(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第1話
鳥山明 作
ムラカミ セイジ 編
これはドラゴンボールZの、もう一つの未来で起こった物語である。
これはドラゴンボールZの、もう一つの未来で起こった物語である。
人造人間の脅威から未来の世界を救ったトランクスは、新ナメック星を探して母ブルマと共に宇宙船で旅をしていた。すべては人造人間によって殺された仲間達、罪もない人々、父ベジータ、そして武道の師である孫悟飯を復活させるために。
その願いを叶えてくれるのが、ナメック星のドラゴンボールで呼び出せる伝説の神龍・ポルンガだ。母ブルマからその存在を聞かされていたトランクスは、やっと悟飯と再会できる事に意気揚々としていた。
(早く悟飯さんに会いたい!)
トランクスは逸る気持ちを抑えながら、やっと見つけた新ナメック星へと船を進めた。
【新ナメック星】
トランクスとブルマが到着したそこは、本来ならナメック星人達が平和に暮らすのどかな星のはずだった。しかし見渡す限りそこは荒野で、何者かに荒らされた跡がある。遠くの方には焼き払われた集落が見えた。
(ナメック星の人達は生き残っているのか?)
かつて宇宙の帝王フリーザによる侵略を受けたナメック星。ナメック星人達は多くの犠牲を払いZ戦士と共にフリーザ一味を倒し、新たな惑星として新ナメック星を手に入れた。だが再び彼らが危機に晒されているのは明らかだ。
不安そうな表情でトランクスを見つめるブルマ。
「オレが見て来るから、母さんは宇宙船に隠れてて!」
そう言い残したトランクスはカプセルから出現させた戦闘服をノースリーブの上から着込み、武空術で勢い良く飛び立った。
その時トランクスは幾つかの邪悪な気を感じ取っていた。それは徐々に向こうからも近付いてきている。
(相手が戦闘力を察知するスカウターを装備しているなら、オレの戦闘力を察知して襲撃に来るはずだ)
非力なブルマを巻き込まないため、トランクスは宇宙船から遠く離れた場所まで敵を誘導した。
暗い灰色の雲が広がっていく。一雨降りそうな空だ。
(ここまでくればもう大丈夫か)
荒野のど真ん中で立ち止まると、トランクスは目の前に現れた4人の敵を睨んだ。
地球に襲来したサイヤ人やフリーザ一味と酷似した装備だ。内容こそ強化されたが同じような形状の新型戦闘服、左目にはさらに高性能になったのであろう新型のスカウター。髪型や顔、体格などの容姿は全く異なる4人だが、肌の色以外は比較的地球人やサイヤ人に近い形をしていた。
フリーザ一味の残党だろうか。しかしその戦闘力は一兵士にしてはあまりにも高いものだった。
「コイツは驚いた! こんな辺境の惑星で裏切り者のサイヤ人に出会すとはなぁ」
青い肌に黄色い瞳の傲慢そうな大男が言った。ニタリと笑って顔の前で拳を握る。
「戦闘力580。まるでザコだな。一般的なサイヤ人兵士の平均さえ下回る数値だ」
黄緑色の肌、痩せ形で長身の男が冷やかな声でボソボソと言うと、その隣りの白髪の小柄な女がフンと鼻で笑った。女はどこか人造人間18号に似た顔だった。孫悟飯の仇の1人、人造人間18号。思い出しただけでトランクスは虫唾が走った。目の前にしていると無性にイライラする。
(まずはコイツから消し去ってやりたい。この忌々しい女が!)
密かに心の中で呟いて、トランクスは身構えた。
(スーパーサイヤ人になるまでもないか……)
弱いサイヤ人相手といかにも油断している。普段トランクスは戦闘力をあえて下げているからだ。不意を突けば簡単に倒せそうだ。そう考えたトランクスとは裏腹に、どうやら4人のリーダー格と思われる男が他の3人を一喝した。
「その昔あのフリーザとコルドが不覚をとったのもサイヤ人だ! おそらくこのガキも戦闘力を自在に変化させると思え!」
リーダー格の男の言葉に、他の3人の表情が凍りついた。どこか恐怖さえ窺える。
短く刈り上げたツーブロックの髪型、青白い肌、バランスのとれた体型、そして強烈な覇気。トランクスはリーダー格の男の底知れぬ強さを見抜いた。そして他の3人が力によって支配されている事実も。
「申し遅れた。我々はコルド精鋭隊。フリーザの父コルド大王が遊撃隊として編成したエリート戦士の部隊だ。そこのバカデカいのがジュドー、ヒョロ長いのがマーシャル、チビの女がポエラ、そしてオレがコルド精鋭隊の隊長ジークだ。サイヤ人、貴様の名前は?」
「オレはトランクス。ベジータの息子だ!」
トランクスが叫ぶとコルド精鋭隊を名乗る4人がクスクスと笑いはじめた。やがてジュドーという大男が口を開いた。
「そいつは好都合。殺す理由ができたというもんだ。なんせコルドはカカロットとベジータとかいうサイヤ人になぶり殺されたそうだからな。で、トランクス君、死ぬ前にオレ達に聞きたいことは?」
「なぜこの星を襲った? お前達が星の地上げをするにはもっと良い星はいくらでもあるだろう?」
トランクスは苛立ちながら言った。どうも調子を狂わされる。本来短気な気性のトランクスには、正直うんざりするやり取りだ。だが連中はひょうひょうとしている。明らかにバカにされていた。
「そりゃそうだ。だがオレ達の目的はそんな小さなもんじゃない」
ジークが意味あり気に言った。トランクスは何か胸騒ぎがして焦った。
「何?」
ジークが続けた。
「地球とかいう辺境の星で貴様の同朋のサイヤ人にコルドが殺されて以来、オレ達は自由気ままに銀河を荒らし回った。が、そろそろ飽きてきてな。宇宙を支配する大帝国ってのも懐かしくなってきたわけさ。そこでこのナメック星にあるというドラゴンボールを使って、フリーザやコルドを復活させてやろうと思ったわけよ。今思えばアイツらの残虐さはオレ達みたいな荒くれには心地良いもんだったからな」
「そういうことか」
トランクスは青ざめた。そして何としても目の前の4人を皆殺しにしなければならないと思った。仲間達を、孫悟飯を生き返らせるために!
