2026年の抱負
で、元気になったんですか?
そんなに簡単に分からないって―真相は藪の中なのよ。
第1章 真相は藪の中に
で、元気になったんですか? オギノメさん。
え、藪からスティックに何? タケノコ君。
それは、「藪から棒」ですね。ルー大柴のネタ。久しぶりだ。ともかく、去年の末頃に三十八度五分の高熱を出したじゃないですか。
今頃その話? やっぱり藪からスティックじゃん。
結局何だったんですか?
え、何?
「何?」って何ですか?
私には高熱を出す権利もないの? 体温を一定に保つためにワインセラーみたいな所で一生暮らしてろってこと?
そんな話がどこから出てくるんですか?
いちいち細かいことにこだわるんだね。
もしや、実は平熱が三十八度五分なんですか? そんな人に会ったことはないですけど。
そんな人いるんだ。
自分が言い出したんじゃ…
たまにはそれくらいの勢いで言った方が面白いじゃない。
じゃあ、平熱は三十八度五分じゃないんですね。
本当にそんな人いると思うの?
面白かったけど、面白かったけど、結構面倒くさかったです。
面倒くさくないのに面白いことってあるの? 何かが違うから面白いんじゃない?
やっぱり面白いけど面倒くさいです。
要は「藪からスティック」なのよ。結局。タケノコ君、ルー大柴を甘く見てたわね。タケノコだって藪の中に隠れているのに。
藪じゃなくて、林だと思いますけど。それに、タケノコの周りには竹が生えているから、タケノコがどこに出ているか目星はつきますよ。普通は。
つまり、「自分は堂々と生きている」アピールをしたいの? スケールが小さ過ぎてアピールにもなっていないけど。
まあ、体温三十八度五分も出すほどスケール大きくないですけど。しばらく音信がなかったんで心配してたんです…それで体調の話を最初に。元気になったんですか?
え、藪からスティックに何?
それはさすがにもう使えませんよ。
何? そのありふれた反応は。もう少し気の利いたことは言えないの?
すいません、面白いんですけど…
面倒くさいんでしょ。それくらい分かってるわよ。
気づいていたんですね。面白いけど。
面白いよ。面白いから会話が続いているんじゃない。いったい何を言っているの?
で、平熱は何度なんですか? これで会話が弾みますか?
面白くないね。
面白くないんだ。
面白いよ。
面白いんだ。よかった。
体調、よくないよ。原因はよく分からないけど。
え、藪からスティックに何ですか?
他人のマネしても結論は変わらないよ。真相は藪の中なのよ。
第2章 とどめを刺す。
で、最近どうなんですか? ラジオ番組にも出ているじゃないですか。
藪から…
好きですね。藪から棒。
どうでもいいじゃん。
ところで。
ところで何よ。
最近、御社の書籍は売れてますか?
マタヤブ。
「マタヤブ」って何ですか?
「また藪から棒に」を略したのよ。
何か答えたくない事情でもあるんですか?
答えたくも何も、知らないから。売れ行きは営業の人から聞いて。ラジオに出て、自分が編集した本の宣伝してるだけ。勝手に他人の会社に口を出してる、タケノコ君の本は文学フリマでどうだったの?。
売れましたよ。
何部?
二部です。
二部よりはうちの本のほうが売れてるよ。間違いなく。
え、編集の人に売れ行きは分からないんじゃなかったんでしたっけ。
そんなのウソに決まってるでしょ。
変わり身が早いですね。でも…
でも何を言いたいの?
「星空文庫」では読者セッション数が百四十に達しましたよ。
何ていう小説だったっけ?
『二〇二一年の棚卸し』です。
発表したのは?
二〇二四年です。
ずいぶん時間がかかったわね。
「ちよだ文学賞」に応募していたんです。
で?
審査結果の発表まで、他で公表できないじゃないですか。
落とされるまでは。応募してから結果発表までは身動きがとれない。
そうやって、とどめを…
刺すのよ。で、続編は?
まだ完成してないですけど、別のを書いています。
今度のタイトルは?
『どこへも至らぬ者』です。
それは売れたの?
売り出していないんで。
売れないからでしょ。
また、そうやってとどめを…
刺すのよ。当然じゃない。
本当に出版社で働いているんですか? 作者にずいぶん辛口ですね。
その方が面白いじゃない。
そうやってラジオにも…
出るのよ。当り前じゃない。
容赦ないですね。
容赦はないよ。ただの職業病だけど。
職業のせいじゃなくて、キャラじゃないですか?
理屈っぽいと売れる本が書けないよ。
二度あることは三度あるっていうけど…
今度こそ、とどめ刺された?
うぅ…
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