鹿・菟 猿島侘助 鹿啼く聲(こえ)の 谺(こだま)は谿(たに)に沈みけり垂水(たるみ)は春に なりにけるかも 菟淡雪は、ふはり、ふはり。粉雪は、しん、しん。銀色(しろがねいろ)の天鵞絨(びらうど)の布(し)かれた原つぱに棉(わた)のやうな雪を枕藉(ちんしゃ)する。草を践んで 雪は白毛(はくまう) しらじらし朱(あか)き瞳の 奥に降りつむ 鹿・菟