zoku勇者 ドラクエⅨ編 32
働く4人組・1
あれから……。誘拐犯、そして、妖毒虫ズオーとの死闘も終わり、
4人はサンマロウに戻って来ていた。……人形に戻ったマウリヤを
連れて……。
「アイシャ、大丈夫かなあ……」
「疲れてるんだから……、ちゃんと身体を休めないと……、でも……」
「もう暫く……そっとしておいてやろうや……」
「……」
ジャミル達男衆はそのまま沈黙になる……。4人、サンディとモンは
サンマロウに戻り、マキナの屋敷へ訪れていた。今日はこのまま屋敷を
借りて一晩屋敷に泊めて貰い身体を休まさせて貰う事にした。
……もう屋敷の主はいないが、だが……。
「おお、ジャミルさん達!ご無事で何よりでしたぜ!」
「……お帰りなさい!皆さん!!」
「ああ、皆様、そのお姿から察するに……相当大変だったのですね……、
汗汗……」
屋敷には元使用人達が皆で4人の帰りと吉報を待ち侘びていた。使用人達は
宿屋を皆で辞めて来たらしい。クズ親子の外道ぷりと横暴にもう我慢の
限界が来ていたのだった。まさかこんな反乱分子が起きると思わず、
クズ親子は揃って宿を出て行く使用人達の姿に相当焦っていたらしい。
タンスに閉じ込めっぱなしの盗賊共も、話を聞いた使用人達が直ぐに
警察へと連絡。悪者も無事お縄頂戴されて行った。普通ならこれで
何もかもがハッピーエンドを迎える筈であった……。
「何て事だ、マキナお嬢さんが……」
「……町中の皆を騒がせた罪を償いたいと、お一人で長い旅に……」
「あ、汗汗汗……、……」
「俺らも止めたんだけど……、どうしても気持ちの整理が付かない
からってさ……、戻るのも何時になるか分からないって、皆にも
申し訳なかったって……、謝ってたよ、このままじゃ自分の気持ちも
修まらないって……」
皆に説明をするジャミルだが、嘘をついているのは分かっていた。
マキナ、そして、マウリヤが旅に出たのは本当である、だが、本人達は
永遠に終わる事のない、……長い長い旅立ちへと……。
「分かりました……、では俺らはこのお屋敷でマキナお嬢さんのお帰りを
待ちます!」
「ええ、いつお嬢様がお戻りになられてもいい様に……、私達皆で
このお屋敷を守り、そしてお嬢様を待ちましょう……」
「そうですね、で、でも……、また此処に戻って来れるなんて……、
私は本当に幸せです……、涙涙涙……」
「皆……」
「さあさあさあ、皆さんもお疲れでしょう!今日は俺が腕によりを掛けて
美味い夕飯をご馳走しますぜ!ああ、このお屋敷の台所に又立てるなんて、
俺は本当に夢を見てるんじゃねえだろうか……」
……使用人達は何も知らず、これからもこの屋敷で二度と帰らぬ主を
待つ事になるのであろう。真実を知っており、それを決して伝える事は
出来ない4人の胸中は複雑であった。
「ねえ、そろそろ様子……、見に行った方がいいんじゃないの……?」
「……」
ダウドはジャミルの方を見る。アイシャはマウリヤを連れて屋敷の
ある場所を訪れていた。……モンも一緒について行ってくれているの
だが……。
「あーもうっ!何モタモタしてんのっ!アンタが動かなきゃ駄目っしょ!
