zoku勇者 ドラクエⅨ編 44
ヘタレとヘタレ若様・4
「……く、くそっ、情けない……、こうなったらボク達だけで……、
行くぞ、ポギー!」
「グギーーっ!」
(わ!わわわ!ちょ、あれ、やばいよジャミ公!ボーヤだけで突っ込む気
満々だよっ!早く早くッ、止めなきゃっ!)
「よせっ、ナムジンっ!俺らも今……ああっ!?」
「……ナムジンさあーーんっ!!駄目だよおーーっ!!」
ジャミルは急いでナムジンを止めようとするのだが、民達に裏切られ、
悲嘆に暮れてしまったナムジンは絶望で何の声も今は耳に入らなく
なっていた……。ポギーを連れ、無謀にもシャルマナへ孤独に突撃
しようとする。その姿を見てダウドも必死で声を張り上げるのだった……。
「……うわああーーーっ!!」
「グギィィーーっ!!」
「ナムジンーーっ!!」
そして、ナムジンとポギーはシャルマナに弾き飛ばされ、その場に
倒れたのだった……。4人は急いでナムジンの側へ駆け寄る……。
「フウフウ、フウフウ……、くそっ、舐めた真似をしおって……、
人間ごときが……、もう少しで族長をたらし込み、呑気な遊牧民共を
奴隷に連れ、草原をわらわの支配下に出来たものを……、許さぬぞ、
こうなったら1人残さず食い殺してくれるわ!わらわを激怒させた
罪は重いぞえーー!!」
「……うるせーこの野郎っ!ナムジン、大丈夫か……?返事してくれ、
頼むよ、おーいっ!」
「やだ、いやだよおお~、ナムジンさん、いやだよ……、こんな、
こんなのってないよ……」
「みんなー!ポギーも大変なんだモン!ポギー、ポギー、
しっかりするモン、……ポギー……」
「モンちゃん、落ち着いて……、でも、どうしよう、この子も本当に
酷い怪我だわ、早く回復してあげないと……、お願い、ねえ、
目を開けて……、あなたにもしもの事があれば一番悲しむのは……」
「グギ、ギ……」
アイシャもモンも心配そうにポギーを見守り必死に声を掛け
励ますのだが……。ポギーは辛うじて呼吸はしているが、
受けた傷はナムジンよりも相当酷かったかも知れなかった。
このままではいつ息絶えてしまうか分からないぐらいに……。
地面はポギーの流した血で既に真っ赤に染まっていた……。
「ダウド、君はナムジンさんとポギーの回復を!僕らはあいつを
倒さないと!此処で絶対に食い止めるんだっ!!何としてもっ!!」
アルベルトは目の前に立ちはだかる肥えた巨大なモンスターを睨んだ。
アルベルトの言葉に静かに頷き、ジャミルも立ち上がる……。一方の、
ナムジンの父親であるラボルチュは……、先程からずっと錯乱状態で
あり、息子に起きている危機も全く分からない様子で只管俯いて
ただずっと、その場に座っていた。
「頼むぜ、ダウド、此処は俺らで何とか食い止める!サンディ、モンも
ダウドのフォローを!」
「お任せオッケーっ!」
「任せるモンっ!モンだってやるんだモンっ!」
サンディも妖精モードで飛び出し、モンもナムジンとポギーの側へ……。
ダウドもジャミル達の覚悟を受け、静かに頷いた。
「オイラも何とか頑張ってみる、絶対にナムジンさんとポギーを
助けるから……、2人を助けたらオイラもすぐに行く!だから
それまで頑張って……」
ダウドはナムジンとポギーの命の重さを感じ取りながら静かに
回復呪文の詠唱を始めた。必ず2人を救ってみせると……。でも、
もしかしたらジャミル達に加勢に行く前に自身のMPが尽きて
しまうかも知れない。それでも……。
「ダウド、モン達もポギーに一生懸命薬草塗り塗りするモン、だから
ダウドも頑張って!」
「さっさのパッパで治療しちゃいなさいよネっ!」
「うん、任せてよっ!絶対に助けてみせる、ナムジンさんもポギーもっ!」
だが、其処に化物と化したシャルマナが立ちはだかる。ジャミル、
アイシャ、アルベルトの3人は絶対にナムジン達の側に近寄らせ
まいと此方も攻防の体制に入った。
「其処をどけ、雑魚共がっ!許せぬ、わらわの企みを阻止し、
邪魔をしてくれた小僧めが、必ず仕留め首をもぎ取りこの草原に
さらし首にしてくれる……」
「そうはいくかよっ!……俺らが只の雑魚じゃねえって事、思い知れや!」
「アナタなんかに絶対に負けないわっ!」
「……ナムジンさんとポギーの痛みをお前も食らえっ!」
ジャミル達3人とシャルマナの死闘が幕を開ける。ダウドも必死で
全魔法力を集中させ、ナムジンへと祈りを込め、ベホイミを掛ける。
重傷を負い、真っ青だったナムジンの顔にほのかに赤みが差してきた……。
「ナムジンさん、もう少しだからね……、オ、オイラ……、ヘタレの
僧侶だけど……、頑張るからっ!……ううう~っ!神様、オイラに
もっとどうか癒やしの力をっ!!」
「……ダウドーっ!ポギーが、ポギーの様子がおかしいモンーっ!」
「身体がおっきーし、受けた傷も凄いし、とてもじゃネーけど薬草が
たんネーのよっ!このままじゃ、ポギーが死んじゃうよ!」
「……え、ええっ!?」
ダウドは慌ててモンとサンディの方を向く。ナムジンはどうにか
助かりそうになってきたが、だが、反対にもうポギーは駄目かも
知れなかった……。
「そ、そんな……、でも、後もう少しでナムジンさんの傷が……、
でもっ!」
「ダウド……、さん……」
「ナムジンさん……?」
躊躇し、戸惑い始めたダウドにナムジンが声を掛けた。どうにか
意識を取り戻し、一命を取り留めた様だった。ナムジンは弱々しい声で
ダウドへと更に声を絞り出した。
「お願い……、です……、ボクはもう大丈夫……、どうか、どうかポギーの方を……」
「で、でもっ!」
「ボクはもうこれ以上大切な物を失いたくない……、母上……、
例えボクが助かってもポギーまでいなくなってしまったら……、
ボクはもう生きていけない……、お願い……します……」
ナムジンはダウドの顔を見つめ、静かにその手を握る。力の無い
ナムジンの手の感覚にダウドも新たな決意を決めたのだった……。
「……ナムジンさん、分かったよお!何がなんでもっ!オイラ絶対に
2人を全力で助けるよおーーっ!!……うああーーっ!!
