
フリーズ178『Leo』
Leo
0プロローグ
Leo
声、歌声、曲、音、メロディー
この詩よ轟け
この物語よ永遠に
Sound『Leo』(Eve)
1水面にて
風が凪いでいた。地平線の彼方まで続く水面は世界を明瞭に映し、その中に知らない顔が一つあった。
「どこから来たの?」
「何をしていたの?」
声をかけても返事は無い。僕は虚しくなって瞳を閉じた。涙が頬を伝う。瞬きする度に否応なく世界は移ろい変わり果てる。その景色のなんと麗しきか!
終末の狭間で踊る君は、それでも踊りをやめないで。その先にあるものもないものも含めて、全部大切なのだから。僕は旅立つ、世界へと。
2門へ
孤独を飼い慣らした日々が過ぎていく。今日が次々と消化されていく。怠惰な人生に終わりを告げるための詩。その人生にも期待はあるか?
優しさを持ち寄る愚者たちは、誓いをたてて未来へ生きる。祈る姿は永遠で。彼を讃えて。
門へと歩く。この道は過去から集い未来へ解き放たれる光。愛を満たすべきだった。そんな人生だったよ。一人の求道者として道を、真理を求めて歩いたけれど、その道ももう時期終わる。だが、人間的な幸福を、終ぞ僕は果たさなかったな。
そんなことを考えては、門の前に着く。門の傍には翼のある門番がいた。
あなたを想っては裏切られた日々にお別れを。それでもと降りかかる類の歪な愛憎に感謝を。僕は思わず「大丈夫」とそっとおどけて吐いた。
愛のために生きる?
愛のために死ぬ?
愛を満たしておくれよ
なんのために生きる?
なんのために死ぬ?
まだ死んでなんかいないさ
声を響かせて
声を届けて
あの子へ
あの日の僕へ
心ごと吠えてくれよ、Leo
生まれよう
明日の日に咲いた花のように
応答してくれよ
どうか応えてくれよ
しがらみを今捨てていけ
枷を外して解き放て
がらんどうなこのままで
世界の終わりの狭間にて
3門の前にて
立ち向かう化身の造化らは、神仏の力をその姿から借りて永遠を体現する。柔らかな手が撫でるのは山吹色した瞳だった。その瞳に映る景色を僕はついに知ることは無かった。今際になって思う。あの瞳は何を見ていたのだろうか、と。
撓垂れ掛かる声は終末に木霊する。その声を僕は忘れてしまったから。死んだ人のことを忘れるのは声からだっけ。至福の時を経て、雌伏の時を経て、たどり着いたのは地獄か、天国か。
見澄ますその目さえ覆ってしまえたなら、もうあの悲劇を目の当たりにしなくてよかっただろうに。惨劇は繰り返されるものだから。
門の前にて門番が言う。
「君はまだ生きている。ここより先は体を持っては行けない。君にはまだやり残したことがある。使命がある。だから、引き返しなさい」
「でも! この門の先には永遠の光や終末の音、神の愛に涅槃という至福があるじゃないですか! どうして僕はこの先へ行っては行けないんですか!」
「人は大なり小なり使命がある。その使命が終わるまでは死ぬことは無い。君はここまでやって来たけれど、ここから先へはまだ行けないんだ。君にはまだ人生でやり残したことがあるから」
「やり残したこと?」
「魂に聞いてご覧? きっと、魂が心の底から願うことが君の使命さ。魂の声を聞いてあげて」
疚しさを引き摺る諸行無常の力に平伏して。水門を去りゆく虚しさも、水紋を眺める視界も、見返りを求めてる愛も。もう僕は人に戻ってしまうんだね。神になって仏になって、なのに門の先へは行く時ではないんだね。
真理を悟ったね。
クライマックスが過ぎたね。
後悔して掻きむしったその跡でさえも、もう消えていく。それが記憶を失うということなのだろうか。それさえ分からないで僕は門を去っていく。
4天空を去る
しどろもどろ歩き回れども、答えは見つからない。天空審判の日に定めを受け入れること、能わずに。叫んでも誰も気づいてくれはしない。僕は何のために生まれたのだろう。帰る場所は門の先、でもその先に行けなかった。嗚呼、帰る場所さえ何処かにあったらいいのにな。
魂の声を叫べ
唸れよ、Leo
君はまだ覚えているかな
僕のこと覚えているのかな
僕が全能から目覚めた日
君が全知から眠る日に
お別れをさせてくれよ、Leo
応答してくれよ。
君はたまたまそちら側にいて、何も知らないだけ。僕のこと忘れてしまったのかい?
