zoku勇者 ドラクエⅨ編 46

タワシ頭の宿屋経営奮戦記・2

……翌朝。ニードはちゃんと宿屋に出勤して来たが、やる気の無い
態度は相変わらずで、カウンターに着いて何もしないまま、鼻糞を
又ほじくっていた。丁度、朝のトイレ掃除が終わり、ロビーに戻って
来たアルベルトはニードの態度を見て遂に……。

「ねえ、来てくれたんなら君もすぐ仕事に移ったらどうかな?
お客様を迎える準備をしなくちゃだよ……、心構えは大事だよ……」

「あんだよ、だからオレだってこうやって客迎える準備してんじゃ
ねえかよ、ま、どうせ来る心配もねえけどさ、大体お前、何サマだよ、
偉そうにしやがってよ、此処はオレがリッカから譲り受けた宿屋
なんだぜ!大体オレの宿屋の方針に従うのはお前ら下っ端の従業員の
方だろが!」

……ぷっ、ちん……、ぷつっ……

「わ~!アルっ、落ち着いてよお~!だ、駄目っ!切れたら……」

「ダウド、分かってる……、口で言ってもどうにもならないからね、
この系統は……、自分で分かるまでね……」

「あんだとお……?テメエ、マジで何サマなんだよ……、昨日から
気に食わねえな……、偉そうな態度しやがって……」

「わ、わ、わわわ……」

真面目で頑固なアルベルトと、お調子者でしかもチャラ男系のニード。
雅に水と油……。大元の自分達がいた世界でも、似た様な感じで、
アルベルトとジャミルの出会いは最悪であった。だが、アルベルトは
ジャミルに何度も助けられ、支えられ……、今の様な仲へと共に
成長して来た。勿論、現在もアホのジャミルとはケンカが時折
絶えないが、それでも一緒に困難を乗り越えて来た間柄である。
しかし、アルベルトと、いつまで立ってもまるで子供、心が完全に
ガキ大将の様なニードとは……。

「もうっ、何してるのっ!あ、ニード、来てくれたのなら残りの客室の
お掃除手伝ってよ!お店開ける時間でしょ、忙しいんだから!
早く早くーっ!」

「おー、アイシャーっ!グッモーニンッ♡」

「……」

其処にアイシャが顔を出すと、ニードの態度は一転。アイシャの姿を
見てハートマークを飛ばすポーズをした。

「はいはいっ~、オレの未来の若奥様~、今行くよーっ!……あいてえーーっ!!」

「シャアーーっ!!」

だが、何処からともなく飛んで来たモンに妨害され、ニードはタワシ頭を
噛み付かれた。……にもめげず、アイシャの後を追って髭ダンスのポーズで
アイシャが掃除している客室へとステップを踏んで向かう。直後、水が汲んで
あった掃除用のバケツにつまづきバケツの水をぶち捲けて全部ひっくり返す。
だが、ニードは床をびちゃびちゃにしたまま片付けもせずスタコラ逃走。

「……何だかもうやってられないよ、スリッパで叩く気にもならない……」

「どうしたのっ、アルっ!しっかりしてよお、昨日、ニードの為にも
明日は鬼になるって言ったじゃん!」

「そうなんだけどさ……、うう……」

「はあ、参った参った、くせ~……、最悪だわ……、お、アル……、
又どうしたんだよ……」

男子トイレの掃除を担当していたジャミルもロビーに顔を出した。
ジャミルが掃除していたトイレの方は汚さが最高潮だった様である。
手で宙をパタパタ仰ぎながら、臭いがこびり付いてしまったので、
ジャミルは困った顔をしていた……。

「ジャミル、お疲れ様……、あのさ、僕……、ちょっと外に出て来ても
いいかな……?す、すぐ戻るから……、我儘言ってしまって……」

ジャミルが見ると、アルベルトの顔には眉間に皺が……。無論、
ジャミルはアルベルトが早朝から皆と一緒に手を抜かず掃除を
頑張ってくれていた事も分かっているので、気分転換してこいやで、
彼を外へと散歩に送り出した。アルベルトが出て行った後、ジャミルは
ダウドから詳しい話を……。

「そうだったのか、……に、しても……、完全にアルが黙って
ブチ切れる寸前までやったんか、どうしようもねえなあ~、
あのタワシはよ……、あの頭で床ゴシゴシ擦ってやりたいわ……」

「……そんな場合じゃないよお~、ねえ、やっぱり宿屋の経営、
諦めた方がいいんじゃないのかな……、オイラ達が手伝っても
返って余計な反発を招きそうなんだよね……」

「……む~……」

ダウドにそう言われ、ジャミルも考え込む……。確かに、此処はオレの
宿屋だと糞威張りするのならそれでいい、……だが、やはり、リッカの
祖父の気持ちも考えるとこのまま、放っておけないのも事実……。

「とにかくだ、やっぱり、はいそうですかで逃げる訳にはいかねえんだ、
爺さんの為にも……、今はとにかく客だ、客を呼ぶ事からだ……、そっから
始めねえと……、バカ店主の教育は後回しだ……、はあ、節介屋は疲れる……、
今日ほど感じた事はねえや……」

「本当だよお、2週間で何とかなるのかなあ~、難しいねえ~……」

「……」

ジャミルとダウドがこんな会話を交わしていた頃……。外に出た
アルベルトは玄関先で小さな女の子に呼び止められていた。

「あのう~……、此処にジャミルさんはいらっしゃいますか……?」

「はい?もしかしてお客様……?ではないよね……、はは、僕は
アルベルトです、ジャミルの仲間であり、友達です、えーと、
ジャミルに用が?」

「……ジャミルさんの……!あの、ジャミルさんが村に戻って来て、
今宿屋にいるってリッカさんのお爺さんから聞いたんです、……わ、
私、ニードお兄ちゃんの妹です……、初めまして……」

「あ、ああ、そうか、成程……、君はニードの……」

ニードの妹……は、顔立ちの良いアルベルトの顔を見て顔を赤くし、
何だかドギマギしている様だった。タワシ頭とは似ても似つかない、
しっかりした感じの少女。だが、直後、少女はアルベルトに向かって
急にガバッと頭を下げるのだった……。

「……ごめんなさいっ!……ウチのお兄ちゃんが!本当にご迷惑を
お掛けしてしまってっ!!」

「え、えええ!?」

ニードの妹はアルベルトに謝罪し、頭を何度も何度も下げる……。
アルベルトはアルベルトで、一体何故彼女が謝らなければ
ならないのか困惑してしまう……。

「私、さっきからずっと外で……、お兄ちゃんの罵声を聞いていたんです、
本当に本当にご免なさい、私、妹として、どうお詫びしたら良いのか
分からなくて……」

「か、顔を上げてくれないか?どうして君が謝るんだい?何も
悪くないよ……、ね?」

「でもっ、でもっ、私、本当に悲しいんです、お兄ちゃん、これまで
村の皆にも宿屋をやっていくの、とても期待されていたんです、頑張れよ
って……、皆が応援してくれた、それなのに……、ジャミルさん達が
宿屋の経営を手伝って下さるって事もお爺さんから……、でも、やっぱり
兄がご迷惑をお掛けしている様なので、申し訳なくて……」

目の前の少女はこんなに小さいのに不届き者の兄貴の不祥事を
代わりに謝罪しに来たのである。……目に涙を浮かべ、必死で
謝る目の前の少女の痛々しい姿にアルベルトはやるせなくなった
……。そして、しっかりと気持ちを固める……。やはり、どうしても
自分達は此処から逃げる訳にいかないと……。

「……僕らが今やらなくちゃいけない事、出来る事……、
この宿屋の未来の為、そして……」

アルベルトは意を決した様に暫くその場に立ち尽くしていた。
ニードの妹は一旦実家へ戻ったが、アルベルトに、皆さん
どうかお兄ちゃんの事、宜しくお願いします!と、去り際に
何度も何度も頭を下げて行った。その姿を胸に刻んで、今度こそ
アルベルトは……。

「……ダウドの言う通りさ、今度こそ僕ももう容赦しない……」

そう呟きながら、懐に隠しているスリッパを再び取り出す……。

「ジャミル、ダウドっ!」

「……お?アル、もう戻って……、いいいいっ!?」

「時間が無いよ、時間が……、お客様の呼び込み準備開始と、そして、
アホへの教育的指導ももう躊躇せず、開始致す……」

「……うわあーーっ!?」

戻って来たアルベルトを見て、ジャミダウコンビ絶句……。アルベルトは
黒い笑みを浮かべ、又も腹黒モードになっていた……。

「……うふふ、うふふ、うふ、うふふ……♡君達も……、もしも村に
見慣れないお客さんが来たら徹底的にチェックして……、もしかしたら
疲れた旅人さんかも知れないから、そして、宿屋で最高のお持て成しを
させて頂くのさ……、お客様の心行くまで……、ふふ……、お客様に又
来たいって思って貰う事、それが一番大事……、ふふふ……」

「……い、言ってる事は分かるけどよ、アルっ、オメーこえーよっ!
……お?」

と、其処にニードとブンむくれた状態のアイシャ登場……。まだ
懲りずにしつこくアイシャを追い掛け回している様子……。

「なあなあ、こんな宿屋、客なんかこねーって!それよりも村の中
案内してやるよ、この村の滝の眺めは絶景でよ……、女の子なら絶対
気に入ると思うぜぇ!」

「もうっ!お仕事の方が先でしょっ!駄目よっ、何考えてるのよう!」

「ニードっ!……あの野郎めっ!ん……?」

「……成敗ーーっ!必殺っ!……秘技・スリッパ乱舞・SP!!」


……パンパンパンパンパンパンパンパンパン……パンッ!!


「……うふぇ、ふぇふぇ~……、な、なにすんらああ~、
れめええ~……」

アルベルトは高速連打でスリッパ叩きを繰り出し、ニードを
気絶させる……。が、すぐに又スリッパで再度頭を引っぱたき、
叩き起こした……。

「い、いっつ……、テメエーーっ!ひ、ひいいーーっ!?」

「どうかな?頭、すっきりしたろ?うふふ、ふふ、うふふ~ふ……♡」

「……おーいっ!おかしいんじゃねえのかよっ!お前らの
連れはようーーっ!!」

ジャミルとダウドはわてら知りませーんと、言う様に片手を振った。
こうなった時の腹黒は誰にも止める事が出来ない故……。

「真面目に仕事する事さ、そうすりゃアルも機嫌が良くなる
だろうからよ……」

「!……じょ、冗談じゃねえよっ、オ、オレ、もう帰る……、
……ひええーーっ!?」

「駄目、帰るな……、うふふ~♡」

「……ぎゃあーーーーっ!!」

「悪い子だあれーー!?シャーーモンっ!!」

アルベルトは黒い笑みのまま、ニードの背後から手を肩に
掛けた……。その横から、ホラーカオス顔でモンが出現……。
宿屋は一時期バカホラーハウスと化し、ニードは少しお漏らしを
した。黙って見ていたサンディは、どうでもいいけど、アタシ
だって、人捜しがあんだからさあ、さっさとしてよネ!と愚痴を
漏らした。……そして、4人はニードをびびらせながらも何とか
午前中、遂に仕事に密着させる事に成功する……。と、言っても、
まだ簡単な掃除を監視尽きっきりでさせていただけだが……。

「は、はあ、何とか掃除終わったぜぇ……、畜生、も、もう、
労働基準法違反だぞ、畜生……、うう~、グレてやるぞ……」

「アホっ!何言ってんだっ、このタワシめっ!」

「……うるせージャミ公っ!!」

「あはは~、ニードもご苦労様~、お昼ご飯出来たよおー、
皆で食べようー!」

「ご飯モン~!」

ダウドがお玉を持って厨房から顔を出した。ドタバタで時間は
あっという間に過ぎ、もうそんな時間になっていた。

「飯っ!?……てか、おめー、飯作れんのかよ、……ゴキでも
入ってんじゃねえのか……」

「なっ、し、失礼だなあっ!そんな事言うなら食べなくていいよお!」

「もう~、ダウドも怒らないのっ!本当よ、美味しいわよ~、ダウドの
作ってくれるご飯、お腹空いたでしょ、さあ、食べに行きましょ!」

「おう、まあ、アイシャがそう言うなら……、食ってやっていいぜ……、
ふん」

「!!!あ、頭くるなあ~っ!……ブシャアーーっ!!」

「まあまあ、ダウドも落ち着いて、まだ先は長いんだからさ、大変だけど
頑張ろう……」

「うう~、分かったよお~……」

アルベルトはダウドを宥める。アルベルトの機嫌も戻りつつあったが、
朝、腹黒モードになっていた己が何が落ち着けかとジャミ公は心で……。

「……何か?ジャミル……」

「いや、何でもないです……」

そして、昼ご飯。食堂のテーブルにてお昼タイム。今日は野菜ポタージュと
焼いたパン。

「……結構……美味いな……」

「えっ?本当~!」

「……い、いや、本の少しだよっ!……フン!……せ、折角だから
お代わりしてやる……」

「何だよお~、ほんとにいい~……」

呆れるダウドと素直じゃ無いニードにアイシャはくすっと笑う。
どうしようも無い、素直ではないツンデレ野郎ばかり。そして午後、
ニードは隙を見て又逃走しようと目論むが、アルベルトにより
成敗される。どうにかこうにか、今日も一日が終わろうとしていた……。
あっという間に夕方になり、夕食タイム。

「ふ~、美味かったああー!」

「ご馳走様でした、今日も一日美味しい食事を有り難う……」

「ご馳走様でしたー!」

「モンモンー!お腹いっぱ~い!」

「えへへ、お粗末様でした~……」

「……」

ジャミル達は食後の休憩に入ったが、ダウドは先に食器を洗って
しまおうと引き続き厨房へ行こうとする。そんなダウドの側に
ニードがやって来る……。

「おい、お前よう……」

「ん?ニード?な、なに……?」

「お前の言った事、嘘じゃなかったぜ、飯……、美味かった、
じゃあな……、明日も食わせてくれんだろ?……ちゃんと作れよっ!
……じゃ、ねえと……ブン殴るからな!」

「……ニード……、ふふ……、有り難うー!」

ニードはそれだけ言うとダウドに顔を見せず、直ぐにその場を
立ち去るのだった。様子を覗っていた野次馬サンディ。くくっと
堪えきれない笑みを漏らす。

「……ふふ、おんやああ~、これって、な~んかもう早くも
デレてますって感じデスかあ~?ん~、マジ根性ナシー!」

そして夜は夜で、宿を閉めた後、アルベルト講師によるニードへの
教育研修が……。お客様への応対、接待態度、言葉遣い……、徹底的に
叩き込まれた……。

「……勘弁してください~、もうお家帰りたいよう~……、とほほ~……」

「まだまだだよ、……まだ1時間しか立ってないじゃないか、……22時
まではやるからね、うふふ、うふふ、うふふふ~……♡」

そして翌日。遂に喜ぶべき事が起こる。午後、この宿に再び客が
訪れたのである。しかも……。

「こんにちは……、私は修行の旅で彼方此方を回っている戦士の者よ、
少しこの付近で一休みしたいと思って……、この村の宿屋は此処で
いいのかしら……」

「うわあおーーっ!びっじーんっ!し、しかもーーっ!!」

「ふふ……」

訪れたお客様はとびきり美人の女戦士。女戦士はストレートロングヘアを
掻き分ける。
ビキニアーマーから弾けるポロリと、下の部分からちらちら見える
セクシーなすらりとした長い足。古典的表現で、海外アニメの様に、
ニードがオーバーアクションで、目からハートマークが思わず飛び出た。

……パンッ!!

「いっでえええーーっ!!」

「ニードっ、そうじゃないだろっ!昨夜僕が言った事、忘れない様に!
まずはお客様がいらっしゃった時のお持て成しのご挨拶はっ!?」

「ちぇっ……、分かったよ、えーと……、ようこそ、ウォルロの宿屋へ、
い、いらっしゃいませ……、どうぞごゆるりとお寛ぎ下さいませ……、
こんなモンなのか?」

流石、糞真面目なアルベルト、容赦しない。ニードは叩かれた頭を
抑えながら口を尖らせる。ドキマギしながらも昨夜アルベルトに
散々教わったお客様への挨拶、応対をした。

「OK、最初はこんな感じでいいからね!」

「……」

「何かアイシャが……、さっきからさりげなくオイラ達の方も
見てるの、気の所為……?」

「気の所為だろ、多分……」

(プッ、やっぱりヤローってみんなバカ!スケベっ!きゃははは!もう
一生治んないよネ!)

「モンのおチンも成長したモン?」

……アイシャは慌てて素早くモンを抑え付け、めっ!をした……。
此方の教育は駄目である。

「まあ、若いのに、あなたが此処の宿屋の宿主さんなのかしら?
偉いわね……」

「!!は、はいーい!い、今すぐお部屋へご案内致しますっ!
……おい、従業員のお前ら!じゃ、なかったっ、皆さんっ!
お客様のお荷物をお運びして下さいっ!」

「はいはいっ、んじゃ、今回は俺がやるか、どぞどぞ、此方です……」

「有り難う、助かるわ……」

ジャミルは客の荷物をひょいっと持ち上げると、取りあえず、中の
掃除ももう完璧で、お客様に泊まって貰っても十分申し分のない
客室へ案内する。数分後、ジャミルがのこのこロビーへと戻って来た。

「ジャミル、どうだった……?」

「ああ、あのな……」

アイシャがドキドキしながらジャミルに尋ねると、ジャミルは
笑顔を返した。ベッドの感触も心地よさも最高で、このまま少し
横になって疲れを取ると言っており、夕食まで身体を休めている
との事。

「わあー、喜んで貰えたんだねえ~!」

「モンモンー!」

「まずは一安心て処だね……」

「ふう~、オレもやれば出来るんじゃん、ふ、ふふふふ……、ふ……」

「さ、ニード、宿主さんっ、休んでいる暇はないよっ、次の仕事仕事!」

「……うええええ~っ!?」

アルベルトは思わず気を抜きそうになったニードに引き続き渇を入れる。
まだまだする事は沢山ある。自分達が此処にいられる間、この宿屋を
再生させなければならない。何としても。何れは又ニード1人で宿主と
して頑張って貰わなくてはならないのだから。そして、間髪入れずに
もう次の客がやって来る。

「こんにちは、わたくし、旅行でこの付近まで来まして、此処で休ませて
頂きたいのですが……」

「「ようこそ、いらっしゃいませーー!!」」

「ば、ばあさん……?ちぇっ、つまんねーなあ……」

「……オホンっ!」

4人組は揃って声を揃え、お客様に挨拶するが、入って来た客の姿を
見て、ニードの顔が引き攣るが、アルベルトに突かれる。さっきと
違ってお婆さんだったのが不満らしい。お洒落な帽子を羽織り、
ロングコートを羽織った小綺麗な身なりの老婆である。

「……ニード、忘れてないよね?……お客様へのお持て成しの心、
笑顔……」

「はいーーっ!ようこそようこそ!ウォルロの宿屋へ!小さい宿ですけど、
ごゆっくりお寛ぎ頂ける様、精一杯私達がお持て成しさせていただき
ますっ!!……ゼーはーゼーはー……」

「うんうん、それでいいんだよ……」

「有り難うございますね、では、ゆっくりさせて頂こうかしら、
……あ、ああっ?」

「……あっ!お客様っ!?」

だが直後、お婆さんが急によろけて倒れそうになる。……が、
お婆さんを助け、咄嗟に身体を支えたのは、ニードであった……。

「……だ、大丈夫スか……?」

「ええ、この処……、年の所為か、たまに立ち眩みが起きる事が
ありまして、でも、本当に有り難う、助かりましたよ、お兄さん……、
此処の宿屋、亡くなった主人と昔一度来た事がありましてね、
つい、ふと懐かしくなりまして、来てみたんですよ……、
宿主さんは昔と違うみたいですけれど、お持て成しの心を
失っていない、変らない素敵な宿屋ですね、本当に……」

「いや、そんな事ねえスよ……、へへ、宿を引き継いだつっても
オレなんかまだまだ新人スから、じゃあ、オレが部屋までご案内
します、此方です……」

「まあ……、本当に助かります、ありがとう……」

ニードはお婆さんの荷物を持ち、手を繋いでゆっくり部屋まで
案内を始める。確実に成長しているニードのその姿を見た4人は……。

「や、やった、やったよ、皆……、あのニードがやっと、
自分で……、動いて……、お客様を……、あは、あははは……」

「しかもちゃんとお部屋まで案内してくれたねえ~……」

「ええ、偉いわ、ニード……、お客様のエスコートもちゃんと
出来てるもの……」

「タワシ、頑張ったんだモン!」

「取りあえず、一歩前進かな……、ふ~……」

4人組が喜びあっていた処に、本人登場。異様にはしゃいでいる
ジャミル達の姿に首を傾げた。

「な、何してんだよっ、おめーらっ!……モタモタしてる暇はねえぞっ!
オラ、働けコラーーっ!!」

「了解ーーーっ!!」

ジャミル達は笑いながら自分達の仕事の持ち場に着く。まるで立場が
逆の様になってしまうが、ニードの成長に心から喜んでいた。次の日も、
4人組とニードは力を併せ、二組のお客様へ最後まで精一杯お持て成し
させて頂き、大変満足し、お帰りになって頂いた。そして、その日の夜。
宿屋にはリッカのお爺さんと、べらべら彼方此方で喋り捲ってくれた
モンの報告で、ジャミル達に会いに村中の皆がニードの宿屋の応援も
兼ねて駆付け、集まってくれたのだった。

「ジャミル、有り難う、君達のお陰だ、このバカ息子もやっと漸く
観念してちゃんと宿屋を経営してくれる気になった様だ、感謝するよ……」

「いやいや、俺らはそんな、ははっ!」

「ええ、彼の熱意と頑張りは本当に凄かったです……」

「……うん、そりゃもうね、スリッパの仕置きに必死で
怯えて耐えなが……」

「ダウド……、うふ、うふふふ~……♡」

アルベルトの黒い笑みにダウドは慌てて押し黙るのであった……。

「親父ィィ~、ちぇっ……」

「本当よ、お兄ちゃん、もうっ、これからは真面目に頑張ってよね、
ジャミルさん達に迷惑掛けちゃ駄目よ!」

「……お前もうるせーっての!分かってるよ……」

ファミリーに注意され、ニードはふて腐れながらも料理をがっつく。
……横目でちらちらとアイシャの方を見ながら……。

「でも、ニードは本当にとっても頑張ってたのよ、ね、ニード!」

「そ、そう……、そうなんだよっ!わはは!さっすが~、アイシャは
分かってくれてる~!だってオレの未来のさ……、あいてーーっ!!」

それ以上その言葉は続かず。顔に青筋を浮かせたジャミ公がニードの
片足を踏み、言葉を停止させたからである。

「はあ~、全くこれだもんなあ~、困っちゃいますよ~、ニードさん、
本当にしっかりして下さいよーーっ!?俺、ニードさんのイチの
子分としていっつも心配してるんスからねっ!」

「やかましいっ!あーもうっ!マジでうるせー奴ばっかだよっ!!」

「ニードっ、お前のそう言う態度を改めろとみんな心配しておるの
じゃぞ!……うう、わ、儂は、儂は……、一体もうどうなる事かと……、
じゅ、寿命が1年縮まったわ……」

「全くナア、長生きしてくれよ、爺さん……、苦労するなあ……」

「……ニードおおおーーっ!!あだだ、こ、腰が……」

「わははははっ!!」

「あはははは!」

その夜、ウォルロの宿では人々の明るい笑い声が響き渡る。村の皆も
もう一度ニードを応援してくれる様になり、宿屋もニードも又明るい
希望の階を見せ始めていた。だが。

「……ジャミル、ちょっといいかね……」

「ん?」

「……お前だけに話があるのだ、ちょっと今直ぐに外に出てくれないか……?」

「おっさん……?」

村長……、村の長であるニードの父親はジャミルに静かにそう言うと、
目配せし、先に外へと出て行く。村長が外に出て行ったのは誰も気が
つかず。はしゃいでいる仲間達、……息子のニードでさえも……。

「う~ん、俺だけに話って、何なんだろ、ま、いいか……」

(な、何か、おっさんの愛の告白とかッ!?キモっ!)

「……どうしてそう言う方向に行くんだよ、オメーはよ、ガングロ、
後でデコピンだかんな!」

(や~ですよーっだ!アホっ!)

サンディはそれきり大人しくなったが。だがジャミルは村長が先程
自分を見ていた時の目つきに違和感を感じていた。……どうも余り
いい話じゃねえなとは感じていたのである……。

「で、おっさん、何の用だい?俺だけに話って……」

村長は他の者に気づかれない様、話を聞かれない様、ジャミルを
宿屋から出来るだけ遠ざける。暫く2人は歩き、ジャミルが連れて
行かれた場所は……、あの日、ジャミルが天使界から墜落した場所。
この村の滝の側であった。

「此処なら誰にも聞かれまい、では、手っ取り早く話をしようか……」

「……」

(アタシはちゃんと聞いてるけどネ!)

「……急で申し訳ないが、明日、この村を出て行ってはくれまいか?
そして、もう二度とウォルロには近づかないでくれ……、大体私は
得体の知れないお前が最初から目障りで仕方が無かった、やっと
村から出て行ってくれて安心していたのだ、まさか戻って来るとは……」

「おっさん……?」

やはり嫌な予感は的中する。村長はジャミル達を険悪な目で見て
いたのである。宿屋にいた時、ジャミル達に掛けた労いの言葉は
村長の本心では無かったのだった。

「お前達が結局は息子の成長を邪魔していたのだ、そう
思わないか……?確かにアレはバカでどうしようもない、
出来の悪いドラ息子だ、それは私も承知している、だが……、
リッカは息子を信じてあの宿をあいつに託して行ったのだ、
それを……」

「……」

村長はジャミルの方を見ず、滝の方を向いて言葉を続ける。ジャミルも
そのまま黙りこくっていた。

「余計な事をしてくれたんだよ、お前達は……、私は信じていた、
あいつはやれば出来る男なのだ、他人の助けなど借りずにな、
私は影から息子を見守っていた、困難に打ち勝ち、きっと
宿屋を盛り上げてくれると、そう信じていた、それなのに……、
お前達は本当に余計な事をしてくれたのだ!……これでは息子が
お前達、他人の力を借りて成長してしまったまるでロクデナシの
様ではないか!……情けない……」

村長は等々ジャミルの方を向いた。その目は憎々しげにじっと
ジャミルを睨んでいる。

(……何ッ、このオヤジッ!……言ってる事チョー無茶苦茶なんです
ケドっ!!)

「サンディ、いいっての……、要するに、俺らが余計な事しなくても、
ニードはちゃんと何時か宿屋を経営出来てた、1人でも立ち直れた筈、
おっさんはそう言いたいんだろ?」

「そうだ……」

村長はジャミル達が急に宿屋に現れ、ニードにあれこれ口出し
したのが気に食わないのである。リッカから受け継いだ宿は
ニードが主なのだから。こうまで言われた以上、もうジャミル
達も此処にこれ以上留まる訳に行かなくなった……。

「分かったよ、俺ら明日早く、ニードが寝てる間にウォルロを
立つよ、皆にもそう言っとく、それでいいかい?」

「分かればいいのだ、では、私は先に家に帰るとするよ、じゃあな、
達者でな、ジャミル……」

「ちょっ!すんげームカツクってのっ!何サっ、クソオヤジっ!!」

「だからいいっての……、ま、確かに俺らも節介焼きすぎたかな、
そうかもな……、あいつだって子供じゃねえんだし、サンディ、
戻ろうや、アル達にも言っとかねえと、ニードも本当は迷惑
だったかもな、いきなり俺らが来てあれこれ宿屋でやってさ……」

ジャミルは村長がいなくなった後、飛び出して来たサンディを
諭す様に静かに呟いた。だが、サンディはいつもうるさい
ジャミ公が反論せず大人しくしているのが不満な様だった。

「ネ、ボンクラが寝てる間に此処から出て行くの?何も言わないでサ、
それって気分悪くネ?いきなり何も言わないでいなくなるなんて……、
せめて、アイツの本当の気持ち聞いたらどーなん?出て行くの
それからでも遅くないじゃん!」

「仕方ねーだろ、出て行く様に言われたんだからさ……」

ジャミルはそれ以上何も言わず、黙って宿屋までの道を歩き出した。
サンディも呆れ、再びジャミルの中に姿を消すのだった……。

「……」

「あ、お帰り~、ジャミル、何処行ってたのさ!」

「ああ、少し散歩さ、この村で星を見るのも最高なんだぜ、だからさ……」

ジャミルは出迎えてくれたダウドの顔を見ながら口を噤む。そして
ニードの方をちらっと見るのだった。

「おー、ジャミ公!マジで何処行ってたんだよっ!今よう~、
アイシャちゃんの可愛い可愛い~、冒険記を聞いてたのっ!
……う~いっ、ねーねー、オレもパーティに入れてよう~、
ねえ~ん♡」