……ゴスペルソング2倍だああーーっ!!」
ダウドはテンションゲージを最大に高め、通常の倍の威力の決死の
ゴスペルソングをナムジンとポギーに向け放出……。絶対に生きて
欲しい、助かって欲しい、ありったけの願いと思いを込め……。
(みんな、ごめん……、もしかしたら本当に……、オイラ此処で
力尽きちゃうかも知れない……、でも……、絶対に諦めたくない……、
助けたいんだ、2人を……)
「ダウド……、頼むぜ、頑張ってくれよ……」
「ほ~ほほほ!何をしておるのじゃ~?では、こっちから行くぞえーーっ!!」
「……畜生、うるせークソデブめっ!!今度こそそのウゼー口
塞いでやるからなっ!!」
ジャミルは挑発してくるシャルマナに舌打ちする。ダウドも命懸けで
頑張ってくれている。自分達も絶対に此処で負ける訳にはいかない、
負けられないと……、だが、ダウドの回復魔法のフォロー抜きで
ストレートに一体何処まで耐えられるのかと強気なジャミルにも
不安が躙り始める……。
「とにかく立ち止まってる暇はねえっ!いっけー!押せ押せだあーーっ!!」
「フン……、愚か者めが……、何処まで耐えられるかのう……」
ジャミルは剣を構えると、シャルマナに突っ込み旅芸人からの
引き継ぎ技スキル、ミラクルソードを放つ。アイシャはヒャダルコを
ぶつけ、アルベルトも補助系魔法でピオリムを掛け、全員の素早さを
上げサポートし、更にはやぶさ斬り、連続攻撃で攻め捲る。はやぶさ斬り
自体、余り攻撃力こそないが、個々の持てる技をぶつけ、力を併せる
チームワークにシャルマナは苦戦、押されていた。だが。
「……こしゃくなっ!」
「……ああーっ!?」
シャルマナは突風を起こし、ジャミル達を揃って突っ転ばせた。
地面に転がり動きが思う様に取れなくなった3人に容赦なく
襲い掛るイオラの嵐が……。3人は早くもダメージを受け、
負傷してしまう危機に陥る。だが、持ち前の根性としぶとさで
どうにか堪えて立ち上がる
「……だ、大丈夫かよ、お前ら……、生きてるか?」
「平気よ……、これぐらいいつもの事だもん……」
「絶対に頑張らなくちゃ、僕らが……」
「ほーほほほ!頂くぞえーっ!」
「……あ、テメエ、このやろ!」
その間にもシャルマナはジャミルからMPを奪い再び自身の
イオラ発動の為のエネルギーを蓄えてしまう。……これ以上
肥えさせて堪るかとジャミルも再び剣を握る。アイシャも
呪文の詠唱を始め、体制が整うとシャルマナへ再びヒャダルコを
放出。
「フンっ!こんな物……、かき消してくれるわっ!!」
「きゃ!?あっ、な、なんなのようーっ!」
「恐らく、攻撃呪文半減のマジックバリアを張ったんだ、卑怯な……」
「アル、どうすればいいの……?」
「とにかく……、攻撃魔法の方は出来る限り君に頑張って貰うしか……、
アイシャ、きついかも知れないけど、大丈夫かい?」
「そうね、ダウドだって頑張ってくれてる、モンちゃんもサンディも、
私だって頑張るんだからっ!」
アルベルトにフォローされ、アイシャも気持ちを引き締める。だが又も
シャルマナは今度はアイシャからMPを吸い取る。余りバトルを
長引かせる訳にはいかない。かなり難しいが、短期間決着が勝利の
鍵である。3人とも、今回は恐らくダウドにこっちに回って貰うのは
無理だろうと覚悟していた。ナムジン達の為、命懸けで頑張って
くれているダウドにもこれ以上無理をさせたくはなかった……。だから、
何としても……。
「さっさとオメーを倒すっ!糞ボテバラーーっ!!糞マズの
生ハムに致すーーっ!!」
「ど、何処までも……、気に食わぬ……、チビの糞ガキめがあーーっ!!
よかろう、そんなに死に急ぎたければ急ぐがよいぞおーっ!ほほほほっ!!」
「また来るぞっ、避けろおおーーっ!!」
シャルマナはジャミル達に再び突風を放つが、ジャミルの掛声で
アイシャもアルベルトも咄嗟に機敏に避けてかわした。シャルマナは
悔しげに地面にドスンとジャンプし、その場に大きな震動が起きる。
「おのれ、よくもよくも……、どこまでわらわをコケにするのじゃ、
もう絶対に許さぬ、……こんな草原などもうどうでもいい、だが……」
シャルマナはジャミル達を睨む。辱めに遭わせてくれたトリオを
徹底的に潰す覚悟だった。だが、そんな脅しに乗るジャミル達ではない。
「いつも通り連係攻撃よ!もう一度呼吸を合わせましょ!行くわよ、
ジャミル、アル!」
「ラジャーーっ!!」
ジャミルとアルベルトはそれぞれの剣を抱え、シャルマナへと揃って
突っ込み、アイシャは2人の技にヒャダルコを放出。氷の剣で一気に
シャルマナを貫く作戦だったが……。
「そんな物、効かぬと言っておる!こちらも魔法防御ガードを
2倍にしてくれる!……ふんっっ!!」
「や、やりやがったなっ!?」
シャルマナの魔法防御が氷の剣を無残にも破壊し、粉々に……。
トリオはその場に立ち尽くすが、直ぐにジャミルがアイシャと
アルベルトに渇を入れ、励ました。
「お前らっ、諦めんなっ!何回だってやるさっ!アイシャ、アルっ!」
「そうよ、諦めないわ!」
「……僕らの恐ろしさを思い知れ!」
「……まだ負け惜しみを言うか、本当のクソバカとは雅にこの事、
愚か者よ!特大のイオラじゃあーーっ!!覚悟せいーーっ!!」
シャルマナはジャミル達から奪い取り、温存しておいたMPで
ここぞとばかりにトリオに向け、威力最悪級のイオラをぶつける。
負傷し、傷ついたまま堪えて戦っていたジャミル達に更に
大ダメージを与える。
「ほほほほ!気分壮快とは雅にこの事ぞえーー!ほーほほほ!」
「……ちく……しょ……、うう、冗談じゃねえよ、ア……、ル……、
ア、アイシャ……」
ジャミルは今にも気を失いそうだったが、堪え、近くにいる筈の
アルベルトとアイシャの姿を求める。2人とも声がしなくなって
いる事から、やはり危機に陥っているのが分かる。だが、動こうにも
全身を痛みが襲い……。やがて、自分達に迫るシャルマナの騒音の
足音が倒れている自分の耳にはっきりと聞こえてくるのだった。
「ほほほ~!お前達は今度こそ終わりじゃ、良く頑張ったのう、
ご褒美にハナ丸でもプレゼントしてやろうぞよ!」
「やっぱり……、無理だったか……、意地は張れねえや……、
真面な回復役がいねえのがこれ程身に来るとか……、
……薬草使ってる暇も……間に……合わね……ダウド……」
「ほほほほ……」
そして、ナムジン達を助けようと、ダウドも只管頑張っていた。遂に……。
「……はあはあ、や、やっ……た……」
「傷が……、完全に癒えている、もう痛くない……、凄い……」
「グギギーーっ!!」
「ポギーー!ああっ!」
重傷だったポギーも完全に傷が癒えた様でナムジンに喜んで飛び付く。
ナムジンも元気なポギーの姿をまた見れた事に心からの喜びとダウドの
必死の行為に感謝する。ナムジンも完全に意識を保ち始めた為、サンディは
発光体になり姿を消した。
「ポギー、良かったんだモンーっ!」
「♪グギグギ!」
(ま~ったくう、人騒がせ……、いや、この場合ゴリラ騒がせっ
つちゅーの???も~、ドーでもいいわよっ!)
「よ、よかっ……、た……、ナムジンさん……」
「ダウドさん、本当に有り難う、嬉しくて……、ボク、何てお礼を
言ったら分からないよ……、ごめん、ボク、頭が混乱してしまって……、
言葉が上手く……ダウドさん!?」
「きゅうう~……」
だが、全力を掛け、MPを使い切ってしまったダウドはその場に
倒れてしまう……。ナムジンは慌ててダウドを介抱しようと
するのだが……。
「ああ……、ダウドさん、ごめん、ごめんよ……、こんなになるまで、
ボク達の為に……」
「グギ~……」
「えへへ、いいんだよお~、だってオイラ、普段は何も出来ない
ヘタレだもの~、こんな時ぐらい役に立ててよかっ……、あ、あああ、
駄目、駄目だよお~、オイラ此処でへばってる訳にいかないんだよお~、
ジャミル達を助けに……、い、いかなくちゃ……」
「ダウドさん……、ううっ……」
「モン~……」
(……無理っしょ!今MPがないアンタが行っても……、でも、
どーすんのよう……)
ダウドは全MPを使い切り、疲れで倒れてしまい、動くに動けず……。
そして、瀕死のトリオに迫る狂気のシャルマナは……。絶体絶命である……。
「……ナムジン様、す、すまなかっただ……」
「お、お前達……、どうして……」
気がつくと、ナムジン達の回りに逃走した筈の村人達の姿が……。
皆でナムジンの近くに集まり、輪になると揃って頭を下げ、
謝罪を始めた。
「本当に申し訳ねえだ!ナムジン様、やはりアンタは勇敢な族長さんの
息子さんだ、そう確信しただよ、謝ってもスマされる事じゃねえが、
オラ達にも何か出来る事があったら手伝いてえだよ!」
「大した手助けは出来ねえけど、オラ達も、命捨てる覚悟でいるだ、
何でも言いつけてくんろ……」
「んだあ~っ!」
「……皆……、有り難う、お前達の気持ち、本当に嬉しいよ、力を貸して
くれるのか……?」
「勿論だあーっ!みんなでカルバドを守るんだあーっ!おい、オメエ達も
戦いの時だべーーっ!」
「んだあーーっ!!」
村人達も、近衛兵達も揃ってナムジンに向かって誓いの雄叫びを上げる。
やっと、やっと、漸くナムジンとカルバドの民達の心は一つに……。
ナムジンの目から涙が一滴零れた。
「よしっ、皆、行くぞっ!ポギー、お前も一緒に行こう!ジャミルさん達を
助けるんだ!」
「グギーーっ!」
「おおおーーっ!!」
「でも、これだけは守ってくれ、命を捨てるなんてそれだけは
言わないで欲しい……、必ずこの戦いに終止符を打ち、ボク達の
大切なカルバドの地で又一緒に共に生きていこう、これからも……、
ずっと……」
「ナムジン様……、な、なんとお優しい……、よしっ、オラ達は
