茸球-地球叙事詩

茸球-地球叙事詩

茸SFです


 宇宙検疫所の仕事は一般の人が考えているより大変なものだ。最近、星連に加盟する星が増え、星同士の交流がさかんになってきたこともその理由の一つである。三千年ほど前は、地球以外に知性のある生命体がいる星は一つ見つかっているだけだった。その星も地球と同じ程度の科学文化が発達していて、どちらもやっと近光速恒星間シップがつくられ、宇宙探索を始めたばかりだった。
 はじめは地球の通信傍受施設が、弱い電波を関知し、百年ほどかけて相手の星の位置が確認できるようになり、こちらからの通信に対する相手からの返事をうけとることができるようになったのはさらに百年かかかっている。
 それから言語の解析がすすみ、相手のいっていることが明確に理解できるようになるまで二百年の年月がたっている。
 そこで、科学の発達が同程度の星ということがわかり、お互いの知識の交換が始まった。どちらも恒星間宇宙艇の建造にこぎつけることができた。
 その星は太陽系から八千光年離れた恒星の第二惑星で、地球の恒星間シップではまだ行くことができないほど遠い。地球と同じような生命進化がおこなわれたようではなく、頭と胴に二本の手足という地球人とは形態とだいぶことなり、窒素呼吸の生命体だった。その頃、音声は明確に受け取ることができたが、映像がはっきりせず、相手の格好はあきらかではなかった。手と足などというものはもっていないと言ってきているところから、どのような形なのか科学者たちもあたまをひねっていた。
 さらに三百年かけて、電波交流の結果、お互いの宇宙船の原理を向こうの星の科学者とともに付け合せ、二つの星の共同開発で、光速よりはやい宇宙空間を飛ぶことのできる乗り物をつくりだすことができた。光より早く飛ぶことはできないという物理の原理を破ることはできなかったが、時間の物理が発達したおかげで、時間の隙間では光より早く飛ぶことが解明され、隙間に入る原理をみいだすことができた。その中では一万光年離れたところにいくのにおよそ280日ですむ。一日で36光年、時速1.51光年の速度である。
 八千光年はなれた星の人は地球における昆虫類が進化した星人だった。虫星でも時間の隙間を利用する宇宙船をつくろうとしたが、地球に豊富にあるFe、すなわち鉄が少なく、時間隙に入るときの衝撃に耐える船体をつくることができなかった。地球側から使節団を送り、交流は深まったが、それから千年後突然虫星は爆発してしまった。予測できない宇宙空間でのできごとだったようだ。残念なことである。

