zoku勇者 ドラクエⅨ編 61

カデスの牢獄編・1

「フイ~、うまい、うまいのお~!グビグビ♪」

「良かったな……」

「モンモン♪」

ジャミルはモンで遊びつつ、隣で美味しそうに地酒を飲むグレイナルを
羨ましそうに見ていた。……一口ぐらい、俺にもくれよと思ってみたり。

「さて、一息ついて……、ジャミルよ、わしは先程、お前の事を信用して
おらん言うたがやはりそれは大きな間違いだった様じゃ……」

「いきなり急になんで?分かるのかい?」

「当たり前じゃ!帝国の兵士と名乗る連中を成敗したのはお前では
ないか!老いていると言え、わしの耳は人間とは違う、外であれだけ
騒げば嫌でも此処まで聞こえてくるわい、さ~てと、続き、続きじゃ、
……あ~、うまいのお~!」

「モン、デブだなあ、お前……、何だよこの腹のタプタプ……、あ~あ、
波打ってるじゃねえか、食い過ぎだろ……」

「……ウシャーー!」

「貴様は変わっておるのう、そんなモンスターまで手名付けるとは……」

「よく分からん、俺にも……、けど、色んな奴とあっちゃこっちゃで
縁があるのも確かだな……」

「♪プ~、プププ~、モン!」

「……又屁放きやがった……、ケツ振りながら……」

「プ~♡」

しかも異様にリズミカルであった。

「……ま、おんしの人柄と人徳じゃな……、わしもお前が段々分かって
きたわ、縁は大切にしろ、困っている者がいれば手を差し伸べてやれ、
さすれば縁はいつか必ず大きな力になってお前を助けてくれるで
あろうて……、あーうまうま!」

「……縁……、か」

「はあ~、つまんネーの、アタシ、ちょっとそこら辺で遊んできまース!」

サンディはジャミルの中から抜け出すと何処かへ飛んで行き、グレイナルは
酒に只管舌鼓。ジャミルは早く飲み終わってくんねえかな……と、鼻糞を
穿り出し、そこら辺にポイしておくつもりが……、弾き処が悪く、飛ばした
ブツは何とグレイナルのデコに直撃……。本人も酒に夢中になっており、
気がつかないのでそのまま冷や汗を掻きながら黙っていた。そして
いつの間にかモンも眠ってしまった頃……。

「ぷうぷう、……モンモン……」

「ふう~、美味かったのう~、ゲップ!……それで、先程の話の続きじゃが、
わしの知る帝国の兵士達はあの様な魔物ではなかったが、奴らの放つあの嫌な
気配、忘れもせん、あれこそは紛れもなく、……300年前にわしが戦った者と
同じじゃ……」

「……じゃあ、帝国は一度完全に滅んだけど、何者かが陰でまた帝国を復活
させたって事実は間違いねえって事なのかな……」

「そうじゃ……」

「……」

「ジャミル、おんしに面倒を掛けた詫びにこれをくれてやろう、ほれ!」

「ん?何だい、これ……」

グレイナルがジャミルに放り投げたのは、年代物の様な……、古い型の
紋章だった。

「それは300年前の戦いでわしが帝国の将軍を倒した際に手に入れた物じゃ、
奴らに取っては貴重な物らしいぞ、わしに取っては何の価値もない只の
ガラクタじゃが、質屋にでも出せば少しは金にでもなるのではないか?」

「ふ~ん、ま、有り難く貰っとくよ……」

ジャミルは紋章を装備品の胸の懐に入れておく。……と、同時に
何か嫌な気配を感じ、里の方を振り返る。……グレイナルも……。

……ドォォォーーンッ!!