「あはは、ニードったら、ちゃんとお仕事があるんだから、
それは駄目よ……」

「……ニードさあ~ん、だから情けねーって言ってるんス
よう~……」

「もう……、お兄ちゃんたらあ……」

誰が飲ませたんだか、ニードはどうやら完全に酔っている様子。
アイシャに纏わり付き、アイシャは苦笑いし、タワシ頭にはモンが
噛み付いている。村人達はそれを見てゲラゲラ笑っていた。

「アル、スリッパ貸せや……」

「い、今は止めよう、一番楽しい時だからさ……」

「そうだな、おい、ニードよう……」

「ん~、何だよジャミ公、や、やるんかあ~!?」

「……」

ジャミルはニードに近づいて行くと、頭の上に乗っかっているモンを外し、
アイシャに渡す。そして、タワシ頭をわしわし撫でていじくるのだった。

「……な、何だよっ!よせったら!ヘアスタイルが乱れるだろうがっ!
お、おいっ!」

「頑張れよ、お前ならもう……、大丈夫さ……」

ジャミルはそう呟きながらニードの頭から手を離す。そして一言、
バカタワシと舌を向け毒舌を吐いた。

「え?……あんだと!?この野郎っ!」

「ふぃ~、アホを相手にすると疲れるわ……、えーっと、みんな、
今日は俺らの為、それからニードの応援に来てくれてありがとな、
でも、又明日も早いし、今夜はこの辺で俺らも休みたいからさ……」

「そうだねえ、んじゃ、儂らもそろそろお暇するかね!」

「名残惜しいがなあ、でも、まだ当分は村にいるんだろ?又
来るからな!」

「ジャミル、皆さんや、本当に有り難うの……」

「皆さん、どうかお兄ちゃんの事、引き続き宜しくお願いします……」

「本当、今日はありがとなー!」

「「有り難うございましたー!」」

ジャミルが去って行く皆に挨拶し、アルベルト達も頭を下げた。
楽しい一時はこうして終わる……。

「ぐうぐう、畜生……、ジャミ公のアホ、ふにゃふにゃ……、
小便漏らしてんじゃねえよ」

「ありゃりゃ、ニードってば、完全に寝てるよお……」

「疲れたんだね、頑張ったものね……」

ダウドもアルベルトもテーブルに突っ伏したまま眠るニードの姿を
見て微笑む。暫くこのままにしておいてあげようと、アイシャも
ニードに毛布を掛けてあげた。

「丁度いいや、お前らに話がある、来てくれや……」

「えっ?……ジャミル……」

アルベルト達は不思議な顔をするが……、ジャミルはニードを
起こさない様、仲間達に注意し、客室へと集まらせ、先程の
件を伝えた……。

「そうか、村長さんがね……、でも、そう思われたのなら仕方が
無いね、でも、僕らも確かに何時までも此処にいる訳には行かない
からね……、潮時なのかな……」

「だけど、酷い……、そんな言い方……」

「やっぱりおじや怖いんだモン!シャーー!!」

「オイラ達も最終的にはジャミルに従うけど、でも、本当に
このまま何も言わないでさよならなんて……、寂しいよ……」

ダウドはそう言葉を溢したまま項垂れる。アルベルトも、アイシャも……。
サンディはあのままジャミルの中から出て来ないまま。

「でな、シコリが残らねえ様、今夜もう今すぐ出発しようと思う、
直ぐにだ……」

「ジャミル……」

アイシャはジャミルの顔を見上げる。アイシャも本当はジャミルの
気持ちを分かっている。だから……。

「分かった、行こう……、これ以上いたら辛くなるだけだからね、
このまま何も言わないで出て行く方がいい、支度をしよう……」

アルベルトの言葉にダウドもアイシャも頷く。ニードはもう自分達が
いなくても、立派に宿屋を経営してくれる。いつの日か、世界宿屋協会
トップクラスに入るぐらいの……。そう信じ、彼らは宿屋を静かに
後にした。

「じゃあな、タワシ……、あばよ、楽しかったぜ、……さよなら……」

zoku勇者 ドラクエⅨ編 46

zoku勇者 ドラクエⅨ編 46

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-15

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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