zoku勇者 ドラクエⅨ編 42
ヘタレとヘタレ若様・2
「……やれやれ、シャルマナ……、オレは正直、あれがオレの
息子だと思うと、時々悪寒を感じるのだ……、何れのこの国の
未来を考えると……」
「ホホホ……、まあ、可愛げがあってよいではないか、のう……、
わらわにあんなに懐いてくれておるしのう……」
「ううう~……」
「ダウド、泣かないで……、ナムジンさん、きっと大丈夫よ……」
シャルマナの目線は相変わらずジャミルの方を見ていたが、ジャミルも
どう答えていいか分からず。アイシャはナムジンを心配し、ぐしぐし
泣き出したダウドを必死に慰めている……。アイシャとダウド、直ぐに
泣きだす役処がいつもと逆である。
「ジャミルとやら、済まなかったな、見苦しい処を見せてしまった、
だが、あれがオレの息子なのだ、情けない……、今のまま、このままの
あいつが長になったらこの集落の未来はないだろうな……」
「別にいいんだけど、なあ、あんたの息子さん、何処に連れてったんだい?」
ジャミルが尋ねると、ラボルチュは眉間に皺を寄せたまま怪訝な顔をした。
話を聞くと、ナムジンはこの集落の更に北にある狩人のパオにいると。
其処で魔物を彼に討伐させる為、待機させていると言う……。
「分かった、迷惑じゃなけりゃ俺らも北のパオに行ってナムジンの
サポートをさせて貰うよ……」
「お、おお!そうか、手伝ってくれるか!迷惑などととんでもないぞ!
いやいや!そなた達が援護に付いて貰えればバカ息子も安心であろう!」
「けど、必要以上には手を貸さないぜ?ナムジンの為でもあるしな……」
「構わぬ構わぬ、頼むぞ、あいつを男にしてやって欲しい!何せこの
集落の未来が掛かっているからな!オレは父親として、あいつにも
自信を持たせてやりたいのだ!」
「♪男はおお~紙~、モン!」
「……モンちゃんたら、又テレビで古いCM見て影響されちゃったのね……」
意味もなく、短い手でファイティングポーズを取るモンを見て、ジャミ公の
中にいるサンディがまたケラケラ笑い出した……。
「ホホホ!本当に頼もしいのお、ん?果実の件か、……だ、大丈夫じゃ、
まずはナムジン様の方を頼むぞよ!話はそれからじゃ!分かったかえ!?
ホホホ!!」
「分かってるよ……、しっかし、ホホホホうるせー年増だなあ~……」
ジャミルはシャルマナに返事を返すが、やはり本心ではシャルマナを
信用しておらず、心の中でシャルマナに対し、舌を出し捲る。
「ダウドもいいね?大丈夫かい?」
「う、うん……、アル、分かってるよ、ナムジンさんの力になれるのなら……、
行こう……」
ダウドはやはりナムジンが心配なのか、今回は異様に積極的だった。そんな
ダウドにアイシャは優しく声を掛けた。
「ダウド、あなたの気持ち、きっとナムジンさんに通じるわ……」
「だと、いいんだけどね、……伝わるかなあ、ナムジンさんは一人じゃ
ないんだって事……」
「大丈夫モン!」
「モンちゃんもそう言ってくれてるし、大丈夫よ!」
「うん……、アイシャ、モン、ありがと……」
「ふふっ!」
ダウドも元気を取り戻し、一行は集落を出て更に北の狩人の
パオへと向かう。ナムジンが幽閉されているであろう、パオを探した。
「此処だ、このパオみたいだ……」
「待って、ジャミル、中から話し声が……」
「ん~……?」
アルベルトに言われ、ジャミルも外からそっとパオの中の
会話に耳を傾けた。ダウド、アイシャも近くに寄り、中の
会話を聞く……。
「若様、何で魔物退治に行かねーだか?若様は何れ族長の後を
