zoku勇者 ドラクエⅨ編 45
今回から又少しオリジナル話に入ります。今回はニードメインです。
タワシ頭の宿屋経営奮戦記・1
カルバド大草原、ナムジン達ともさよならをし、次の新しい場所を
探し、4人組は船でのんびりと海を漂っていたが。
「……はあ~、やっぱりお別れって辛いねえ~、分かってる事
なんだけど……」
ダウドはあれから溜息ばかりついて。出会えばいつかは必ず別れが
来るのは本人も呟いている通り切なくて仕方のない事である。だが、
今回は余りにもダウドが落ち込んでいるので、どうにかしてやれねえ
かなあとジャミルは思ってみるが。
「アル、あのさ……、舵、替わってくれないかな?」
「ん?いいけど、どうしたの、珍しいね……」
「うん、たまにはオイラもやってみたいんだ、ダメかな……?」
「分かった、任せていいかな?」
「有り難うーーっ!アルっ!」
アルベルトはダウドと舵取りを交代する。やはり、何かしていないと
落ち着かないのだろうと思う。ダウドと交代して貰い、自分も少し
休ませて貰おうと甲板に出る。
「ジャミル、何してるんだい?海に何かいたの?」
「アル、大変だ……」
「え、えっ!?」
「忘れてたんだ、今日、夕飯当番……、アイシャだぞ、しかも……、
モン大先生、サポート付きの麻婆豆腐だ……」
「あう……」
「はあ~、ホント、人間サマって大変だよネ!アタシはほとんど
人間の食べる物って滅多に口にしないから分かんないし!でも、
栄養取る為には好き嫌いはダメだかんネッ!」
と、人ごとの様に呟くサンディであった。……その夜。船室の
食堂のテーブルには、何故か甘い苺キャンディー入り、+練乳掛け
麻婆豆腐が並んだそうじゃ。
「さあ、いっぱい食べてね!あ、私はまた、ダイエット中だから……」
「……自分でも食ええーーっ!!」
「お断り致すの♡」
と、船中にジャミ公の罵声が響き渡る。そんなこんなで、4人組は
今日も元気であった。結局、吐きそうになりながらも破壊料理を口に
してしまう健気なジャミルと男衆達。
「……畜生~、アイシャの奴めえ~!……う、うえ……、おえ~……」
「はあ、今日も無事に食事が済んだね、……うっ……」
「……それでも生きてるオイラ達って凄いの~、タフ……」
野郎共は甲板で只管愚痴っていた。張本人のアイシャは既にモンと共に
自身の船室に逃走。
「俺、さっき急に反射的に思い出した事があるんだ、俺が一番最初に
世話になってた村でさ、ダチになった奴がいて、この間アイシャにも
ちょっと話したんだけど、どうしてんのかなと……」
「ふ~ん?」
ダウドは不思議そうに首を傾げる。ジャミルはニードの事と、彼が
リッカの後を継いで現在はウォルロ村の宿屋を経営している事を話した。
「……あいつの麻婆の所為だ、何か異様に不安になって来たんだ、リッカは
しっかりしてるし、いい仲間が回りでサポートしてくれてるから、もう何の
心配も要らねえけどよ、でもな、ニードの方はさ……、アホ……って、又俺が
節介焼く立場じゃねえよな……」
「……」
アルベルトとダウドは顔を見合わせ頷き合う。又少し休憩しても
いいのではないかと。
「心配なら村に行ってみようよ、僕らもニードに会ってみたいし」
「オイラもいいよお、少し休めるしさ……」
「なになに~?あのボンクラに会いに行くって~!?マ、いいんじゃん?」
「いいのか?わりィなあ~、んじゃ、アイシャとモンにも話しとくな……」
「決りだね、僕らも楽しみだよ!」