今頃一人で泣いてるかもだよっ!そりゃデブ座布団だっているケドさあ!」
「ジャミル、僕もそう思うよ……、君が行ってあげた方がいい……」
サンディに突かれ、アルベルトにもそう言われたジャミルは溜息をつく。
そして、アイシャがいる場所まで向かった。……マキナの部屋から通じる
場所。マキナの両親、そして、マキナ本人が眠る墓の場所へと……。
「……」
「アイシャ……」
「モン~?」
「……あ、ジャミル、来てくれたんだ、……ごめんね、心配掛けて……」
アイシャが見つめている墓標の側には人形のマウリヤが座っていた。彼女が
大好きな友達の為に建てたお墓。……大好きなおともだち、此処に眠ると
刻まれたお墓の側に……。
「私、もう泣かないよ、泣いたらマウリヤに絶交されちゃうもん、
……マウリヤったら、本当に意地悪で口が悪いんだから……、
本当にもう……」
アイシャはそう言いながら、今はもう動かなくなってしまった彼女を
優しく撫でた。
「……マウリヤ、今あなたはどんな夢を見ているのかな?楽しい夢で
あります様に……」
「お前、本当に大丈夫なんだな?……嘘ついて無理したらデコピンするぞ、
明日にはもうサンマロウを出るんだからよ……、マウリヤとも本当に
さよならなんだぞ、分かってんのか?」
「な、何よ、大丈夫だったら大丈夫なのっ!私は元気っ!ほお~ら、
元気元気っ!アイシャちゃんはとっても元気でーすっ!……ふぇ……」
「全然大丈夫じゃないモン……」
「バカだなっ、オメーはっ!何がアイシャちゃんか!自分で言うなっての、
……ほらっ!!」
ジャミルはアイシャを抱き締める。どうせ無理をしているのは分かっていた。
だから落ち着くまでこうしていてやろうと思った。……涙と鼻水で
べちょべちょにされるのは覚悟の上で……。
「ごめんなさい……、ジャミル……」
「たくっ!素直になれってのに……、どうしようもねえなあ~……」
「……ふぇっ、ひっく……」
「モン~……」
「おや、あなた達、此処にいらしたんですか……」
「……オウっ!!」
「きゃ!?」
突如何者かが裏墓地へと乱入して来た。タマネギヘアの老婆、マキナの
元乳母であった。二人は慌てて抱き合っていた身体を離す。……モンは
大口を開けたまま固まり、カオス変顔に……。
「使用人さん達からお話を聞きましてね、私も生きていられる間に、
又此処のお屋敷に通ってお嬢様を待とうと思ったんですよ、……おや……?」
乳母は何かに目を付ける。お墓の側に座っていた人形。……マウリヤに……。
「ああ、あなたもこんな処にいたのね、沢山探したのよ、でも見つかって
良かったわ、ふふ……」
「……婆さん……」
「このお人形さんはね、名前をマウリヤと言うんですよ、マキナお嬢様が
とても大切にしていらしたの、最近何処かに突然消えてしまったらしくて、
お人形を作ったからくり職人のお爺さんもとても心配していらしたんです、
さあ、マウリヤちゃん、お部屋でお婆ちゃんと一緒にお嬢様の帰りを
待ちましょうね……」
乳母はマウリヤを連れて行く。その光景をジャミル達はじっと見つめていた……。
「さあ、俺らも行こう、……お前も身体休めろって事だよ、いいか……?」
「うん、もう本当に大丈夫、モンちゃんも有り難う……」
「モンっ!」
ジャミル達も屋敷内へと戻る。墓地から直ぐに通じているマキナの部屋。
……ベッドの上にはマウリヤが寝かされていた。
「ジャミル、私も直ぐに行くわ、先に皆の処に行ってて……」
「ああ、……早く来いよ、アル達も心配してるからよ……」
「うん……」
ジャミルとモンはマキナの部屋を通り、応接間から廊下へ出て行く。
2人が部屋からいなくなった後、アイシャはベッドの上のマウリヤに
そっと話し掛けた。
「……色々ありがとう、私達、明日あなたがプレゼントしてくれた船で
サンマロウを発つわ、大切に使わせて貰うわね、……私達、離れても
ずっとずっとお友だちよ、大好きよ、さようなら、マウリヤ……、
あなたの事、絶対忘れないわ……」
「……」
アイシャは、今はもう動かない、返事をしてくれない大切な友達の
身体に優しく触れた。……そして、色々又思い出したのか、涙を一滴
彼女の頬にポタリと零した。
翌朝……。4人は船着き場から舟守の爺さん、からくり職人の爺さん、
マキナの乳母、使用人達に見送られ船着き場からサンマロウを後にする。
……マキナとマウリヤが託してくれたこの船で……、又新しい旅立ちへと
……。
「う~ん、いよいよ本格的な大海原の旅っ!自分達の船だもんね、
もうこれで自由に何処でも回れるんだね!何かスッゲーんですケドっ!!
