zoku勇者 ドラクエⅨ編 47

タワシ頭の宿屋経営奮戦記・3

……翌朝。宿屋では急に姿を消してしまったジャミル達にニードは
やはり錯乱していた。朝の掃除もほっぽり出し、彼方此方うろつき
回る……。だが、もう何処にも4人組も、モンの姿も見当たらない。

「おい、冗談じゃねえぞ、もしかして……、あ、あいつら……、
黙っていなくなるなんて、ふざけんなよ……、おい……、何
考えてんだよ……」

苛々し、どうしていいか分からず、ニードはロビーの椅子を
思い切り蹴飛ばす。あいつらは自分に愛想を尽かして出て
行ってしまったんだろうか、もしかしたらもうそんな相談を
していたのかも知れないと思うと更に苛立ちが起こる……。
この苛立ちは悲しみから来ていると言う事を、意地っ張りな
彼は考えたくなかった。

「だったら……、オレの事もう見切ってたんなら、嫌いなら、
その程度なら……、……さ、最初から来るなってんだよっ!
何だよっ!……馬鹿野郎共!!どうせ……、暇つぶしに
からかいに来たんだな、そうだったんだ……」

「ニード、少し話があるのだ……」

「親父……」

ドアが開き、入って来たのは自分の父である村長。だが、ドアが
開いた瞬間、ニードはジャミル達が戻って来たのではないかと一瞬
顔を明るくするが。違うと分かると直ぐに父親から目を伏せた。

「はあ、本当にクソ親父か……、で、何だよ……、オレは忙しいんだ、
仕事があんだよ……」

「……お前はまだ口の利き方がなっとらん様だな、親に向かって……、
いい加減にしろ!一体もう幾つになったと思っている!自分の
年も忘れたのか!ええっ!?」

「うるせーハゲ親父!……手ェ離せよっ!」

「……ニードっ!」

村長はニードの手首を掴むが、ニードはその手を乱暴に振り払った。
そして、村長から一歩下がると鋭い目で村長を睨んだ。

「……お兄ちゃん?お、お父さんっ!やめてよっ!何してるのっ!」

宿屋に慌ててニードの妹が駆け込んで来る。父親が宿屋に
向かった為、彼女も心配して様子を見に来たのであるが……。

「お前は邪魔だ、家に戻っていろ……」

「そ、そんな……、だって……」

妹は父と兄を交互に見る。やっと兄は真面目に働いてくれる様になり、
今度こそ何もかも心配はなくなると思っていた。それなのに……。

「そう言えば……、お兄ちゃん、ジャミルさん達はどうしたの……?」

「オレが聞きてえよっ!朝起きたら……、あいつらいなくなってたのさ!
結局、どうせ嫌になって逃げやがったのさ、冗談じゃねえっ!……人の
気持ちを踏みにじりやがったんだよっ!!」

「う、うそ、そんな事……、ジャミルさん達がする訳ないよ……、
だってだって……、凄くお兄ちゃんの事、……心配してくれて
たんだよ?」

「……けど、いきなりいなくなったんだからそう思うしか
しょうがねえだろっ!!」

「そうか、やっと完全にいなくなってくれた様だな、やれやれ……」

「お父さん……?」

「親父……、どういう……事、だよ……、なあ……」

ニードは声を震わせながら村長の方を見る。その目は真実を
聞きたくないとでも言う様に絶望に満ちており、怒りで声も
震えていた……。

「あいつらはお前の仕事の成長の妨げになる、居て貰っては
邪魔になるのだ、だから私が昨夜、代表にジャミルを呼び出して
話を付けさせて貰った、……二度と余計な節介はするなとな……」

「じゃあ、じゃあ……、ジャミル達が急にいなくなったのは……」

「そうだ、私が村から出て行く様に言った……、二度と村に
近づくなともな……」

「嘘だ……、嘘だ……よ……、嫌だよ……」

ニードの心は完全に絶望で真っ暗になった。話を側で聞いていた
妹もショックで涙を零した……。だが、村長は先程と違い笑顔を
向け、ニードの肩に優しく手を置いた。

「親父……」

「ニード、此処はお前の宿屋なんだぞ?お前の方針で、これまで通り
やりたい様に経営をしなさい、失敗してもいいのだ、資金の事は心配
要らない、これまで通り私が送るからな……、私はお前自身の手で
作り上げるこの宿屋の未来を楽しみにしているのだ、誰かに指図など
されない、あんな奴らが言った通りにしなくても、お前なら十分、必ず
出来る筈だ……」

「オレの……?やりたい様に……?」

「そうだ、私は村長と言う立場上、これまでもバカ息子のお前に
厳しく当たって来た、だが、お前はもう自分の店を持てたんだ、
遠慮する事はないのだ、思う通りにやりなさい……、私はお前を
信じているよ、例え知恵の無いバカ息子でもな、何時の日か実を
結び、奇跡を起こして未来を必ず切り開いてくれるとな!」

「親父、分かったよ……、オレ、好きにやるよ、これまで通りにさ……」

「そうだ、それでいいのだ……」

ニードは村長の顔をそのまま見上げた。そして村長は引き上げて行く。
ニードはその後、カウンターに突っ伏したまま何もせず、鼻クソを
ほじくり、一日中座りながら眠っていた。ジャミル達が加勢に来る前の
状態に完全に逆戻りしてしまったのである……。

「おお、何て事じゃ……、ジャミル達は帰ってしまったのか……、
これでは元の木阿弥じゃ、……うう、守護天使様……」

外では話を聞いており、今日の様子を見に来たリッカの祖父も
絶望で身体が固まる……。そして、宿の中に入らず、悲しみに
暮れたまま引き上げて行った……。

「ねえ、ジャミル……、本当にこのままで良かったのかしら……」

「……」

一方、船に戻ったジャミル達だが、やはり何も言わず黙って
出て来た事に戸惑い、気持ちがまだモヤモヤしていた。

「良くねえよ、……逃げた様なモンだしよ……」

「うぎゃーモン、モンは逃げないんだモン!ウシャーッ!」

「あだだだっ!モンーっ!だからオイラの頭に噛み付くの
やめてよおーーっ!!」

「……逃げない……、か……」

「ジャミル……」

ジャミルはそう言うと甲板に座り、遠い海の彼方を眺めた。モヤモヤの
気持ちは益々広がってゆく。……だが……。

「俺ら、今までどんな時でも逃げないで立ち向かって来たじゃねえか、
なのにな、何だよ、あの親父がうっとおしいからって……、引き下がる
なんざらしくなかったぜ、……チ、どうかしてたさ、冗談じゃねえっての!」

「ジャミル……?あっ……」

ジャミルは再び立ち上がる。そして、アイシャとダウド、2人の
顔を見て頷いた。

「戻ろう、もう一度ウォルロへ……、俺らが戦うべき相手はあの
糞親父だったのさ、……あの野郎……、言ってやる、絶対言って
やるぞっ!とことん戦ってやる!煙たがられたって構うもんか!
……見てろ、老害爺!無茶苦茶言いやがって……」

「おじや撃退モンっ!!」

「そうだよっ!それでこそ嫌ラシー、執念ぶけージャミ公だってバ!」

「ガングロっ、うるせーってのっ!とにかくもう一度、ウォルロに
戻るぞっ、アルーっ!」

ジャミルは舵を取っているアルベルトの処へ急いで知らせに行く。
その姿を見たアイシャとダウドは頷きあって微笑む。だが、
ジャミル達が再びウォルロへ戻る決意をしたその夜。ウォルロでは
大変な事が起きていた。……今度はニードが宿を開け、ほったらかしに
したまま村から姿を消してしまっていたのである……。

「……おお~い、ニードおおーっ!」

「……返事してくれえーっ!ニードおーー!」

「……い、いたか!?」

「駄目だ、この付近は何処にも……」

「村の中にはもう完全にいないみたいだよ……、困ったねえ……」

「……そうか、もう夜も遅いし、強いモンスターも頻繁にうろつく
時間帯だ、今日はこれ以上俺達も探し回るのは危険だな……、
参ったな……、だが、このままでは……」

「お兄ちゃん……」

「……ニードさん、本当、何やってんスか……、ああ……」

おじさん、おばさんの村人達は総出でいなくなったニードを彼方此方
探し回っていた。だが、凶悪なモンスターも最近は此処でも出現数が
度が益々増している故、やたらと力の無い村人達が遠くまでチョロ
チョロするのは危険である。それ程、世界には既に異変が起きつつ
あったのだった。

「皆、済まなかったな、又バカ息子の所為で……、だが、それ程
心配する事もないだろう、少々いじけているだけだ、本当に心配ない、
だからもう皆は戻って休んでくれ、明日になればまたひょっこり
帰ってくるだろう……、根性無しの息子だからな……」

「村長さん……」

「でもなあ……」

「いいや、これ以上皆に迷惑を掛けるのは私としても心苦しいのだ、
本当に大丈夫だ、……頼む……」

村長はニードを心配してくれている皆に頭を下げた。それを見た
村人達は静かに頷く。気を落とさない様、村長に伝えると皆、
引き上げて行った……。

「君ももう帰りなさい、ニードが戻って来たら直ぐに知らせる……」

「分りました、……俺、ニードさんの事、信じてます、絶対
無事だって……」

子分も村長に頭を下げ、家に帰っていった。残された親子は……。

「こんな時、ジャミルさん達がいてくれたら……」

「……お前まで何だ、今はあんな得体の知れない余所者共の話をするな!」

「ううん、そもそもお父さんがジャミルさんに変な事言わなかったら
こんな事起きなかったんだよ、お兄ちゃんだっていなくならなかった、
……お父さんが悪いんだよっ!全部っ!!」

「何だと、お前……っ!いつから私に口答えする様になった!?」

「……っ!」

ニードの妹は目に涙を浮かべ、村長を睨んだ。そして、硬く目を
瞑る。今度は此方の親子喧嘩が始まってしまいそうになっていた……。

「俺らなら、いるぜ……?」

「……!?お、お前達っ!!」

「ああっ、……ジャミルさん、皆さんっ!!」

暗闇からジャミル達が現れ、姿を見せる。村長は動揺するが、
ニードの妹は泣きながらジャミル達の元へと走るのだった。

「お願い、助けて下さい!……お兄ちゃんが、お兄ちゃんが!」

「知ってる、実はさっきから隠れて暫く話を聞いてた、たく、
あのタワシめ……、大丈夫だ、ニードを直ぐに探しに行く!!」

「……ジャミルさんっ!」

泣いていたニードの妹の顔に笑顔が戻る。ジャミルは頷くと
仲間達にも目で合図し、ニードの妹の頭をわしわし撫でた。
……安心させる様に……。だが。

「ならん、ならんぞっ!お前達余所者には余計な事はしないで
貰おう!また戻って来たな!さっさと出て行けっ!!」

「おっさん……」

(うわー、何処まで邪魔するキ、このおっさん!自分の息子が心配じゃ
ねーのッ!?)

「シャアーーっ!!」

やはり、村長が立ちはだかる……。何処までもジャミル達には力を
貸して欲しくはない、余計な事はして貰いたくない、息子の危機
だろうが何だろうが、信念を貫き通す気で、お構いなしである。
しかし……。

「……嫌だね!」

「何だと……?」

「俺らだってアイツから聞きたい事があんだよっ!悪イけど、暫く
大人しくしてて貰うよ!……ダウドっ!」

「はあ~い、オイラやりまーす!……ラリホー!」

「お、お前達……、な、なに……を、うう……」

「お父さんっ!?」

今回はダウドが村長にラリホーを掛ける。村長は一発で倒れ、その場で
眠ってしまった。

「大丈夫さ、眠りの魔法を掛けて貰ったのさ、と、この間に……、
当分目は覚まさないと思うからさ、俺らニードを探しに行ってくるよ……」

「はい、分りました、皆さん、宜しくお願いします、お父さんは
このまま私が見ています、お兄ちゃんの事、どうか宜しく
お願いします……」

「大丈夫よ、ニードは私達が必ず連れ帰ってくるわ、ね?」

「ああ、僕達に任せて……」

「ラリホー、何とか持つといいんだけど……、うう~……」

アルベルト達もニードの妹を励ます様に優しく声を掛ける。彼女は
涙ながらに何回も何回も4人に頭を下げるのだった……。4人は
急いで村の外へと走る。

「さてと、モタモタしてらんねえぞ、モン、頼めるか……?」

「お任せモンーっ!……くんくん、くんくん……、ニードの匂い、
感じるモン、こっち……」

「っつーと、こっちは峠の道の方か……、よし!」

その頃……。行方不明のお騒がせニードは……。本当に峠の道、
あの天の箱船があった場所……、で1人項垂れ、蹲っていた……。

「はあ、オレ、このまま此処で遭難するんかなあ~、……畜生……」

「な~に、言ってんだっ!このタワシっ!」

「……?あ、ああっ!お前らっ!!」

聞こえてきた声にニードが後ろを振り向くと……、ジャミル達がいた……。
ニードは訳が分からず目が点になり、暫くその場に呆然と……。

「久しぶりだな、半日ぶりだなあ……」

「……って、ふ、ふざけんじゃねーぞっ、てめーらっ!よ、よくも
オレに内緒で勝手にいなくなりやがったなっ!ひ、人がどれだけ
寂しかったと思ってやがる!……あ、ああ、ち、違うっ!黙って
急に消えたのが気に食わねえんだよっ、オレはっ!」

「そうかそうか、寂しかったか、ほうほうほう~、ひひ……」

ジャミ公はニヤニヤ笑いながら突っ込んで来る。ニードは慌てて
弁明しようとするが、大変な事になってしまっていた……。

(ホント、素直じゃねーの、どいつもこいつも、人間てホントバーカ!)

「もう~、ジャミルも突かないのっ!本当に無事で良かったわ、
でも、ニード、私達、とってもとっても心配してたんだからねっ!
村の皆もよっ!」

「……アイシャ……、ああ、分かってる……、分かってるさ、けど……」

ニードはアイシャにそう言われると、こっぱずかしい様な、
困った様な表情を今度は見せる。やはり寂しかったと言うのは
彼の本音で間違いは無かった……。

「本当だよ……、全くもう……、さあ、村へ戻ろう、君の妹も
凄く心配しているよ、駄目じゃないか、あんなに可愛い妹を
泣かせたら……」

「う、うるっせーだけだよっ、よ、よう、親父の方は……?」

「オイラが魔法を掛けて今は眠って貰ってるよお、でも、相当
心配してるんじゃないの?さあ、魔法が切れない内に早く戻ろうよお……」

「嫌だ……」

「お、おい……」

「オレ、もう村には戻りたくねえ、宿屋の経営ももう嫌だ……、
嫌だ、嫌なんだよ……、何もかもよ……、大嫌いだ、あんな村……、
糞親父もよ……」

「タワシ……」

「モン~……」

「自由に……生きてえよ……、あん時はリッカ……、アイツの為、つい
格好付けてあんな事……、言っちまったけどよ、オレにはやっぱり
無理なんだよ……、無理だ、できっこねえよ、オレになんか……」

ニードは再び蹲る。そしてジャミルの方を見た。その顔には微かに
涙の跡が滲んでいた。

「ニード、今は俺らしか此処にはいねえ、だから遠慮せずお前の
本音を全部ぶちまけろよ、泣いたって構わねえよ、さあ……」

「ば、馬鹿野郎……、いい歳こいて……、んな事できっかよ……、
ぐ……、うう、プレッシャーだったんだよ、村の皆はオレに
期待する、いい宿屋にしてくれってさ、親父もさ、宿に資金
送ってまでさ、でも、オレはどうしていいか分かんねえ……、
混乱してばっかりさ、んで後悔すんのさ、毎日よ、あん時、
格好付けてあんな事、言わなきゃ良かったってさ、バカだろ、
オレ……」

「いいよ、続けろよ、聞いててやるから……」

ジャミルはそのままニードの隣に座る。これはニード本人の問題、
ニード自身が乗り越えなければならない事。気分が落ち着くまで、
とことん話を聞いて、全部話させてすっきりさせてやろうと思った。
仲間達も一緒に静かに見守る。モンはニードの頭の上に飛び乗る。
……でも、今日は太鼓は叩かないらしい。

「何かさ、お前が村に来て最初の頃、何も考えないで、お前と
此処に来た時の事、思い出してよ、懐かしくなっちまってさ、
それで、つい……、あの頃はオレもまだバカのまんまでも
良かったんだな……、何で人間てさ、大人になんなきゃ
いけねえのかな……」

「……」

「そういや、お前らセントシュタインの宿屋には行ったんだろ?
リッカの奴、どうだった?ずっと気にはなってたんだよ、でも、
オレなんかが心配する様な玉じゃねえのは分かってるけどさ……」

「実はさ……」

ジャミルはこの間、久しぶりにセントシュタインに趣き、リッカの
宿屋を訪れた時の事をニードに話した。

「そうか……、アイツはオレと違うし、宿屋も商売繁盛、毎日客も
凄いんだろうな、オレなんかやっぱり敵わねえよ、……凄いな……、
従業員からも慕われて、……何も心配する事もねえんだろうなあ~……、
天下無敵のリッカさんが羨ましいぜ……」

ジャミルはそう呟くニードの態度にカチンと来る。……そしてブチ切れる……。

「あ~あ、やっぱりお前はバカだよ……、いつまで立ってもタワシ頭め……」

「な、何だとっ!?……こ、この、アホジャミ公めっ!!」

「わわわ!ま、またっ!」

「……ダウド、大丈夫だよ、今はこのまま黙って見守ろう……」

何やら又喧嘩が始まりそうで、ダウドはオロオロするが、アルベルトが諭す。
ジャミルが何を伝えたいかはちゃんと分かっているから。アイシャも静かに
見守りながら微笑んでいる。

「人間誰だって悩みのねえ奴なんかいねえってのっ!いたらお目に
掛かってみたいわ!」

「ジャミ公……」

「そうだよねえ~、この人だって一応、悩みはあるんだよお、一応……」

〔げんこつ〕

「……何が一応だっ!とにかくだな……」

ジャミルはリッカが悩んで、戸惑っていた事を話す。例え仕事が
出来ても、経営が心配なくても、彼女は彼女なりに苦労しているの
だと。それでも、今、リッカは毎日頑張っている。昨日の自分よりも、
もっともっと輝こうと。大切な未来を作り、明日を切り開く為に。

「……知らなかった、オレ、何も知らなかった……、アイツは頭がいいし、
失敗もしねえだろうし、本当に毎日何の心配もいらねえで元気で
いると思ってた、オレ、オレ……、本当にまだまだ思考がガキ
だったんだなあ~、情けね……」

ジャミルは立ち上がるともう一度、ニードの方を見る。そして
再び口を開いた。

「さ、大体分かったろ?働くって事はハンパじゃねえよ、どんな
仕事だってさ、生きるって事もさ……、俺の話は此処までだ、後は
お前の気持ち次第さ……」

「オレの……?」

「そ、宿屋をこのまま続けるか、それとも……、さっきも言った様に
お前の気持ち次第だよ……」

「……」

ニードは暫く俯いていた。だが、やがて意を決した様に1人で
頷くのだった。

「オレ、村に戻るよ、……クソ親父と喧嘩して来る……」

「気持ち、固まったのね?」

「ああ……、ちゃんと糞親父に伝えるよ、オレの本音をよ……」

「……ニードおおお~……」

「お前らに扱かれた事、ぜってー忘れたくねえ!だから、オレは
オレの新しい方針でやる!とことんやってみてえんだ、オレの
経営する宿をさ!」

「うん、僕らも応援するよ!」

「モンモンーっ!」

「へ、へへへ……、ありがとよ……」

ニードは鼻を擦りながらジャミルの方を見る。その顔は少し
照れている様だった。

「よしっ、ウォルロに戻るぞっ!」

……そして、4人組とニードはウォルロへとルーラで戻る……。
無事に戻って来た兄の姿を見て、妹はボロボロ涙を零した。だが、
既に眠りの冷めていた村長は4人組に冷たい視線を向けると、
次にニードを睨んだ。親子は西部劇の様に黙ったまま、睨み合いを
続ける。だが、ニードの方が先に沈黙を破る。

「あああ~、ラリホー、やっぱり切れてたああ~、オイラもまだまだ
修行が足らないなあ~、とほほのほ~……」

「久しぶりだな、親父……、心配してるって言うから気が変って
戻って来てやったさ……」

「あれだけ言ったのに、まだジャミル達と連んでいるのか、
いい加減にしろ!それにどれだけ村の連中に心配を掛けたと
思っている!反省しろ!!」

(な~んか、やっぱやばそうなフンイキ~、もうみてらんねーってのっ!)

遂に親子喧嘩再発。だが、ジャミルはニヤニヤしながら様子を
見ている。そして、心でこっそりとニードに声援を送るのだった。

(タワシ、頑張れよ、もうこの際、徹底的に喧嘩してこい、んで、
さっき俺らに本音を言ってくれた通り、ちゃんとこのクソ親父にも
伝えるんだぜ、お前の本当の気持ちをさ……)

「シャシャシャのシャー!シャーーっ!!」

「……モンちゃん、威嚇しちゃ駄目っ!……そうよ、ニード、
あなた自身の口からちゃんとお父さんに気持ちを伝えるの、頑張って……」

「……ニード……、僕らも付いてる……」

「オレ、急に黙っていなくなったりして、村の皆に迷惑掛けた事、
本当に済まねえと思ってる、お前にもさ……」

「お兄ちゃん……」

「んでさ、やっぱ宿屋続ける、オレのやり方で……、親父、もうアンタからの
援助資金はこれ以上要らねえよ……」

「……!?」

「だから……、オレ、もう少しこいつらと一緒に宿屋修行してえ、
もっと色々教わりたいんだよっ!……オレの、オレだけの本当の
やってみたい理想の宿屋を作り上げる為にも!」

「……ニード、貴様……、親に逆らうのか?親がいなければ何も
出来んクズ息子が……!お前の様なクズは儂がついていなければ
何をしですか分からん!今回の様に!大人しく親に守られていれば
いいんだ!生意気を言うな!!」

やはり村長は凄い剣幕でニードに掴み掛かろうとする。だが、
ニードはもう、父親に殴られても自分の本心を変える気は無かった。
父親は幼い頃から悪さばかりし、手の着けられないバカ息子に
何かあればすぐに殴って言う事を聞かせた。だがもう今は違う。
父親の手から、もう本当に離れたかった。悪ガキが、やっと
大人になろうと決意した。少しずつ……。オレ、今度こそ頑張るから……、
信じて欲しい。それだけだった。

「いかん、いかんぞおおーーっ!ニードおおーーっ!お前は儂の
言う事だけ聞いていれば良いのだあーーっ!!」

「お、親父ーーっ!止めてくれ、お願いだよ……」

「……お父さんっ!!」

だが、村長の怒りは限界で等々ニードに拳を振り上げようとする……。
ニードは覚悟し、思わず目を瞑った…。

「逃げねえ、もう逃げねえんだよ、オレ……絶対にっ!……!?」

だが、全然痛くない……。恐る恐る目を開けると、其処には……。

「……ウ~ン……」

「……お、親父ィィィーーっ!!」

拳はニードには届かず、本人は禿頭にモチの様な大きなコブを
作って伸びていた。……犯人は……。そして、此処はニードの
実家である。4人とニードは気絶した村長を直ぐに部屋へと
運んだのである。勿論、直ぐにホイミを掛けたので大事には
至らなかったのだが……。

「はあ、どうなる事かと……、たく、気を付けろよ、オメーはよう、
モンスターじゃねえんだから、只のおっさんなんだぞ……」

(でも、モンスターなのには間違いないじゃん!流行りの
モンスター親父!)

「……サンディも黙ってて!ニード、その、本当にごめんよ……」

「はあ、でも、ホイミで大丈夫なのかなあ~……」

「ニード、本当にごめんなさい、私、私……」

「アイシャ……、も、もういいって……」

村長にコブを作った本人はニードに何度も頭を下げた。あの時、
アイシャは咄嗟にニードを救おうとし、……威力をセーブした
軽いイオを二人の間に放出し、喧嘩を止めさせようとした。だが、
イオは結果的に村長の方に当り、吹っ飛んだ村長は禿頭を岩に
叩き付けられ倒れて伸びた。

「いいよ、そんなに謝らないでくれよ、アイシャは俺の為に
喧嘩を止めようとしてくれたんだろ?やっぱ優しいよなあ~、
ん~、俺の未来の……」

「……オホンっ!」

「プッ……、ジャミル、ま、また焼きもち焼いてる……」

「お餅は網で焼くんだプープーモンモン!」

焼きもちジャミ公に吹きそうになるアルベルトと、ボケモンちゃん……。

「もう~、お兄ちゃんっ!えーと、アイシャさん、そうですよ、
でもこうやって何とか落ち着いたのはあなたのお陰です、少し、
休んだ方がいいんですよ、お父さんも……、お父さん、あれで
本当はね、毎日毎日、悩んでいたの、本当にこのままでいいのかって……、
ねえ、お兄ちゃん、お父さんね……」

「う、うう……」

「親父……」

「お父さん……」

漸く村長が目を覚ます。……村長は暫く部屋の中を見回した後、4人の
方も見ていたが、もう先程までの刺々しさはなかった。

「ふぇ、ご、ごめんなさい、私、私……」

ニードは困って涙目になるアイシャに対し、首を振る。そして、
父親と向かい合い、話をしようとする。だが、先に村長の方が
口を開いた。

「……夢を……見ていた……、久しぶりに妻が出て来た、お前が
生まれた時の……」

「オレの……?」

「自由に羽ばたいて、沢山の夢を見つけられる、そんな大人になって
欲しいと……、そう、よく話をしていた……、だが、私は一体何処で
何を間違ってしまったのやら、結果的にお前を甘やかし、我儘放題に
育ててしまったのは結局、父親であるこの私だ、だから……、手の届く
処で守ってやりながら、自らの手で今からでも何とか更生をさせようと
したが、無理だった……」

「……」

ニードも村長もそのまま俯いてしまい、言葉を無くす……。だが、
其処にジャミルが割り込んで来る。

「違うよ、おっさん、ニードはさ、そりゃ頭はタワシでバカだけど、
頑張ってたんだぜ?少しづつさ、何回も逃げようともしてたけど、
前にも進もうとしてたよ……、それは本当だよ、ここ数日、俺らも
側に付いてたから分かるよ、頼むよ、このままニードの本当に
やりたい様に宿屋を経営させてやってくれよ……、信じてやってくれよ……」

「ジャミ公……、お前……」

「……僕達からもお願いします、もう少し、僕らも一緒に彼の手伝いを
させてください!」

「おじさま、どうかお願いします!」

「オイラ達、もう少しニードと一緒にいたいんです……」

「タワシのチンチンモモモ~ン!」

アイシャは顔を赤くしてモンを抑え付けた。……いつも通り。

「好きにしろ……」

「えっ、親父……?」

「好きにしろと言っているんだ、ジャミル、もうお前達と係わるのは
疲れた、勝手にしろ……」

「おっさん、いいのかい?俺らもニードの宿屋の手伝いしてもさ……」

「私はお前達に一刻も早く此処を出て貰いたいのが本望だ、
認めた訳でもない、さあ、部屋を出て行ってくれ……、ニード、
早く行け、……また明日から宿を経営するのだろう、金輪際
お前の宿には力を貸してやらん、例えお前がこの先経営不振で
路頭に迷おうが、破産しようが一切もう知らんぞ……、自分で
乗り越えろ……」

「親父っ、有り難うっ!オレ、マジでぜってーぜってー頑張るって!」

「「有り難うございますっ!!」」

「モンっ!」

ジャミル達4人とモンも揃って村長に頭を下げる。妹は目頭を
擦りながら、花瓶の水を取り替えてくるねと部屋を出て行った。

「んじゃ、俺ら先に宿屋の方に行ってるな、も~疲れちまったよ……」

「オウ、わりいな、オレもすぐ行くからよ!」

「……ニード……」

「ん?」

村長はニードから顔を背け、横を向いたままぽつりと言葉を溢した。

「本当にいい友達を持ったな……、少しだけそう思っておいてやろう、
少しだけだ……」

「へへへ!」

それから……。ジャミル達もウォルロに一週間滞在が延長になり、
引き続きニードの宿屋の手伝いに回る。だが、やはり疲れると、
ニードはこっそりサボろうともしたが、その度、アルベルトの
スリッパに成敗される。そんなこんなだったが、時にはドタバタ、
楽しく毎日は過ぎて行った。宿屋にはニードの子分を始め、子供達も
遊びに来たり、沢山の村人が助っ人に来てくれる様になっていた。

「……」

「村長さん、又様子を見に来てくれたのかえ?有り難い事じゃ……」

「いや、私は別に……、お爺さん、息子は本当にこの先、大丈夫
なのだろうか、嫌、もう私が口を挟んではいけなかったな……」

「そうじゃのう、ジャミル達もそろそろ此処を立つからのう、
じゃが、ニードは一人ではないよ、皆がついておる、この先も、
ずっとのう、儂も生きていられる限り、ニードを支える覚悟じゃ……、
ほほほ、爺ちゃんもび~しびし、扱いてやりますよ!ほほほほ!
あだだ、ま、又腰が……」

「……」

やがて、ジャミル達も再びウォルロを立つ時がやって来る。
別れ際、ニードはジャミル達と約束を交わす。必ずこの宿屋を
世界一の宿屋にしてみせると。……その言葉通り、遠い未来、
リッカには生涯敵わないものの、ニードの宿屋は世界宿屋協会、
トップクラスへとリッカと肩を並べ、躍り出る事になる。だが、
それはまだまだ、先の話である。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 47

zoku勇者 ドラクエⅨ編 47

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-15

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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