(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第2話
鳥山明 作
ムラカミ セイジ 編
これはドラゴンボールZの、もう一つの未来で起こった物語である。
たちこめる土埃の中で、2人の超戦士は互いに一進一退の攻防を繰り広げていた。激しい打撃戦、打ち合う連撃で互いの戦闘服は徐々に傷ついていく。なかなか致命傷には到らない消耗戦だ。
やがてコルド精鋭隊の隊長ジークが、スーパーサイヤ人となったトランクスの強烈なボディブローに突き放された。パワー重視のスーパーサイヤ人は規格外の破壊力を誇っていた。
打ち込まれた強打によって苦痛の色を隠せないジークが咽せる。ぜぇぜぇと荒い息遣いのまま、口元のよだれを拭ってジークは言う。
「スーパーサイヤ人、ここまでやるとは正直思わなかったよ。なるほど、フリーザやコルドの相手ではないわけだ」
トランクスは無言のまま近付いた。外見はかつて完全体のセルに敗れたパワー重視の状態だが、そのスピードは当時とは比較にならないものだ。パワーとスピードを兼ね備えたスーパーサイヤ人、その力を手に入れたトランクスは不敵に笑みを浮かべた。スーパーサイヤ人としての凶暴性もかつてのそれ以上のようだ。戦況はトランクスがリードしている。
ジークの手下達は命令通り手を出さず、それどころか距離を置いて静かに眺めていた。
(隊長の指示は絶対だ)
隊員は皆一様に思っていた。たとえジークがなぶり殺しにされようとも、その結果はただ単純にジークと相手との戦力差があったためだと割り切る。その徹底した冷徹さが、コルド精鋭隊の強さであり、そして信条なのだ。その思想観念の上で、コルド精鋭隊隊長ジークに敗北などありえないと3人は確信している。それはたとえ相手があのフリーザやコルドを倒したスーパーサイヤ人であろうとも例外ではない。
「ハァーッ!」
トランクスはまた気を高めた。全身に帯びた金色の気が勢いを増す。
逆立った金髪をなびかせながら、トランクスがジークに向かって突撃する。ジークは「くっ」と苦い表情を浮かべ、トランクスの拳をガードして数メートル後退、そこから大振りなキックで蹴り上げられて吹っ飛んだジークは、岩肌の崖に叩きつけられた。
トランクスのさらなる追撃を予感したジークは横っ飛びに避ける。案の定、追撃したトランクスの膝蹴りは、先ほどジークの叩きつけられた崖を粉々に粉砕。そこで返り様にジークの放った荒々しい気弾が、トランクスの背に命中した。
土埃から抜けて現れたトランクスに、大したダメージはない。スーパーサイヤ人になった途端、あらゆる能力が先ほどまでとは桁外れだ。打たれ強さも比較にならない。
「恐ろしいまでに戦闘の天才だな。スーパーサイヤ人とは、噂通りの化け物、か」
トランクスは聞く耳を持たない。抑えきれない怒りによって発揮される凶気の超パワーが、彼を突き動かしているからだ。
ジークの視界からトランクスが消える。次の瞬間にはトランクスは背後に回り込んでいた。ジークが前のめりに体勢をずらすと、トランクスの拳が音を立てて空を切る。ジークはすぐに振り返って反撃の気弾を放った。
(一発ではヤツの動きは止まらん。何度でも何度でも)
ジークは距離を置きながら気弾の連打を両手から放つ。トランクスは思わず両腕をクロスして気弾による攻撃をガードした。
ジークはその隙をついて急接近。トランクスの顔面に体重の乗った強烈なパンチが飛び込んでくる。まともにもらったハンマーフック。体勢の崩れたところに、ジークの鋭い膝蹴りが深々と突き刺さる。前屈みになったところで次は肘打ちを背中にもらい、トランクスは地面に叩きつけられた。
反撃に転じたジークは執拗な追撃にかかる。トランクスが一瞬で形勢を一変させる力がある以上、一瞬も油断は許さない。まだ立ち上がろうとしている最中のトランクスに、次々と細かい連撃を叩き込んでいく。
「オラオラオラオラァーッ!」
「くっ」
トランクスの息が上がりはじめる。多少スタミナに差があろうと、ダメージは蓄積されていく。トランクスは細かい攻撃を打たれ続けた。手脚から繰り出される素早い上下左右の打撃技は、容易に避けられるものではない。強固にガードしても、完全には防ぎきれない。
(だが、それほど大した威力じゃない。今か!)
何十発、いや何百発目の打撃を受けた時だろうか、トランクスはジークの右ストレートのパンチを避けながら掴むと、引き寄せて顔面に肘打ちを叩き込んだ。ジークの顔から紫の鮮血が滴り落ちる。
「どうした? そんなもんか?」
トランクスはさらに体重を乗せた前蹴りをジークの腹部に叩き込む。突き刺さるように命中し、ジークは耐えきれず吐いた。
(口ほどにもないか。いやしかし、コイツの余裕は一体なんだ?)
そう思って攻撃を躊躇うトランクスに、背後から何者が奇襲した。手足に刺されたような冷たい痛みが走る。
(ヤツの手下共か? いや違う。ヤツらの3つの気は、少しも動いてはいない。まさか……)
突然出現した禍々しい邪気。いくら戦闘中であったとはいえ、それまで視認さえできなかった。
(何らかの方法か能力で、姿と気を消して接近していたとでもいうのか?)
