初夏の入り口
僕がその町に着いたのは5月の終わりだった
新緑が眩しかった
乾いた風には常に青い芝生のような匂いがあった
どんなに吸い込んでも吸い込みきれないほどの青い匂いだった
僕は自由を手に入れてしまったような気持ちになった
どこにも繋がれず
青い匂いの中をふわふわと漂う頼りない存在だった
大空を見上げるたびに
自分を見ろと言われてる気がした
空高く舞うトンビを見つけるたびに
人は孤独だと言われてる気がした
僕を取り巻くすべてのものが僕を静観していた
自分で自分を操縦しなければこのままどこかへ流され
二度と自分を見つけることができなくなってしまいそうだった
5月の終わりのことだ
眩しい初夏の入り口だった
初夏の入り口