星の名
南の祖母は
星の名を教えてくれた
できの悪い生徒である私は
星の名をときどきまちがえた
そのたびに
牛乳をいれたコップが割れたり
黒猫が尿路結石になったり
母の眼鏡が折れたり
祖母は言う
「ちゃんと星の名おぼえて
一人前になりなよ」
お金をかせぐことや
料理を覚えることよりも
まず星の名をきちんとおぼえる
それが祖母の教えであり
遺言だった
祖母の死から
星の世界はおおきく動く
古い星は見えなくなり
近い星は遠い星といれかわる
あるさっぱりした夜
新しい名のない星が現れて
私はそれを祖母の名で呼んだ
星の名