飴玉と善意

飴玉と善意

 人のいない街には、怪物が独りぼっち。
 手には、飴玉がいっぱいの籠を持ち、
「皆に配って分けてあげたい」
 優しい願いが一人、空回り。

 けれど、夢は諦めたくなかったから、
 どこかに、見知らぬ人達がいるかも知れない。
 もしかしたら、彼らは善意に飢えていて、
 良心からの施しで、心が安らぐかも知れない。

 けっして、孤独でいる事がつらい訳ではない。
 人から感謝されたい訳ではない。
 飴玉を受け取った人の、笑顔が見たいだけだ。
 怪物は、ぷひゅー、と鳴きながら街路を行く。

 野の花は美しい。舗装の隙間を縫って咲く、
 辛抱強さを少し、ぼくにも分けてほしい。
 どうして、ぼくの心は潰れそうなの。
 独りぼっちは、今に始まった事じゃない。

 どこかで、キャッキャとはしゃぐ子供達の声。
 公園がある辺りだろうか、と足早に、
 向かった先で鳴いているのは、野の鳥だけ。
 ぼくの善意は、まだ誰にも届かない。

 誰かに会えたら、飴玉を受け取ってもらえる。
 そんな一方的な、押しつけがましい心も、
 寒い冬に耐えてきた。苦しい一年に耐えてきた。
 ぼくは怪物だから、これが精一杯。

 怪物はどこまでも歩いた。孤独の街を、一人。
 誰かに逢いたい、逢えたら、声を掛けたい。
 皆は、彼を見かけたら、驚くだろうか。
 それとも、可愛らしい、と褒めてくれるだろうか。

 昔、誰かに、人間にバットで殴られた事を、
 津々と記憶に向き合って、思い出す。
 怒りや、憎しみは、解らなかった。
 ただ、とても悲しかった。

 でも、飴玉をあげたら、皆が笑顔になると思う。
 人を傷つけようと考える人は、優しい人になる。
 優しさは、一人のための物じゃない。
 そう願って、今、ぼくは独りなんだ。

飴玉と善意

飴玉と善意

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-26

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