「……ハテ?この気配、何処かで……?……あ、あれは……!」

「ああっ!お、おっさん、……竜だっ!黒い竜だっ!!里を
攻撃してるぞっ!!」

「何と!ありゃ、バルボロスではないか!!……おのれっ!!
帝国めが、予告なく何と卑怯なっ!!相変わらずの外道ゲス集団が!!
……どうあってもわしを誘き出す気か!」

爆音と共に現れた黒い竜。グレイナルの因縁の相手でもあるらしい、
バルボロスである……。バルボロスは黒い炎のブレスを吐き、
ドミールの里を攻撃し始めた様だった……。

「……冗談じゃねえぞっ!向こうには俺のダチもいるんだぞっ!
い、行かなきゃ!」

「待て、ジャミル!こうなった以上、わしもおんしに力を貸してやろう、
ほれ、こっちに来い……」

「おっさん……?」

そして、里の方に残っている仲間達は黒竜の突然の襲撃に錯乱しっ
ぱなしであったが、取りあえず、まずは村人達を安全圏へと誘導
するのに奮戦していた……。ちなみに、モンが又いなくなったのにも
困っていたが、アホは多分、ジャミルにくっついて行ってしまったの
だと言う事を何となく認識していた……。

「……怖いよーー!」

「ああ、何故儂らはいつもこんな目に遭わねばならんのじゃ……」

「た、助けて……、もう走れないわ、私達、このまま殺されてしまうの……?」

「皆さん、落ち着いて下さい!大丈夫です、此処は僕らに任せて!早く
地下へ避難して下さいっ!!」

「このままじゃ、早く逃げないとオイラ達もやられちゃうよお~!」

「ダウド、そんな事言ってる場合じゃないでしょっ!……ジャミルも
心配だけど、今は私達に出来る事をしないと!」

「……でも、あの距離じゃオイラ達も幾ら何でも戦うの無理だよお~、
相手はあんな遠い距離の空中にいるんだよお~?……飛空挺でも
ないと近づけないよお……、いや、あっても嫌だけど……」

「もうっ!卑怯者っ!こっちに来なさいよっ!!」

「……こ、来られても困るよおーーっ!!」

「今の僕らに出来る事は……、何とか里の人達を守る事だけしか
出来ないよ……」

仲間達は遙か遠い空で暴れ回る黒竜を見つめた。ダウドの言う通り、
今の自分達ではバルボロス自体には手が出せずどうにもならない……。
それでも、今は自分達に出来る事をし、ジャミルが無事に戻って
来るまで待つ事しか出来ないのだから……。

「……お、おっさん、急がねえと!でも、どうすりゃいいんだい!?」

「まあ、そう慌てるでない、おんしに竜の力を授けよう、わしからの
友情の証じゃ!」

グレイナルが指をパチンと鳴らすとジャミルの格好がシルバー色の
鎧を纏った一式装備へと変化したのである。

「……あ?こ、この格好……!」

「うむ、ありがた~い、竜の戦士の装備じゃ、感謝して使えよ!その格好で
お主がわしの背に乗れば、わしも又空を飛べ、かつての力を取り戻し共に
戦う事が出来るのだ!」

「これが……、竜の……」

グレイナルがジャミルに与えた竜の力。竜戦士の兜、竜戦士の鎧、
竜戦士の小手、竜戦士のズボン、竜戦士のブーツ……、の、計5つ。

「……けど、これ、フルフェイスだし、視界がスゲー悪ィんだけど!
何か特撮モンみてえ!」

「文句を言うでない!……長く生きておるが、全く貴様の様なヤツは
初めてじゃ!さあ、早う背中に……」

「ふふふ、そうはさせんぞ……」

「……て、てめえっ!」

突如、魔物兵が侵入して来たのである。此方も帝国から差し向けられた
刺客の様だった……。

「竜戦士の装備とそれを纏う者を始末して来いとゲルニック将軍からの
命令でな、……悪いとはこれっぽっちも思わんが貴様には此処で死んで
貰おう!竜の戦士が再び現れてグレイナルに空を飛ばれては厄介だからな、
魔帝国ガナンに敵対した事を後悔するがいい!」

「……ゲルニックってあのフクロウ爺か!冗談じゃねえぞ!次から次へとっ!
航海して流されんのはテメエの方だっ!」

「ほ~お、どうやら彼方さんの狙いはお主の様じゃな、丁度良い、
ジャミル、あいつをさっさと蹴散らしてお主の正当な竜の力を
証明して見せろ!ほれ早く!時間が無いぞ!」