継ぐ立場じゃねえだか……、もっとしっかり、しゃきっとして
くんろ……」
「そんな事言われても……、ボクには所詮無理なんだよ……、
ううう~……、ま、魔物を見ただけで……、膝はガクガク、
冷汗がダラダラなんだ……」
「……ナムジンさあ~ん……!」
ナムジンにすっかり意気投合してしまっているダウドが早速パオの
中に入ろうとするが、まだ早すぎるとジャミルが慌てて止めるのだが……。
「何だよお!止めるなよお!」
「うっ、……こいつ……、め、目が燃えてる……、だからもう少し
待てってんだよっ!!」
「お前達、其処で何してるだ……?」
「若様のいるパオ前でっ!怪しい奴らめっ!!だあっ!!」
「う、うわあっ!?」
後ろで声がし、振り返ると、4人はおっさん武将集団に
取り囲まれていた。恐らく、ナムジンのパオに襲撃に
来たのだと勘違いされている状況。
「違うっ、俺達はナムジンのサポートに来たんだよ!ちゃんと
族長とも話はしてある!」
「僕達を信じて下さい!」
「やかましいっ!さあ、さっさと中に入れっ!成敗してやるだあ!」
「きゃあ!?」
おっさんの一人が遠慮せず、ジャミル達の一番後ろにいたアイシャを
片手で突き飛ばす。反動でアイシャはよろけ、他の3人にぶつかり4人は
強制的にパオの中に叩き込まれた……。
「……いてええっ!!」
「な、何事……、あっ!?」
パオ内に叩き込まれた4人の姿を見てナムジンは唖然……。ナムジンを
説得しようとしていたおっさん兵も唖然とする……。
「若様、パオ前で覗き見していた怪しい奴らを捕まえただよっ!!」
「君達……、どうして此処に……?」
「ナムジン、俺達はあんたのサポートで来たのさ、族長にも
話はしてある……」
「若様……?え、えええーーっ!?」
「そう、……だったのか、父上が……、お前達、この人達は怪しい者では
ないよ、ボクの知り合いだ、無礼を詫びよ……」
「……何ですとおーーーっ!?」
4人を突き飛ばしたおっさん兵の一人の顔が曲がる……。ジャミルと
ナムジンの会話を聞き、乱暴をした事に相当困っていた……。
「ほ、本当だったんだべか、こ、これはすまなかった、申し訳ねえだあーーっ!!」
「だあーーっ!!」
おっさん兵達は土下座をし、4人にぴょこぴょこ謝り出す。その様子を見て、
ジャミルは呆れた。
(全くモー!冗談じゃねーってのヨっ!こ~んな可愛いギャルに
乱暴するなんてサ!)
「……たくっ!俺は別に平気だけどよ……」
「ああ、お嬢ちゃん、事情を知らんかったとは言え、乱暴して
すまんかっただあ~、勘弁してくれ、この通りだあ……」
「い、いえ、私は大丈夫ですから……」
最初にアイシャに乱暴をしたおっさん兵がペコペコ頭を下げる。
それを見て、アイシャはもういいですよと笑うのだが、おっさんの
謝罪は止まらない。最も、このおっさん兵達もナムジンを守る為の
行動でピリピリしていた所為でもある事はアイシャを始め、
ジャミル達も充分分かっていた。
「お前達、少し席を外してくれないか?ボクは皆さんと話があるんだ……」
「……ん?」
「わ、分かりましただ、若様、オラ達は外にいるだ、お話が終わったら
オラ達に声を掛けてくんろ……」
「分かっている、それ程時間は掛からないと思うから……」
おっさん兵達は頭を掻きながらゾロゾロ外に出て行く。これで漸く
ナムジンともちゃんと話が出来ると思いきや、ジャミルは又ある事に
気づく。ナムジンの顔つきが父親の前で怯えていた時と全く違う事に……。
「ナムジンさあ~ん……、や、やっと……、うう~、にへえ~……」
(……ヘタレキモーっ!)