「オイラもまた友達になれるかなあ!」
アルベルト達も納得してくれ、ジャミルは話をアイシャとモンにも話す。
アイシャは喜んで承諾してくれ、モンもニードに会えると喜んだ。
そんな訳で、明日、懐かしいあの人に会いに行こうツアー第3弾を
決行する事となる。そして、ジャミル達が話を纏めていた頃。
……ああ、懐かしやのウォルロ村……
村の宿屋にて。宿泊に来た客が立ち往生し、カウンターにて困っていた……。
「あの、私、客なんですけど……、この宿屋……、従業員さん処か、
店主さんも見当たらないんですけど……」
客は重いスーツケースを下に降ろして汗を拭く。其処にこの宿屋の
総支配人である、リッカの爺さんがのしのし現れた。
「す、すみませんの、お客さん、今店主を呼んできますで……、
ニードの奴め、又フラフラと……、何処へ行きおったんじゃい~……」
「……すんませ~んっ!客なんかどうせ来ねえと思ったんで、ちょっと
サボって遊んでましたーーっ!へっへへへ!いや~、どもども申し訳
ありやせんシター!」
頭ポリポリ、困った店主が急いでカウンターに駆付ける。外から……。
しかも、ストレートにカウンターに自分がいなかった理由を正直に述べた。
「ニードっ!お、お前はっ、……またっ!!」
「はあ、何でもいいですけど、私、遠くから来まして、もうヘロヘロ
なんですよ、早くお部屋に案内して頂いて、休ませて貰えませんかね……?」
「はいはいーっ!お客様、こっちっスよーっ!」
ニードは揉み手もみもみ、軽い調子で客を部屋に案内しようとするが。
「……これっ、ニードっ!お客様の荷物ぐらい持って差し上げぬか!」
「あ、すっかり忘れてシターっ!よいこらと、これでいいか、んじゃ、
どぞ此方へーっ!」
ニードは客を漸く部屋にと案内する。その姿を見て、リッカの祖父は
大きな溜息を吐く。実は、ニードの宿屋の経営は、此処最近の爺さんの
悩みの種と化していた。そして、今日も案の定……。
「「……ぎゃあああ~~っ!!」」
「……お、お客様!どうしましたですかー!?」
リッカの祖父は杖をついてヒイヒイと、悲鳴がした方の客室へと
走っていった、つもりなのだが……。こんなお爺ちゃんに無理を
させたらアカンのである。リッカの祖父が漸く、部屋に辿り着いた
時には、客がひっくり返って気絶し伸びており、客の顔の上を数匹の
ゴキが……。そして、布団からはノミらしき物がぴょんぴょん跳ねていた。
「ニードっ!……お主っ、またお前はお客様に何をしたんじゃーーっ!!」
「あのさ、ベッドメイクと掃除すんの数日間忘れちまっててさ、客なんか
来ねえと思ってたんだよ、や~、悪かったかな……」
「……ニードおおおっ!……あ、あたたたた、こ、腰がああ、ううう~……」
「……お、おい、リッカの爺ちゃんっ、大丈夫かっ、しっかりしろーーっ!!」
「いだ、いだだだだ……」
無理をした為、リッカの祖父は腰に来てしまったんである。客はベッドから
飛び出したゴキの大群に顔を引かれ、泡を吹いてひっくり返り……。結局、
何とか温和だった客はカンカンに怒って等々宿から出て行ってしまい、
その日、ニードは村の村長である父親にゲンコツをシコタマ食らった。
リッカの祖父に謝罪したのも村長。そんな毎日が繰り返されていたのだった。
だが、こんな滅茶苦茶な経営をしながらも何とかやっていけているのは、
ニードの父親の宿屋への経営資金負担のお陰でもあったのだった……。