船にいる間はアタシも大っぴらにチョーカワイイ素のサンディちゃんの
姿でいれるし!」
「モンーっ!モン、船の旅楽しみなんだモン!!」
「はあ、これから又この話も船生活かあ~、……オエッぷ……」
「お、おい……、ダウド、吐くなよ……?アル、舵はオメーに任せたぜ!」
「ああ、大丈夫だよ!」
「船酔い……、克服したと思ったんだけどなあ~、……久々に乗ると
どうも……、う、グ、ゲッ……」
「えーと、後……、アイシャは……」
ジャミルも皆もやはり旅立つまで余り元気のなかったアイシャを
心配していたが……。アイシャも皆に心配を掛けまいと気分を変え、
元気を出そうとしていた。実はアイシャは洞窟でマウリヤと2人きりで
いた時、マウリヤからある物をプレゼントされていた。
「これ、あなたにあげる……」
「ピンク色のリボン……?」
「ええ、大事にしていた分、もう一つあったの、だからあなたにあげるわ……」
「でも……、大切にしているリボンなんじゃないの?受け取れないわ……」
「いいったらいいのっ!さっさと貰いなさいっ!」
「あ……、もう~、マキナさんたら強引……、でも嬉しいな、有り難う!
大事にするね!」
「……」
マウリヤがアイシャに強引に渡したピンクのリボン。それは本当のマキナが
死の直前に彼女に手渡した物だった。
「……マウリヤ……、これ……、あなたに……、もしもあなたが心からの
お友だちと出会えた時にそのリボンを渡してあげて……、お友だちの印と
して……、マウリヤ、大好きな私のお友だち、マウリヤ……、どうか……
幸せに……」
「マウリヤ、有り難う、私、もう本当にメソメソしないよ、……ね……」
甲板でアイシャは潮風を頬に受けながらマウリヤから託されたリボンを
抱き締めるのだった。風と共に彼女の涙も飛んで行く……。
「アイシャ……、大丈夫か?」
「ジャミル、うん、私もう本当に平気だよ!これからこの船で世界中を
回るんだもん!新しい冒険頑張ろうね!」
「よし、……無理してねえな!」
「!?」
ジャミルは確認の為、アイシャの顔をじっと見る。……ジャミルに
見つめられ、アイシャは顔を赤くして困るのだった……。
「又そうやって子供扱いするっ!ふーんだっ!あ、この船、キッチンも
付いてるのよね!私、早速美味しい夕ご飯作るねっ!!」
「あ……、おい、コラっ!待てってんだよっ!……おおーいっ!!」
甲板の下に降りていってしまったアイシャの後を慌てて追うジャミル。
元気になってくれたは良かったが……、破壊飯を作りたがるのは困るので
ある……。やはりもう少ししょげていてくれた方が良かったかもと
ジャミルは項垂れるのだった……。そして本日も夜が訪れる。一行は
適当な島に船を着け、身体を休め就寝準備に入る事にした。
「ま、初日は船にも、んな大したモンスターも襲ってこなかったし、このまま
こうだといいんだけどな……」
「でも、新しい大陸に向かえば向かう程、モンスターも強くなるからね、
油断は出来ない処だね……」
「……ぐうぐう、オイラもう寝てまーす!……ぐう~……」
「……」
相変わらず変な寝言を言いながら寝ているダウドにジャミルとアルベルトは
苦笑。疲れているのは分かるのだが。モンは寝ているダウドの頭を又ポコポコ
叩き始めた。モンはアイシャのいる船室で一緒に寝ている筈だが……、
又ダウドに悪戯しようとこっちに来てしまったんである。
「モン、ダウドだって疲れているんだから、駄目だよ……」
「モン~……」
アルベルトに注意され、モンは少ししょげる。そんなモンを見てアルベルトは
ある物を引っ張りだしモンに見せた。
