zoku勇者 ドラクエⅨ編 33

働く4人組・2

「ありがとな、リッカ、でも、俺達は今回客として来たんじゃねえんだ……」

「え、ええ?ジャミル……」

リッカは不安そうな顔をジャミルに向けた。直後、ジャミルは仲間達の
顔を見て再び頷く。そして、今度はレナの前に立つ。そして言葉を発した。

「俺たちゃ期間限定の使用人だよ!リッカの手伝いに来たんだ!だから別に
客扱いしなくても特別扱いもしなくていい、暫くの間此処に居座る!
……文句ねえだろ!!この方が気兼ねねえのさ!な、リッカ、いいだろ?
どんどん扱き使っていいぜ!!」

「……ジャミル、で、でも……」

「ま、まあっ!?」

ジャミル達の突然の申し出にリッカも戸惑う。ジャミルはリッカに
悪戯っぽく笑い、レナには舌を出した。それを見たレナは益々
激怒する……。

「私達にも何かお手伝い出来る事があればと思うの、お掃除ぐらいなら
出来るから!」

「うん、何とか大丈夫だよお~、でも、オイラ本当は掃除苦手だけどね……、
へへ……」

「アイシャ、ダウド……」

「な、何よ、あんた達、生意気な口聞いて……、どう見ても家の掃除も
碌に出来ない様な無能なお子様集団じゃないの!……此処は幼稚園じゃ
ないのよ!?皆働きに来ているのよ!?」

「レナさん、此処にお邪魔させて頂く間の宿代もちゃんとお支払い
しますから、それと、寝泊まりの場所は貸して頂けるのなら倉庫でも
何処でも構いませんので……、後、当然お給料なんて頂く事はしません
から……、僕らはノーマネーで結構です」

糞真面目なアルベルトは冷静にと、レナに向かって淡々と話す。レナは肩を
震わせ彼女の怒りは更に最高潮に達した。

「く、くっ……、あんた達……、私をバカにする気?だからあんた達
みたいな素人を働かさせられないわよっ!ふ、ふざけないでっ!もしも
仕事で失敗して何か壊したり迷惑掛けたらどうしてくれんのっ!!
……只じゃ済まないわよっ!!」

「まあ、だからさあ~、取りあえず見てなって、大丈夫さ、心配すんなよ、
リッカ!」

「……ジャミル……」

ジャミル達の気持ちを感じ取り、リッカの心が段々と喜びに溢れてきた。
彼らはリッカと同じ、働く者の立場として一緒に同じ時間を過ごそうと
してくれている。皆の優しい気持ちが何より嬉しかった。……本当に……。

「レナさん、どうしますか?……予約のお客さん連れがもう外で
待ってますけど……」

「は……、も、もう知らないわよっ!私やっぱり医者に行ってくるわ!
どうでもいいわ!リッカさん、これだけは言っておくわよ、伝統ある
この宿屋の名にもしも傷が付くような事があればその時はあなたが全て
全責任を取りなさい!……いいわね!?」

「……レナさん……、私……」

「そんな……、オーバーだよお~、……うわっ!?」

「……フンっ!!どいてっ、邪魔よっ!!」

レナは近くにいたダウドを押しのけ、凄い勢いで入り口のドアを乱暴に
開ける。そして、怒りに身を任せたまま、そのまま出掛けて行った。
外で待っている親子連れの客に挨拶もせずに……。

「……ママ~、あのお姉ちゃん、怖いよう~……」

「本当、此処の宿屋は素晴らしいお宿で評判も良くてお持て成しも
最高と聞いて、私達家族も是非にと来てみたのだけど……、あなた……」

「ふむ、噂は噂、……大した事はなさそうだなあ……、がっかりだよ……」

「あっ、いらっしゃいませ!ようこそ、セントシュタインの宿屋へ!!
お客様、心よりお待ちしておりました!!」

リッカはそれでも率先して客の前に趣き頭を下げる。ロクサーヌを
始めとする中に残っていた従業員達も一斉に。4人組も慌てて頭を
下げた。今日は客ではないのだから。モンもマネをして一緒にお辞儀。

「あはっ、ママ~、このお人形さん可愛いねえ~!」

「可愛いかどうかは微妙だけど、変わったマスコットね、面白いわ!」

「ははは、見ろ、不細工だなあ~!」

「……シャ~、モン……」

客の子供はふよふよと浮かんでいるモンを見て喜ぶ。どうやら親子連れは
少し機嫌が良くなって来た模様。その隙を逃さず、リッカは親子を中へと
案内し、お持て成しをするのだった。……当然モンは余り機嫌がぶうぶう
良くなかったが、アイシャに窘められた。

「チョメスケさん、お客様のお部屋へのご案内をお願いします!」

「はい、リッカさん、さあお客様、お荷物をお持ちしますよ、ささ、
どうぞお部屋へ!!」

従業員は親子団体客を部屋まで案内し、連れて行く。それを見たリッカは
ほっと安堵の息をついた。

「流石だな!よし、リッカ、俺らも早速手伝うよ、何でも申しつけてくれや!」

「ちょっと待って下さいよ、リッカさん……」

ジャミル達はリッカの指示を聞こうとする。しかし其処に別の従業員達が現れる。

「私達はレナさんの言う事が正しいかと……、確かに今、此処の宿屋は
従業員の人手が足りない程の忙しさですが……、だからと言って、こんな
素人達に本当に仕事を任せるのですか?正規従業員の我々をバカにして
いるとしか思えません……」

「本当に雇うのですか?リッカさんのお知り合いだと言うのは分かりますが、
どうも……」

どっちかと言うと彼らは思考がレナ寄りの方であり、リッカは若いながら
今のこの宿では女将の様な立場の存在になっていた。しかし、レナ同じく
リッカを余りいい目で見てはいない。今まで自分達が必死で守ってきた物を、
こんな若い小娘に託すのは決して快く良くは思ってはいない連中だった。

「あのさ、おっさん達、何度も言うけど、これは俺らが考えた事なんだよ、
リッカの手伝いがしたいんだよ、力になりたいんだ、……だから別にリッカは
何も悪くねえんだよ!!」

「僕達を信じて頂けないでしょうか……、どうかお願いします……」

「出来る事は何でもしますよお!!」

「お願いです!!私達にお手伝いさせて下さい!!」

「モン~……」

「まあ、何をしでかすか分からないど素人に手伝わせるのもいいんじゃ
ないですか?ですが、その場合私らは仕事を当分休ませて頂きますので、
よくお考えになって下さいよ……」

「えっ……?あ、あの、ちょっと!皆さん待って下さい!!……待っ……」

従業員達は宿屋を出て行く。リッカはジャミル達の心遣いに
感謝していたが……、まだ正式に手伝って貰うと答えを出して
いない。それなのに……。確かにジャミル達に手伝って貰えるの
なら、リッカは本当に嬉しかった。だが、ジャミル達の言った事は
正規従業員達の余計な反発を招く事態に陥り、リッカを更に窮地に
追い込む事に……。

……それでもリッカは。レナに何を言われても自分を心配して遠い地から
駆けつけてくれた友人達の気持ちを無駄にしたくなかった。何れは又
直ぐに出発してしまうだろう友人達。少しでも一緒にいられるなら、
神様が与えてくれたかも知れない、その僅かな時間を大切にしたいと
思った。だから……。

「ジャミル、皆、有り難う、……お手伝い頼めるかな……」

「リッカ……、ああ、任せとけよ!へへ、信頼してくれてありがとな!」

「うん!ふふっ!」

「リッカさん、もう次のお客様がお待ちしてます!えーと、本日の予約客は
これで最後です」

「あ、はーいっ!今行きます!」

「じゃあ、まずは僕が接待をさせて貰うね!」

アルベルトは一目散に外へとすっ飛んで行き、待たせていた客を連れて来た。
そしてリッカに予約客の名簿の確認をすると、客の荷物運びを引き受け
部屋までの案内を始める。

「な、中々やりますね、言葉遣いはやたらと丁寧だし……、まだあんなに
若いのに……、あ、ああ、そうでしたね、リッカさんもお若いんでした……、
そうだなあ、これからはもうこの宿も次の若手の時代なのかな……」

宿に残っていた従業員は率先してテキパキ動くアルベルトに感心する。
……バトルの時もこれぐらいいつも素早く動いてくりゃいいのに……、
と、思うジャミル。

「何、ジャミル……?」

「何でもねえよ……」

「さて、次はお夕食の準備だね、えーと、ジャミル、お使いをお願い
出来るかな?買って来て欲しい物はこのメモに書いてあるからね」

「よし、ひとっ走り行ってくらあ、任せとけ!」

「ジャミルは足が速いから本当に助かるわ!」

「じゃあ、リッカ、オイラは他の従業員さん達のお邪魔にならない
程度に、厨房に入らせて貰うね、これでも少しは料理出来るから……」

「ダウド、お願いしていいの?じゃあ、そっちはお任せするね!」

「お任せあれー!」

「よーしっ、じゃあ私とモンちゃんでお掃除をさせて貰うね!まずは
ロビーからだね!」

「モンーっ!」

「じゃあ、アイシャ、私と一緒にやろう!女の子同士、ね!?」

「うんっ!」

アイシャはリッカと一緒に宿屋の掃除担当。それぞれの主な本日の仕事の
役割も決まり、ジャミル達4人組はこの宿にて暫くの間、滞在が決まった。
ボランティアフリーだが、金を貰う目的で来たのではないのだから。
疲れているリッカの手助けが少しでも出来れば、いられる間に少しでも
仕事の合間に色々話を聞いてやり、カウンセラーや癒やしになればと、
そう思っていた。

「リッカ……」

「あっ、ロクサーヌさん……、ご、ごめんなさい……、私……」

ロクサーヌは何となく、少し縮こまってしまったリッカを見つめる。
だが彼女はリッカの肩に優しく手を置いた。

「あなたが決めた事なんですもの、とことん何でもやってみなさい、
私は何も言わないわ、あなたのお友だちですもの、彼らを私も信じるわ……」

「……ロクサーヌさん、有り難うございます!」

ロクサーヌは笑って手を振りながら自分の仕事担当位置に戻って行った。
此処の宿に残ってくれた従業員達は、ほぼリッカの事を信頼して
くれているから残ったのである。だが、怒って出て行ってしまった
レナや、他の従業員達と何とか話をしたいと思ったが……。

「……レナさん達にも分かって欲しいな、ジャミル達は皆、本当に
頼れる仲間なんだって事……」

そして、宿屋を飛び出して行ったレナはと言うと。……真っ昼間から
酒場でヤケ酒を飲んだくれていた。

「……別に……、あの子らが仕事が出来ようが出来まいが関係ないのよ、
大体私は最初からリッカが気に入らなかっただけよ……、そう、ルイーダが
いきなり宿にあの子を連れて来た時から……、苛々したわ、何なのよと
思ったわよ……、宿王の娘だろうが何だろうが……」

そう言いながら、レナは更に強い酒をガブ飲みしようとするが、
マスターに止められる。

「姉さん、気持ちは分かりますが……、もうお仕事に戻られた方が
いいんじゃないですか?頭も痛いんでしょ?……きっと皆さん
心配してると思いますが……」

「……ほっといて……、もう動けなくなるまで飲んでやるわ……、
誰も心配なんかしないわよと……、どうせ皆リッカの事が
大事なんでしょ、そうよ、リッカだけいりゃいいのよ……」

(……あの子が来てから……、ほぼ注目度はあの子の方、客も皆
リッカを褒めていくわ、凄い子だって……、雑誌の取材にも
記者が来たわ、でも、話を聞いて書いて行くのは全部リッカの
事ばかりよ、……私達、陰で支える裏方の従業員の事なんか
どうでもいいのよ……)

「……」

レナはテーブルに突っ伏し、ガラスコップに映る自分の情けない顔を
見つめる。酒に溺れ、まだ十代半場の若い小娘に嫉妬する醜い
自分のやつれた姿に……。

「……これから先、あの宿屋はあの子に乗っ取られていくのね……、
ふふ……、汚らわしい……」

そして、時刻は夜21時を回り、宿でも住み込みの従業員達以外は
家に帰ったり、休み始めていたが、まだレナが宿屋に戻って来る
気配は無かった……。

「お疲れさまー、ジャミル達も今日は本当に有り難う!後は私がやるから、
皆はお部屋で休んでね、どう?結構大変だったでしょ?」

リッカは笑顔で4人に笑い掛ける。物置か倉庫でいいと言ったのだが、
部屋は幾らでもあいているからどうぞ使ってと、4人に休める部屋を
提供してくれたのだった。

「いやいや、まーだまだ、何かあればいつでも動けるぜ?言ってくれよ!」

(……んとに、バカジャミ公、女のコの前だと異様に張り切るん
だから……、やっぱり男ってどいつもこいつも基本、こうなん
だよネ……)

「うるっせー!ガングロっ!!」

「えと、どうかした?……ガングロ?」

「い、いや、何でもねえって!ははは、あーははは!!」

サンディの言葉に切れ、そしてリッカに必死で誤魔化すジャミル。
ダウドは何となく、アイシャの方をちらっと見たが……。

「……」

(うわ、見てる、……やっぱしっかり見てるっ!!)

アイシャはロビーテーブルの椅子に座りながら、疲れて眠ってしまった
モンの腹を撫でていたが。……顔は笑顔である。……だが、目線は
しっかり……、ジャミルの股間をじっと見ていた……。腹は不機嫌なのが
直ぐにダウドには分かるのであった。

「ジャミル、お言葉に甘えさせて貰って、僕らはもう休ませて貰おう、
明日も沢山仕事があるからね、リッカはリッカの仕事がまだあるんだから、
邪魔しては駄目だよ……」

「有り難うアルベルト、そういう事、あはは、さ、皆は身体を休めてね、
さあさあ!本日も本当にお疲れ様でしたー!」

「そうか?じゃあ、俺ら部屋に行くけど、もし何かあったら遠慮せず
言ってくれよ!」

「うん、ありがと、ジャミル……」

「お休み、リッカ……、又明日ね、頑張ろうね!」

「モンモン~……」

アイシャもモンを連れて提供して貰った部屋に移動する。その場には
リッカとカマエルのみになる。ロクサーヌも本日の仕事を終え、部屋で
休んでいる。後は、リッカには姿が見えないが、宿屋に居座っている
ラヴィエルのみ。……リッカはレナが戻って来ない為、彼女が担当する
金庫番や会計の仕事をその分しておかなければならかなった。仕事を
する事事態は全然苦痛ではない。だが。

(……このままじゃ駄目、私……、レナさんとちゃんと一緒に
お仕事がしたい、……でも、どうしたら仲良くなれるんだろう……、
ねえ、父さんもこんな事あった?従業員の人と仲良く出来ない、
迷った事、色々上手くいかない事ってあったのかな……)

リッカは夜空に浮かぶ月を見ながら、今は遠い父の事を思い出していた。
今はもう記憶の中にしか存在しない父。……今、もう一度逢えたなら、
温かいお茶を一緒に飲みながら話をしたかった……。

翌日。本格的に4人の宿での数日間の手伝いがスタートする。最初は
張り切っていた4人だが、本日の宿に訪れる客数を確認し、絶句……。
昨日の客の数とは比べ物にならない程の倍の人数予約が入っていた……。
もはやリッカの宿屋は知る人ぞ知る、超有名人気宿屋なのだから。

「……ご、50人て……、マジ?」

「うん、でも、うちはこれでも平日は普通の方なんだけど……、やっぱり
ジャミル達は初めてだもんね、大変かなあ……」

「ぐうぐう、ねむいよお~……」

「モンモン……」

ジャミル達は5時に起きなければならなかったが、リッカはとっくに
もっと早くに起きて仕事をしている。立ったまま寝ているダウドを見て
アイシャは呆れた。昨日、レナを始めとする従業員達も何人かストを起こし、
まだ戻って来ない。原因の大半は自分達の所為なのであるが。張り切って
引き受けた物の、接待やらその他、普段からあまりこう言った事に慣れてない
ジャミルは段々不安になって来る……。すると、頭に非常に嫌味なレナの顔と
台詞が浮かんで来た。


「……何よ、やっぱり無理なんじゃないの!もうあんた達帰っていいわよ!
さっさとお帰り!!この口だけのド素人集団がああっ!!」


「……いいよ、やるよ、やってやりますよ、俺は言った事は必ず
実行する男なんだよっ!!」

「ちょ、ジャミル、いきなりどうしたのさ、落ち着いてっ!!」

急に吠えだしたジャミルをアルベルトが心配する。立ったまま
寝ていたダウドもびっくり。目を覚ました。

「リッカ、早速今日の分の仕事を手伝うから何でも言いつけてくれ!」

「うん、有り難う、でも余り無理しないでね……、まだ始まったばかり
だから、一日は長いし……、まずは朝のお掃除、それが済み次第、今
宿屋に泊まってくれているお客様の朝食の準備をしようね!」

「了解っ!」

4人はリッカの指示の元、次の客を気持ち良く迎える為の早朝掃除に
取り掛かる。トイレから階段、廊下と、様々な箇所を手早く分担して
掃除していく。とにかく宿屋は広い。これを時間内に徹底的に綺麗に
してゴミ一つ残さず終わらせなければならない。特に掃除が嫌い、
苦手なジャミダウコンビは頑張らなければならなかった。

「はあ~、働く人達って大変だあ~……、身にしみるよお~……」

「モンモンー!」

「……モンちゃん、モップに乗って遊んじゃ駄目っ!お手伝いの
邪魔するならお部屋で遊んでなさいっ!!」

「モン~、アイシャ怖いモン……、もうしませんモン~、モン~……、
アイシャぷっぷっぷ~!ベエ~……」

ちょこっと悪戯をして掃除の妨害をしてアイシャに怒られてしまった
モンは少ししょげた。早くも疲れてきていたダウドは、自分も掃除の
妨害をしたら部屋に戻っていいのかと……。

「……戻さねえよ、さっさと手を動かすっ!時間は限られてんだぞっ!!」

「なんで心の声読むのさあ~!ジャミルのアホーーっ!!」

直後、ダウドは急に現れたお局従業員に廊下にゴミが落ちていると
注意されるのだった。

「よい、しょっと……、ふう、姉さんに鍛えられてるからバトルよりは
遥かに楽だよ……」

「おお、兄ちゃん、凄いじゃないか!階段がピカピカだよ!」

「あ、有り難うございます……、何だか照れますね……」

階段を拭いていたアルベルトは従業員に褒められる。宿に残っていた
従業員達も最初は不安な眼差しでいたが、段々と働く4人組に
関心を持つ様になって来た。掃除が終わると次は客への朝食の準備。
今日の4人組の厨房での手伝いは主に配膳と後片付け。食事を客に
運んだ後、食べ終わり次第食器の後片付けをする。朝食の時間は7時。
そして現在時刻は6時。食事の時間まで1時間だが、その間にも職人に
教わりながら厨房で行なう仕事は山ほど。……ようやっと朝の仕事が
一段落した4人は、ロビーにて自分達の分の朝食を貰い、一休みが
出来ていた処。

「食べたら又直ぐに動かなくちゃ、本当に大変だね……」

「うん、思ったよりもね、でも、大変だけどお手伝いは楽しいわよ!」

「モンーっ!」

アイシャはモンに自分の分のパンとオムレツを分けて半分こで
食べさせる。ジャミ公とダウドは早くもへばりそう、へばっていた。
真面目なアルベルトはまだまだやる気満々、アイシャも働く事に
喜びを感じていた。