「……たく、人使い荒い爺さんだなあ!これ、頼むぜ!」

「うむ、任されよ!」

「……ぶうぶう、モンモン……」

ジャミルはぶつくさ言いながら眠っているモンをグレイナルに預けると
魔物兵まで剣を構えて一気に突撃して行った……。

「……糞ガキめ!死ねーーッ!!」

「……」

「ど、どうだ、……うおっ!?」

ジャミルは魔物兵に突っ込んで行った瞬間に速攻で会心の一撃を決める。
魔物兵はその場にばったりと倒れた。

「そ、そんな、バカな……、この俺が、一瞬で……何故だ……、
嘘だ……」

「悪いな、でも、これでアンタも呪縛から解放される筈だ……、今度こそ
生まれ変われよ!」

魔物兵は消滅する。だが、彼は300年前の戦いで亡霊から魔物となり
現世を彷徨った挙句、見せしめの様に現代の時代に帝国に奴隷兵と
して扱われ、長い時の戦いからの呪縛を、ジャミルに斬られた瞬間に
解放されたのだった。

「うむ、見事だ、これでヤツも無事に天に召されたであろう、さあ
ジャミルよ、今度こそわしの背中に遠慮無く乗るが良い!」

「うん……、けど、大丈夫なんだろうな、頼むから振り落とすなよ……」

「馬鹿者!かつての英雄を信頼せんか!しっかり掴まっておれよ、行くぞ!」

「ああ……、よいしょと、……しかしデブだなあ、モンはよ!」

「プウプウ~……」

ジャミルは寝ているモンを自分の背中に背負うと、自らもグレイナルの
背中に搭乗する。

「……おおお、漲ってくるわい!おんしから感じるぞ、これぞ正しく竜の力!
キタキター!」

「そ、そう?そりゃ良かった……、さあ、グレイナル、行こうぜ!
あの糞竜をぶっとばそう!」

「了解じゃ!バルボロスめ!今度こそ決着を付けてやるわい!」

ジャミルから竜のパワーを貰い、かつての力を取り戻したグレイナル。
失っていた空を飛ぶ力も元に戻った。凄い力で一気に上空目掛け上昇。
真下には溶岩の広がる火山の噴火口……。ジャミルは、マジで、
落とすなよ、落とさないでくれよと思ったが、暫く後、グレイナルは
漸く安定した上空の場所まで飛んで行ってくれた。

「……うわ!すっげー風圧で耳が!まいったなあ~、で、でも、んな事
言ってられねえか!」

「バルボロス、……どこだっ!……其所かっ!?」

「久しいな、グレイナル……」

「やはり貴様か、本当に生きておったとは……」

遂に古の英雄の竜と、宿敵の闇竜が今、因縁の再会を果たした。
ジャミルはグレイナルの背の上で、間近で改めて見る黒い竜姿、
そして闇の波動の力を感じ、ゾクっとするのだった……。

「これは再会の贈り物だ、……食らえっっ!!」

「……う、うわっ!?まままま、待てってのっ!!……うううっーー!!」

挨拶がてらなのか、バルボロスがまずは一発、闇の炎のブレスを此方に
向けて放出して来る。だが、グレイナルも負けじと光の炎のブレスを放出。
ぶつかりあう光と闇……。ジャミルはグレイナルの背中で振り落とされない
様、衝撃に必死に耐えるのだった……。

「ほう~、流石だな、我のブレスを掻き消すとは……、老いてもまだ
その厄介な力は存在か、老害パワーとでも言うのか……?」

「やかましい!何が老害か!貴様とてもう耄碌爺竜ではないか!……待て……」

グレイナルも改めて目の前のバルボロスを見つめる。……その姿に衝撃を
受けている様だった……。

「バルボロス、……貴様……」

「おっさん、どうしたんだよ……、……!?」

「今頃分かったのか、やはり年老いている故、目も相当悪くなっている
様だな……、そう、我とお前との根本的な違いを、お前は年を食い、
肉体も衰えた只の老害竜だ、だが、我の肉体は300年前、貴様と共に
戦ったあの時のままだ……」

「おっさん……」

「……」

「そう、我は300年前、貴様に敗れた、だが、ある男に魂と肉体を
復活させて貰った、昔よりも新たな力を授かってな……!今度こそ、
貴様と言う屈辱を消滅させる為!例え貴様が老いていようとも、
我は全力で始末する!!」

