セミの告げ口


 田舎には、まだ土葬の習慣が残っていた。
 祖母の棺にフタをする直前、俺はそっと入れた。誰の目にも触れなかったと思う。
 体調が悪いわけでもないのに、ある朝起きると祖母は死んでいたのだ。葬儀はそのまま行われた。
 7年がたち、盆が来て、親戚たちが墓地に集った。七回忌だから大がかりな法要だ。
 真上から照りつける日差しの中に、坊さんの声が響く。
 そこへ突然、別の声が混じったとき、あんまり驚いて、みんな文字通り飛び上がったほどだ。
 セミだった。
 セミの鳴き声。
 それが土中、祖母の墓の下から聞こえ始めたのだ。
 一瞬で汗が引き、青ざめた表情で全員が顔を見合わせる中、一人が大きな声をあげた。
「お母さんが呼んでいる! 私が持病の薬をこっそり入れ替えたことを怒っているんだわ」
 叔母だった。
 数珠を投げ捨て、叔母は墓石にすがりついた。
 高価な黒い和服に身を包んだ、いかにも上品そうな婦人だ。それが火事場の馬鹿力で、墓石を一気に引き倒したのだ。
 次には体を投げ出し、叔母は地面を掘り始めた。男たちは止めようとしたが、その形相におじけづいたようだ。
 土が取りのけられて、ついに棺が姿を見せ、フタが開かれた瞬間のことは、今でもはっきりと覚えている。
 棺の中からは黒い塊が何十も飛び立ち、大きな羽音を立てた。その鳴き声のかしましいこと。
「ジジジジジ」
 俺が棺の中に入れたのはメスだったのだ。
 それが卵を生み、幼虫は祖母の体から栄養を吸い……。
 そのあと叔母はどうなったかって?
 殺人事件に時効はないからね。罪が確定して、今でも服役している。

セミの告げ口

セミの告げ口

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-02-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted