没【季節モノ】クリスマス2024 没モノ
性描写前で頓挫。
寝取らせられクリスマス 1 没
俺の運命は決まっていたのだと思う。あの夜、あの情事を見たときから。
口から湯気が上がる。もうすぐ年が明ける。
公園のベンチに座り、自動販売機で買ったココアを握り締め、俺は行き交うカップルを眺めていた。彼等、彼女等には一体どんな出会いがあり、駆け引きがあったのだろう。行儀のいい、潔白な出会いなのだろうか。だとしたら、少し羨ましい。
今日はクリスマスイブ。世間は浮足立っているようだが、俺はわずかに気怠い気分だった。耳には町中や店内で散々聞かされたクリスマスソングが延々と鳴っている。
昔はプレゼントやケーキに浮かれた。イベント事に染まる非日常にも。
けれど壊れた。6年前のクリスマス。まだ小学生だった。両親不在の夜のこと。寝ていた俺はトイレに起き、兄と当時の恋人、今の兄の婚約者がベッドで絡み合う姿を見た。
俺の運命はそのときに決まった。俺の性癖が。俺の理想が。俺の恋愛観が。
クリスマスは毎年、兄たちは実家で過ごす。両親が海外に飛び、年の離れた兄弟だということもあって、気を遣っているのだろう。ケーキを用意し、プレゼントをくれる。周りの反応からいって、家はおそらく裕福なほうなようだが、アルバイトをするようになってからは俺からもプレゼントを用意できるようになった。兄には素材にこだわったと謳い文句のでていた少し珍しいチーズを買ったが、あの人への贈り物はクリスマスに限らず誕生日にせよホワイトデーのお返しにせよ悩みどころだった。彼女に抱いた後ろめたさが深読みを生む。あの人にとって俺はただの婚約者の弟だ。それも年の離れた弟。ランドセルを背負っている頃から知り、その印象が拭われることのない相手に過ぎない。俺が思い悩むのは無駄だ。俺の深読みは取るに足らない願望の裏返しでしかない。あの人は俺のプレゼントを受け取って、その数秒後には俺のことなんか微塵も考えちゃいない。
形の残るものは贈るべきではない。兄に悪いから。けれどゆくゆくは義姉弟になる関係で、そこに気を遣うことはない。そんな葛藤があったことさえ、彼女が知る由(よし)はない。察する必要もない。知らなくていいし、察しないでいてほしい。
今年はハンカチを贈る。俺にとっての母、あの人にとっていずれは義母の当たりが最近厳しくなっている。子供ができるまでは籍を入れさせない。世間一般的な風潮とはずれているが、それが母の意見だった。互いに成人しているから、法律的には何の問題はない。法律的には。成人していても、両親の、親戚一同の了承なしに結婚できない事情も、世の中にはあるらしい。母からの俺への連絡はおそらくあの人への探りで、父からの俺への連絡は労りだ。たまの帰国での母のあの人への態度もどこか棘を感じる。あまり気の利くタイプではない俺がそう思うのだから、当事者としてのあの人の気持ちはいかばかりか。
この前は泣いていた。兄の不在のときだった。兄が傍にいないのに、俺が近くにいるのは躊躇われる。これもまた俺の深読みで、兄もあの人もそんなことを気にしはしない。分かってはいるけれど。
俺のハンカチでその涙を拭いてほしいだなんて、メルヘンな話だ。そんな少女漫画みたいな思考はなかったつもりだけれど。どうせ伝わりはしない。伝わらなくていい。こんな爛れた感情は。
プレゼントは買った。けれども帰る気にならなかった。毎年のとおり、あの人も泊まるのだろう。俺は早くに寝るふりをする。リビングか兄の部屋か。クリスマスの夜は居場所がない。
そんなだからプレゼントだけ渡して今年は予定を作ろうと思ったが、兄から是非とも一緒に過ごしたい、話したいことがあると連絡が来て、どこか窮屈だ。話したいこと。想像はつく。あの人が懐妊したのだろう。そして晴れて結婚するのだろう。兄とあの人は両親や親戚一同のみならず法律的にも認められた夫婦になるのだろう。俺とあの人は義姉弟になる。俺は叔父になる。
憂鬱だ。おめでたい話じゃないか。あの人が母の言葉に泣くことはなくなって、俺のハンカチにも意味はなくなる。
少し早めに帰った。クリスマスイブとクリスマスにはあの人が来るから、ハウスキーパーも家には入れなかった。だからあの人は気を遣って、家のことをしようとしてくれる。籍は入れていないが、俺の認識では兄とあの人はもう結婚しているも同然で、ただ母の問題だけが横たわって、大きな印象を残す。
家のことをやってくれるというのはあの人にとってまだまだ子供の俺の世話も含まれている。だから俺の部屋に入る。ゴミ箱に積もったティッシュごみを見られるのは堪らない。いいや、何を困ることがある? あの人のベッドの上の嬌態を想像して出したごみだなんて、あの人が知るはずはない。兄とやることをやっているのだから、男の生理に無関心、無知というわけでもなかろう。片付けさせるか、あの人に。俺はもう子供じゃない。性欲に振り回されるケダモノなんだと、あの人も知るべきだ。いいや、いいや、兄の妻になる人に、なんてものを片付けさせるつもりなんだ。ハウスキーパーにもやらせないことだ。手前の出したものなら、せめてゴミ袋は手前で結ぶくらいの気概がなければ。
玄関を開けると、ホールには白いクリスマスツリーが青く光っていた。置いてあったのは知っていたが、LEDは絡まっていなかったはずだ。
「静霞(しずか)さん、おかえりなさい」
あの人――琴鯉(ことり)さんがリビングから出てきた。今日はいつもより毛先を巻いている。赤茶色の髪が、肩でウェーブしている。小さな顔にピンク色の唇が真珠みたいに光っている。美しい人だ。顔の造形ならば、彼女よりも美人などたくさんいるが、俺には誰よりも綺麗に見える。魅力的に思える。臙脂色のベルベットのスカートが音楽ホールのカーテンのようだ。下半身の曲線を浮かび上がらせて、真冬の人魚のようだ。もふもふとしてゆったりした袖口の生成(きなり)色の服は、確かシャギーニットだかモヘアニットだかいっていた。プレゼントを選びにいったときに知った。
抱き締めたい衝動に駆られながら、俺は平静を装う。
「ん」
「お夕飯、作ってありますけれど、すぐ召し上がりますか」
少し低い声が耳に心地良い。聞き入っていたいが、そうもいかない。
「兄たちと合わせます」
琴鯉さんを見ると、目が合った。いつもなら、微笑みかけてくれるはずだが、今日は違った。彼女は顔を背けて、俯いた。どうせ照れ臭いんだろう。まだ打ち明けていないことがあるから。結婚するから。懐妊したから。
「琴鯉さんも、座って待っていたら。後のことは俺がやるから。休んでいてくれ」
俺は妊婦というものをよく知らないが、座らせておくのがいいのだろう。あまり動かすのは好くないのだろう。電車の優先席にも書いてあるじゃないか。
「ありがとう」
いつもと変わらない笑みに、何故か少し影を感じた。考え過ぎだ。或いは本当だったとしても、料理をして疲れているだけだ、きっと。
夕食の時間になって、琴鯉さんの手料理を食べ、食休みを兼ねたプレゼント交換。琴鯉さんにハンカチと厚手の靴下、兄に黄楊(つげ)の櫛。俺は2人から腕時計をもらう。それから兄の取り寄せたクリスマスケーキを食べて、あとは各々。待てども待てども"話したいこと"が話される様子はなくて、食器を洗っている兄の後姿を眺めているのにも飽きると、俺はさっさと風呂に入った。普段の2時間ほど早く布団に入る。眠れはしない。寝たふりで事足りるが、明かりを消したしストーブも消してしまったのだから、やることはスマートフォンを触るか、布団のなかにPCを持ち込むか。ヘッドフォンで耳を塞ぎ、気付けば明日の朝になっている。
――はずだった。
「静霞(しずか)チャン」
消したはずの明かりが点く。部屋の出入り口のスイッチが押されたのだ。
俺はベッドから起き上がった。派手な髪色を奇抜に仕上げた長身の男は間違いなく兄の雫奏(かなで)。湯上がりらしいのが濡れた髪で分かる。カラーコンタクトレンズも、耳のピアスも口のピアスも外されていた。周りの人曰く、俺の兄は「パンクでファンキー」らしい。
「静霞チャン。話したいコトがアルってハナシ、覚えてる?」
陽気な兄の纏う雰囲気がどうもしかつめらしい。
「覚えています」
兄はカラーコンタクトレンズのない茶色の目を彷徨わせる。めでたい話が出てくるようには思えない。大方の見当はついているが、それは雰囲気作りで、サプライズのつもりなのか。
「チョット、キてくれナイ?」
俺は布団から出た。素足では寒い。もこついた靴下を履き、昨年もらった"ウサちゃんスリッパ"を突っ掛ける。
「なんですか」
何の予想もつかない。兄に案内されるまま、俺は琴鯉さんの泊まる和室へ入った。琴鯉さんもすでに風呂上がりで寝間着に着替えて布団に座っていた。俯き気味で、鬱屈としている。
話があるとは言ったものの、その間に腹の子はだめになってしまったのか――
「静霞チャン。あのね、静霞チャンに、もう1コ、プレゼントがあるの」
「プレゼント……ですか」
「それで静霞チャンからね、もう1コ、プレゼントが欲しいの」
俺は兄の野箆坊(のっぺらぼう)みたいに冷めた顔を凝らしてしまった。金で解決できる話ではないらしい。社会人で稼ぎのある兄が、学生の俺に頼ったところで出せる金額など高が知れる。しかし俺が小金以外に渡せるものが他にあるだろうか。
「なんですか……」
「静霞チャン。オニイチャンはな、琴鯉チャンに赤ちゃん産ませてアゲられないんだ」
冷めた眼差しは俯いたままの琴鯉さんの脳天を向いている。
「えっ」
琴鯉さんが懐妊した。だから結婚する。そういう話ではないのか。今夜告げられる話は、結婚する話ではなかった。破局する話だったのだ。俺は琴鯉さんを見詰めてしまった。琴鯉さんとは、もう会えない?