「な、なんだと……?」

「むうう~……、お、おのれ……!」

バルボロスの口から出た衝撃の言葉にジャミルも騒然……。
バルボロスを復活させた謎の男とは……。もしかしたら、
その男とかつて滅んだガナン帝国の復活の背景に何か
繋がりが有る様な気がジャミルはして来たのである……。
しかし、考えている暇はない、向こうはどんどんブレスを
放出して来る。そして、遂にグレイナルの身体にブレスが
当たり、グレイナルは大ダメージを……。

「……ぐ、ぐわあぁぁーーーっ!?」

「!お、おっさんっ、……グレイナルっ、大丈夫かっ!?」

「大丈夫じゃ、これぐらい……、ジャミル、貴様は黙ってわしの背中に
乗っていればええんじゃ!!」

「けど……」

「やはり息が上がっているな、無理も無いな、その老いた身体ではな、
老いた者は大人しく若者に従えよ……、かつての古の英雄も落ちた物だ……」

「……おのれええーーっ!バルボロスーーーっ!!」

「……わ、わあーーっ!?ちょ、おっさんーーっ!!」

怒りのグレイナルは凄いスピードでバルボロスの身体目掛け突進。
その勢いでジャミルはグレイナルの身体から落ちそうになるが
必死で堪える。グレイナルはバルボロスに体当たりで渾身の
一撃を食らわせたかに見えたが……。

「どうした?今、蚊が身体に止まった様な気がしたが?」

「……ぜ、全然堪えてねえよ、おっさん、アンタこのままじゃ負け……」

「……わしは負けんーーーっ!命に代えてもバルボロス!今度こそ
貴様をォォォーーーッ!!」

「懲りない奴め、では、食らうが良い、我の本当の力をな、
……思い知れえええーーーッ!!」

「……こざかしいーーっ!帝国の手先に成り下がったこの死に損ないの
糞死竜めがァァァーーーッ!!」

「ううう……っ!」

何も出来ないジャミルはグレイナルの背中の上で揺られながら、
只管耐えている事しか出来ず、グレイナルの勝利を願うしか……。
しかし、終止符はあっという間に訪れる……。

「ぐ、ぐうう、お、おお……」

「……おっさん?……おっさんっっ!!」

等々、闇の炎のブレスがグレイナルの身体に大きな穴を開けた……。
焦げた傷跡から、生々しい血の臭いが漂ってくる……。

「……しっかりしろっ、グレイナルっ!い、今、傷の手当てをっ!!」

「小僧!余計な手出しは無用じゃ!……だが、このままでは……」

グレイナルは背中のジャミル、そして、目の前でほくそ笑む因縁の
宿敵とを交互に見つめる。完全に分かっていた。もう、今の自分では
バルボロスに勝ち目がない事を。悔しいがやはりもうそれは認めねば
ならないと。……自分には、死がすぐ目の前に迫っていると言う事。
しかし、この突貫小僧だけはどうしても逃がさねばなるまいと……。
そして、バルボロスは更なる卑劣行動に出るのである……。

「ただ貴様を殺してもつまらぬ、そうだな、気に食わぬ貴様と縁の
深いあの里を今すぐ破壊してやろう、木っ端微塵にな……」

「……やめろおーーーっ!!アホンダラーーっ!!」

ジャミルは必死で叫ぶ。バルボロスはドミールの里を破壊する気である……。
里の中にはアルベルト達も残っている……。ジャミルは絶望で目の前が
真っ暗になるが……。

「いかん、このままでは……!ジャミル、お前を今すぐ此処から
叩き落としてやる、……生きよ……、もうわしには時間が無い、
だが、貴様だけは逃がしてやる、何処へでも行け……」

「……おっさん……?」

「短い間ではあったが、おんしと過ごした時間、中々楽しかったであるぞ……」

「……ちょっと待てよおっさんっ!何言ってんだよっ!
ふざけてんじゃねえぞ!何いきなり弱気になってんだっ!!
あんたさっきわしは負けんって強がり言ってただろがっ!!」

グレイナルは背中で吠えるジャミルの声を耳にしながら、この突貫小僧と、
もう一度、ちゃんと勝負してみたかった。隣で一緒に酒を飲んでとことん
語り合いたかった……。と、迫ってくる死の縁でそれらをもう出来ない事が
悔やまれてならなかった。

