『道化師の夜』

化粧を落とした素顔は
ただ幼いばかり


『道化師の夜』


涙を流すのはやめたの
その代わりラメが光ってくれる
煙草の灰を払って鏡を見れば
滑稽な笑顔のアタシ

いつか話したあの夢は
今も夢のまま胸に秘め
踊りすぎた爪先に血が滲んでも
笑顔のまま泣いて踊るの

ねえ、アタシを見て
スポットライトの端で一心不乱
誰もアタシなんか気にしない
それでもいつかあの人に知って欲しい

真ん中で踊るあの子より
少しだけ短いスカートが舞う
哀しみは飲み込んで目線を送る
いつかを夢見て今日も命懸け

煌びやかな興行が終われば
仄暗い舞台裏は静まり返る
訪ねてくる客に色めく姿を
ただ感情なく横目で見るだけ

彼女たちはきっと今夜も
無謀な夢を見るのだろう
叶うはずもない果てない夢を
朝になれば裏切りに胸を痛める落ち

何処まで落ちれば見つけてくれるの
アタシは何だって売ってきた
今夜も一人鏡の前であの人を
来るはずもない貴方を待ち続ける



「あの日売り渡したアタシの心」

『道化師の夜』

『道化師の夜』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-24

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