「これ、サンマロウの町で買ったんだよ、この人形の頭なら幾らでも叩いて
いいから……」
「オメー、いつの間に……、まあ、良かったな、モン!」
「モン~……」
モンは仕方なしに変な人形の頭を叩き始めた。だが、やはりダウドの頭の方が
良いらしく、その表情はやや不満気味である。やがてモンも悪さしながら
そのまま眠ってしまった。
「……人形……か……」
「……」
ジャミルはモンが悪さしていた人形を見つめる。……マウリヤ……彼女の事を
思い出していた。
「ごめん、……やっぱり今は出さない方が良かったね……」
「いや、いつまでも塞ぎ込んでいられねえからな、あいつも……、
もう大丈夫だよ、今日もスゲー夕飯作ってくれたしな……、あの野郎……」
ジャミルはそう言いながら、腹癒せに変な人形のデコにピンした。ちなみに、
アイシャが本日作った夕飯はマキナの屋敷でアイシャがマウリヤに作った物と
同じ緑色のシチュー。
「……なんで皆して倒れるのようー!失礼ねっ!マウリヤはちゃんと
美味しいって言ってくれたんだからっ!!」
ちなみに、作ったアイシャ本人は食べない。又、最近太ってきたので、
減量中につきとの言い訳で……。だが、他のメンバーが料理当番の
時だけは普通にばくばく食うんである……。
「まだ口ん中がおかしいわ……、ああ~……、シチューかぁ~、リッカの
シチュー食いてえ~……、ジャガイモ、野菜……、盛り沢山のシチュー……」
「ねえ、ジャミル、僕、考えてたんだけど、前に言ったろ?もうルーラも
いつでも使える事だし、このまま新大陸に向かう前に一度セントシュタインに
戻ってみるかい?皆、疲れも出ている事だし、休憩も兼ねて……」
「そうか、休憩か……、だよな……」
ジャミルはそう言いながらベッドに寝転がる。天使界から戻って来て、
セントシュタインからも大分距離が離れてしまっていた。それだけ沢山の
場所をいつの間にか通過していたのである。いつもリッカの事は気に掛けて
いたが……、此処らで一度戻ってみるのもいいかなと思った。
「アイテム合成……、全然してねえしな、実際も書いてる奴が材料集めるの
めんどくさがって全然手エ付けてなかったりするんだよなあ……」
……奴が余計な事を口走り出しましたので今宵は此処までにしておきます。
次回はリッカとの再会に又嵐が巻き起こる……?
「久しぶりだなあ、この町に来るのも……」
「そうだね、何処も変わってなくて何よりだよ」
「モン、この町のキャンディーが一番好きモン!早く早くーっ!」
「そうね、モンちゃんに一番最初に買ってあげたキャンディーも
此処だったものね!」
そう言う訳で、4人はジャミルのルーラで久しぶりにリッカに会う為、
セントシュタインの地に何ヶ月ぶりかで足を運んだ。黒騎士騒動も
すっかり収まり、町には平穏な日々が戻って来ていた。
「……うう~、オイラま~たモンに頭叩かれっぱなしだよお~……」
「モオ~ン、やっぱり此処が一番モン!おせチンコチンチンモォ~ン!!」
「……モンちゃん、やめなさいって……、って、又変な事教えたの
ジャミルでしょっ!!」
「俺じゃねえってのっ!!……勝手に覚えるんだからしょうがねえだろがっ!!」
ジャミルとアイシャは言い争い、4人を見ながら通り過ぎる町の人々は
クスクス笑って行く。出来るなら、僕は他人です!……と、真面目な
アルベルトは声を大に出して言いたかった……。
(ハア、やっぱコイツらはこうじゃないとネ、……、シリアス真面目
ムードの雰囲気の奴らなんか見ててもつまんないってのっ!フン!又
ジャミ公の観察記録再開しないとっ!)