何とか真面目に働いて欲しいと、バカ息子の為に……。しかし、リッカが
村を立つ前にニードが言った、力強い言葉は一体何処へ消えてしまったのか
……。前回のナムジン親子と対照的で、此方はニードが虚けではなく、素で
バカの為、本当にエライ剣幕であった。
……翌日。昨夜村長に制裁を食らったニードは、今朝は何とか
カウンターに着いていたものの。鼻糞をほじくりながら、一人、
只管文句と愚痴の嵐であった……。
「大体よう、タイミングが悪すぎんだよ、オレはどうせ客なんか
こねえと思ったからサボってただけじゃねえか、なのにいきなり
来るとか、人をバカにしてるとしか思えねんだよ!……たまに来ると
思えば、おっさん、おばさん、そんなのばっかじゃねえか、あ~あ、
どこぞの可愛い子でも来れば……、オレだってやる気出すんだけどなあ、
ブツブツ……」
……と、まあ、こんな調子で全く反省の色無し。あれから又客足は
途絶え、ニードは仕事する気無く、うつらうつら、カウンターで居眠りを
こいていた……。だから、掃除等やら、やろうと思えばする事は幾らでも
あると思うのだが……。丁度その時……。
「此処がウォルロなんだね、静かでいい処だね、空気が清んでるし、
こういう感じ、僕は好きだな……」
「本当だねえ~、何か暫くゆったり出来そうだねえ~!あ、滝が
あるよお~!」
「ジャミルはこの村でお世話になったのねー!」
「モンもモン!」
「だろ~、俺の大事な故郷でもあるしな~、へへ!」
「……な、何か今……、外で微かに女の子の声がした……、
まさかなあ~、ん?ジャミル?モン……?何処かで聞いた様な……、
不愉快な名前だな……」
「「こんちゃ~す!!」」
「……う、うおっ!?」
ドアを開け、勢いよく賑やかな集団が入って来た。……ニードが良く知る顔。
知っている顔。だったのだが……。
「ま、まさか……」
「へへ、よう、タワシっ!久しぶりだなっ!元気だったか!?」
「モンー!」
「あ、あああ……」
「初めましてー、こんにちはー!私、アイシャです!」
「こんにちは、僕も初めまして、ジャミルの友達のアルベルトです……」
「オイラダウドだよー!」
「……可愛い女の子おおーーっ!!」
「はい……?きゃ!?」
だが、ニードはジャミル達野郎とモンには目も暮れず、真っ直ぐに
アイシャの方へ突進し、がっしりとアイシャの手を握るのだった……。
「あの?……え~と、え~と?」
「可愛いお嬢さん、有り難う……、オレの為に来てくれたんスね?
……これは運命の出会いだあーーっ!す、すぐにとびっきりの
スイートルームを用意しますんで!……ああ~っ!やべ~っ!
……そ、掃除掃除ーーっ!……何やってんだオレはーーっ!!」
……何がスイートルームなのか。客室は昨日と同じ、宿泊客が
ひっくり返った時の状況のまんま、ゴキの巣で何処もエライ事に
なっている。……アイシャは困った様にジャミル達、男性陣の方を
振り返るが……。
「ねえ、ジャミル……、この人がお友達のニードさんで間違い
ないのよね……?」
「!お、お嬢さんっ!そうですっ、お、オレの名前知ってくれてる
なんてっ!こ、この宿屋ってもしかしてもう超有名になってたり
するっ!?……ん?ジャミル?……うええーーっ!?」
「よう、元気だったかい……?」
ニードは漸く我に返り回りを見る。そして漸くジャミル達の
存在に気づいた……。
(やっぱ相変わらずのボンクラだネっ!)
「何だよっ、ジャミ公っ!お前、来てるんなら来てるって言えっ!
