末黒野・死・蛤・絶巓

  末黒野(すぐろの)

早春(そうしゅん)(つぼみ)を混ぜて
真つ黒な野を人々に魅せ
鶯笛(うぐいすぶえ)の音に春めく
炭は緑と合い鮮やかに
(あぜ)は美麗の(くろつち)を出す

  死

人が死んだ
わあ人が死んだ
何処(どこ)で死んだ?
崖から落ちた
海で溺れた
寿命で死んだ
撃たれて死んだ?
刺された死んだ?
君たちは一体何を言っているんだ?
彼が望んで死んだに決まっているだろう

  蛤

「ねえ兄さん」
「何?」
「夜空を見上げて御覧よ」
「やあ星が綺麗だね」
「月もそうだろう」
春の浜辺に蛤二つ
月夜を眺めて愛しく二つ

  絶巓(ぜってん)

雲海は天道(てんとう)(きら)びやか
王は世界一高き山の(いただき)に臨む
煙花空(えんかくう)を超えし
王は世界一高き山の頂より叫ぶ
(ああ) 絶巓よ!
私は此処(ここ)であるぞ!
私は偉大な山をも超えし存在であるのだ
韋駄天(いだてん)よ吹け!吾は飛ばせぬぞ!
矢のような滝雨も
槍のような雷槌(いかづち)
吾には何も効かぬのだ!
ひれ伏せ!山よ!
龍のような太空(たいくう)
轟々(ごうごう)と鳴る大地も
吾には塵芥(ちりあくた)同然であるのだ!
噫 絶巓よ!
燃えよ!(たぎ)れ!
雲海は天道に煌びやか
王は世界一高き山の頂より挑む
神なる絶巓に挑む

末黒野・死・蛤・絶巓

末黒野・死・蛤・絶巓

  • 自由詩
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-04-12

CC BY-NC
原著作者の表示・非営利の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC