生協

妻は生理が来ないと言う
 まちがいだよ
今日は生協が来ない
ということらしい
「生協は来ないのか!」
「生協は来ないってばぁ!」
午前で終わる仕事を終え
向かう先のリベロ三島店へ向かう
職務専念の妻に何を買うべきかを
〈線上〉でたずねる
命じられるがまま
ミニトマトとブロッコリーと卵と
納豆と豚肉とヨーグルトと牛乳
その他を買う
それと七円のレジ袋も
買う
スーパーカブの
グリップエンドの溝に
レジ袋をひっかけ
ひしゃげるタイヤによろめきながら
家へ帰る
雨が強くなっている
重いレジ袋を持って
雨よりもやわらかい階段を昇る
玄関には
袋が灰色の生協がある
あんなに来ないと言っていた
生協が!
目の前にある!
レジ袋は手からすべり落ちる
ミニトマトは四方八方へ潰れ
ブロッコリーは枝を伸ばし
卵から鶏が孵化し
納豆は双葉のころへ戻り
豚肉は「ぐひぃぐぃ」と鳴き
牛乳は乳牛へひっくりかえる
でも大丈夫
袋が灰色をはぎとり
発泡スチロールの箱をあけると
ミニトマトもブロッコリーも卵も
納豆も豚肉もヨーグルトも牛乳
その他も
ちゃんと入っているのだから

生協

生協

静岡新聞2025年2月25日読者文芸欄野村喜和夫選

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-02-25

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