船乗り占い師の冒険

「船乗りタロット事件 ~5000万円の悲劇~」

「船乗りタロット事件 ~5000万円の悲劇~」

――これは、船とタロットに翻弄された男の物語である。


プロローグ:運命のタロットカード


「タロット占い…?」

佐藤航太は、酒場のカウンターでグラスを傾けながら、眉をひそめた。

「おう、最近ハマってんだよ。」

そう言ってカードをシャッフルするのは、同僚の田中悠馬(たなか ゆうま)。

「船乗りが占いとか意外だな。普通、波の流れとか雲の動きとか、そっちの勘が大事じゃねぇの?」

悠馬はニヤリと笑った。「バカ言え、現代の船乗りはテクノロジーとスピリチュアルの融合が大事なんだよ。航海の安全を占うんだ。」

「いや、それ天気予報でよくね?」

「違う! これは俺たちの運命を導く神秘のカードなんだ!」

そう言って悠馬は黄金に輝くタロットカードを取り出した。

「……お前、やけに立派なやつ持ってるな。」

「へへ、奮発して特注品を買ったのさ! しかも専用の高級ケースもゲットしたぜ!」

悠馬は得意げに革張りのケースを取り出した。

「なるほど、さすがプロ意識高いな。」航太は感心したようにうなずいた。

「ところがどっこい…」悠馬の顔が曇る。

「……ん?」

「ケースにタロットカードが入らなかったんだよ!」

「……は?」

「いや、俺もビビったよ! 注文したケースが小さすぎて、カードが全然入らねぇの!」

「……お前、5000万円入りきらなかった事件のニュース見たことあるか?」

「あるある! なんか銀行強盗が逃走中にカバンに5000万円詰め込もうとしたら入らなくて、無理やり押し込もうとしてるうちに捕まったやつな!」

「それと同じことしてるじゃねぇか。」

悠馬は頭を抱えた。「そう! もうコントかよ!ってレベルだよ!」


「ケース vs. タロット」壮絶な戦い


 

悠馬は、ありとあらゆる方法でタロットカードをケースに入れようと試みた。

・1枚ずつ丁寧に入れる → 途中でギチギチになって取り出せなくなる
・カードを少しずつ反らせて柔らかくする → カードがボロボロになりかける
・ケースを温めて革を伸ばす → そもそもサイズが違いすぎて無意味

「なんでこんなことに……!」

「お前、まさかケースを買う前にカードのサイズ確認してないのか?」

「……いや、サイズは確認したんだ!」

「ならなんで入らねぇんだよ!」

悠馬は苦しげに答えた。

「インチとセンチを間違えた。」

「……」

「……」

「アホか!!!!!」

その瞬間、酒場中に響く航太のツッコミ。

「お前、船乗りだろ!? 航海では方位と距離の計算ミスったら命に関わるんだぞ!?」

「タロットカードで命は落とさねぇから…」

「いや、お前の尊厳は死んでるぞ?」

「ぐぬぬ……」

 
「小さいタロットを買えばいいんじゃね?」という革命的発想


翌日、悠馬は悩んでいた。

「このままだと、俺は船乗り占い師としての道を閉ざされる……」

「いや、船乗り占い師って何だよ。」

「どうすれば……どうすれば……」

その時、航太がぼそっと言った。

「一回り小さいタロットカード買えば?」

「……!!!!!」

悠馬の目が輝いた。

「そ、そうか! そういう手があったか!!」

「いや、普通に最初からそれしろよ。」

「ちょうど今月の給料も入ったし、買い直すか!」

「またインチとセンチ間違えんなよ?」

「大丈夫だ! 今度は日本のメーカーのやつを買う!」

悠馬は満面の笑みでタロットカードを注文した。

数日後――

「入ったあああああ!!」

悠馬の歓喜の声が港に響き渡る。

小さいサイズのタロットカードを購入し、無事ケースに収納成功。

「これで俺の占い道は続くぜ…!」

「よかったな……つーか最初からこれにしろよ。」

「いやぁ、でもこの事件を乗り越えたことで、俺は成長したよ。」

「どのへんが?」

悠馬はニヤリと笑い、タロットカードを1枚引いた。

「……『愚者』が出たな。」

「お前のことじゃねぇか!!!」

酒場には、船乗りたちの笑い声が響いていた――。

~完~

船乗り占い師の冒険

船乗り占い師の冒険

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-05

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