どの時代にも変わらぬ『城砦』が存在する
A.J.クローニン著『城砦』 夏川草介訳 所感と深掘り

【本書について】イギリス文学/医療小説
本書は1937年に出版された後、一時絶版となっていた所、夏川草介さんによって復刊。
①所感
主人公で医師のアンドルーとクリスティンの生き方が今の時代でも通ずる「誠実さと勇気を持って生き抜く」という力強さが私の心に凄まじい程響き渡った。
②夏目漱石の「草枕」にある有名な書き出しから深掘り
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『智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。』とあるように、
この狭間の中で闘い続けるアンドルーの姿に、私自身とても勇気をもらった。
↓
主人公アンドルーと照らし合わせて深掘り
[智に働けば角が立つ]
どんなに良いことであっても、他にない前例のないことをすると、周囲から悪人のように扱われてしまうこと。
例えば、歴史に名を残す偉人たちも、最初は誰にも信じてもらえず、疑いの目を向けられたことと同じように。
それでも、誠実で倫理的に正しい信念と理想を強く信じ貫き続ければ、自ずと支えてくれる仲間に出会えて、ともに困難に立ち向かって力強く突き進めることができる。
[情に棹させば流される]
周りを気にしすぎると感情に振り回されて感情が暴走してしまうこと。
また、金銭や名誉欲に流されると、誠実さと人の心を失ってしまうこと。
そしてそれらは、大切な人を傷つけてしまう悲惨な結果を生み出してしまうこと。
クリスティンは、感情が暴走しているアンドルーに振り回されずに、自身の感情を冷静に上手くコントロールしてアンドルーを献身的に支えているシーンが特に印象に残った。
クリスティンはおそらく、暴走しているアンドルーのことを「今はただ、ストレスを溜め込み過ぎてしまっている」と、冷静に解釈して、本来のアンドルーに戻るまで辛抱強く長期的な視点を持ち、信じて待っていたのだろう。そう考えると、クリスティンは本当に強い女性で、私にとっても心強い味方のように感じる。
[意地を通せば窮屈だ]
どんなに理屈が通っていて正論だとしても、組織や制度、立場を考慮しないと、自分勝手な人と思われて、周りから敵意を持たれてしまうこと。
行動することは大切だが、慎重に確認しながら行動することも大切。
つまりは、『何事もバランスよくコントロールしていく感覚が大切』ということ。
③私にとっての城砦とは
私にとっての『城砦』は外の環境ではなく、自分自身の心の中にあるものだと感じる。
どんな時でも心を失わずに、誠実でありたいと思う。
【最後に】
本書に出会えて心から良かったと感じました。
感謝
どの時代にも変わらぬ『城砦』が存在する