「……わしの命、貴様に託すぞ、……生きて、必ず帝国を……、
さらばじゃ、ジャミル……、……ウォルロ村の守護天使よ、
わしは……、わしの里を守ろう……」


「……あ、あああ……、グレイナルゥゥゥーーーッ!!」


グレイナルは自分の背中からジャミルを振り落とす。同時に、
バルボロスは最大級の巨大な闇の炎のブレスをドミール目掛け
放出……。だが、それを身を挺したグレイナルも最後の力を
振り絞り全身でブレスに立ち向かい、受け止める……。闇の炎の
ブレスと共に、グレイナルも無残に炎の中に消えて行く……。
振り落とされたジャミルは、一緒に深い闇の先へと落ちていく
眠ったままのモンと共に、遠ざかるグレイナル、……彼の死の
直前の無残な姿を目に焼き付けた後、意識を失うのだった。

「……うっそ、ま、まさかのこんな展開って……、ナニ?ア、アタシ……、
モー知らないッ!」

ドミールの里

「う、うう……、……こ、此処は……」

「アル、大丈夫……?」

「オイラ達、助かったみたいだよお……」

「あ、あっ!?」

アルベルトは慌てて身を起こす。どうやら宿屋のベッドに寝かされて
いた様だった。バルボロスの凶器に満ちた里を襲った破壊の一撃を
仲間達もこの目で見ていた……。その後、強い爆風と衝撃に
巻き込まれた3人は気を失い、宿屋へと運び込まれていた。
先にアイシャとダウドが何とか意識を取り戻し、最後にアルベルトが
目を覚ましたのだった。

「里の人達も全員無事よ、でも……」

その後の言葉を言い掛けたが止めてしまったアイシャの顔が
曇る……。彼女がどうして黙ってしまったのか、アルベルトにも
それは分かっていた。まだ此処に戻って来ていないジャミルと
モンの事を考えると辛いのだろうと思ったからである……。

「皆様、お目覚めの様ですな……、ご無事で何よりでした……」

宿屋のルームに入って来たのは、グレイナルの世話人だった
お婆さんだった。

「その節は……、里の民を守って下さり、本当に感謝致します……」

「そんな、僕らは……、結局何も出来ませんでした……」

アルベルトの言葉にアイシャとダウドも無言になる。グレイナルが
命がけで身を挺して里を死守し、そして……、命を落とした瞬間を
仲間達も見ていたのである……。

「あのグレイナルがあんな簡単に死んじゃうなんて……、
信じられないよ……」

「ダウド、止めないかっ!くっ、……僕らには見ているだけで、
どうする事も出来なかった……」

「こんなのって……、ないわ……」

「皆様、そう悲しい顔をなさらずに……、あの方の大切な故郷でも
あるこの里と民を最後に守れた事はグレイナル様も本望だったの
でしょうて、後悔はしておらん筈ですじゃ、元付き人のばあばも
そう思いたいのです……、で、ないと……、余りにも悲しすぎるわい……」

「……」

心から信頼していたグレイナルの死を受け入れたおばあさんの
本音は……、やはり辛いのだろうと思うと、アルベルト達も
やるせなくなるのだった……。

「まだ、ジャミルとモンの行方も分からないんだよお……、後、
サンディもどっか行っちゃったみたいで……」

「……ダウドっ!!」

「わしは……、ジャミル殿はきっと無事だと信じております、
グレイナル様が、多分、ジャミル殿を逃がしてくれたのだろうと……、
グレイナル様なら、きっとそうなさる筈です、必ず戻って来て
くれる筈ですじゃ……、どうか、皆様も信じてあげて下され……」

「……」

「……ダウド、そうよ、ジャミルならきっと大丈夫、
……信じましょう……」

ダウドは暫くの間、アイシャの言葉に黙っていたが、やがて口を
静かに開いた。

「うん……、またジャミルと……、離ればなれになっちゃったけど、
そうだね、信じて待つしか無いよね……」

「その間、僕達も引き続き、この里の皆さんの為に何か出来る事を
させて貰おう、ジャミルとモンが無事に戻ってくるまで……」

命と引き換えにグレイナルは里を守ってくれたが、やはり完全に
全てが無事……、と、言う状態でもなく、爆風で家を失った者も
いるのである……。その人達の為にも、自分達も何か少しでも
出来る事をさせて貰おうと、3人は復興ボランティアに動き出した。
……きっと、ジャミルとモンが又元気に戻って来てくれる事を
願いながら……。

