秘密
1、やることは
目の前でドスッと床に、包丁を突き刺してやったら。
間男はあっさりと、妻の数々の不倫を吐きやがった。
ちょっと驚いたのは、コイツを入れて四人の相手がいたってことだ。
まあ予想はついていたが、アイツ、何人の男とヤッてんだよ。
どんだけがめついんだよ。ほんと下卑た奴。
俺の前じゃ、一途な妻のふりをしているのが、本当に嗤える。
それにバレてないと思ってんだか?
これから俺がやることは決まっている。
おっと、やることは秘密だ。
言ってしまったら、何もかもが無駄になるからな。
間男が絶望を感じてか、滑稽なほど怯えながら項垂れた。
2、罪を吐いたが
悪い秘密を墓場まで持っていく。
そのつもりだったが、最期くらい正直でいたいと思った。
何しろもう寝たきりで、意識も朦朧としてきている。
だが、今は意識がはっきりしている。
だから、様子を見に来た看護師に、過去の悪行を全部吐いた。
不思議とつらつらと言葉が出てきた。
看護師はじっと俺の話を聞いていたが、彼の様子はどうでもいい。俺の胸はいつになく軽かった。
本当にロクでもない人生だったが、多少の罪滅ぼしにはなる。そう思って、くたばるのを待っていたが――
俺が看護師だと思っていたのは死神だった。
死神は俺の魂を刈るのを辞め、寿命を延ばすと言った。
さらに健康体にもなるだろうと、そう言い残して消えた。
病で侵された俺の身体は、急速に回復していき、本当に健康体となって病院を退院した。
待っていたのは警察で、連れて行かれたのは刑務所だ。
現在の俺は、死刑が来るのを怯えながら待ち続ける、生きた死体だ。
秘密