「客だった時は、出して貰ってた飯を何気なく食ってたけど……、
こうやって裏方の立場に回ってみると……、この食事作るのにも
どれだけ大変なのか身にしみるわ……」

ジャミルはそうしみじみ呟きながらおかずのコロッケを口に
入れるのだった。

「うん、アホの君にも教養になって良かったね、ジャミル……」

「……そうだな、アホの俺でも……っと、何を抜かすかあーーっ!
この腹黒めえっーー!!」

「この後も仕事が押してるから、早く食べてしまわないと……」

ジャミルは吠えるがアルベルトは冷静に無視。只管黙々と自分の分の
食事を進める。ついでに口に自分の分のコロッケを押し込み静かに
させた。口中コロッケで一杯になったジャミ公はコロッケ男と化す。
まだロビーで寛いでいる他の客はジャミルを見てクスクスと……。

「……もう~、恥ずかしいからやめなさいよっ!ジャミルはっ!!」

そうジャミルに注意するアイシャだが、コロッケ男と化した
ジャミルに吹く寸前。

「あはは、そんなに急がなくていいよ、アルベルト、皆が手伝って
くれたお陰で、今日のこれからの流れも順調になりそうだし、皆本当に
凄いお手伝いさんだよ!はい、お代わりのお茶よ、ゆっくり休んでね!」

リッカは4人のテーブルに温かい紅茶を差し入れ。客の時と変わらず
リッカは気遣いの優しいお持て成しをしてくれるのだった。

「わりィなあ、俺ら今回客じゃねえのに……」

「だからそれはいいのっ!もうお互いにそう言うのなしっ!
今度言ったら怒るよ、ジャミル!私達、友達なんだから!」

「へ、へい……」

(アハハ、バカジャミ公、尻に潰されてるし!)

自分の中からケタケタと笑うサンディの声が聞こえて来た。また後で
デコピン噛ましたるわ、覚えてろとサンディに念を送っておく。けど、
この宿屋が繁盛する理由もやっぱり、頑張り屋のリッカの人柄といつも
持て成しの心を忘れない純粋さなんだろうなあと改めてしみじみ感心。
……していると、入り口のベルが鳴り、客が1人入って来た。やたらと
目つきが悪く、頭部はスキンヘッド、ガタイの良さそうな男である。

「よう、邪魔するよ……」

「あっ?はあ~い、いらっしゃいませ!」

「泊るんじゃねえんだ、此処は食事だけでもさせて貰えんのかい?」

「大丈夫です、直ぐにご注文をお伺いします!」

「そうかい……」

「お冷やです、もう少しお待ち下さい……」

男は4人組の隣のテーブルにどかっと腰を落ち着けた。続いて
ロクサーヌが氷水をテーブルに運んで来た。男は届いた氷水を
ぐいっと一気飲みする。

「……糞ぬるいな……、糞が……、こんな水飲めるかよ……」

「……」

(ネ、ジャミル、あの客なんかやばそうじゃネ?……キンピラ?)

「チンピラだろ……、オメーはいいよ、まだ寝てろっての!」

(ふ~んだっ!)

サンディは一旦大人しくなるが、確かに見た感じはヤバい感じが
何となくした。ぶっとい二の腕から見える入れ墨……。ブツブツ
呟く小言……。泊まり客ではないのなら、このまま大人しく飯を
食ったらさっさと出て行ってくれとジャミルは思うのだったが……。

「お待たせ致しました、ご注文をどうぞ……」

再びロクサーヌがオーダーを伺いにテーブルに戻って来た。
スキンヘッド男はじろじろとロクサーヌを見回していた。
やはり何だか余り良くない感じである。

「そうだな、……あんたを貰えるかい?」

「え、えええ……?」

「はは、冗談だよ、びっくりしちゃって、可愛いな……、オイ、
いいケツしやがって、育ってんなあ~、ははは!」

やはり碌な客では無さそうだった。会話を聞いていたジャミルは
一発殴ってこようかと思ったが、察したアルベルトに直ぐに止められる。
此処でジャミルが動けばそれこそ厄介な事に為り兼ねない。この宿屋の
基本、来てくれた以上、どんな客でも誠意を持ってお持て成しをさせて
頂く。それがリッカの心。……だが、内心リッカも不安になり始めていた。
こんなガラの悪そうな客は今までかつてこの宿に訪れた事が無かった。
……事態を見ているアルベルト達も不安が増す……。