それから千年ほどたった今、異次元空間を利用して時速にすると百光年ほどになる航法がもちいられている。一つの異次元との間を通る方法なので、ほかの船とすれ違うなどということは万に一つもないはずだ。相手の船が同じ異次元空間を利用することは確率的にいって考えられなかった。
 ところが、最近、我々の銀河系探索艇がほかの船とすれ違ったのである。しかも相手は船団だった。
 すれ違う早さは光の百倍の早さである。それでも船団が発見され、警報が鳴ったときには、すでにすれ違い、何千光年も離れたところを猛スピードで離れているところだった。我々が異次元を利用するときには、利用した次元にもしその次元にすむ星人の宇宙艇がいても、我々には関知できない。存在がわかったということは、同じ次元の宇宙にすむ星人の船ということになる。しかも異次元間隙航法を知っている。
 現在宇宙挺を作ることができる星は、昔より多く発見されていたが、それでも100そこそこで、コンタクトをとることのできるのはまだ三つほどである。コンタクトをするためには、地球人の何世代もかけて、相手を見極め、安全であると確認された星と交流することができるようになる。
 そのような状況にも関わらず、大きな船団と、しかも異次元航行中にすれ違うとは信じられないことである。地球史上はじめてのことでこれからも起きることはないだろう。
 われわれの宇宙艇は我々の次元に戻り船をとめた。恒星間モードになったわけである。
 恒星間飛行をしているときに、停止のボタンを押してもすぱっと止まることができるわけではない。停止する間にも相手のシップと一光年ほど離れてしまったはずである。
 向こうの船も突然停止して、異次元航行をやめていた。おそらく、我々の船とすれ違ったことに気がついて、停止のボタンをおしていたのだろう。とすると、我々とコンタクトをとる意志があると言うことだ。
 我々の宇宙空間にもどってから宇宙空間捜査をした結果、異次元空間ですれ違った船団を探し出すことができた。
 向こうの船団の母船とおぼしき舟から数艘の偵察船が我々の船の方向に向かって、ゆっくりと動き出している。異次元空間では舟の形状は見ることはできないが、今は確認ができた。我々地球の宇宙艇とよく似ている、楕円球形の舟だ。そこから出てきたのは、円盤型だ。船団ごと我々の艇の方に向かってすすんでくる。
 恒星内速度に変えているが、ずいぶん早い。現在三光年ほど離れている、その船団は時速一光年ほどのはやさだから、三時間後には我々の船に近づく。
 船長の鑑内放送があった。
 「われわれは停止したままで、異星人の船をまつ、仮に118星と名付ける、点滅点灯開始」
 118というのは我々と同じ程度の星が今まで117見つかっていることから、そう呼ぶことになったのだろう。点滅点灯とは展望室も含め外側に面している部屋の明かりは凡て消し、調査船外面全体を明かりモードにして、光波点滅させることである。それにより、我々の宇宙船が外部から確認しやすくなる。
 宇宙船の外壁は天然の素材ではない、大昔の乗り物は鉄でできていて、それがアルミの合金になり、今では、作り出された鉱物でできている。AlFe と言う物質で,鉄とアルミの原子を同一化させ、つくりだされた頑丈な金属で、アルフェと呼ばれる。これにある周波数の電気を流すと強烈な光をだす性質を持つ。
 次第に117星の小型船がはっきりしてきた。映像をとらえることができるようになると、母船はずいぶん高さのある船で、高さが500メータ、長さも500メータほどの真四角に近いかたちをしている。我々の船は調査船で五層階15メーターの高さで50メーターの長さをもつ楕円状の銀河系調査船である。地球の持っているもっとも大きな船は、遊覧豪華船で、百階ほどの階層を持つおおきだだ。ということは高さだと250メートル、長さ500メートルほどの円盤状だ。相手の先頭の船はそれよりずいぶん大きい。まわりにはその半分ほどの船が百艘ほど取り囲んでいる。その船だって大きいほうである。とほうもなく大きな船団だ。
 我々銀河系探索艇は宇宙の見回りと、新たな星人たちの発見が目的の地球総統府から派遣されている船である。
 117星の船団はあと1時間と言うところで止まった。1光年ほど離れたところである。
 これから通信が始まることになる。言語の解析が行われ、意志の疎通が確かになって、また相手の信用度がAクラスの星ならば、自分たちのことを相手方に伝えることになる。 