「アイシャ、ダウドが怖いモン……」
「あ、あはは、やっとナムジンさんとお話出来るのが嬉しいのかしらね……」
「……ちょ、ダウドっ!え、えーと、じゃあ、話をさせて貰おうか、
ね、ジャミル……」
「ああ……、……オメーはっっ!!」
ジャミルはアルベルトにそう返事をしながら、ぴえん顔からノロケ顔に
なったダウドの頭を一発小突いた。
「……何だよおーーっ!!」
「皆さん、来てくれたのですね、有り難う、……あの、先にボクの方から
少し話をさせて貰っても宜しいでしょうか……」
ナムジンは4人に向け、静かに喋り出す。だが、明らかに彼は様子が
これまでと違う事にジャミルは益々感づき始めていたのだった……。
「はあ、ナムジン様はどうしてああなんだべか……」
「んだんだ、……母上様のパル様が生きておられた時にはまだ
マシだっただ……、魔物退治に行きたがらねえなんてどうか
してるだよ……」
外の方から先程場を外した親父達の話声が聞こえる。だが、ナムジンは
構わず4人に話を始めた。やはり顔つきが全く違うなあと、ジャミルは
今のナムジンから不思議な感覚を益々感じ始めたんである。
「さて、ジャミルさん、あなたは父上に頼まれてボクの魔物退治の
サポートに来たと言いましたね?……お聞きしても宜しいでしょうか、
あなたは本当にあのモンスターが集落を襲いに来たとお思いでしょうか、
して、皆は魔物が父上を狙っていると言っていますが、あなたの目にも
そう見えたのでしょうか……」
ナムジンの問い。ジャミルは一瞬はっとするが、直ぐに冷静になり
ナムジンに返事を返す。
「……あのサル、俺にも何となく……、敵意は感じなかったなあ、
……と、思うけど」
「そうですか……、やはりあなたは話の分かる方らしい、ですが、
どっちみちボクは魔物退治になど行く気はありませんので手伝いは
必要ありません、他にもやる事がボクにはありますのでこれにて失礼……」
「え?あ、ちょ、待てよっ、おーいっ!」
4人は慌ててパオの外に飛び出す。だが、もうナムジンの姿は何処にも
見当たらなかった。
「は、はええ~……」
「もういなくなってるわ……」
(ちょ、困るじゃん!アイツがいないと果実探し手伝って貰えないヨ!
早く捕まえよーよ!)
「やっぱりすごいや、ナムジンさん……、逃走コンクールに出たら問答無用で
一着だよね……」
「そんな場合じゃないだろっ!あの、すみません、今、ナムジンさんが
パオの外に出て行ってしまったと思うんですが……」
アルベルトは目を輝かせているダウドの頭を抑え付け、ナムジンが
パオから出て来るのを目撃していたであろう、外で待っていた
おっさん連中に急いで話を聞いてみる。
「それがだなあ~……」
「……何ですと?」
4人はおっさん達に話を聞き、騒然。どうやらナムジンは此処から
更に北にある端に向かって凄い速さで一人で行ってしまったと
言う事。其処に集落に現れたモンスターが潜んでいるかも
知れないとの事……。だが、あれ程怯えていたナムジンが突然
動き出した事に、おっさん達も信じられない様子でいる……。
「あの臆病な若様が……、まさか、まさかなあ~……、魔物退治に……、
いや、んな事がある訳ねえだべ……」
「だんだん!」
「おじちゃん、言葉が逆さまなんだモン、んだんだモン!」
「モンちゃん、いいのよっ、ね、ねえ、もしも本当に一人で
行っちゃったのなら、大変よ、私達も急いで追い掛けましょ!」
「ああ、けど、マジでどうしたんだよ、あのヘタレ……、まさか……」
其処まで呟いてジャミルは考えてみる。先程のパオ内でのあの
ナムジンの落ち着いた態度。……もしかしたら、ナムジンは本当は……。
「ジャミルううーっ!アイシャの言う通りだよお、は、早くナムジンさんを
追い掛けようよおー!ナムジンさん、き、きっと、皆が追い詰めるから……、
切れて暴走しちゃったんだよおおーー!!」
「……分かったから鼻水飛ばすなってんだよっ!ま、とにかく今は俺らも
ナムジンの後を追う事が先決だ、行こうぜ!」
ジャミルの言葉に頷く仲間達。結局、ダウドに邪魔された為、それ以上
考えを纏める事は出来なかったが、とにかく自分で言った通り、今は
ナムジンを追い掛けて確かめる事が先である。4人も再び草原へ出て、
北の端、ダダマルダ山と言う場所へナムジンの後を追う。そして、
端近くまで訪れた際、信じられない光景を目撃する事に……。
「あ、あれって、……マジ?」
「!!うっそ、あれ、ナムジンのボーヤじゃネ!?あいつ、魔物を
見ただけで怯えるって言ってたよネ?なのに、一人で本当にこんな
とこまで来るとかマジアヤシー!みんな、急いでアイツをおいかけ
よーよっ!」
サンディも思わずジャミルの中から飛び出す。間違いない、洞窟なのか、
洞穴なのか、良く分からない場所の中に入っていった人物。ヘタレの
ナムジンだった……。
「ナ、ナムジンさああ~んっ!うう、リミットブレイクしちゃったんだねっ、
い、今お手伝いに行くよおーー!!」
「……アホっ!そうじゃねえんだよっ!とにかく俺らも行くぞっ!」
「何がそうじゃないのさあーーっ!」
「ダウドっ、いいからっ!」
アルベルトは興奮しているダウドの手を急いで引っ張り連れて行く。
その後をアイシャとモンが追い掛けて付いて行った。そして、
ナムジンの後を追った4人は更に衝撃の光景を目撃する事に……。
「……何だか、奥の方から話し声が聞こえるわ……」
「キャー!ナムジンさあーーんっ!」
「だから静かにしてろってのっ!ヘタレっ!!」
「何だよおおーーっ!……うっ!?」
「秘技、ぽんちん突きモン!眠りのツボを押したモン、これで暫く
ダウドは寝てるモン!」
モンはいつもの如く、ダウドの頭に飛び乗ったかと思いきや、
キャンディーの棒で頭をちんぽこちんぽこリズミカルに叩いた。
すると、ダウドは眠ってしまったのである。それはそれでいいが、
ジャミルはモンが益々分からなくなって来た。
「……ジャミル、とにかくこの間に……、急ごう……」
「あ、ああ……」
アルベルトの言葉にジャミルは頷き、ダウドを負ぶうと更に奥へと進む。
お墓の様な石碑が建っており、其処の前にナムジンがいた。ナムジンは何と、
あのマンドリルのモンスターと話をしているんである。ジャミル達はこっそり
物陰に隠れ、暫く様子を覗う事に……。
「あの様なやり方では逆にお前がシャルマナに殺されてしまうぞ……、
お前が死んでは母上もあの世で悲しむ、……命を粗末にしては駄目だ、
いいな……?今は此処で大人しく母上の墓を守っていてくれ……、
分かったかい?」
「……グギギギ……」
「えっ?えっ?ええっ!?な、何がどうなってるのっ!?」
「あのお猿さん、やっぱり悪いモンスターじゃないんだモン……、
モンとおんなじ、ナムジンは人間のお友だちだったんだモン?」
「アイシャ、モンも……、もう少し静かに……」
ブビッ、ブーーッ!!
「「……最高にくっさああーーっ!!」」
(……ちょっとっ!ジャミ公っ!!アンタの中のアタシが一番被害者
なんだけどっ!?)
出来る筈が無く。やっぱり最後はジャミ公が止めを刺し、屁に
我慢出来ず、隠れていたアイシャとアルベルトが揃って飛び出して
しまうのだった……。
「き、君達は、まさか……」
ナムジンが姿を現した4人の姿に蒼白になる。だが、直ぐに冷静に
なり4人に近寄って行く。途端に気配でジャミルの背中に負ぶわれて
いるヘタレがもうぱっと目を覚ました。
「あーっ、ナムジンさあーーんっ!オイラダウドですよおーーっ!!」
「だからオメーは静かにしてろってのっ、え、えーとだな……」
「やれやれ、此処まで来てしまったんですね、仕方が無い、全て
お話しましょう……、この魔物は本当はボクの友達で、名前をポギーと
言います……、昔、草原で傷だらけで生き倒れになっていた処をボクと
母上で手当をしました、それから懐く様になったんです」
「グギギ……」
ポギーはまるでこんにちはをするかの様に、4人に向かって頭を下げた。
「うふふ、やっぱりあなた、悪い子じゃなかったのね、宜しくね、ポギー!