これからも皆で生きるだあーーっ!!」
「よ、良かったねえ、ナムジンさん……」
ダウドは倒れたままの体制で、ナムジンと村人達のやり取りを見つめていた。
安心したダウドはそのまま静かに目を閉じ……。
「……られないってばあ~っ!ま~たこれじゃオイラが死んだみたいじゃ
ないかあーーっ!は、早く、ジャミル達の処にーーっ!!」
(ホント、最悪じゃネ……?もうアタシらは手持ちの薬草がないわよ……)
「困ったんだモン~……、モン?」
其処に、村人の1人のおっさんがやって来る。おっさんは倒れている
ダウドをお姫様抱っこでひょいと担ぎ上げた。
「ナムジン様、この兄ちゃんはオラに任せてくんろ、安全な場所に
連れてくだよ!さあさあ、兄ちゃん、アンタはもう休むんだ!」
「……えええーーっ!?で、でも、オイラ、ジャミル達の処に……」
「ダウドさん、あなたはボク達の為に命懸けで頑張ってくれた、後は
任せて下さい!だからどうか今は身体を休めて下さい、お願いです……、
ジャミルさん達は必ず助けます、ボク達を信じて下さい……」
「ナムジンさん……、分かったよお、ジャミル達の事、宜しくお願いします……」
「ダウドさん!はい!」
ダウドはナムジンの顔を見て静かに微笑む。直後、ダウドはおっさんに
抱かれたまま、何処かへと連れて行かれるのであった……。
「……よしっ、カルバドの民よ!今こそ我に続けえーーっ!!我らの魂は、
このカルバドの大草原と共に一つにっ!!」
「おおおーーーっ!!」
「みんな、凄いんだモン!モン達も行くんだモンーーっ!!」
(はいはい、スゲーかわり様だコト、ま、いいか、いきマスか!)
……一方のトリオ達は……。唯一、ジャミルだけが何とか立ち上がり、
アイシャとアルベルトを守ろうと、傷だらけの身体でたった1人で
シャルマナに立ち向かおうとしていた……。
「小僧、いい加減に負けを認めたらどうじゃ?もうお主達に勝ち目は
ないぞえ~?」
「う、うるせえ、絶対に負けねえぞ、此処で諦めたら……、ダウドの覚悟も
ナムジンの決意も全部無駄になっつちまうっつーの……、う、うう……」
だが、容赦なく身体に激痛は走る……。既に唯一の回復魔法の
ホイミさえもMP切れで使う事が出来ず……。……ジャミルの
目の前が段々暗くなってきた、その時……。
「……なんじゃ?ヤケに向こうの方が騒がしいのお~?」
「チャンスっ!はあーーっ!!食らえーーっ!!」
「ギャっ!?こ、この小僧っ!!」
ジャミルはシャルマナが油断している少しの隙に、シャルマナの頭を
剣で思い切り叩く。だが、やはり手に力が思う様に入らず……。ジャミルは
握っていた剣を落としてしまう。
「や、やべっ!……あ、あああーーっ!!」
シャルマナは怒りに震えながらジャミルの身体を両手で思い切り掴んだ。
そしてその手に更に力を込めた……。
「……貴様が一番邪魔なのじゃ、こざかしいクソムシめが……、わらわの
手の中で死に絶えるが良いぞ、ほほほほ……」
「う、ううう~……」
「……ジャミ……ル……」
「お願い、負けな……い……で……」
アルベルトもアイシャも……、倒れたまま動く事が出来ず。だが、必ず、
ジャミルは負けないと。そう信じていた。そして、反撃の時、それは訪れる……。
「化物っ!その人を放すだあーっ!」
「今こそっ、わしらカルバド部隊がお相手いたすだあ!」
「……?あ、あんたら……」
シャルマナに拘束されたまま、朦朧とする意識の中で、ジャミルはそっと
薄目を開けた。其処にいた者、見えた者は……。
「ナムジンっ!……アンタ、もう傷は大丈夫なのかっ!?」
「はいっ、ダウドさんの命懸けのご厚意のお陰でこの通りです、ポギーも元気です!」
「♪グギーッ!」
ポギーは嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねた。ああ、ダウドの奴……、
やっぱ無茶しやがったな、たく……、と、思う反面。頑張ってくれた
ダウドの行動が嬉しくて仕方がなく喜びで胸が溢れた……。
「ボク達も村中の民と共に戦います!今こそ恩返しの時!さあ、
皆、行くぞーーっ!!掛かれええーーっ!!」
ナムジンが号令を掛けると、数人の親父集団がシャルマナを取り囲み、
輪を作った。そして、そのままシャルマナへと攻撃に入る……。
「食らえーーっ!親父の陣!陣形技、……おっさん無双乱舞!!」
「だあーっ!だあーっ!だああーーっ!んだんだーーっ!!」
「いたた!こ、このゴミ共めがあーっ!な、何をする……あああーーっ!!」
シャルマナに寄って集って、親父軍団はシャルマナを突っつき、
遂に転倒させた……。……巨体のシャルマナはそのまま遂に地面に
ひっくり返った……。掴んでいたジャミルからも手を漸く放し、
ジャミルも急いで逃げる。
「……ひえええーーっ!何をするのじゃあーーっ!こ、これでは動けんーーっ!!」
「ジャミルさんっ、大丈夫ですか!?……ああ、酷い傷だ!直ぐにこれを!」
シャルマナがひっくり返って倒れているその隙にナムジンは何とか
ジャミルの傷を癒やそうとする。ナムジンが手渡した薬草、上薬草
よりも遥かに回復効果が高い、普通では手に入りにくい、レアの
特薬草だった。
「……大事な物だろ?軽々しく使えねえよ!そ、それに、俺の事よりも、
アルやアイシャ、ダウドは……」
ナムジンはそんなジャミルの顔を見て静かに笑みを見せる。そしてこう
告げるのだった。
「あなたなら、そう言うと思いました、あなたは自分の事よりも何よりも
誰よりも、お仲間の事を第一に心配する、例え自分がどんなに傷ついても……、
やはり、ダウドさんと、あなたはとても良く似ています……、心から信頼し
合っている友なのでしょうね、ボクとポギーの様に……」
「え、ええ……?ああっ……!」
ナムジンは後ろを指差す。その方向には、モンやポギー、ジャミル達
以外姿は見えないサンディ、村人達に介護されているアルベルトとアイシャ、
そしてダウドの姿が……。
「ジャミルー!3人はもう大丈夫なんだモンーっ!」
「私の家は雑貨屋なんだあーっ!だから薬草は大量にあるだよーっ!