 すでに通信ははいってきている。船のコンピューターがフル回転して解析を始めているはずである。宇宙艇のコンピューターは地球の解析センターのコンピューターと同期して解析している。地球上の巨大な解析装置がデーターを分析し、明らかになったことを船のコンピューターにおくる。船のコンピューターではそれをさらに精度を上げて解析して結論を我々の目の前にだしてくれる。
 コンピューターは赤の点滅を繰り返している。まだ言語の解析中のようだ。言葉の原理は宇宙のどこで発達したものでも同じ傾向にあり、解析は極端に難しいというものではない。
 コンピューターが安全Aクラスと判断した。
 相手方からの連絡をすべて受け入れたことで、鮮明な画像をみることができた。
 緑色の頭部に眼や耳などの感覚器はみあたらなかった。衣服を身につけていて、衣服からは何本もの蔓のようなものがのびており、それが足でもあり手でもあった。タコとは違う。どちらかというと、植物の雰囲気だ。
 コンピューターは地球語に訳して、相手方の通信を表示していく。
 我々の船長は118星を緑球星と名づけた。初めてコンタクトをした船長が、その星の名前をつける権利がある。ただその後、相手の意思も尊重しかえられることもある。
 詳しい解析が大型ディスプレーに流れると、緑球星人たちは地球の植物のような生き物から進化した生物であることが明らかになった。彼らの住む星は窒素と酸素が地球と同じ割合で存在し、光合成に近い機能を有した体は、維持に必要なでんぷん質、水、酸素、皆からだの中で作り出すことができた。外部からの物質の摂取、言い方を変えると、食事の必要性はなかった。ときどき、補強材として水や空気を触手から数だけのようである。
 緑球星船団の船長が画面にあらわれ、自分たちが住むのに適した星を探していることを説明し、あったら教えて欲しいと言った。彼らは自分の星からにげてきたという。
 その星の映像が送られてきた。
 その星は地球と同じような環境をもっていた。天の川銀河ではなく、地球人の知らない遠くの銀河系の星だった。
 我々は生命の発生がない、地球に似た銀河系の中の星はすでに知っていた。地球に何かあったときに、移住をすることを想定していたからだ。
 われわれの船長は地球の総統府に連絡をとった。すでに千からの生命の発生していない、酸素や水のある星を選び出していたからだ。
 返事はすぐ来た。天の川銀河の地球とは反対にあるいくつかの星を紹介してもよいとの返事をもらった。118星、緑球星の人間が、その星に定住できた暁には、隣人としてお互いにつきあうという、地球の総統府から返事があった。紹介した星に定住するようになってから、直接のコンタクトを行うことに死、今直接のコンタクトはしていけないということだった。
 相手を真に理解するには時間が必要である。
 船長は候補の星を提示した。
 118星の船団から、お礼の連絡と、これからその星を当たってみるという返事が来た。
 船長はなぜ自分の星から逃げてきたのかと聞いた。
 茸に攻められて逃げ出したという。
 映像が送られてきている。それを見ると、林の中だけではなく、ビルの谷間の通りにも色とりどりの茸が生えている。ただ生えているだけで、とても驚異には思えない情景である。
 説明には、茸の胞子が世界中に充満し、緑球星人の体にも茸が生えるようになり、住めなくなったという。茸の生えた緑球星人の写真も送られてきた。地球で言う木につく猿の腰掛けの形をしている。植物から進化した緑球星人は茸に弱かったのだろう。
 地球の総統府はこれらをはじめとして、緑球星人から送られてきた茸の分析をした。地球の茸とは違う。おそらく植物から進化した人間だから、茸に犯されたのだろう、動物として進化した地球人にとって、茸は食物の一つでしかない、と言う結論である。
 地球人にとってもかび類は悪さもするが、よい薬をつくりだすこともする。緑球星の茸は地球には害がないだろうと推察したわけである。
 新たな星人を発見した、われわれ銀河系探索団は久しぶりの異星人発見をしたことで、地球での大きな話題になり、総統府から感謝された。
こうして、緑球星人は紹介した一つの星に自分たちの世界を築いた。彼らの科学技術は高度なもので、また、植物系の生き物しかいなかったその星は彼らの体質にとてもよいものだったこともあり、百年後には地球にある都市と変わりのない、とても環境のよい町をつくったのである。
 その頃は、銀河系探索団の業績は教科書の上で、偉大な出来事として書かれていた。当然のこと銀河系探査団の活動は続けられていて、将来地球に危機が訪れたときに移住できる星の探索は行われていた。
緑球星人は地球人を尊敬し、植物の様々な知識を伝えてくれた。我々の知らない植物の能力の発見になり、地球の植物の理解がとても進んだ。
 これが地球叙事詩の幕開けだった。 