天空から去る日に、僕は君との別れを避けられず。全能から目覚めた朝に、君の全知に泣いてしまったから。
5辻褄が合う
目覚めた。知らない天井が目に入る。ここは病院か。理解するのに数秒かかった。そうだ。僕は精神の限界、肉体の限界に挑んで死んだはずだった。だけど今こうして生きている。つまり、果たすべき使命がまだ残っているのか。門番の言っていたことを想起する。
門のある楽園は本当に美しかったなぁ。概念的な究極美がそこにはあった。音色も豊かで、妖艶だった。だが、幸福は過去か。
ふと気づく。僕は泣いていた。あまりにも天国的な夢のせいで、心が踊ったからだ。この感動は忘れない。僕はずっと終末の狭間にいた気がした。それは永遠だった。神に愛され、神を愛した。見返りを求めてる愛も、もうさようなら。
僕は自己愛で生きる
僕は運命愛で生きる
僕は神愛で生きる
愛を体現させてみせる
6病院にて
病院にいる間、エッセイのような詩を書いた。その名はどうしよう。永遠詩、終末詩。神愛詩、涅槃詩。心の声を、心ごと吠えたい。魂の叫びを、本当の声を。だから散文詩の表題はあれしかない。そうだ、きっとそうだ。
僕は入院中、詩をひとつ、歌をふたつ創った。
7詩『Leo』~永遠と終末の狭間で~
遠くの光が見えなくなって
乾いた心が冷たくなって
揺らいでいる火が消える日に
良き風の日に旅立つ水夫
生命の樹に金木犀
ユリの花に悪の華
沙羅双樹に菩提樹と
知恵の樹に木蓮と
永遠宿して終末か
終末終わって永遠か
心の声を叫んでよ
魂の声を届けてよ
メロディーに乗せて彩ろう
自問自答、そして、起死回生
8歌:水面の火『ニルヴァーナ』~凪いだあの冬の日のこと~
遠い遠い波が揺れてる
光を受けて、逆光の中で
遠い遠い夕陽が沈む
静かな水面に映る月を見てる
子どもの頃抱いた夢は
いつの間にか変わってしまった
大人になった僕は振り返る
青春を生きた僕たちを
例えばそれは終末のこと
凪いだある冬の日に起きた奇跡
僕らの逢瀬が成されるフリージア、永遠に
遠い遠い記憶が揺れてる
あの日のままで、陽だまりの中で
遠い遠い声が震えてる
ひとりで立って、いつも僕はここに
将来の夢と呼ばれるものを
いつしか叶えてしまったみたいだ
この世の真理、悟った僕も
平凡な人生を送るんだ
例えばそれは終末のこと
永遠なる愛に満たされてたんだ
僕らの逢瀬はやっと叶う、この冬日に
人生最後、君と出逢えた
寒空の下、永遠の愛を
遠く遠く、鳥が飛んでる
比翼の記憶、僕と、君の記憶
凪いだ風に、水面に映る
探した答え、やっと掴んだ
1月7日、終末Eveで
1月8日、神、涅槃だった
1月9日、神殺し、でも、
だから、人に、戻って、
歌を紡ぐ
愛を紡ぐ
言葉紡ぐ
夢を、描いてみる
9終わりの詩
僕はこうして生きている。それはまだ為すべき使命があるということ。中島らもの遺作『ロカ』より引用する。
人間にはみな「役割」がある。その役割がすまぬうちは人間は殺しても死なない。逆に役割の終わった人間は不条理のうちに死んでいく。私にまだ役割があるのだろうか。(中島らも『ロカ』より)
つまり使命ある内は死なない。そう考えたら使命のために生きようと思える。それがニーチェの語る運命愛なのかもしれない。
10歌:少年と少女の奇跡の話
命に嫌われても僕には関係ない
遠いあの冬の日の景色を思い返す
永遠を知ったから その美しさについ
見とれてしまって 気づいたら終わった
いつもあの頃を思う 僕が一番輝いた
2020年のこと 僕は未だ
あの冬の日を思い出す 永遠のある日
神は僕に告げたんだ 「ご苦労様」と
すべての使命が終わって 安らかなある日
僕は確かに悟った 時流はないと
3年が経って 記憶も薄れて
それが嫌だった あの冬をもう一度
自由になったから 死の枷も外れて
何をしたらいいの? 自分に問いかける
いつもあの時を思う 終末の狭間で
2021年の奇跡の話
僕は天高く飛んで 門の前に立って
門を開けようとしたら 声がかかって
「まだその時ではない」と告げられたから
僕は平凡に戻って生きていくのさ
これは一人の少年の奇跡の話
愛や意味や孤独さえ内包してる
これは一人の少女の神話の話
ヘレーネ君なんだよ。愛しています
愛しています
11神について
門の先に神はいる。一体どれだけの人間が門の前にたどり着くことが出来るか、僕には分からない。その門をラカン・フリーズの門と呼ぶ。でも、きっとその門の先には楽園が広がっている。何もかもが自由で、何もかもが叶う世界が待っている。そんな気がしてならない。
僕は門から去って人間に戻ったけれど、やはり想うのはあの冬の日。2021年1月7日~9日の永遠なる3日間。涅槃寂静、至福、永遠は、それでも永続はしなかった。ヘルマン・ヘッセが『幸福論』で語るように永遠のような至福にも終わりが来る。
永遠も半ばを過ぎて、僕は何がしたいんだろうか。人生何のために生きているのか。それを探す旅路だろうから、真理を悟ってなおその先を、神のレゾンデートルを求めて、僕は創る。それが僕の本当の声、それが僕の使命だ。
フリーズ178『Leo』