安心してくんろーっ!」
「グギギギーー!」
「……は、はは、本当に……、ナムジン、マジでありがとな……、俺、
何て言ったら分かんねえ、こう言うの苦手でよ……、はは、はは……」
「いいえ、お礼を言うのはボク達の方です、本当に……、ジャミルさん、
あなた達のお陰でこのカルバドの草原の民は本当に一つになる事が
出来そうです、でも、まだその前に……」
「だな……」
ナムジンはジャミルへ、特薬草を使い終える。傷の癒えたジャミルは
静かに立ち上がるとシャルマナの方を見た。
「だあーっ!んだんだーっ!だだだだだっふんだ!」
「いたたたーーっ!こ、このクソ共めがあーっ!調子に乗りおってーーっ!!」
親父集団達はまだシャルマナが起き上がらない様、頑張ってくれている。
ジャミルとナムジンは目を合せると静かに頷き合うのだった。
「……一緒に……行きましょう、チャンスは一度だけです、ジャミルさん、
どうかボクに力を……」
「分かってるさ、ナムジンっ!」
「ええーーいっ!いい加減にせええーーいっ!!はあ、はあ、も、もう
絶対に許さん……」
しかし、等々シャルマナは起き上がり、親父軍団を全員を弾き飛ばす。
ジャミルは再び剣を握り直し、ナムジンも刀を構える。そして2人同時に
シャルマナの元へと飛び出すのだった……。
「シャルマナ、これでお前の悪事も完全に終わりだあーーっ!!この刃、
その身に受けてみよーーっ!!」
「いっけええーーっ!!必殺ううーーっ!!」
「わ、若様……、もう少しだあ、頑張るだよ……」
「ジャミルううう……」
「どうか、勝利を……、僕らも信じているよ……」
「みんな此処にいるよ、ジャミル……、だから絶対に負けないで!!」
「……ナムジン、お前は本当にこんなにも成長していたんだな……、
そんな事にも気づいてやれなかったオレは父親失格じゃねえか……、
なあ、パル……、お前、知ってたんだろ……、ズリいなあ、はは……」
どうにか正気を保ち始めたラボルチュは、ダウド達や村の民に支えられ、
息子達の最後の戦いを見守っていた。自分の知らない処で何時の間にか
逞しく成長していた息子の姿にラボルチュの目が曇り、視界が見えなくなる……。
「えーい!ちゃっちゃとやっちゃえーっ!もう少しだよーっ!!」
「モンーーっ!!」
「「会心の……一撃いいーーっ!!」」
ナムジンとジャミル、2人が放つ会心の一撃の刃は遂にシャルマナの
身体を貫く……。シャルマナの巨体の身体はその場にゆっくりと
崩れ落ちた……。
「……バ、バカな……わらわが負ける……、この、わらわ……、が……、
い、いやじゃあーーっ!!ああああーーっ!!」
倒れたシャルマナの身体から再び煙が上がり、そして光り出す。
シャルマナの身体から飛び出した物、女神の果実であった……。
「や、やった、果実だっ!取り戻したぞおーっ!お前らーっ!
