勇者アルベルタ・アルベルタ・タイラント君の故勇者モーリス・サウロロフ君への追悼演説
前勇者モーリス・サウロロフ君逝去につきパーティーより弔詞を贈呈することとし、その文案は救世者代行に一
ミリアム・トランスエルペ救世者代行「前勇者モーリス・サウロロフ君は去る第三季五十八日、闘病あえなく逝去さられました。ここに勇者のパーティーとして弔詞を贈呈いたしたく思いますが、決を採ります」
(一同、異議なし)
ミリアム・トランスエルペ救世者代行「弔詞贈呈の件、可決されました。つきましては、私の手元にある弔詞を彼に贈呈いたします。前勇者モーリス・サウロロフ君は闘病あえなく逝去さられました。君は財務委員長として、世界の会計制度の確立に比類なき貢献をし、文民ながら蛮勇に屈することなく普遍的な正義を貫き通した気骨のある人物でありました。勇者のパーティーは君の逝去に哀悼いたします。弔詞は姪であるアルベルタ・アルベルタ・タイラント君に贈呈いたします」
勇者アルベルタ・アルベルタ・タイラント君の故勇者モーリス・サウロロフ君への追悼演説
ミリアム・トランスエルペ救世者代行「弔意を表したいとアルベルタ・アルベルタ・タイラント君から発言を求められております。これを認めます」
アルベルタ・アルベルタ・タイラント財務委員長「闘病あえなく逝去したモーリス・サウロロフ君に向けて、私が勇者のパーティーを代表して、慎んで追悼の念を捧げたいと思います。
ただ今私がここに立っていることにいささか不自然な気持ちを覚えます。今私が座っている財務委員長の席は、かつては君の席でした。病を得た君にこの席を託され、君を越さんと日々研鑽を積めど、君の域にはまだ遠くあります。
モーリス・サウロロフ君は共和国三百十八年に首都アルマース七区レクス区に生まれ、マグナス・カマラ記念神学校の数学科で学ばれました。厳正な経理の徒としてパラサウロ教授の薫陶を受け、経世済民の理法が整えられているまさにその場に立ち会いました。新たに世界を導く理を知った君は、鉱山経営者の父の後を継ぐのではなく、官吏としての道を志すようになりました。
官吏としての君の姿は勤勉、実直。財務委員会のみならず、全て官吏の模範たるものでした。多くの官吏が君の姿に、明日の共和国の姿を見たのであります。私の父も、例外ではありませんでした。
かくして君はドラゴンの官吏のうち、門閥が占める財務委員会で父と二人気を吐き、専売公社総裁という異例の昇進を成し遂げたのであります。君が筆を走らせば、そこから銀が生まれると、当時は専らの評判でした。
共和国三百八十五年の政変では、長年の盟友であった私の父を失った涙をこらえ、新設の主計局長として、この国の会計予算制度の礎を築き、財務委員長となった私を助け、世界中に税務署を建てました。君なくして共和国に財政は存在しなかったと言うべきでしょう。
共和国三百九十一年の艱難は君を益々玉としました。第六軍団の粛清に伴い財務委員長を退いた私の後を継ぎ、サウロロフ君は共和国の再建に乗り出されたのであります。
この至難の中を、君は持ち前の厳正さ、実直さ、巌とした性根より出ずる万華鏡の如く煌びやかな知の働きを輝かせ、世界を覆う混乱の中、二十余年のうちに危機の昨日から躍進の明日を切り開いたのであります。
君は厳正で実直なだけではなく、いつも楽天的でありました。そればかりではなく、我が始祖レクス・タイラントもかくやあらんと唸るような、不屈の魂の持ち主でもありました。人事一切を尽くして天命を待ち、神の正義を疑いなく信じる君の、全てが最善であると言い切る朗らかな強さには、幾度となく勇気付けられたものです。
私が君に出会ったのは、父の婚儀の席でした。花嫁の兄であるあなたは、二人を憚ることなく、母を亡くし一人寂しそうにしていた幼少の私の手を取り、肩車などをして、互いに新しい家族として快く認めあえるように心を砕かれました。
爾来四十五年、竜王宗家の血のつながりにも臆することなく、彼は私のよき伯父として時には私を慰め、時には私を叱り、その実直さと優しさを、ひたむきに注いでくれたのであります。
そうして、いつも私のわがままを聞いてくれた君は、今やこの世の人ではなくなりました。
私が勇者としてパーティーに向かった際も、勇者を降り、君に後事を託した際も、君が隣にいてくれたことは、どれほど心強かったことでしょうか。私一人ではなく、全世界が同様に君の存在を頼りにしていたと、君は知っていたでしょうか」
(しばし静寂)
ミリアム・トランスエルぺ救世者代行「財務委員長、いかがされましたか」
アルベルタ・アルベルタ・タイラント財務委員長「書記長、申し訳ない。残りを、呼んでいただけないか」
(嗚咽のため言葉をつづけることができない)
ミリアム・トランスエルペ救世者代行「許可します。書記長、お願いできませんか」
アルマース書記長「指名されましたので引き継ぎます。おじさま、そちらは見晴らしがよろしいでしょうか。たとえ雹降る雲厚き日も、私は天を仰ぎ、かつてこの席で、我が始祖が救世者に誓ったように、私はあなたに誓いたいのです。この地上が勇者導く王道楽土足りえますように、と。天から見る地上を地獄といたしませんように。と。ここにモーリス・サウロロフ君の余人を以って代えがたき功績を称え、我々勇者としての責務を改めて誓うことにより、彼の帰天への餞といたします」
(原稿文は「サウロロフ君」であり「おじさま」はアルマースの即興)
勇者アルベルタ・アルベルタ・タイラント君の故勇者モーリス・サウロロフ君への追悼演説