あ、どもども!えとえと、アイシャさんスよね?」
「あはは~……、アイシャでいいよ、気軽に呼んで……」
「よしっ、分かったっ!アイシャっ、オレ、ニード言います、
改めて、ドゾ宜しくっ!」
「う、うん、じゃあ、私もニードって呼んでいい?」
「勿論っ!オレもさっ、アイシャチャン♡アイシャっ!!」
この態度である。ニードはジャミ公に久々に会ったと言うに、
もはやアイシャ以外は目に入らなくなっており、他は顔が
へのへのもへじに見えている始末。
「何これ、何かさあ~、感じ悪いよお~……」
「ダウド、黙ってなよ……」
アイシャ以外、殆ど存在感の薄い他の男性陣のダウド、アルベルト。
ダウドは余りいい顔をしない。勿論、アルベルトも黙ってはいたが、
気分が何となく悪かった。
「モンーっ!ニードお!みんなで会いにきたんだモンー!見て見てー、
モンの太鼓叩きー!」
「うわ!?座布団ーーっ!オメーもいたんかーーっ!何だ何だーーっ!!」
モンはニードのリーゼント頭に飛び乗り、キャンディーの棒で
ちんぽこ叩きを始めた。どうにも変ったヘアスタイルだと、モンの
お気に入りで恰好の場所になるらしい?
「……やれやれ、又今日も落ち着かん一日が始まるわい、どっこいしょと、ふうふう~」
宿屋の入り口のドアを開け、リッカの祖父が入って来る。爺さんも
相当疲れ気味だが、最愛の息子が残して行った、かつて孫が守って
くれていた大切な宿屋の為、そんな事を言っていられず、今日も
様子を見に実家から宿屋に訪れたのだった。
「よっ、爺さんっ!久しぶりっ!」
「……おおお~?ジャミル、ジャミルではないか!おおお、
来てくれたのかー!」
「リッカの爺さんだよ、俺も沢山世話になったのさ!」
「おじーちゃん、モンですモン、お久しぶりモン!」
「おお、おお、おお~、確か喋る人形の……、懐かしいのう~……」
ジャミルはリッカの祖父に久しぶりの挨拶。爺さんも喜んでジャミルの
手を取る。あの時は大分ボケが進んだのではないかと心配していたが、
ちゃんとジャミルとモンの事はしっかりと覚えてくれていた。多分、別の
意味で忙しくてボケている暇もないんだろうと。……それだけはニードの
お陰かも知れなかった。いいんだか悪いんだか。そして仲間達もリッカの
祖父に挨拶を始める。
「初めまして、僕はジャミルの友人のアルベルトと申します、どうぞ
宜しくお願いします」
「こんにちはー、オイラダウドですー!」
「私はアイシャです、宜しくー!」
「ほう、ジャミルの旅の仲間か……、おんし、いい友人に恵まれて
おるのう……、リッカといい、幸せであるの……、皆、この爺も一つ
宜しくの……」
リッカの祖父はアルベルト達とも握手を始める。だが、見ていた
ニードは和やかな雰囲気が気に食わず。多分、自分が除け者に
されている様な感覚になったのか。分からない様に後ろでちっと
舌打ちした。
「これっ、ニードっ、お客様じゃぞ!どうしてお前はこう気が
利かんのじゃ!おんしは若いんじゃからもっとキビキビと
動いてだの、お茶の用意ぐらい……」
「んだよ、ジャミ公なんか客に見えねーっての!あ、アイシャは
別だけど~!」
「……なんだとう?この野郎……、人がどれだけ心配してたと……」
「へへっ、あ、大変だっ、オレ、アイシャが気持ち良く部屋に
泊まって貰える様、部屋の掃除してきやーす!」
「あのう~……」
「お嬢ちゃん、いいんじゃよ、奴には少し場を外して貰って……、
ジャミル、お主に少し聞いて貰いたい事があるしの、……来て
貰えて良かったわい……」
「爺さん……」
リッカの祖父は大きな溜息を吐く。して、等の本人、ニードはこれまで
全く動こうとしなかった客室の掃除を始めようとしていた。……アイシャの
為だけに……。
「こんな布団、捨てちまえっと!よし、部屋には殺虫剤まいてと、よしよし!」
……掃除の仕方も適当、無茶苦茶であった。有ろう事か、ニードは
汚い布団はこっそりと裏口から運んで処分してしまい、倉庫から
新しい布団を引っ張り出して来たのである……。勿論、適当に
掃除のした客室はアイシャに泊まって貰おうと目論んでいた
部屋だけだった。
「……そっか、やっぱり此処の宿屋……、大変な事になってたんだな……」
「ジャミル、すまんのう、本当はもっと明るい話をしたかったのじゃが……、
どうものう、最近はニードの奴も益々サボリ癖が酷くなっている様でのう……、
儂が注意すればする程、奴は余計反発するんじゃ……」
リッカの祖父は悲しそうに俯いたまま言葉を漏らす……。その姿を
アルベルトも、ダウドもアイシャも……、無言でじっと見つめていた。
モンは今、サンディと外に遊びに出ている。そして、リッカの祖父は
ある雑誌を4人に見せた。
「これを儂はいつも持ち歩いているんじゃよ、これが現実なんじゃとの、
じゃが、見れば見る程悲しくなるでの……」
「ど、どら、……うわ!」
「な、何これえ~、世界最悪、最狂・宿屋ワーストランキング、此処、
もうすぐベスト上位入りしそうじゃん……」
「本当だわ、お持て成し最悪……、店主の態度最悪……、宿の汚さ・
不衛生、何処をとってもはっきり言って行かない方がいいです、
いい処のない宿屋……、夕飯は激安カップラーメン、SPデザートに
みかんの皮付き、大事な事です、二度言います、はっきり言って
行かない方がいいです……、おならの臭いも充満……、
……何なのよう~っ!」
「……僕、記事見ているだけで凄く頭痛が……」
4人組はリッカの祖父が見せてくれた宿雑誌記事を読み絶句……。
幾ら何でも此処まで酷いとは思ってもいなかったのだが……。
「……それでものう、夕べ、こんな評判の悪い最悪の宿屋でも、
わざわざ遠くから足を運んで下さった、有り難いお客様が
おったんじゃ、……ニードはそのお客様の心を踏み躙ったのじゃ、
わしゃ、悲しゅうて悲しゅうて、もう呆れて言葉が出んのじゃ……」
「……爺さん……」
リッカの祖父は等々押し黙ってしまい、それ以上何も言えなくなった。
リッカも村を出て行く時、心からニードの事を信頼し、宿の経営を全て
託して村を去った。リッカの祖父も今度こそ真面目に働くと言うニードを
信じ、大切な店を任せたのに。……それなのに。これは完全なニードの
裏切り行為である……。
「よしっ、分かった……、きっと俺らが此処に導かれたのもこの為だ、
爺さん、安心してくれよ……」
「何と?……ジャミル、お主……」
ジャミルは椅子から立ち上がり、仲間達に目配せ。皆静かに頷く。
「俺らもこの宿屋を守る!大事なダチの宿屋だっ!今からでも遅くねえよ、
経営から立て直すのさ、リッカと親父さんが大切に守って来た宿屋をさ!」
「し、しかし……、これ以上迷惑を掛けられんよ……、お主達にまで……、
それにのう、この宿屋が駄目になっておる根本的な問題は……」
「ニードの事だろ?心配要らねえよ、それも俺らに任せとけ!畜生、
あの野郎、徹底的にイチから根性叩き直してやる、見てろ……」
「そうよっ、幾ら何でも此処まで酷い事書かれて黙ってられないわ!
