落花生

いま何を配達しているのか
春はわからなくなる
速達と思って脳みそを投函するし
誤配した腸を受箱から取り戻すと
青鷺じみたレターパックだし
局長の肛門みたいな日に
油まみれのゆうパックをつかむと
葉書に切られた自分の血か
ゆうパックから溢れる血か
春はわからなくなる
てらてらのビニルに包まれた
市長の厚ぼったい笑顔が
配達員の心を 圧しつぶした
配達順路のどん詰まりで
落花生を親指と人差指で割る
殻から湧き立つ煙のゆくえ
銅鐘を下ろしたあと
巨大クレーンと巨大クレーンとが
空のかなたでキスをする
一年で四人の配達員を
九淵から突き落とした部長の
両目がとわに塞がれるのなら
井を貫く桜から恩讐の配達員が
虹色に芽吹くのをまなざすよ
あがいてもあらがっても
あがなっても誤植だらけ
今日も書留を手渡しながら
「ごちそうさまです」
と言ってしまう

落花生

落花生

静岡新聞2025年4月29日読者文芸欄野村喜和夫選

  • 自由詩
  • 掌編
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-04-29

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