(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第3話

鳥山明 作

 これはドラゴンボールZの、もう一つの未来で起こった物語である。

 トランクスの目の前に広がっていたのは、何故か見慣れた街の風景だった。大勢の人々が平和に暮らす、近未来的建造物の多い大都市だ。

(オレは地球に帰ってきたのか?)

 疑問に思いながらも、トランクスは前を向いて歩みはじめた。

 穏やかな時間に涼しげな風が駆け抜けていく。トランクスはその中を進んでいった。どこへ行くでもないが。

 やっと地球も各地で復興が進んでいる。あの悪魔のような人造人間からトランクスが救った世界。孫悟飯の強い意志と、それを継いだトランクスが、その手で築いていった平和。道のりは厳しいものだった。失ったものもあまりに多過ぎて、受け入れるのは大き過ぎた。だが、今ではあたりまえになりつつある日々を、トランクスは心から愛おしく思っていた。


 突然の爆発音。次々と高層ビルが崩れはじめる。それは無数のエネルギー弾による奇襲だった。都市は瞬く間に廃墟と化した。

 身構えたトランクスが瓦礫の中で目にしたのは信じられない相手だった。それは彼が最も憎んだ忌まわしい宿敵。2人の人造人間、17号と18号。

(なぜだ!? なぜ、あの時倒したはずの人造人間が!?)

 気づいたらすでに駆け出していた。殴りかかるトランクス。しかしその拳は2人の人造人間をすり抜けて空を切る。

「なんだと!?」

 対して17号と18号の方もトランクスの姿がまるで見えていないようだった。2人は廃墟に両手をかざすと再び破壊活動を開始した。

 無慈悲な暴力が人々の平穏と命を奪っていく。それはトランクスが幼い頃から刻み続けてきた惨劇の記憶だった。

「やめろ……やめてくれーッ!」

 トランクスの叫びは虚しく響き、やがて爆発音の中に消えていく。人造人間は破壊を止めない。どこからか聞こえてくる悲鳴の中で、人の姿をした悪魔は邪悪に微笑んでいた。

 そこへ駆けつけたのはもう一人の未来の超戦士だった。

 トランクスが兄のように慕い、最も尊敬していた武道の師、孫悟飯だ。
 瓦礫の上に降り立った彼の左腕は無い。人造人間との戦いの中でトランクスを庇って失ったものだった。その他にも、体中にはいくつもの古傷が見られる。それらはほとんどが人造人間との度重なる激闘の中で刻みつけられたものだ。

「そこまでだ、人造人間!」

 惨状を目の前にして悟飯の怒りが爆発する。激情は彼を逞しい超戦士へと変えていった。そして次の瞬間には全身から光を放ち、スーパーサイヤ人へと変身していた。

「ダメだ、悟飯さん! 死んじゃうよ!」

 トランクスは取り乱して叫んだ。しかしやはり悟飯にもトランクスの声は届かない。

 トランクスは知っていた。最強であるはずのスーパーサイヤ人となった悟飯でさえも、あの凶悪な人造人間2人には太刀打ちできなかった事実を。そして、たった1人であの悪魔のような凶戦士達に挑んだ隻腕の超戦士が、どんな悲惨な結末を迎えたかを。

(まだあなたから教えて欲しいことがあったんだ! まだあなたと話したいことがあったんだ!)

 トランクスは悟飯に駆け寄った。

「悟飯さーんッ!」

 止めようとするトランクスを無視して、悟飯は宿敵の人造人間へと飛び出していく。彼に迷いや恐れはない。激闘の人生を歩んだ一人の超戦士、その最後の闘いが始まった。


 2人の人造人間を相手にした空中戦、悟飯は人造人間の激しい連撃を上手く受け流していた。だが片腕を失った彼では完全には防ぎきれない。

 疲労していく打撃戦の中、不覚をとった悟飯は18号の強烈な回し蹴りを顔面に受けて、倒れかけの傾いた高層ビルへと叩きつけられた。17号はその隙をついて両手からエネルギー弾の連打を放った。手慣れた連携攻撃『サディスティックダンス』だ。

 エネルギー弾の直撃をまともに受けた悟飯は、高層ビルの倒壊に巻き込まれ、そのまま瓦礫の山に呑まれていった。

「こんなものか。案外つまらなかったなぁ。オレ1人でも良かったんじゃないか」

 17号が無表情で呟くと18号は鼻で笑った。

「よく見てごらんよ17号、アイツまだ生きてるよ?」

 瓦礫の中へと追い討ちをかけに行く2人の人造人間。悟飯は迫ってくる敵の姿を霞んだ瞳に映していた。

「……」

 力を振り絞って立ち上がる悟飯。その姿はスーパーサイヤ人のそれではない。彼のスーパーサイヤ人の変身が解けたのは、2人相手にしての打撃戦でかなり体力は消耗してしまったためだった。

 それに対して、永久エネルギー炉を搭載した人造人間2人は永遠に動き続ける殺戮マシーン。故に彼らは疲労などほとんど感じてはいない。そうでなくとも、悟飯の打撃程度では大したダメージは与えられなかっただろう。残念ながら現在の力の差は明確である。

 悟飯は2人の人造人間を渾身の一撃で迎え撃つ覚悟を決めた。彼は自分の命運を最後の必殺技を託したのだ。

「かーめーっ!」

 悟飯の戦闘力の急激な上昇を感知し、2人の人造人間はその場に立ち止まった。

「なんだ?」

 17号は疑問に思う。なぜあれだけ痛めつけた孫悟飯に、まだ抵抗をする力が残っているのか、と。人造人間として生まれ変わった彼には、人間やサイヤ人の持つ底力というものが理解できなかった。

 悟飯は片手に気を集めていく。強力な気弾は少しづつ膨らんでいった。それと共に悟飯は再びスーパーサイヤ人へと変身した。死力を尽くした変身である。

「はーめーっ!」

 それは孫悟飯の父、孫悟空の最も得意としていた必殺技だった。悟飯は最大級の『かめはめ波』の一撃にすべてを込めた。

「波ーッ!」

 悟飯の放ったかめはめ波の青い閃光が、真っ直ぐに空を裂いていく。その先に2人の人造人間を捉えていた。彼らは直撃コースだというのに、まったく避けようとはしない。それどころか2人の人造人間は片手をかざしてエネルギー弾を構えた。

 同型機の人造人間2人が発射した必殺のエネルギー弾『パワーブリッツ』と、悟飯が渾身の一撃で放った『かめはめ波』が空中で激突する。圧倒していたのは悟飯のかめはめ波だった。

「これで終わりだーっ!」

 悟飯は叫びと共に力のすべてを注ぎ込んだ。もう自らの限界はとっくに超えていたが、強靭な精神力がいつ倒れてもおかしくはない彼の肉体を支えていた。

 しかし、そのまま押し切るだけの命の時間が、彼には残されていなかった。

(ドクン……ドクン……ドッ……クン……)

 悟飯の心臓の鼓動がゆっくりと静止する。残酷にもその命は奪われていく。

 渾身のかめはめ波を撃ったまま絶命した彼を、2人の人造人間のエネルギー弾『パワーブリッツ』が容赦なく襲った。悟飯の亡骸はエネルギー弾の光に包まれ、辺りは強大なエネルギーの爆発によって跡形もなく吹き飛んだ。これが未来を守るため闘った、1人の超戦士の結末である。

 無惨な姿のまま投げ出され、瓦礫の上に倒れていた悟飯の遺体に近付いたのは、まだ幼い頃のトランクスだった。

(この悪夢を見るのは、もう何度目になるだろう?)

 トランクスは悟飯の亡骸を抱いて泣きじゃくる、もう1人の自分をただ静かに眺めているしかなった。

(オレに力がなかったばかりに、何もできなかった……)

 トランクスは後悔の念を再び思い出し、感傷に浸った。降り続ける悲しい雨の中で、もう一人の自分が初めてスーパーサイヤ人へと覚醒する。トランクスの怒りと悲しみは、彼に新たな力を与えていた。悟飯の託した、未来を救うための希望。


 目を覚ましたトランクスの顔を、1人のナメック星人が驚いた表情で覗き込んでいた。

「やっと目を覚ましましたか!」

 自分の回復を喜んでくれているナメック星人の青年。トランクスは彼に見覚えがあった。出会ったのはこの時代ではなく、もっと過去の世界でのことだ。

 かつてタイムマシンで過去へ飛んだトランクスは、そこで地球の神と出会った。ピッコロ大魔王の分身だった先代の神と代わって地球にやってきたナメック星人の少年、デンデ。この時代ではもう随分と成長はしていたが、その面影からトランクスにははっきりとわかった。

(まぁ、この時代で会うのは初めてのことだがな)

 コルド精鋭隊を相手にしての連戦でトランクスは瀕死の重傷を負っていたはずだが、その体はナメック星人の治療によって既に完治していた。ボロボロだった戦闘服も、ナメック星人の戦闘服に着替えさせてもらっていた。ピッコロや悟飯が、過去の世界で好んで着ていたものと形は似ている。

「あなたが助けてくれたんですか?」

 デンデはこくりと頷いて、コップに注いだ水を手渡した。

「直ぐに治療したかったのですが、もうボクも力が弱ってしまっていて」

 そう言われてみると、確かにデンデは傷だらけで、ひどくやつれた貧相な顔をしていた。そして彼から感じる気は、過去に出会った時よりも弱々しかった。

「ヤツらが来て、大勢仲間が殺されました。フリーザの時以上に過激な連中で、一人一人が強力で、まるで太刀打ちできなかった。ボクも集落を焼き払われた時に大ケガを負って。この隠れ家に一緒に逃げてきた仲間は何人かいたけれど、外の仲間を探しに行ったっきり……」

 トランクスにはだいたい想像がついた。非力なナメック星人達がどれほど残虐な目にあったのか。おそらくデンデは、フリーザ襲来の時を遥かに上回る恐怖と悲しみを植え付けられたに違いない。さぞ悔しかったろう。

「連中に見つからないようにここで大人しく隠れていると、激しい気の乱れを感じたんです。それで思いきって外に出て、あなたの闘いをずっと隠れて見ていました」

トランクスは水を飲み干すと「ありがとう」と呟いた。悪い夢を見たせいか、ひどく喉が渇いていた。デンデはその姿を見て笑みを浮かべた。

「闘っているあなたを見てすぐにわかりました。あなた、サイヤ人ですよね。おそらく地球から来た人だ」

「なぜ、そう思うんです?」

「あなたは、ボクの友人の……悟飯さんに、どこか似ているから」

「……!」

 トランクスは、デンデにはすべて話さなくてはならないとその時思った。ナメック星人をフリーザの魔の手から救った後、地球で何があったのか、その一部始終を。

(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第3話

(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第3話

二次創作作品です。 尊敬する鳥山明先生の名作『ドラゴンボール』の同人誌として執筆した作品です。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-28

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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