ひゃっほーーっ!!やったやったーーっ!!」
「ジャミルーーっ!!」
ジャミルの歓喜の声に、アルベルトもアイシャも、ダウドも駆け出し、
ジャミルの元へと走る。勿論、モンもサンディも。勝利への喜びと又
果実を取り戻せた喜びにはしゃぎ合う。……そんな4人の姿を見つめながら、
ナムジンも静かに微笑む。
「グギ……」
「終わったよ、ポギー、お前もよく頑張ってくれたな、有り難う……、
さあおいで……」
「グギギ!」
ナムジンはポギーを傍に呼ぶと静かに頭を撫でた。ポギーも嬉しそうに
大きな身体を揺らせ、ナムジンにすり寄せるのだった。
「やった、やったよおお~、ナムジンさあーんっ、オイラ頑張りました
よーーっ!!やったー、オイラすごーい!えへっ!?」
「ええ、ダウドさん、あなたの魔法は本当に凄かった……、もう一人前の
聖者ですね……」
「ほ、ほんとにっ!?そう思いますっ!?ん~、オイラやる時は
やりますからーっ!」
「……調子に乗るなっ!んで、自分で言うなっ、このヘタレっ!」
「あたっ!……何だよおー!バカジャミルううーーっ!!」
「いい加減にしなさいよっ!2人ともっ!みっともないでしょっ!!」
「はあ~、いつも通りだなあ、やれやれ……」
「♪ちん、ぽーこぽこ、ちんちんち~ん!」
「……モンちゃんっ!!」
途端に4人組はいつもの4人に戻る。ジャミルとダウドは取っ組み合い、
見ていたアルベルトは呆れ、アイシャはバカ二人に怒り、ついでに
モンにも怒る。サンディはアンタら本当にもー、マジバカー!チョー
うけるうー!状態。だが、そんな4人を草原の民達は心から優しく
見守るのだった。
「♪グギっ、グギーっ!」
「ふふ、ポギー、本当に皆、明るくて楽しい人達だね……、ん……?」
「う、ううう~……、嫌じゃ……、も、もうあんな惨めな思いを
するのは……、だがもう何もかも元に戻ってしもうた、……わらわは
これでお終いじゃ……、もう何もする事も出来ん……」
気配と悲痛な呻き声にナムジンは反応し、身構える。ジャミル達も……。
呻き声の正体、声の主は……、モンスターのテンツクであった。
「……お前は……」
「もしかして、お前がシャルマナだったんか……?」
「……グギっ!!」
ジャミル達4人も、ナムジンも……、元呪玄師シャルマナの傍に寄る。
だが今は惨めで哀れなモンスター、テンツクに戻ってしまった。黄金の
果実の力でシャルマナへと変身していたのだった……。もうテンツクは
何の抵抗もせず、その場に項垂れ、ただじっと俯いて座っているだけだった。
「あれがシャルマナの正体だったんだべな……」
「オラ達は……、今まであんな化物を信じて……、騙されてただな……」
「この化物っ!まだ生きてただかっ!!」
「……ひいっ!?お、お願いじゃ、わらわはもう戦う気はない、ゆ、
許しておくれ、どうか……、この通りじゃ……」
「ナムジン様、後はオラ達に任せるだあーっ!!」
「いや、もう大丈夫だ、確かに本当に嫌な気配はしない、皆、
下がっていてくれ、このモンスターにも何か言いたい事がある様だ、
話を聞こう……」
「だあっ!?で、でも、もしも若様に何かあったら……」
「んだんだあ~……」
「俺らも付いてるから大丈夫さ、な……?」
「わ、分かっただあ……」
ナムジンとジャミルは興奮し始めた村人と近衛兵達を一旦下がらせ、
テンツクから全ての全ての事情を聞く事に……。実はテンツクにも
こうなってしまった悲しい訳があったのだった……。
「……わらわはいつも独りぼっちじゃった、たった1匹、広い草原で
いつも……、遊牧民共に怯えて暮らす自分が惨めで嫌だったのじゃ、
そんな時、空から降ってきた黄金の果実を食べ、願ったのじゃ、誰にも
負けない強い力が欲しいと!壮大な魔力を手に入れたわらわは自分を
抑える事が出来なくなってしまったのじゃ、じゃが、もうこれで
終わりじゃ……、本当にもう戦う気などない、どうか許しておくれ……、
……?」
「もう、よい……」
「ふぇ……?」
ナムジンの声に俯いていたテンツクは静かに顔を上げた。
「お前のした事は決して許される事ではない、だが、お前にこれ以上
悪意がないと分かった以上、ボクも何も手出しはしない、何処へでも行け、
好きにするが良い……」
「ナムジン、お前……」
ナムジンはジャミル達の方を向いて静かに頷く。これ以上何の抵抗も
出来ない者に決して手を下したりはしない。……ナムジンは本当に
未来の長として心も立派に成長を遂げていたのだった。
「ゆ、許してくれるのかえ?……わらわを……」
「ああ、その代わり、条件がある、ボクの一番の友達、このポギーと
友達になってやってくれないか?そうすれば、もうお前も草原で
独りぼっちではないだろう?これからは、もう怯えなくていいんだ、
ポギー、それでいいかい?」
「グギー!」
「ああ、さあ、ポギー、行ってやってくれ……」
ポギーは喜んでテンツクの傍に寄ると尻尾を振り振り、テンツクの頭に
ちょこんと片手を添えるのだった。友達になろう、の印である。
「グギっ!」
「おお、おお、何とお優しい……、心の広いお方じゃ……、勿論じゃとも、
こ、こんなわらわで良かったら……」
「よう、俺らも良ければダチになるぜ?」
「ええ、お友達になりましょっ!」
「うん、悲しい戦は終わったんだ、もう君は独りじゃないんだよ……」
「えへへ~!宜しくう~……」
「モンもお友達になるモン!」
「仕方ないなあ~、ま、アタシもダチになってあげていいよっ!」
「おお、おお、な、何と……、今まで醜いモンスターとして生きてきて……、
わらわはこんなに嬉しかった事はないぞえ、わらわはそなたらにあんな
酷い事をしたと言うに……、ありがとう、ありがとう……」
テンツクはジャミル達が差し出した手を握り返す。これまで怯えていた
人間達に、初めてテンツクが心を開いた瞬間であった。
「さ、まずは親睦式だ、モン、お前も行ってこい、モンスター同士な……、
サンディもな……」
「モンーっ!一緒に遊ぶモン!」
モンはまた自分と同じモンスターの友達が出来た事が嬉しくて、
宙をくるくる飛び回るのだった。
「ちょっとっ!何でアタシもモンスター扱いなのよっ!ジャミ公、
覚えてなさいよネっ!」
「知りませ~ん!」
夕日の中、4匹のモンスター?は仲良く並んで2匹は空を飛び、
2匹は歩いて行った。テンツクは、何度も何度も4人の方を
振り返りながら……。
