築何十年の退屈
築何十年の退屈
この家に住んで、もう幾年になる。築年数は不明だが、少なくとも私が生まれるずっと前からここにあった。古い木造住宅だ。畳はすり減り、床は歩くたびにぎしぎしと悲鳴を上げた。壁にはかすかなシミが浮かび、天井の梁には埃が積もっている。住み心地に不満はなかったが、ただ、時間の流れが緩慢だった。
住人は私一人。最初は家族と住んでいたが、両親は家を出ていき、妹は都会へと去っていった。不自由はない。ただ、会話をする相手はおらず、一日が黙々と過ぎていく。
***
その夜、寝室の襖を閉め、布団に入った。寝苦しい夜だった。夏でもないのに、妙に蒸し暑い。寝返りを打ちながら、まどろみに落ちかけたそのとき、不意に音がした。
誰かが廊下を歩いているような音。
風かもしれない。そう思い直し、目を閉じる。しかし、今度はもっとはっきりと聞こえた。
私は布団を握りしめ、息を潜めた。家には私しかいない。それなのに、この音は何だろう。
音は止まった。襖の向こう側。
心臓が高鳴る。開けるべきか、見ない方がいいのか。
結局、私は襖を開けなかった。ただ、朝を待った。
***
翌朝、襖を開けると、廊下には何の異変もなかった。ただ、ぽつりぽつりと、水道水の音が
聞こえた。
私はそれを見なかったことにした。
築何十年の退屈