名誉挽回よ!私達もお手伝いしますっ!」
「でもさあ~、これ、はっきり言って、事実だからそうありのままに
書かれるんじゃないの……?」
「ダウド、だからこそ、僕らでこの記事をひっくり返すんだ、最高の
お持て成しが出来る素晴らしい宿屋に生まれ変わらせてみせます、
お爺さん……、必ず……」
「おお、おお~、皆の衆……、な、何と言う事じゃ……、これも
守護天使様のお導きかのう~、ううう~、守護天使様、有り難や……」
ジャミルは此処は大丈夫だからと、腰を悪くしているリッカの祖父を
休ませるべく、ダウドが付き添い、一旦実家の方へ帰らせた。余り
心臓の方もここ最近は調子が良くない様である。……そして、守護天使……、
久々のその言葉を聞き、アルベルトがジャミルの方を見た……。
「何だよっ!」
「い、いや、忘れてたよ、この話じゃ、君は天使の設定なんだったね……、
プッ」
「た、たくっ、腹黒めっ!うう~っ、……節介部隊出陣ーーっ!!準備じゃ!
準備じゃ!」
「なになに~、また何かおもろいコトあった!?」
「お腹すいたモンー!」
其処に外に遊びに行っていたモンとサンディも帰宅。ジャミルは2人にも
又暫くの間此処に滞在する事を話した。
「ふ~ん、ボンクズの更生再生ね、ま、いいんじゃネ?しかし、アンタらも
お節介よね~!」
サンディはそう言いながらジャミルの中に消える。モンも張り切って
ニードを鍛えるモン!……との事。ちなみに、外に出ている間に、
モンを見つけた村人にジャミル達は宿屋にいるモン!と教えている。
「おじやも後で宿屋に来るって言ってたんだモン!」
「……お、おじや……???」
「ニードの親父さんの事だよ、村で村長をしてんだよ」
「あ、ああ、成程……」
アルベルトはやっと理解、納得するが、いつも通り、流れて来た汗を
ハンカチで拭いた。
「おまた~!アイシャちゃ~ん♡お泊まりの準備出来ましたよーーっ!」
其処に猛スピードでニード再登場。しかし、この宿屋の現状と事実を
知ったアイシャはちゃんと強く言わなければとニードに迫った。
「ニード、私にそんなに気を遣わなくていいのよ!皆と同じ部屋に
泊まらせて頂くわ、それよりも……、はいっ!」
「へ?え、え~と、これ、ホウキ……?」
「そう、今から私達と一緒にまずは宿屋のお掃除しましょ!」
「……うえええーーーっ!?」
アイシャはニコニコしながらニードにホウキを渡す。……流石、
強い……。
「なななな!何でなんだよっ!オイ、ジャミ公!テメー、
どう言う事か説明しろコラ!冗談じゃねえぞっ!」
「そう言われてもなあ~……」
「僕ら、お爺さんからこの宿屋の今の近況を聞いたんだ、
……君の事もね、お爺さん、リッカ達がずっと守って来た
この宿屋の事をとても心配しているんだ、勿論、君の
将来の事もさ、ね、ニード……、……うふ、うふ、うふふふ~♡」
「おーいっ、おかしいだろ、お前の連れっ!何でスリッパ持って
ドス黒い笑み浮かべてんだよっ!怖えーなっ!!」
「ま、そう言うことだよ、分かったか?」
「……分かんねえよーーっ!!」
だが、ジャミ公は動じず。自らもホウキを持つとニードに凄い
剣幕で近寄って行った。
「うるっせーーっ!ごちゃごちゃ言うんじゃねえーーっ!!とにかく
俺らはこの宿屋の再生と、タワシっ!オメーの店主修行の為だっ!!
……現場監督として暫く此処に世話になる事にしたからよ、いいな……?