私はアイシャ、この子はモンちゃんよ、仲良くしてね!」
「♪グギ!」
「モンモン!」
アイシャは喜んでポギーに近寄ると、身体に優しく触れる。モンスター
友達が出来、モンも嬉しそう。だが、今は触れ合いコーナーをやってる
場合じゃねえんだと、ジャミ公はアイシャを無理矢理引っ張って行った……。
「全部終わったら幾らでも遊んでくれ、後でな、今は事を争うんだっつーの……」
「キャー!ジャミルのバカーーっ!」
「すみません、ナムジンさん、騒がしくて……、ですが僕らもあなたの
事が心配で……」
「だよおーーっ!!」
「ええ、それは有り難いのです、あなた達のお気持ちは充分分かって
います、なので……、あなた方だけには真相をお話ししたい、ちゃんと……、
聞いて貰えますか?」
「ああ、分かってる……」
ナムジンは再び4人の方を向いた。その顔はとても凜々しく、もう既に
ヘタレの気が完全に抜けていたのだった……。
「えっ?ええ、ナムジンさん……?」
「ダウド、まだ何かあんのか?お前も頼むから後にしてくれよ……」
「な、何でも無いよお、ごめん……」
ダウドも何となく、ナムジンの顔つきがこれまでと違う事に
気づき始める。だが、ジャミルに注意され、大人しくすごすごと
後ろに引き下がるのだった。
「では、ボクの方から話をさせて頂きます、実は……、本当に父上の
命を狙っているかも知れないのは……、シャルマナの方です……、
父上はシャルマナを溺愛する余り、完全に心を支配され、洗脳されて
しまっています……」
「!!」
「やっぱりか、黒幕はアイツの方か……」
ナムジンの口から出た衝撃の言葉に仲間達は騒然。ジャミルも
腕を組んで只管ナムジンの方を見ていた……。
「でも、ナムジンさん、あなたはどうしてその事を知ったのですか……?」
「はい、アルベルトさん、実は……、それも全てポギーがモンスターの
感でシャルマナの正体に気づいてボクに教えてくれたんです、ポギーは
集落を襲いに来たのでは無く、父上に危害を加える為、来たのでもありません、
全てはシャルマナを狙っての事です……」
「そうか、だからあの時……、俺を見て直ぐに逃げたのも、そうだったのか……」
「グギ……」
ポギーが集落に現れ大騒ぎになったあの時、ポギーはジャミルの
顔を見た途端、直ぐに姿を消した。シャルマナ以外、ポギーには
戦意はなかったのだろう。
「あの女は草原の民を誑かし、何か良からぬ事を企んでいます……、
ボクは虚けのフリをし、油断させてシャルマナの正体を暴こうと
目論んでいますが、隙も見せないので中々あいつも尻尾を出さず
困り果てています、どうしたらいいのか……」
「……う、うつけええ~っ!?」
「ナムジン、アンタやっぱりか……」
「はい……」
ジャミルは改めてナムジンの方を見た。これまで彼が行なってきた事は
全て芝居、自ら見せしめと笑い物になり、シャルマナの正体を暴こうと
していたのだった。ナムジンがジャミルの前で時々見せた凜々しい顔、
そう、今のナムジンが本当の顔……、彼は本当はヘタレでも臆病でも
なんでもなかったのである……。
(へえ~、本当はしっかりしてんだねえ~、ナムジンのボーヤ!)
「うそ、うそ……、ナムジンさんが……、そんなあ~!あわわわ~!」
「ダウド、どうしたのモン?」
「これでボクからお話出来る事は全てです、一つお願いなのですが、
今の話は誰にもどうか言わないで下さい、では、ボク達はこれで
戻ります……」
「へ?あ、あああ、ちょっ!」
「待ってジャミル、ダウドが……、何だか大変だよ……」
ナムジンはポギーを連れ、ほこらを出て行ってしまう。ジャミルは急いで
後を追おうとするが、アルベルトに止められる。振り返ると、膝を抱え、
いじけオーラを噴出し、ダウドが蹲ってしまっていた……。
「しゅう~ん……」
「……ねえ、ダウド、どうしたのよ、しっかりしてよ……」
「急に元気がなくなっちゃったんだモン……」
アイシャもモンも蹲って丸くなってしまったダウドに声を掛けているが、
ダウドと長年の付き合いがあり、親友でもあるジャミルは、直ぐにヘタレが
いじけ始めた原因を理解した。
「ちょっ、ヘタレっ、アンタ何してんのヨっ!こっちは急がなきゃな
んねーのにっ!」
「サンディ、いいからどいてろよ……、おい、バカだなあ、お前……、
ナムジンが本当はヘタレじゃなかった事に動揺してんだろ?」
「……う、ほ、ほっといてよお~……」
「マジ、バ、バカ……、もー!呆れたっ!」
サンディは愚痴を漏らし、再び発光体になりジャミルの中へ消える。
アルベルトもアイシャも、どうしようと言う様にジャミルの方を見、
モンもダウドを心配している……。
「えへへ、そうだよね、ナムジンさんは将来、集落の長になる人
だもんね、本当にエライよねえ~、これじゃオイラとなんか友達に
なってくれる訳ないよお~……、オイラとなんか釣り合い取れない
よね……、ヘタレ友の会も決裂かあ~……」
〔ぴんぴんデコピン×5〕
「……いだああーーっ!何すんのさあーーっ!バカジャミルううーーっ!!」
ダウドは突かれたデコを抑えて喚く。だが、ジャミルはダウドに
向かって容赦なく遠慮せず言葉をぶつけるのだった。
「うるさいっ!ヘタレじゃなかったとか、んな事関係ねえだろがっ!
お前、ナムジンと本当にダチになりたかったんじゃねえのかっ!