「ロクサーヌさん……、あの、私が……」

「リッカ、大丈夫よ、……コホン、お客様……、ご注文を
お伺い致します……」

リッカは不安そうな顔をロクサーヌに向けるが、ロクサーヌは
平常心を保ちながら、もう一度客と向き合う。

「よし、じゃあ、特上のステーキ貰えるかね?」

「……ステーキ……」

ジャミルの耳がピクピク動く。そして顔に青筋を浮かべる。……朝っぱら
からんな、贅沢なモンオーダーしてんじゃねえぞと……。やっぱり腹が
立ってきて、男を殴りに行きたかった。

「……ジャミル、駄目だよ、僕達もそろそろ仕事に動かないとだよ……」

「分かってるよっ、んじゃ、飯も済んだしそろそろ動く……」

「んだとおおっ!?」

アルベルトに又注意されジャミルも席を立とうとするが、又、隣である。
男がロクサーヌを脅し、今にも掴み掛かろうとしていたのだった。

「俺はステーキが食いてえんだよっ!特上肉のよお!何で出来ねえんだよ、
ちゃんとした調理師も此処にはいるんだろうがよおおおっ!!」

「……ロクサーヌさんっ!あのっ、お客様……」

ロクサーヌは大丈夫だからと片手でリッカを制止、男と話し合おうと
する。ロビーにいた他の客は厄介沙汰に巻き込まれまいと、さっさと
部屋に逃げ帰ってしまう。騒ぎを聞きつけた他の従業員達も慌てて
ロビーに集まって来た。

「皆、落ち着いて!……お客様、申し訳ございません、きちんと
メニュー票をお渡しするべきでしたね、うちの宿屋は食事のみで
ご利用なさるお客様は余りおらっしゃられませんでしたので、以後、
気を付けます……、今回は簡単な食事のみ、ご用意出来るのですが……」

リッカもロクサーヌも従業員達も丁寧に一斉に男に頭を下げた。
しかし、ジャミルは段々と苛々してきた。はっきり言ってこんなのは
客でも何でも無い、只の迷惑なチンピラじゃねえかと。お持て成しの
心とやらを大事にするのも大切かと思うが……。言うべき事はちゃんと
言うべきだろうと……。心がモヤモヤしてきていた……。

「フン、分かりゃいいんだよっ!おい、又来るからよ、今度は
ちゃんとステーキの材料用意しとけよ!!」

「あ、お、お客様……?お食事は……」

男は乱暴にドアを蹴り上げ、外に出て行った。どうやら今回は
帰るらしいが、又来ると言っている。どうにか帰ってくれた
スキンヘッド男に、従業員達は一同安堵の溜息を漏らした。

「やれやれ、どうなる事かと思いましたが……、うちの宿屋を
専門レストランか何かと勘違いしている様でしたね……、傍迷惑な……」

「全くよ、嫌だわ……、又来るって言ってたし……、何か対策を
考えた方がいいんじゃないかしら……、警察に言っておいた方が
良くないですか……?」

「あの、皆さん……、どんなお客様でも誠意と真心を持って喜んで
頂ける様、対応させて頂きましょう、うちの宿に来てくれた方は皆、
大切なお客様です、それがうちの宿屋の心ですから……」

リッカは平然と従業員達に明るく言い放つ。だが、従業員達はリッカの
方を見て顔を曇らせる。

「……いつもそう言う訳にはいかないんですよ、リッカさん……」

「えっ……?」

「我々もいつも笑顔で仕事をしていられるとは限りません、特に
真っ向から面と向かって客の相手をする商売なんて、時には得体の
知れない……、悪い客にだって遭遇する事があると言う事です……、
大変なんですよ、人と接すると言う事、……働くと言う事はですね……、
ま、何の仕事でもですがね……、あなたはまだお若い、これから色々な
社会をもっと知って行くのでしょうが……」