「……だからっ、アタシはモンスターじゃねえってのっ!」
「はあ、うるせーのもいなくなったし、これで漸く少しは休ませて
貰えそうかなあ~、ふわあ~……」
此処でのお役目も無事に終わり、気が抜けてしまったジャミルは
大欠伸をする。他の3人もつい、ジャミルに釣られ、大きな口を
開けるのだった……。
「よしっ、今夜は宴だあーっ!準備するだよーーっ!!」
「でも、その前に……、若様達を胴上げだあーーっ!!」
「え、ええ?ちょ、ちょ……、うわあーーっ!!」
「草原を救って下さったナムジン様、そして、愉快な英雄さん達を
称えるどーっ!」
「それー、わーっしょい、わーっしょい!!」
「ゆ、愉快な英雄って……、おーいっ!やめえれえーーっ!!おおーいっ!!」
「わ、私、重いですからっ!きゃーっ!?」
「……こ、この手の騒ぎになると……、どうして撲……、そこは、つ、
掴まないで下さいーーっ!!あああーーっ!?」
「ん~、な~んか、オイラ……、今凄い幸せえ~……、このまま
天国まで……って、……飛んで行きたくないーーっ!!」
「あはは、あははははっ!」
ジャミル達4人組はナムジンと共に盛大に宙へと持ち上げられる……。
4人組はパニくっていたが、ナムジンは心から嬉しそうだった。
そんな息子達の姿を見て、ラボルチュも心からの笑みを浮かべた。
「……何年ぶりかな、あいつのあんな嬉しそうな顔を見るのはさ、
なあ、パルよ……」
……その夜。英雄達を称え、村では壮大な宴が行なわれた。村人が
面白がってダウドに酒をどんどん飲ませてしまい、大変な事になっていた。
普段糞真面目なアルベルトもうっかり酒が入ると酒乱モードになるが、
ダウドも癖が悪いんである。どっちもどっちだった。
「も~、らいへんなんれしゅよう~、ジャミルはね、もう~、オイラが
いなけりゃどうにもならへん、ならへんなんれしゅう~、……へ、
へひっへっし!きーひひひ!」
「やだもう、ダウドったら……、恥ずかしいんだから……、あ、私、
お酒注ぎまーす!」
「……お~い、ジャジャ馬っ!オメー、そう言ってウロチョロウロチョロ
すんなよっ!」
「うるさいのっ!ジャミルのバカっ!べえ~だっ!」
アイシャはジャミルにアカンベーをすると、酒瓶を持ってお酌にと
フラフラ移動し始めた。
「ははは、はははは!」
「全くもう、こまりましゅよねえ~……」
「はあ~、全くもう、一番恥ずかしいのは僕だよ……」
「……るせーこの野郎!腹黒もっ!言いてーこと言いやがってからにっ!
さっきからオメーもうるせーんだよっ、このヘタレめっ!後で覚えてろよっ!」
「やらぽ~ん、もう忘れたぴょ~ん!へっひひっひ!……あれえ~?
ナムジンさん、ナムジンさんがいませんよう~?」
「おう、ナムジンなら少し涼んでくるって言ってたぞ、なあ、
兄ちゃん、良かったら少しアイツの話し相手にやってくれねえか?
アンタと話してみてえって言ってたんでよ……」
「……へひっ!?オ、オイラとお!?」
「ああ、村の外には出ねえ筈だから、そこら辺にいるだろう、
見つけてやってくれ……」
ラボルチュの言葉に、暴けていたダウドの酔いが少し覚めた。
急いで宴会場広場を抜けてナムジンの姿を探した。
「あ、いた、ナムジンさん……」
「やあ、ダウドさん、来てくれたんですね?」
ナムジンは宴会場広場から少し離れた場所にある、置き石がある
場所に腰掛けていた。
「此処、凄く眺めが良くてお気に入りの場所なんです、星が凄く良く
見えるんですよ……」
「本当だ……」
隣に座る様に勧められ、ダウドも隣の置き石に腰掛け、星を眺める。
ダウドもナムジンとちゃんと話したい事があった筈なのだが……、
いざこうやって二人きりになってみると言葉が全然出て来ず
ダウドは困る。横目でナムジンの顔をチラチラ見ながら……。
「でも、ずるいよお、ナムジンさんてば……、あんなに凄く
かっこいいなんてさ……」
「えっ?」
「オイラね、最初は……、ナムジンさんに親近感を持ったんだ、凄く
失礼な言い方してごめんなさいなんだけど、オイラと同じヘタレの
友達が出来るとかさ……、ヨコシマで本当にごめんね、君が凄く
真面目で一生懸命なんだって、分かった時は、オイラなんかと
やっぱり釣り合い取れないなあって、でも、オイラ、本当に
ナムジンさんと友達になりたかったんだ……」
「ダウドさん……」
「……もう、大体分かって貰えたと思うんだけど、オイラこの通り、
底抜けの性悪ヘタレなんだよ……、いざとなると怖くなっていつも
逃げ出したくなっちゃう事も多いんだよお、でも、それが結局
出来ないのは……、ジャミルのお陰なんだ……」
「ジャミルさんの?」
「ジャミルはいつも怯えてるオイラの背中を押してくれてる、
ジャミルはね、例えどんなに、辛くてもオイラ達の前では絶対に
弱音は吐いたりしないからね、それが返って時々心配になっちゃう
事もあるんだけど、……頑固ともいうのかな……、そんなジャミルの
姿を見ていると、絶対に逃げたりなんか出来なくなっちゃうんだ……」
「そうだね、彼は本当に凄いね……、強い人だ……」
「うん……、普段はアホだけどね……、決める時はちゃんと決めるんだから、
嫌らしい性格だよね……」
「ふふっ」
ダウドは膝を抱えたまま、星空を見上げながらナムジンに言葉を告げる。
段々と緊張がほぐれて来た様だった。そんなダウドの顔を見ながら
ナムジンも笑みを浮かべそのまま黙ってダウドの話を聞いていたが……。
「ダウドさん、僕は決して強くなんかない、今だって弱虫なのは本当だよ……、
いつだって不安で怖くなる……」
「ナムジン……さん……」
「何れは長の座を引き継がなきゃならないって、……分かってる事だけど、
凄く重荷だった、虚けのフリをしていたのは本当だけど、このままずっと
虚けのままでいたら……、もしかしたら逃げてしまえるんではないかって……、
そう思っていたのは本当だよ……」
ナムジンは再び暗い夜空を見上げながら言葉を溢す。ダウドにはそんな彼の
気持ちが痛い程分かった。誰にだって嫌な事から逃げ出したい時は山程ある。
真面目な彼は誰にも言えず、いつも堪えていたんだと。……たった1人で……。
いつかは国の立場を背負って立つ重圧に……。
「やっぱり君は強いよお、誰が何と言ったって、オイラには分かるよお、
だってさ、オイラはあのアホのジャミルの本性が充分分かってんだから!