何がヘタレ友の会だっ!……ナムジンが真面だったからって、お前、
それでダチになるのもう諦めちゃうのかよ……、ちゃんと話も
してみようともしねえでさ……」
「ジャミル……」
「性格の違いだろうが何だろうが、関係ねえだろ、じゃなきゃ、
俺らだって此処まで長え付き合いは無かっただろ、俺らみたいに
デコボコだからこそ、いいコンビになれる事もあるんじゃねえかよ……」
ジャミルは明後日の方を向いてダウドに素直な気持ちを伝える。
その顔は赤い。……相変わらずのどうしようもないツンデレだった。
だが、そんなジャミルを見て、アルベルトもアイシャもクスクス
笑うのだった。
「な、何だよ、オメーら、何笑ってんだよ……」
「ふふっ、何でもないわよう、ね、ダウド、ジャミルの言う通りよ、
まずは仲良しになりたいって、ちゃんとダウドの素直な気持ちを
伝えるの、アタックよ!」
「アイシャ、……オイラとナムジンさん、本当に友達になれるかなあ?」
「うん、きっとね!私も応援するわ!」
「あ、あはは!そうだよねえ~、オイラね、ナムジンさんがヘタレとか
関係なく、一目見た時から本当に友達になりたかったんだ、えへへ~、
よお~し、早くシャルマナをやっつけちゃおーっ!」
「モンーっ!」
「……たく、単純な奴、嫌、分かってるけどな……」
(んとにっ、あんた達、違う様でさあ~、どっか似てんのよネ~!
マジ呆れるぐらいっ!)
「……ガングロ、うるちゃいっ!……あ……」
「う、うるちゃい……、プッ……」
ジャミルはアイシャに励まされモンと一緒にえいえいおーするヘタレを
見て呆れるが、どうにか安心する。そして錯乱しているジャミ公に
アルベルトも吹いた。
「……良かった、さあ、ダウドも元気を取り戻した処で、僕らも
急がなくちゃね、ナムジンさんは狩人のパオの方に戻ったのかな……」
「だな、よしっ、俺らも戻る……」
……ああ、このままでは……、ナムジンが……ナムジンがシャルマナに
殺されてしまう……
「……!?あ……」
と、後ろから聞こえて来た声にジャミルは振り返る。其処にいたのは
石碑の前に浮かぶ、虚ろな表情をした美しい女性だった。
「ジャミル、どうしたのさ、まさか……、又何か見えてます……?
ねえったらあーーっ!」
「アイシャ、モン、最近体操覚えたんだモン、コマネちんちん体操モン!」
「……モンちゃんっ!いい加減にしなさいっ!!本当に何処で
そーゆーの覚えてくるのっ!!」
「♪ちんちちんのぽんぽんぽ~ん!!」
(……きゃ、きゃーはははっ!デブ座布団、も、もう徳アホのスキルが
ぜってーマックス行くって!も~~っ!!)
「こらーーっ!!モンちゃん!!待ちなさーーいっ!!」
ダウドは再びヘタレモード突入、アイシャは又ふざけだしたモンに
説教をしようと追い掛けて行き、アルベルトは一人、冷や汗を掻く。
しかし、ジャミルは仲間達の方に構わず、突然出現した虚ろな表情の
女性の方に話し掛けた。
「あんた、もしかして死んだナムジンの母ちゃんかい?」
「はい……、不思議な旅人さん、あなたには私の姿が見えるのですね、
ああ、何と言う事……」
「……ひええーーっ!!?」
「ダウドっ!ジャミル、もしかして其処に亡くなったナムジンの
お母様がいるのかい?だったら話を聞いてあげて欲しい、僕らは
此処で待ってるよ!」
「ああ、らしいな……、やっぱりこの石碑はナムジンの母ちゃんの
お墓だったんだな……」
ジャミルはアルベルトに頷くと現れたナムジンの母親の幽霊と話を
聞こうと改めて向き合うのだった。
「……私の名前はパル、生前はナムジンの母親であり、勇敢なる族長
ラボルチュの妻でした……、ナムジン、愛しき我が子、もう一度あなたを
この手で抱き締めてあげられたなら……」
ナムジンの母、パルはまるで生前の頃を思い出すかの様に涙を零す。
そして、又静かにジャミルに向け言葉を伝え始める。
「……旅人様、お願いがあるのです、どうか聞いて貰えますか……?」
「ああ、俺らで出来る事なら何でもするよ……」
「……此処から遥か東にある、カズチィチィ山の麓に、モンスターに
滅ぼされたカズチャ村と言う廃墟があります、その村にあるアバキ草と
言う草をナムジンに渡して頂けないでしょうか、あの子ならきっと
上手く使ってくれる筈……、どうかナムジンを助けてあげて
下さい……」
「アバキ草か、分かった、でもそれは一体何の……、あっ……」
ジャミルがそう尋ねようとするが、だが、ナムジンの母親は姿を
消してしまっていた。とにかく自分達もまた此処から移動して
其処に行って見るしかない。ジャミルは他の仲間達にたった今
ナムジンの母親から聞いた事、託された事を説明した。
「分かった、じゃあその村にすぐ行ってみよう!」
「カズチャ村ねっ!」
「チィチィパッパのカズチャン村モン!」
(きゃーはははっ!チィチィパッパはアンタのアタマでしょっ!)