背後を振り返ったトランクスが目にしたのは、それまでに見覚えのない男だった。口元をマスクで覆い隠した長髪の男は、野生的な紅い瞳でトランクスを睨んでいる。
男は再び両手から第二射をトランクスに放った。次の瞬間、鋭い針のような気弾が両肩に命中。
トランクスは傷口から血を吹き出し、動きを止めた。全身が痺れ、目が霞む。膨張した筋肉はすぐに元の状態に戻りはじめた。疲労したトランクスはパワー重視の大きな体格から、通常時のスーパーサイヤ人に弱体化していく。
「サンボッ! 貴様ッ!」
ジークは激怒して叫んだ。サンボと呼ばれた男は無言のまま向き合う。
「余計な邪魔しやがって! よくもオレの獲物を……」
ジークが言い終える前に、片手で制止したサンボ。その瞳は他の手下達とは違い、隊長ジークを怖れてはいない。むしろ冷酷な瞳で威圧していた。
「ドラゴンボールもあと3つ。いつまで遊んでいるつもりだ」
サンボが言うと、ジークは言い返す言葉を詰まらせる。やがて「ぺっ」と忌々しい顔で唾を吐いた。
「冷めちまった。くれてやるから、あとはお前が好きにしろ」
不愉快な様子で吐き捨てる。それから先ほどまで対峙していたトランクスに向き直った。
「いらん横槍が入ってすまんな。生き長らえたらまたオレとやろうぜ! 今度はお互い手の内曝け出して、な」
そう言い残すとジークは「フッ」と笑いトランクスの視界から消えた。ジークの気はそれからどんどん遠ざかっていく。
結局ジークの本当の力は確認できなかった。が、トランクスは目の前に現れた新たな敵でそれどころではない。
肉体が早いペースで疲労していく。神経に対する毒のような効果を持った気弾を受けたらしい。全身の痺れで体が思うように動かない。
サンボが近付いてくる。邪気はジークを遥かに凌ぐものだ。睨みつけているその紅い瞳にトランクスは恐怖さえ感じた。
「オレはジークのように甘くはない。貴様がどれだけ弱っていようと、手加減はしない」
トランクスの霞んだ目に映るサンボの姿が、徐々に薄れて消えていく。まるで幻のようだ。
視界から消えたサンボが攻撃を仕掛ける。察した時には既に蹴られていた。胸にめり込みトランクスは吐血した。
(まるで見えない。気で追っても追いつかない!)
見えない敵に反撃する。当然のように、トランクスの打撃は空を切った。
「くそっ」
サンボの鋭い攻撃は容赦なかった。トランクスにはサンボの姿が見えていない分、その攻撃はより正確だった。
「こんなものか、スーパーサイヤ人。ジークのヤツは貴様をおもちゃにして遊んでいたようだが、オレ達のフルパワーは今の貴様のスーパーサイヤ人を遥かに上回っている。万に一つも貴様に勝機はなかったという事だ」
(あの戦闘力でさらにフルパワーだと? ふざけやがって!)
その時トランクスは、無鉄砲に相手を引きつけた自分の軽率さを恨んだ。油断して受けた傷によって、思うように動かない体にも苛立った。
「見かけによらずおしゃべりなヤツだな」
荒い息遣いでトランクスが言うと、脇腹に重い蹴りが叩き込まれた。
「そろそろ死ぬか」
サンボはトドメとばかりに巨大な気弾を溜めた。フリーザのデスボールに似ている。
気弾を溜めるため動きを止めたサンボ、トランクスはその隙に距離を置いた。それでも逃げられる距離ではない。これは十分に迎え撃つために必要な距離だ。新ナメック星に多大な被害を与えるだろう強力な気弾だが、トランクスの残ったすべてのエネルギーを使い切れば相殺できるかもしれなかった。トランクスは賭けに出た。
トランクスの必殺技の一つ、バーニングアタックの構えを素早く行う。全身の震えはまだ残っているため、力を込めても指先が細かく震えている。
トランクスの霞んだ目にも、禍々しい気弾の光ははっきりと見えた。トランクスは狙いを定めて、全力のバーニングアタックを放った。それとほぼ同時にサンボもまた、禍々しい気弾を放った。
巨大な気弾の玉を、閃光が切り裂いていく。閃光は天高くまで真っ直ぐに突き抜けていった。
空中で巨大な爆発が起こったのは直後の事だ。爆音と共に、強烈な爆風が吹き荒れた。眩い光が辺り一面を覆い隠す。トランクスは満身創痍のまま、その光に呑まれていった。そこで意識は途絶えた。
ジークの手下達、ジュドー、ポエラ、マーシャルの3人は遠くから一部始終を見ていた。
「サンボがつっかかっていったか。さすがに相手にはならなかったらしいな。あのスーパーサイヤ人」
ジュドーが言うとポエラはクスクスと笑った。
遠くからでもはっきりと見える巨大な爆発だった。その破壊力は明らかだ。
「土壇場で悪あがきしていたようだが、あれじゃどうやったって生きてるわけねーよ」
そんな話しをしていると、まずジーク手下達の元に帰還した。
「サンボのヤツ、余計な邪魔しやがって」
ジークは苛立ちを隠せず虚空に気弾を放った。爆発音だけが虚しく響く。
鬱陶しそうに「何荒れてんのさ」とポエラ。ジークは「うるせえよ」と怒鳴りつけた。
しばらくしてサンボが帰還した。彼にしては珍しく荒い息遣いで、激しく疲労していた。仲間達にとってはクールなサンボの見慣れない様子だった。ジークは「サンボ、てめぇ」と因縁をつけるところだったが、状況は変わった。
サンボの片腕は、肩口から吹き飛んでいたのだ。トランクスの最後の一撃によるものだった。仲間達は思わず絶句した。
「……探せ。ヤツはまだ……生きている……ぞ」
それだけ言い残すと、サンボはついに気絶した。
「そうか、生きているか」
ジークはニヤリと笑みを浮かべた。
(そうでなくては面白くないからな)
(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第2話