そして、……アルベルトが目を覚ましたその頃、行方不明の
ジャミルも……。

(……此処、何処だよ……、何か床が異様にヒンヤリする……、俺、
グレイナルに振り落とされて、その後……)

「な、何だよ、此処っ!」

意識を取り戻し、改めて周囲を見渡す。嫌な臭いがする……。どうやら
此処は監獄の様だった。グレイナルがバルボロスに破れ、自分はあの後、
何処かに墜落し、この周りの状況から察すると意識を失っている間に、
何者かに捕らえられ囚人扱いになったのだと……。慌てて鉄格子に
近づき鍵をガチャガチャしてみるが、開かず。終いには鉄格子を
掴んでブチ切れる……。

「……俺、マジで何の為に賊に転職したんだっつーのっ!」

「お~い、騒ぐんじゃねえよボウズ!静かにしねえか!看守兵が
来るだろ!」

……隣の牢獄から野太い声がする。多分、お仲間だろうと……。
取りあえず、今は詳しい状況も分からず、どうしようも出来ないので
静かにしている事にしたが、苛々する。里に残っている仲間達の事も
心配だった。ドミールはグレイナルが命と引き換えに死守してくれたが、
今頃皆、どうしているのだろうと……。

「……そう言えば、装備品が無い……、竜の装備が……、グレイナルも
死んで、俺の竜装備も消滅しちまったのかな……」

ジャミルの身体からは竜装備が消えており、武器のドラゴンキラーも
手元に無い。今のジャミルの格好は、シャツに下半身はトランクスのみと
言う、下着スタイルだった。疲れていたジャミルは、牢部屋の片隅に腰を
下ろし、座り込んだ。

「俺、これからどうすりゃいいんだい……、そういや、モンは!?」

確か、モンも自分と一緒に落ちた筈だが……、だが、こんな状態では
真面にモンを探しにすら行く事が出来ないだろう、だが……。

「モンブ~、モンブ~……」

「モンブ~?……モ、モンっ!?」

「プウプウ~……」

牢部屋の隅の方から小さな鼾が聞こえる……。ジャミルは立ち上がり、
急いで鼾の主を確認するとやはりモンであった。……どう言う訳か、
何故かモンも一緒に牢屋にぶち込まれていた。とにかく、モンは
無事だった様である。

「……モン、無事だったんだな……、ってか、オメー何時まで
寝てんだっつーのっ!」

ぴんぴんデコピン×5

「……モギャーー!!……?モン、モン~?……グビ、グビー!
プハ~、ウマー!ウシャ~♪……プー……」

「モン、お前……」

モンは首を傾げる。モンは酒を飲む仕草をしていた。ジャミルはモンが
グレイナルを探しているのだと直ぐに理解……。それに、何故いきなり
こんな処にいるのか分からんらしく、必死にジャミルに訴えている。
それも無理は無い。モンはグレイナルとバルボロスの死闘の最中にも
ずっと眠っていたのだから。しかし、何れはちゃんとグレイナルの事も
モンに説明しなければならなかった。

「モン、悪い、無理に起こしちまって……、話は後で……、あ、足音……!?」

「モン……?」

ガシャガシャと、金属の擦れ合う様な足音がする。どうやら新人囚人、
ジャミルの様子を伺いに、看守兵が此方の地下牢へと向かっている
様だった。

「……モン、取りあえずぬいぐるみのフリしてそこら辺で寝てろ、いいか、
何があっても絶対起きるなよっ!」

「モン、モン~……、モンっ!?」

「よう、新人君、お目覚めかい?へへへ……」

其所へ嫌らしいツラの看守兵が現れる。モンはジャミルに言われた通り、
大人しく牢部屋の隅で又ひっくり返り、ぬいぐるみのフリをした……。

「……何だよっ、テメーらはよっ!」

「……おい、俺らガナン帝国の兵に向かって……、テメーだと?んな口聞いて
いいと思ってんのか?」

「……ガナン帝国……?ま、まさか、俺……、……う、うあっ!?」

「モ、モンっ……!?」

突如、鍵が開いたかと思うと、看守兵の一人がジャミルの頬をいきなり
拳でぶん殴った。更に、もう一人の兵士がジャミルの身体を後ろから
羽交い締めで押さえつけ、先程の一人がジャミルへと猛リンチを
開始する……。だが、ジャミルは殴られても只管耐えている事しか
出来なかった……。