「……」

従業員達はそれだけリッカに伝えるとそれぞれの持ち場に戻って行く。
リッカはそのまま無言になり、立ち尽くしていたが、ロクサーヌに
優しく肩を叩かれ我に返る。4人組も心配そうに事の成り行きを
見つめていた……。

「そう……、だね、私ももっと色々勉強しなくちゃ……」

「はあ、帰ってくれて良かったねえ~、本当に、迷惑だよお~……」

「モンモン!モンがおならを掛けてあげれば良かったんだモン!!」

「ま、またモンちゃんてば……、ジャミル……?」

アイシャはきょとんとするが、ジャミルも無言でリッカに近寄って行く。
見ていたアルベルトは、何となく奴がさっきから機嫌が悪くなって
いたのを感じ取っていた。

「リッカ、俺、外行って庭の水撒きしてくるよ、ホース貸してくれないか?
何処にある?」

「ああ、有り難う!えーと、ホースなら……」

ジャミルはリッカからホースが仕舞ってある場所を教えて貰い、
ホースを持ち、1人で外に出て行った。ダウドも何となく……。
ジャミルは機嫌が悪くなってくると、1人になりたがるクセが
あるからである。

「はあ、大丈夫かなあ~……、ジャミル……、何怒ってんのか
知らないけどさあ~……」

そして、1人外に出たジャミルは。何だか異様にヤケになってホースで
水を長小便の様にジャージャーそこら中に乱暴にまいていた。

「……たくっ、くそっ!」

「ちょ、あんた何やってんのッ!通り掛かるお客さんに掛かったら
どーすんのッ!!」

「……ガングロ……」

サンディが妖精モードで飛び出す。ジャミルの虚ろな顔を見て、何となく
サンディも理解した感じ。

「俺、あいつの力になれれば、話を少しでも聞いてやれたら……、そう思って、
少しの間……、此処で手伝いをさせて貰おうと思ったのに……」

「お持て成しの心とやらに苛々してきたカンジ……?図星……?」

「う、う……、返って余計心配になって来たんだよ、何時までも
俺らだって、此処にいられる訳じゃない、さっきのチンピラが
帰った後のやり取りを見てさ、……客じゃねえ奴はどうしたって
客じゃねえんだよ、誰でも何でもお持て成しの心じゃ……、この先
あいつもどうなるか……」

「ま、腕の立つ用心棒さんとかを呼ぶ事も考えた方がいいんじゃネ?
アンタがそう言ってやれば……?はあ……」

サンディは発光体に戻ると姿を消す。残されたジャミルはホースを
持ったままその場に暫く突っ立っていた。

「あなたもリッカさんのアマちゃん根性に苛々して来たんじゃ
ないかしら……?」

「……誰だっ!?……あ……」

「はあい……」

誰かと思えば、暫く姿を消していたレナであった……。

「何だよ、戻って来たんなら早く戻って仕事手伝えっての、今日は
これから客が沢山来るんだぞ……」

「いやよ、私、何があっても戻らないわよ、リッカさんが根性を
改善するまでね……」

「……改善て、……!?」

レナはくすっと笑うとジャミルの鼻に指をくっつけ、悪戯っぽく
クスリと笑う。そして、こう言葉を続けた。

「優しいだけじゃ商売人なんて勤まらないって事、実は私、さっき
こそっと様子を見てたの、あの子はやっぱり甘いのよ、……前に
路上に倒れてたヨッパライを連れ込んじゃって、宿中大騒ぎに
なった事があって、結局、酔いが覚めたらリッカの気持ちで
金も払わず出て行っちゃったけどね、……冗談じゃ無いわ!
こっちは商売してるのよ!あんたも友達だって言うのなら
はっきり言ってやったらどう!?私だって、本当はあの子に……、
もういいわ!じゃあね!!」

「……」

レナは去り、ジャミルは又呆然とその場に立ち尽くす。
……スーパーお節介マンなのは、リッカもウチのアイシャも
変わんねえと思ったのである……。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 33

zoku勇者 ドラクエⅨ編 33

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-26

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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