の先、見てみろよ……、床にバリアーが張ってあるだろ、
んで、その先に下に降りる階段があるんだ、でもよ、この扉も開かねえん
だよ、最後の鍵でも駄目だぜ……」
「そっか、まだ先には進めないんじゃないかな、何かの封印が施して
あるのかもね……」
「しゃ~ねえなあ、先に他の処か、此処はまだ駄目か……」
ジャミルは只管唸っていたが。今は諦めた様である。さっきの事は
もう忘れている様で、単純なジャミルにアルベルトはほっとした……。
「……そしてオイラも安心する、まだ変な場所に行けなくて……、
ほっと……」
「……してる場合じゃないでしょっ!!何れは行かなきゃ
ならないのよっ!!」
「うえええ~……」
今度はアイシャに突かれるダウド。取りあえず、近くにあった
別ルート見つけ、ダウドを皆で引っ張り連れて行く。外に出ると、
其処はまた外壁通路。
「何かあれ、見覚えがあるな……、そうだ……」
正面には壊れた橋。さっき、下の外壁通路から見上げた、あの壊れた
橋だったのだった。そして、彼方此方で目に付く生々しい大砲台の
跡……。此処から一体、どれだけの敵を狙い、抹殺したのかと思うと、
4人は胸糞が悪くなって来るのだった。
「はあ~、何か今回は果てしなくゴールが遠い様な気がするよお~……」
「当たり前だっ!敵の本拠地なんだからよ、……」
「モンプ~……」
モンも相当疲れが出ているのか、グチグチダウドの頭の上で眠ってしまう。
ジャミルは出来ればこのまま、モンをゆっくり眠らせてやりたがったが、
何せ此処は帝国領……。とてもそんな状況ではないのは分かっていたが、
出来るだけゆっくり休んどけよと、こっそりとモンへ呟いた。
「お?彼処、また扉があるぞ、よし……」
4人は扉を潜り、その先へ……。2階から3階へ、そして等々、
最上階への道へ……。其処で待ち構えている者……。第2の試練の
始まりでもあった……。
「……漸く来たか……、招かれざる愚か者達よ……」
「……ア、アンタはっ!?」
「……モン~?……!?」
……最上階への扉らしき前で待ち構えていた人物。片刃の長剣を
左手に手にした、虎の様な外観の大男……、あの時、閉じ込められた
ジャミル達を救い、そしてモンの危機を救ってくれたあの大男である……。
「……モォ~ン、虎のおじちゃん!モ、モンっ!?」
寝ぼけ眼だったモンは完全に目を覚してしまう。自分を助けてくれ、
再び会えた大男に目を輝かせる。……だが、大男は平然と冷淡に
ジャミル達に長剣を向けるのだった……。ジャミルはモンを慌てて
庇う。やはり、この男は帝国に仕える冷酷な武人なのだろうと……。
「モン、駄目だ、ダウドの頭の上に戻れっ、……早くっ!」
「モ、モン~……」
「ゴレオンも逝き、そしてゲルニックも逝ったか……、哀れな……」
「ね、ねえ、あなたは私達を助けてくれたんでしょう?……本当は、
悪い人じゃないんでしょ?……ね?」
「……ふざけるな、小娘が……」
「!!」
アイシャの問いに、大男はストレートに返事を返した。……その
言葉から察するに、明らかに自分は味方では無いと言う事を4人に
はっきりと伝えているのだった……。
「……我が名はギュメイ、帝国三将最後が1人……、この先は主君
ガナサダイ皇帝陛下の玉座の間、我が忠義に掛け、招かれざる者は
アリ1匹たりとも通しはせぬ!!」
……そして、長剣の先を再び4人に向けるギュメイ。やはり戦いは
避けられない運命なのか……。しかし、ジャミルも負けずに食って
掛かって行った……。
「……だったらっ、何でアンタあの時、俺達をわざわざ助けに
来たんだよっ!!」
「モン~、おじちゃん、……ジャミル~……」
「助けた?……違うな、ゲルニックの卑劣なやり方に嫌気が差して
いただけの事、我は武人として、正々堂々の戦いを好む……、
それだけだ、何れお前達をこの手で始末しなければならん事も
十分心得ている、……我、この命に掛け、陛下をお守りする者と
してな!」
「……僕達はやっぱり敵同士、分かり合えないのですか……、
それならば……」
「あうっ、あうっ!……あううう~!」
「ギュメイさん、悲しいけど、あなたと戦うしか道はないのね……」
「……」
ギュメイと対立し、仲間達は睨み合う。ジャミルも無言で
ドラゴンキラーを抜き、ギュメイの前で構えるのだった……。
「……みんな、止めてモン~!おじちゃんと戦っちゃダメなんだ
モンーーっ!」
「……ダウドっ、頼むっ!」
「うん……、モン、ごめんね、分かって……」
「モ、モンっ!?……プ~……」
ダウドはモンへとラリホーを掛け、眠らせる……。無事に戦いが
終わるまでこうするしかなかったのである。……モンが目を覚す前に、
何とかギュメイとの戦いを終わらせ、ケリを付けてしまいたかった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 70