「どうだい?まいったかよ!へへへ!」

「……ち、畜生……、ううっ、……ゲ、ゲホっ!」

「おいおい、これぐらいでくたばるなよな~、お前はこれから
大事な方と面会が控えてんだからよっ!オラっ、来いよっ!」

「モ……、シャー!」

看守兵の片割れがジャミルの首根っこを乱暴に無理矢理掴み、
立たせようとする。モンはジャミルの危機に飛び出そうと
するのだが、ジャミルはフラつきながらも、ちらりとモンに
目線を送る。言う事聞かねえと、デコピン……、の合図だった。
モンは震えながら、何処かへと連行されて行くジャミルの姿を
見ている事しか出来ず、一人、牢屋の中で悲しみを堪えていた……。

……英雄グレイナルの死をこの目にし、再び仲間達とも引き離され、
一人、ガナン帝国の領土の一つである、地獄の収容所・カデスへと
送られたジャミル。看守兵に連行され、連れて行かれた場所は醜い姿の
看守人が待つ、看守塔の部屋だった……。鉄兜を被り、巨大な鉄球を
手にした筋骨隆々のイノシシの様な大男の化け物である……。

「こいつがゲルニック将軍の部隊から送られて来た新しい囚人です、
オラッ!此方はガナン帝国三将がひとりゴレオン将軍であるぞ!
皇帝陛下よりこのカデスの牢獄を預かる将軍様が面会なさるんだぞ!
ふて腐れたツラしてねえでシャキッとしねえかーっ!」

「……イテッ!この野郎……!」

ジャミルは更に後ろから看守兵に頭を殴られる。こんなクズ兵士、
その気になればジャミル一人で直ぐに仕返しが出来るが、今は状況が
状況の為、どうにもならず、怒りを堪え耐えるしかなかった……。

「……わざわざオレ様に会わせるだけの価値がこのチンケな奴にあるのか?」

「はあ、なんでも、こやつは例のイザヤールの仲間だとの事です、
おまけに可のドラゴンの背に乗って我らに戦いを挑んで来るなど、
とにかく只者とは思えません、それでゲルニック将軍はこのカデスの
牢獄に送り込むよう命じられたのかと……」

「……」

「ほう、成程、見れば見る程気に食わん面構えだ、……瞳に宿る微かな
希望の光と言う奴か?……下らねえ、気に要らねえなあーーっ!!
……フンンーーッ!!」

「……ぐっ、あうううーーっ!?」

ゴレオンと呼ばれた男は持っていた鉄球をいきなり振り回し、
ジャミルの肩を強く叩いた。やはり、このゴレオンと言う男は、
相当の極悪将軍なのだろうとジャミルは叩かれた肩を押さえ
ながら痛みを堪え、そう思うのだった……。

「……だが、ついにあの憎きグレイナルはもう死んだのだったな、
これで又帝国に逆らう者には破滅の運命しか無い事が証明された
ワケだ!……ブハハハハ……!!」

「ハ、ハハ……、おっしゃるとおりですな、ハハハハ……」


……生きよ、ジャミル……


(……くっ、おっさん、何で……、何で死んだんだよっ、……バカっ!!)