「あら?もしかして、ジャミル達かしら……?」
「その声は……、ルイーダか!?」
騒がしいやり取りを聞きつけたお姉さん、直ぐに懐かしい顔なじみの
人物達と分り、4人に駆け寄る。リッカの宿主としての才能を見抜き、
彼女をセントシュタインの宿屋へと導いた、酒場の美女店主のルイーダで
ある。
「お久しぶりです!」
「ルイーダさん、こんにちはー!」
「えへへ、オイラもこんなみっともない格好ですいませんけど、
お久しぶりです~……」
「モォ~ン!」
「皆も元気そうで何よりだわ、全く、急にいなくなっちゃってそのまま
だったから、私もリッカも本当に心配していたのよ?それにしても、随分と
遠くを旅していたのね……」
ルイーダは少し逞しくなった4人組の姿を見て驚きと感嘆の息をついた。
「モン!モン達、自分達のお船を手に入れたんだモン!」
「まあ……、自分達の船まで……、本当に凄く成長したじゃない、あなた達も
もう一人前の立派な冒険者ね……」
「へ、へへ、ま、まだまだだよ、なあ……」
「もう、照れる事ないのよ、お姉さんは本当の事しか言わないわよ?」
ジャミルはルイーダに褒められガラにもなく照れる。それを見て、
アルベルトは奴の頭をスリッパで悪戯に叩きたくなるのだった……。
「処で、此処までわざわざ戻って来てくれたと言う事は……、リッカに
会いに来てくれたのかしら?」
「ああ、いきなり大分遠い処まで行っちまってたからさ、中々戻れなくて、
でも、やっと今回機会あって戻って来れたからさ、元気かい?リッカは!」
「商売繁盛なんでしょ?宿屋もいつもお客さんが一杯なんじゃないかしら!!」
「……」
処が……、ジャミルとアイシャの言葉にルイーダは一瞬顔を曇らせ、
言葉を止めてしまった。
「ど、どうかしたのか……?」
「え、ええ……、確かにあの子が来てくれてから、いつも宿は満杯、客足も
絶えないわ、セントシュタインの宿屋は生まれ変わって再出発を始めたわ、
私も本当にあの子に感謝してるの、ただ……」
「だ……?」
ルイーダは再び言葉を止める。そして、4人の方を見た。
「……一部の従業員による内部反乱よ……」
「え……」
「あの子は本当に頭が良くて、真面目で直ぐに気が利いて……、
どんなお客様に対しても必ずお持て成しが出来る素晴らしい子よ、
でもね、それを決して良いとは思わない人達もこっそりと、未だ
少なからずいるって事なの……」
ジャミルは思い出した。最初に彼女がセントシュタインに訪れた時、
リッカを余り良い目線で見ていなかった女性がいた事を。もしやと思い、
ルイーダに尋ねてみる……。
「あの、金庫番の……、レナとか言う女か?」
「ええ、ご名答よ……」
ジャミルは頭を抱える。あの時、リッカが宿王の娘と分かった時、
彼女も一緒にひれ伏していたではないか……。それなのに……。
内面ではまだ不満を彼女に持っていたと言う事なのか……。
「ぶるっ、何処の職場でも、こういう事……、あるんだねえ~、例え
どんなに仕事が出来て優秀でもさあ~、……お、おーこわっ!」
「……シャーー!モンモンモンっ!!」
「もうっ、ダウドもモンちゃんまでっ、そんな場合じゃないわ、ね、
ジャミル、私達も直ぐに宿屋に行ってみましょ!」
「ああ、少し何か土産でも買って行こうかと思ったけど、