勿論俺らも出来る仕事はさせて貰うからよ!!」
「……聞いてないようーーっ!!ち、畜生うううーーっ!!」
「うふふ、ニード、一緒に頑張ろうね!」
「……お、オウ、勿論だぜいっ!アイシャっ!!ははははっ!!」
アイシャの微笑みに又もニードはデレッとする。アイシャのお陰で
言う事を聞いたのはいいが、果たしてこんなんで、4人は無事に
宿屋の経営の再生、ニードを男にする事が出来るのだろうか。
爺さんを送って行ったダウドも戻って来て、揃っていよいよ行動開始。
取りあえず、初日……、は既に夕方になっていたので、一日の
終わりまで後何時間でもないが、とにかく明日からの客への
呼び込み準備として、まずは宿の掃除を徹底的にする。ジャミル、
アイシャ、アルベルトの3人は掃除に入り、ダウドは厨房を借りて皆の
夕飯を作る担当に回った。……店主のニードは……。
「はあ、何でオレがこんな……、はあ、ブツブツブツ……、
ニキビブツブツ……」
「文句言ってる暇があるならまずは手を動かす!……じゃ、ないと……、
いつまで立っても終わらないよ、……うふふ~……」
「ひえーっ!やります、やりますようーっ!……ううう~っ!」
ニードはホウキを持って廊下を慌てて走って行った。やはりアルベルトの
黒い微笑みは恐怖を感じたらしく、ニードを怯えさせた……。
「あのさ、夕ご飯……、何作ったらいいのかな……、野菜も何も
見当たらないけど……」
ダウドが困った様に頭ポリポリ、厨房から出て来くるが、それを見て
ニードは鼻を鳴らした。
「ふん、材料も何もねえよ、諦めな……」
「……何だよ、お前いつも本当に客に何出してたんだよ!」
「うるせ~なあ、大体普段から客なんか来ねんだから何も用意してねえよ!
作るのもメンドクセえしよ、買い置きのカップ麺で十分だっての!客が
来ねえ日は17時で宿は閉めちまって家に帰るんだよ!今日ももう後
1時間で宿を閉めてオレは帰るからよ、宿は貸すから後はお前らで
好きにしてくれや!」
……やはり雑誌の記事に書かれた通り。客には本当にカップ麺を
提供している始末。しかし、客が来ない、お持て成しがこんな
状態の宿では、客は泊まらずすぐに逃げてしまっていたと見られる。
ワーストランキングに入っても間違いの無い、雅に最悪の
宿屋であった。
「駄目よっ、残業するのっ!もう~、私、今からでもご近所さんで
お野菜か何か分けて貰えないかちょっと行ってくるね!」
アイシャは宿屋をダッシュで飛び出す。……それを見た男衆は
ニードの方を見て落胆の溜息を付いた。
「おお~、さすが女の子だなあ~、たのもし~い!やっぱアイシャって
可愛いなあ~、いいお嫁さんになれるぜえ~!オレが保証するよー!
……予約しちゃおっかなー!!」
「……だから口より手を動かせって言ってんだよーーっ!!」
「ウシャーモンっ!!」
ニードはジャミ公には激怒され、モンに頭から噛み付かれた。さて、
この後も大変。アイシャはどうにかご近所さんを回り、挨拶をしながら
お野菜を分けて貰って来た。ダウドはその野菜で質素ではあったが、
炒め物とスープを作ろうと厨房に戻る。ジャミルとアルベルトは
ふざけるニードを引っ張りながら、夕食が出来るまで何とか
宿屋中の掃除に集中させようとしたのだが……。
「ニードっ、君、廊下の雑巾掛けはちゃんとやったの!?……汚れが
全然落ちてないよ!」
「おーおー、小姑みてー!やり直すよーっと!へへへのへーだいっ!」
アルベルトは軽い調子のニードに呆れっぱなしだった。そして、
今までニードを何とかフォローしてきたリッカの祖父の大変さを
嫌と言う程感じたのである。
「おー、アル、どうしたい?……客室、凄かったけどよ、何とか
3部屋ぐらいは片付いたわ、……俺だって本音は掃除なんか
好きじゃねえけど、あれ程じゃなあ~、流石に……」
「うん、今さ、何となく……、お爺さんの気持ちが分かった様な
気がして……、どうして真面目にやってくれないのかな……」
「……」
「あ~、♪ラクチンラクチンと~、タラッタラ~~」
ジャミルはニードの方を見る。ニードは片足に雑巾を乗せ、立って
足で拭きながら廊下をリズミカルに往復、ひょこひょこ動いていた。
「ま、アルは真面目だかんな……、気長に……、気楽にやろうや……」
「うん……」
「……ケホっ、うう~っ、す、凄いお風呂場だったわあ~……」
「大変!アイシャ、お顔真っ黒なんだモンっ!……サンディみたいモン!」
(……何よっ!ウルセーのよッ!このデブ座布団っ!!)