うん、だから……、ナムジンさんは大丈夫!君はこのカルバドの集落の
素晴らしい長になれるよお!人を見抜く目は確かなんだから!」
「ダウドさん、本当に……、そう思ってくれるのかい?」
「勿論っ!えへへ~!」
「有り難う、ダウドさん、何処までやれるか分からないけど、ボク、
頑張ってみるよ、立派に父上の後を引き継げる様に……」
「うん、オイラも頑張るよお……」
ダウドは笑ってナムジンと硬い握手を交わす。そして、2人は約束をする。
いつかまた、必ず会おうと……。星空の下、誓いの約束をした。
「……はあ、星空がこんなに綺麗じゃったとはのう、わらわは今、こんなに
ゆったりと過ごす事が出来て幸せじゃ……」
「グギ~……」
「モンモン!」
「何かアンタラ、お年寄り臭いんですケド……」
モンスターカルテット?達も、大草原で星空の下、まったりと寛いでいた。
特に、テンツクは……、こんなにゆっくりした時間を過ごすのは始めて
だった様である。
「そういえば、お主らは明日、草原を出るんじゃの、世話になったのう、
寂しくなるの……」
「グギギ~……」
「また、絶対遊びに来るモン、えーと、モン直伝の太鼓叩きを教えるモン!
こうやって、キャンディーの棒を持って叩くんだモン!もしも寂しくなったら、
太鼓を叩いて元気を出すんだモン!」
「ほうほう?太鼓かえ?お主は色んな所を旅しているだけあって知識も
豊富じゃのう……」
「♪グギっ!」
「まずは基本、ちんぽこ叩きモン!ちーんちーん、ぽーこぽこ!」
「♪ちーん、ちーん、ぽこ、ぽこ、グーン、ちんぽこグギギっ!」
「では、わらわも、こうかえ?ちーん、ちーん、ぽーこぽこと……、ほほ、
慣れてくると楽しいぞえー!ほほほー!」
「色んな物を太鼓代わりにして楽しく演奏するモン!」
「……もうシラねえわよっ!アタシゃ!てか、ポギー、言葉喋ってるし!」
恐らく、ナムジンが見たら気絶するであろう。初めて覚えた言葉が……。
何はともあれ、ジャミル達も、モンもサンディもカルバドでの最後の
夜を過ごす。そして、翌朝、4人はナムジンやラボルチュ、大勢の
村人達に見送られながらカルバドを後にする。また、必ず遊びに
訪れると約束をして。
「さようならー!元気でのうー!」
「グギギギー!」
テンツクもポギーも、崖の上からジャミル達が乗った船を何時までも
見送っていた……。
「……等々行ってしまいましたね、ジャミルさん達……」
「ああ、急に火が消えた様に静かになっちまいやがったなあ~……、
最初は何だあのやかましい糞ガキの集団はと思ったけどな……」
ジャミル達が旅立った後、ナムジンとラボルチュはある場所に
訪れていた。ナムジンの母、ラボルチュの妻、パルが眠る
ほこらの墓地である。
「悪かったなあ、パル、暫く来てもやれねえで……、でも、墓は
凄く綺麗だな、お前がいつも手入れしていてくれたんだな、有り難うな……」
「いえ……、掃除や細かい事は好きですし……、でも、父上……、
本当にいいんですか?」
「ん?」
「ポギーの事です、それからテンツクも……、これからは自由に村に
出入りしても構わないって……」
「ああ、お前の大事な友達なんだろ、お前は本当に凄い奴だ、
モンスターさえも懐いちまうんだからな、流石未来のカルバドの
長!オレの息子だっ!パル、もう何も心配要らねえよ、この
カルバドは未来永劫安泰だっ!な、だから……、安心して今度こそ
ゆっくり眠ってくれよ……」
「母上……、ボク、まずは出来る事から父に教わって精一杯頑張ろうと
思います、カルバドの未来の為、皆が幸せに暮らせる様に……、どうか
見守っていて下さい……」
親子はパルが眠る墓の前に花を手向け、静かに手を合せ祈りを捧げた。
「さあ、戻るか、そうだ、久しぶりにこれから一緒に狩りにでも行くか?」
「はい!是非!」
「よし!いい返事だ、じゃあな、パル、又来るからな……」
ラボルチュは息子の肩を叩きながら、ナムジンと共にほこらを後にする。
そんな親子を優しく後ろからそっと静かに見つめている者が……。
……良かった、本当に……、これで私も安心して眠りにつく事が出来ます、
短い間でしたけれど、あなた達と家族になれた事は本当に私の誇り……、
幸せをありがとう……
zoku勇者 ドラクエⅨ編 44