その方がいいな……」
「僕もそう思うよ、急ごうよ!」
「頼めるかしら……?リッカね、最近余り元気が無くて、あなた達が顔を
見せてあげればとても喜ぶと思うわ、私はこれから明日まで遠出しなくちゃ
なの、お願い出来る……?」
「……ああ、任せとけ!皆、行こうや!」
ジャミルの言葉にぞろぞろ他のメンバーも走り出す。ジャミル達が
来てくれて、本当に良かったとルイーダは心から安心するのだった……。
「皆、お願いね、リッカ……、これから先、あなたにはまだまだ
宿主としての試練が訪れるわ、どうかこの困難を乗り越えて又
大きく成長して……」
「……はあ……」
「リッカさん、これ本日のお客様リストです、親子連れ様が一組
入ってます、それから……」
「……」
「リッカさん!?」
「えっ、あっ、私ったら!ご、ご免なさい、ついボーッとしちゃって……」
リッカはカウンターで1人、思う処があり、只管考えていた。先程、
ルイーダがジャミル達に伝えていた件もあったが……。
「しっかりしておくんなさいまし!……では、あっしはシーツ用品等の
棚卸しがありますんで、ちょいと倉庫の方へ行きますよ……」
「はい、宜しくお願いしますね……、いつも有り難うございます……」
リッカは倉庫へと作業をしに行く従業員の背中を見つめる。そして
大きな息を吐く。
「私、何してるんだろう、駄目だなあ、こんなんじゃ……、しかも今日、
レナさんが夕方まで出掛けてくれていて良かった……、何て思ったり
したら……、……」
リッカは虚ろな目で入り口付近の方を見た。そして又思うのである。突然
セントシュタインから消えてしまった彼は今、何処で何をしているのだろうと。
「……ジャミル、今どうしてるのかな……」
リッカは今、大切な友達に会いたかった。会って話を聞いて貰えたら……、
それだけで元気を分けて貰える。そんな事を考えながらじっと入り口の
ドアの方を見つめていた。しかし、その願いは直ぐに叶うのだった。
ドアのベルが鳴り、又お客さんが中に入って来る。
「あっ、いらっしゃいませー!ようこそ、……!!」
「よう、リッカ!」
「こんにちはー!」
「モンーっ!」
「あ……、ああーーっ!?」
客の姿を見たリッカは思わず歓喜の声を上げた。その声にロビーで
寛いでいた他の客が振り向くが、構わずカウンターを飛び出し、4人に
駆け寄るのだった。
「ジャミル、皆も!来てくれたんだね、モンちゃんも!うわあ、随分
大きくなったんだね!」
「モンモンー!」
「いや、ただ食い過ぎてデブになっただけ……あいてっ!?」
「シャアーーっ!!」
「いてててっ!コラーーっ!何をするかーーっ!!バカモンーーっ!!」
「はあ……、ジャミル、ありがとう~……」
モンはジャミルの頭に噛み付く。少しの間自分の頭からモンが離れてくれ、
ダウドは一安心。リッカは変わらないジャミルとモンの姿を見てくすっと
笑みを漏らした。
「もうーっ!やめなさいったらっ!2人ともっ、みっともないでしょっ!」
アイシャがジャミ公とモン、両方を注意するがいつもの事である。
「リッカ、ごめんね、毎度騒がしくて、それに僕ら急にいきなりお邪魔して
しまって……、仕事の邪魔になっちゃうよね……」
「ううん、アルベルト、そんな事ないよ!私、凄く皆に会いたかったの!