「シャア~……」
「……どうせそう言うと思った、けど、チィチィパッパは無理が
あんだろ、まあいいや、ダウドもいいな?すぐ東に行くぞ!
ナムジンにアバキ草とやらを届けなくちゃなんねえからな」
「あ、うん、分かったよお、行こう……」
ジャミルはボケのモンに呆れつつもダウドの方にも同意を求める。
ダウドも返事を返し、4人組は直ぐに東の廃墟、カズチャ村へと
移動を開始。処が、廃墟らしき村に漸く辿り着く頃には既に日が
暮れ掛かってしまっていた。おまけに村の入り口は頑なに硬い門で
閉ざされており、盗賊のジャミルが開けようとしても、盗賊の鍵を
使ってもみても門の入り口は開かなかったのである。
「どうしよう、ナムジンさん、まだ狩人のパオにいてくれるかなあ……、
村の方に戻っちゃったら……」
「とにかく間に合う様に信じるしかないよ、ジャミル、やっぱり鍵は
君でも無理かい……?」
「俺でも無理だなあ、……よし、蹴ってみるか……」
「モンのおならで門が開くかもしれないモン!」
「……開かないわよっ!」
「……大丈夫です、此処は私が道を開きます……」
バカ、暴挙行為に出ようとしたジャミ公とモンだが、後ろから又
声を掛けられる。ナムジンの母親、パルの幽霊だった。4人の
手助けをする為、この場にも姿を現したのだった。
「閉ざされしカズチャの扉よ……、さあ開きなさい!」
「おおっ、扉が開いたぞっ!?」
「凄いわ、どうなってるの……?」
「……ま、まさかまた~……」
「ご名答さ、ダウド、ナムジンの母ちゃんがな、又来てくれて力を
貸してくれたのさ……」
「そうモン、ダウドの側に……来てるんだモン~……」
「うひょええーーっ!?」
「……いい加減に慣れなよ、君もさ……」
パルの言葉に扉が反応し重い音を立てて開く。後ろで4人を
見守っているパルは静かに優しく微笑み、頷くと自分の姿が
唯一見えているジャミルのみに言葉を掛けた。
「お願いします、旅の方、アバキ草を手に入れ、どうかナムジンに……、
そうすれば、シャルマナと言う光る果実を食らった者の正体を暴く
事が出来る筈です……」
「そうか、女神の果実はやっぱり……、あんにゃろう……」
黄金の果実は既にシャルマナに食われていた事実もパルの証言により
知る事が出来た。今は一刻も早く、アバキ草を見つけナムジンに
渡す事が大事である。パルは消える直前にジャミルに、ナムジン、
夫、そして草原の民の事をどうか……、と、何度も何度もお願いし、
再び姿を消したのだった。
「女神の果実はシャルマナに……、これは益々急がなくてはならないね、
先に進もう!」
「ああ、ブン殴って吐き出させてやるってのっ!」
「よーしっ、アバキ草を探すわよっ!」
「モンモン!」
……いや、あのですね、お宅らは余り張り切らなくていいですから……、
と、ジャミルはアイシャとモンの暴走コンビを横目で見たが、何で
人の方見るのよう!と、アイシャに怒られる。そして、漸く村の中に
突入出来るかと思いきや、当然の如くモンスターも襲い掛ってくるの
だった。死してもなお、この村を守ろうとしている兵士の亡霊なのか、
骸と化したモンスターの死神集団兵だった。
「……可哀想だけれど、僕らの手で静かにもう眠らせてあげよう……!」
「ぎゃー!もーいやああーーっ!!」
「ダウドったらっ!またっ、……ナムジンさんを助けたくないのっ!?
お友だちになるんでしょっ!!」
「……は、ああっ!そうだったっ!オイラナムジンさんを助けるんだっ!!」
アイシャに怒られ、ダウドは砂塵の槍を構え直し、表情も
キリっとさせた。目の前に現れたモンスターと達と力強く
対峙するのだった。だが。
「時間がねえ、できる限り短期で決着だっ!アイシャ、頼むっ!」
「え?ええ、分かったわ、……イオラーーっ!!」
「キリッ!あれ?も、もう終わったの……?」
時間も押していると言う事で、アイシャのイオラで死神兵達を
一掃させたのである。戦おうと折角決意した手前、あっさりカタが
ついてしまったが、やはり戦うのが苦手なダウドはこれはこれで
いいかと思いつつ、キリッとしていた顔をいつものヘタレ顔に
戻した。
「まだ他にもモンスターはいるだろうな、気を付け……」
「あ、あれあれっ、なーんか変なのあるーっ!!」
「モンーっ!!」
「ろ……って言ってる側からああーーっ!!」
何かを見つけたらしく、ジャミルの中からサンディが飛び出し
飛んで行き、モンも行ってしまう。……ジャミルは切れ、サンディと
モンに大声で怒鳴るが聞いてない。
「……」
「何よ、アル、どうして私の方見てるの……?」
「い、いや、今日は何か大人しいなと……、そんな場合じゃないっ、
ジャミル、ダウド、僕らも行こう!」
アルベルトに言われ、ジャミルもブツクサ文句を垂れつつ、お騒がせ者達が
飛んで行った方向へと走って行った。……この時ジャミルは、アイシャが
つくづく空を飛べなくて良かったと……。
「……だからジャミルもっ!何なのようーーっ!!」
「な~んだっ、ただの石碑かあ~、つまんネ~、んじゃアタシ、危険な
目に遭うと困るからサ……」
サンディは一体何だと思ったのか、見つけたのは石碑。つまらなそうに
再び消えようとしたが。
「お待ち、決りだ、やる事はちゃんと致す、デコを出せ、モンもな……」
「え……?」
「モン……?」
バカとアホへのプレゼントデコピン×一発ずつ
「いったああ~いっ!ちょっとッ!何でアタシまでデコピンされなきゃ
なんねーのヨっ!あったまキタしっ!ジャミ公のアホーーッ!!」
「うるさいっ!団体行動を乱す不届き者!成敗致す!」
「あのさ、ジャミル、君に言われたくないと思うな……」
「何だ、アル……」
「何でも……」
さて、サンディは又引っ込み、デコを突かれたモンはふて腐れ、
又ダウドの頭に飛び乗ると頭をキャンディーの棒でポコポコ
叩くのだった。
「ねえ、ジャミル、この石碑……、何か文字が刻んであるわ……」
「ん?どらどら、ホントだ、何だ……?」
「僕が確認するから……、えーと……」
アルベルトはジャミルの隣に割り込み石碑に刻まれている
文字を見る。石碑にはこう書かれている。カズチャは聖なる
草を守る村、アバキ草を守る村。
「カズチャンはやっぱりエライ人なんだモン、モンモン……」
「モンちゃん、だから違うわよ……」
「アル、あっちにももう一つ、石碑があるよお……」
「どれどれ?」
……アバキ草は水が綺麗な場所、カズチャ村の地下に生える草……。
「成程、アバキ草は地下に生えているんだね……」
「じゃあ地下への入り口を探しゃいいって事か、よし!……」
そう思った途端、又後ろに気配を感じ、振り返ると……、祈祷師、
グール……の、モンスター集団に取り囲まれていたのだった……。
「……うぎゃああーーーっ!!」
「慌てるんじゃねえっ!……ちっ、この野郎……」
ジャミルは吠えだしたダウドを一喝。急いでんのに……と、心で
舌打ちした。
「ダウドっ!しっかりしなさいったらっ!ほら、ナムジンさんの為に
頑張るのっ!」
「はっ!そうだったっ!ナムジンさーんっ!今行くよおーーっ!
待っててねーーっ!」
「はは、でも、ダウドがやる気になってくれてるんだから、いい事だよね……、
ジャミル……」
「あう……」
アイシャに活を入れられ又表情を変えるダウドにジャミ公は一体
何やねんと思う。ヘタレたり、ナムジンの為に本気モードになって
みたりと、今回はコロコロ変わるヘタレなのであった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 42