其処に風呂掃除を担当していたアイシャが顔中ススだらけ、
真っ黒で戻って来た。風呂場の方も相当汚れが酷かったと見られる……。
「わ!こ、こりゃ大変だっ、可愛い顔が台無しじゃねえか!
女の子なのにっ!わわわ、は、早く顔をっ!汚れを落とさねーと!」
「ニード、心配してくれるの?有り難う!でも私は大丈夫!後で
ちゃんと汚れは落とすわ、それよりもお掃除頑張らないとっ!ね、
ジャミル、アル!」
「ああ、けどマジでスゲー顔……、プッ……」
「いいのーーっ!さ、アル、今日の分、残りのお掃除頑張ろうねっ!」
「う、うん……、ふふっ……」
アイシャは吹き出したジャミルのお尻を蹴飛ばす。それを見て
アルベルトはくすっと笑みを漏らした。そんな3人の姿にニードは……。
「ハア、お前らモノホンのバカみてえ、見てるだけでウンザリするわ、
やってらんねえよ
……」
「あっ!?おいっ、タワシっ!何処行くんだよっ、まだ掃除は終わって
ねえんだぞっ!」
「外に割る薪が溜まってんだわ、ストレス解消に割ってくるわ……」
ニードはそのまま外に出て行く。男衆は止めなかったが、結局、ニードは
そのまま宿屋にその日は戻って来なかった……。
「……はあ、お待たせー、夕飯出来たよーーっ!」
やがてダウドが皆を呼びに来る。掃除も何とか半分は綺麗に出来、
まずは順調な滑り出しだった。いつ突然の客が今訪れても心配ない程、
客室は綺麗になっていた。4人は掃除の手を止めて、食堂にてダウドが
作ってくれた夕食タイムに入った。野菜の種類は少ない物の、実に美味な
野菜炒めであった。
「そっか、結局ニードは帰っちゃったのかあ~、何だよお~……」
「でも、明日も来てくれるわよね……、大事な宿屋なんですもの……」
「……ったくっ!あんのタワシめっ!……冗談じゃねえっ!!
……俺なんかどんだけ客室でノミに刺されたと思ってんだっ!!」
……実は、ノミの増殖の原因は、ニードが野良猫を一時期客室で
飼っており、昼間暇なので世話をしていた所為もあった。段々と
ノミが増え、他の部屋にも飛んだ模様。
「うん、僕も明日こそ容赦しない、……鬼になろうと思う、彼の為にね……、
……うふ、うふ、……うふふ~♡」
「もぐもぐ、お野菜炒め、んまいなあ~、モンモン♡」
「ハア~、やってられませんての、……ん?」
「……」
サンディは闇夜にうごめく怪しい影、……窓の外で動いていたタワシ頭……、
を見つける。が、タワシは直ぐにその場から逃走した……。
「やーネー、アイツ、こっそり様子見に来てんじゃん!ホンット、
イヤラシー!根性ねーっつーの!……アホッ!」
……宿屋の再生計画はまだ始まったばかりである……。だが、4人組も
何時までも此処に滞在する訳にはいかず。……2週間ぐらいで何とか
しようとスケジュールを考え、夜に話しあった。だが、それにはまず店主の
ニードにも立ち直って貰わなくてはならないが……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 45