皆とお話がとってもしたくて、……凄く嬉しいよ!!」
「リッカ……」
ジャミルは改めてリッカの方を見る。彼女は笑顔だったが、やはり心は
相当疲れているのだろうと。少しでも気持ちが楽になるのなら、ルイーダから
話を聞いた事を伝えようと、そう思ったのだった。
「ご主人様ーー!」
「ん?ご主人……?」
見覚えのある様な無い様な、変なカマがジャミルの方に飛んで来た。
カマは興奮し、唾をカマから飛ばしながら喋る。
「お帰りなさい、ご主人様!錬金をしに戻って下さったのですね!!」
「ああ……」
そう言われてやっと思い出すジャミル。喋る錬金釜のカマエルであった。
「ワリイけど、今日はそれで戻って来たんじゃねえんだ、又、余裕が
あったらな……」
「そんなあ~、……ご主人様あ~……」
カマエルはションボリしながら又、カウンターの方へと飛んで行った。
確かに、錬金は全くしていないので、少し気の毒だとは思ったが……。
「う~ん、何だか可哀想ね……」
アイシャも気の毒そうにカマエルの方を仕切りに見ている……。
「じゃあ、モンが錬金してあげるモン!ピーマンとタマネギと正露丸入れて
まぜまぜ、錬金するモン!なにができるかなあ~?モン!!……ついでに
鼻糞も入れてみるモン」
「……あ、あああーーっ!やめてえーーっ!苦くて生臭いですよううーーっ!!」
「……」
取りあえず、カマエルの方はモンが相手をしてくれそうなので、取りあえず
安心。やっとリッカと今度こそ話が出来ると思った。ふと、又カウンターの
方を見ると。
「ジャミル、久しぶりだな、私の方の件も忘れないでおくれよ?」
「あう……」
カウンターに天使族のラヴィエルが座っており、ジャミルに向かってウインク、
手を振った。勿論、ジャミル以外には姿は見えていない……。
「はふうあ、はううう~……」
「ちょ、何してんの……、それよりリッカに早く話を聞かないとだよ……」
「お、おお、そうだったっ!たく、邪魔ばっか入りやがるっ!」
アルベルトに突かれ、漸く本題を思い出す。ジャミルはリッカに話を聞こうと
リッカに近づくのだが……。
「あ、あのな、リッカ、俺らルイーダからお前の事で……」
「えっ……?」
「……ちょっと……、リッカさん、あなた何してるのよ!!」
「レ、レナさん……」
其処に又も宿屋に誰か入ってくる……、と、思いきや、その人物は
ジャミル達も見覚えがあった。リッカと同じく宿屋で働く従業員の女性、
金庫番のレナである……。リッカは急に戻って来たレナの顔を覗い、顔を
青くするのであった……。
「何よ、その顔は……、私が戻って来ちゃ迷惑って顔してるわね、ふん!」
「いえ、そ、そんな……」
「頭痛がしたから遠出の買い出しを止めて戻って来たのよ、それに何よ、
接待の仕事をほっぽり出して!今日はルイーダが出掛けてるから言います
けどね、あなた、最近少し図に乗りすぎてるんじゃないかしら?……大体
宿王の娘だからってちやほやされて気に食わないのよね!!」
「私は……、別に……、私は私、お父さんはお父さん……、です……」
「何よ、聞こえないわよ!言い訳はいいの、早くカウンターに戻りなさいよ!
そうよ、お偉いさんの娘さんはカウンターにふんぞり返って威張るのが
お仕事でしょ!!」
リッカはそれ以上何も言えず押し黙ってしまう……。見ていられない仲間達は
ジャミルにそっと目配せし、ジャミルも頷く。
「おい、あんた何だよっ!リッカは仕事をさぼってた訳じゃねえんだよ!
それに仕事を中断させちまったのは俺達だよっ!!」
「……はあ?」
レナは彼女に抗議するジャミルの顔を見る。よく見ると、此方は此方で
レナの方も見覚えがある顔だった……。
「あら?あなた、確かリッカの知り合いだったわね、全く、知り合いも
知り合いで似たもの同士ね、頭に来るわね……、頭痛が益々酷くなった
じゃないの……」
「……ぷっ、つん……、キタ……」
「わーーっ!駄目だよっ、……ジャミルっ!落ち着いてーーっ!!」
アルベルト達は切れそうになるジャミルを止めようと大騒ぎだった。
カマエルと遊んでいたモンも何事かと心配し4人の方へ戻って行く……。
ロビーの客も面白がり騒ぎだし、4人の方に注目する……。
「レナさん、申し訳ありませんでした……、でも、皆は私の大切な友達、
この宿屋に泊まりに来て下さった大事なお客様です、私はこの宿の宿主、
来て下さった全てのお客様に喜んで頂ける最高のお持て成しをするのが
私の勤めです、お客様の事を悪く言わないで下さい……」
「リッカ……、お前……」
「レナさん、どうかお願いします……」
「!っ、こ、この目っ!……だから気に入らないのよっ!!」
リッカは毅然とした態度で先程は違い、真っ直ぐな目でレナを見つめる。
その姿は大切な友を傷つけまいとするリッカの強い思いの現れであった。
……そして、ジャミル達も。
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