「さぁ、どうするかね? 貴様の狙いもドラゴンボールとかいうヤツなら、オレ達を止めてみるかい?」
リーダー格の男ジークの微笑。平静を装っているが、いつ襲いかかってもおかしくはない凶暴性が4人から伝わってくる。その中でも格段に邪悪な気を放つジーク。この男が最も油断できない相手だとトランクスは気を引き締めた。
「お前ら、コイツはオレ様の獲物だ。手ぇ出すんじゃねーぞ」
ジークは手下達にそう叫んで命令すると、スカウターを外して片手で軽く握り潰した。
「さぁ、お話しは終わりだ。そろそろ始めるかい……」
ジークはそう呟くとトランクスの視界から消えた。次の瞬間、恐ろしく鋭い回し蹴りがトランクスの顔めがけて放たれた。トランクスはわずかに上体を反らして避け、ジークの蹴りは空を切るが、また次の瞬間には鉄の拳が正面のトランクスめがけて打ち込まれ、今度はトランクスも避けられず両腕でガードした。ガードの上からでもビリビリと痺れるほど効ける。トランクスは後退して距離を置いた。
「ガァーッ!」
そこにジークの追撃。左右のパンチによる連撃をトランクスはまともにもらった。トランクスはそこで微かに違和感を感じる。
「くっ」
(モーションはでかいがスピードがある。一つ一つの攻撃に威力があって重い。……この男、強いッ!)
激しい猛攻撃を受けながらも、トランクスは素早く両手に気を溜め、それを合わせて気弾を放った。武道の師だった悟飯仕込みの技の一つ、気功破だ。あと少し威力が強ければ、フリーザ程度の相手なら即死させる事もできただろう。それをジークは正面からまともに受けていた。
(多少はダメージを与えられたはずだ)
トランクスはそう見越した一撃だった。
だが、ジークのその顔にはまったく動揺もなく、傷一つついてはいない。必死の一撃は片手で弾かれていた。
「なんだ、そりゃ。ふざけてんのか?」
ジークは額に青筋を立てて、力いっぱいトランクスの顔を殴り飛ばした。驚いたトランクスの表情は、その直後の苦痛と混ざり合った複雑な顔のままねじ込まれた拳に歪み、
そして次に気がついた時にはもう地面に叩きつけられていたのだった。
(一瞬意識が飛んだのか?)
ジークのパンチによって空中から打ち落とされたトランクスの落下跡は、地面をえぐりながら叩きつけられたため深い地割れになっていた。
殴られる瞬間に気を高めて戦闘力を上げたため、それほどダメージは残っていない。ただジークの身体能力の高さには驚かされた。そしてヤツには攻撃を予測させない何か特殊な能力があるようだ。それがトランクスの違和感だった。一瞬トランクスの方が動きが遅れるのだ。その遅れが決定づけるものが戦闘の中には確実にある。蓄積されるダメージと無駄に消費されるスタミナだ。
「いつまで手加減しているつもりだ? さっさとフリーザやコルドを倒したというスーパーサイヤ人を見せてみろ!」
ジークが怒りを露わにした。
(なぜこの男が、オレがスーパーサイヤ人である事を?)
トランクスは疑問に思ったがそれを口にする余裕はなかった。ジークが気を高め、戦闘力を跳ね上げて迫っている。
「ハァーッ」
トランクスは迷うまでもなく堅い意志を決める。両手の拳を固く握り、気を跳ね上げていく。
(怒りだ。怒り!)
自分の中で感情は弾けて、やがて怒りは限界を超えた。
この時代でセルを倒して以後、厳しい修行の末に自分なりに行き着いた『スーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人へ』と、トランクスは変身を遂げた。
黄金の光に包まれて、髪は金色へと変化し、そしてその肉体は先ほどとは比較にならないほど筋肉は膨張していた。
かつて完全体のセルに敗れたパワー重視のスーパーサイヤ人、しかしどこかが異なっている。そう、その外見にはかつての愚鈍さが、なぜか欠片も感じられないのだ。
トランクスは自信に満ち溢れた声で宣言した。
「貴様を殺すぞ、ジーク!」
そして2人はほぼ同時に出した拳を交えた。気と気がぶつかり合い激しいスパークが走る。その様をジークの手下達が眩しそうに眺めていた。
(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第1話