「……このバカ者がっっ!!オレが必要としているのは天使だっ!
一体こいつの何処が天使に見えるんだっ!?どう見てもただの
人間ではないか!……全くゲルニックめ、何を考えているのだ!」

「……も、申し訳ありません!そ それでは、この者の処分は
如何様に……?」

「元通り牢に突っ込んでおけ!この牢獄には人手は幾らあっても
足りんのだからな!」

「……はっ、……さあ、来いっ!」

……こうしてジャミルは再び牢屋へと連行され、看守に背中へ
蹴りを噛まされ、中へ叩き込まれるのだった。

「……ううっ!……畜生……」

「明日からはお前も地獄の囚人の仲間入りだ。せいぜい今のうちに
休んでおけ!……たっぷりと我が帝国の為、働いて貰うぞ……」

看守は牢獄を去る……。看守がいなくなった後、ぬいぐるみのフリを
していたモンがボロボロのジャミルの姿を見て慌てて飛び起きて来る……。

「……モンっ、モンっ!……モンっ!?」

「ああ、大丈夫だよ、心配すんなって、これぐらいでくたばる
俺じゃねえから、……アイテテテ……、けど……」

ジャミルはモンを心配させない様、強がってみせるが、モンは
ジャミルの、傷だらけ、ボコボコに殴られて腫れ上がった顔を見、
錯乱する……。

「……モキャーーっ!?」

「だから静かにしててくれ、あんまり騒ぐと又あの糞看守が
来ちまうよ……、でも、武器も取り上げられちまったし、
悔しいなあ……、くっ……」

「……モンーっ!シャーーッ!シャアーーッ!アゴーーッ!
……プッププップ!」

……モンは蹴りとパンチの真似、アゴ付き、……そして屁を放く。
やはり、ジャミルがやられた事に対し、相当お怒りの様だった……。

「モン、ありがとな、お前がいてくれるだけでも、俺……、相当
力になってる、だから、大丈夫さ、俺、絶対負けないよ……、そうさ、
負けてたまるかってんだよっ!!」

「ウシャーーっ!」

「……お~い、隣の奴ーーっ!ドタドタうるさいって言ってるんだよっ!
……アンタ、新人だろうが!たく、どんなツラしてるんだか早く拝んで
みてえもんだなあ!」

「……!」

ジャミルは慌てて口を噤む。又隣の囚人から苦情が来てしまう。だが、
ジャミルはモンがいてくれたお陰で元気を貰い、平静を保っていられた。
どんな状況でも消して諦めない、へこたれない、往生際が悪い……、
それがジャミ公クオリティなのだから。

「……おい、飯だぞ、明日から仕事なんだからしっかり食っておけよ!」

夜、別の看守兵が牢に現れ、夕飯を置いて行った。ジャガイモらしき物が
少し見えている薄い色の冷めたスープ、半分黴びて固くなっているパン……、
死んだ虫が浮いている生水。これだけ。これで一体どうやって体力を
付けろと言うんだか、最悪である。

「……まいったなあ~、これじゃあ……」

ジャミルは心配になり、モンの方を見る。自分も勿論腹が減っていたが、
食いしん坊のモンが暴れ出せば大変な事になってしまうからである……。
だが、モンは……。

「モンブ、モンブ……」

「モン、お前……」

モンは黙って首を横に振る。食事は要らないと言っているらしい。
こんな飯、人間だって真面に食いたくないのは勿論だが、腹の減って
いるであろうモンは今のジャミルが置かれている立場を十分理解して
いるのである。……だから、今までの様に、腹が減ったと大暴れする
兆候も見せず……。

「よし、じゃあ……、ほれ!」

「……?」

「モン、お前食っていいぜ……」

ジャミルは黴びていない側の方のパンを千切り、スープに付けてモンに
渡してやる。こうすれば、固くなったパンも少しは柔らかくなり、味も
付いて美味しくなるかもしれないので。それでもモンには全然足りない
だろうが。

「……!モン~、モン~!……ぎゅるぎゅるぎゅる~……」

「いいんだよ、無理しなくて!腹が鳴ってんだろが、俺は平気だからよ!
それに、俺、今何も食いたくないんだよ、だから大丈夫さ、さ、早く食えよ、
次は何時食えるか分からないんだからよ、もう休ませてくれ……」

「モォ~ン……」

ジャミルはモンから顔を背けると、冷えた床にごろ寝。そのまま眠る。
モンは申し訳ないと思いつつも、ジャミルから渡されたパンを一口で
ペロリと平らげてしまうのだった……。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 61

zoku勇者 ドラクエⅨ編 61

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-05-03

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