 地球人が、緑球人新たな星を教えて、五百年ほどたった時、第二の幕開けがあった。
 我々地球人も、緑球星人とともにさらに発展してきた。ところが、地球にとんでもないことが起きたのである。
 奥山に生えていた松茸が毒を持つようになった。何千年も前から茸は変わることなく、地球のいたるところで顔を出していた。もちろん栽培茸は地球人の大事な食べ物であったが、茸の培養に関しては,松茸などは、その昔と同じで、栽培することができなかった。地球人、特に日本という島国だったところでは、山に赤松の木を植え、松茸の生える条件を整え、全世界に輸出して国を維持していた。
 その松茸に毒が出てきたのである。松茸を頼りに国を維持してきた日本は経済的な危機に陥ったのであるが、世界では松茸毒の死者が急増した。
 松茸は食してはいけないことになった。人工的な松茸の匂いをつけたシメジなどがつくりだされたが、本物の松茸は人間の口にははいらなくなった。それは問題がなかったが、地上に撒かれた胞子に毒があることがわかり、それを吸った人間が呼吸困難に陥った。日本などでは赤松を全て伐採してしまったのにかかわらず、胞子がとんできて、茸の季節には茸用のマスクがはなせなかった。茸学者が調べた結果。松茸が広葉樹にも生えているのがみつかった。松茸そのものが、どのような木からも生えることができるようになったようだ。
 地球では、毒になった松茸の撲滅運動が起こり、茸バスター会社が立ち上がって、活動をはじめた。茸に向かって炎を放つ茸銃なるものも作られた。
 そうなっておよそ百年後に恐ろしいことがおきた。
 その年の秋、松茸バスターの出番になった。茸バスターが茸銃をもって山にでかけると、茸が土から勢いよく飛び出して、茸バスターの人たちの口の中に飛び込んだ。マスクをしていてもマスクを破って口の中にはいった。茸はのどをふさぎ、空気の通り道をさまたげた。すなわち、茸バスターの人たちは、茸をのどに詰まらせて死んでしまったのである。毒のために死んだのではなかった。
 茸は死んだ人間の口から飛び出すと、また土の中に潜り込んだ。
 それが驚いたことに、松茸だけではなかった。野や町の中の中にもそういった茸が現れるようになった。
 地球上の茸は動物の性質を備えるようになり、地球人に向かってきた。茸バスターの人たちは全滅し、軍隊が茸を処分しようとしたが、同じめにあわされた。
 茸学者が、一般の人にも危害を加える茸が増える前に、地球から逃げたほうがいいと地球の総統府に進言した。
 茸から逃げた緑球星人と同じ境遇になったのである。
 地球の総統府は、植物から派生した緑球星人に事情をはなし助言をたのんだ。
 緑球から答えがあった。茸は動物植物より後から出現した生き物、いずれ、動物や植物より進んだ生命体になる可能性があり、さからうとどのような生き物に進化するかわからないので、平和に共存する道を模索した方がいい、ということだった。
 元々、地球では過去の教訓を生かし、馬鹿な戦争はしない方向にすすんできたこともあり、緑球星人のアドバイスに従い、緑球星人と同じように、住むのによい星に移住することにした。
 幸いいくつかの候補の星から選べた。
 その星は天の川銀河系の中の緑球星の方角にあった。およそ百光年離れたところにある一つの恒星のやはり三番目の惑星だった。恒星は太陽に似ており、三番目の惑星も地球の環境とほぼ同じだった。
地球人はそこに移住する計画を立てた。数十年のうちに空気も水もあるその星に都市を築いた。地球にすむ20億人ほどの人間を五十年かけて移動させることにした。
 計画は進み、予定通りに人間は第二の地球に移住した。その後、地球上の動物はほとんどの種類を運ぶ箱舟計画が施行され、それも完了した。植物はより安全だろうと思われる木々と、草本類しか運ばなかった。もとの地球にはカメラ群を設置し、茸たちの進化の記録を第二の地球に送り続けることになった。

 こうして、千年後、茸人があらわれた。もとの地球にあった人間の都市を壊し、新たな都市をつくりはじめたのである。地球人はもとの地球を茸球と呼んだ。
 茸たちはからだに反重力装置をそなえ、空中に浮くことができ、触手が発達して、とても器用な人間に進化したのである。
 彼らは酸素がなくても生きることができる人間となり、太陽系すべての惑星に住処を広げて行った。
 いずれ、地球人や緑球人をおいこして茸球人が全宇宙を支配することになるのだろう。
 幸い茸球人たちは自分たちから戦をする生命体ではなかった。
 しかし、観察を続けていた第二の地球にいる科学者は恐ろしいものを元の地球上に残しておいたカメラで見た。
 地球には地球を離れたくないという人間が何人か残っていたのである。
 その地球人たちは、茸球人によって繁殖させられ、ペットとなり、一部は食料にされていたのである。

茸球-地球叙事詩

茸写真:著者

茸球-地球叙事詩

地球に新たな人種が現れるまでの歴史。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-04-18

Copyrighted
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