「琴鯉チャンの所為ぢゃナイんだ。オニイチャンの所為なんだ」
俺が琴鯉さんを見ていたことを、兄はどう捉えたのか。
「静霞チャン。オニイチャンな、精子が1コもナイんだ。前にオニイチャン、事故に遭ったデショ。アレで精子がもう作られてナイんだって」
そうだ。兄は数年前に事故に遭って下半身に大怪我を負った。リハビリの甲斐もあって今ではそんなことも忘れてしまうほどの回復を遂げたけれど。
「静霞チャン、琴鯉チャンのコト、好きデショ」
兄に精子が皆無であることよりも、その一言が衝撃的だった。全身を鳥肌が覆う。琴鯉さんは目を丸くして俺を見上げる。
「オニイチャンが奪(と)っちゃってゴメぇンネ」
「ち、ちがっ……」
「静霞チャンのもう1コのプレゼントはネ、琴鯉チャン。静霞チャンからもう1コほしいプレゼントは、静霞チャンの精子。静霞チャンもオニイチャンも、血液型一緒だから、問題ナイよネ?」
裸眼を見開いているのに、兄の瞳には光のひとつも射し込まない。ピアス痕の並ぶ口元は弧を描いているのに、目元は少しも笑っちゃいない。逆光して、俺の眼前に迫る。兄は傷付いている。傷付いたうえで、別の道を採ろうとしている。葛藤がなかったはずはない。兄は年の離れた俺に甘かった。過保護で過干渉だと父に言われていたし、友人からも指摘されたことがある。そんな兄が、俺を利用することを選んだのだ。
「……琴鯉さんは、それでいいんですか……」
兄の意見は分かったけれど、問題は琴鯉さんだ。身籠るのは琴鯉さん。まだ籍も入っていない。もし、母が認めなかったら? 親戚一同が認めなかったら……
「雫奏さんの血を引いているのなら、雫奏さんの子も同然ですから……」
それでも琴鯉さんの顔は引き攣っていたし、声も震えていた。
「琴鯉チャンとは何度も話し合ったの。ワタシとワカれるか、静霞チャンに"協力"シてもらうか……静霞チャンが琴鯉チャンのコト好きだったのは、初めて知ったみたいだケド……」
琴鯉さんは俺から顔を背ける。胸に縫針を突き刺されている気分だ。一方的な感情だ。分かりきっていたこと。けれど明かさなくても済んだはずだ。いいや、俺の詰めが甘かった。
「もし静霞チャンの種で琴鯉チャンに赤ちゃんがデキたら、ずっと3人でイられる」
俺はそうは思えなかった。俺の種で子供が生まれたとして、俺は自分の娘か息子の前で叔父をやるのか。何も知らないフリをして。好きな人の腹から生まれた、俺の種を前に?
「琴鯉さんの口から聞くまで、俺は了承できませんね」
好きな男が承知の上で、"好きでもない"男と子供を作るのも、身籠るのも産むのも、母と折衝(せっしょう)するのも琴鯉さんだ。
兄は据わった目を向ける。口元はまだ笑っている。けれど笑っているわけじゃない。感情を表に出すのは弱さの証なのだという。だから笑っている。いつでも。
「静霞チャン。ソレを琴鯉チャンの口から言わせるのは、酷だヨ」
「重大な決定です。一生を左右する相談です。不可逆的なことをしようというのです。他人が決めていいことじゃない」
琴鯉さんは泣きそうな顔をしていた。泣かせたいわけじゃない。俺の身体はもう先走って、琴鯉さんに触れたがっている。いずれにしろ彼女を傷付ける。
「静霞チャン。ドッチを選んでも、琴鯉チャンはキズ付くヨ。ナゼかっていえば、オニイチャンがちゃんと、射精係(オトコ)としての役目を果たせなかったから。琴鯉チャンにキメさせたら、琴鯉チャンはどんな後悔も、自分のキメたコトだからって、ずっと抑圧サれて生きてイくんだヨ……? そんなの残酷だヨ。オニイチャンが種無しにナったトキから、琴鯉チャンはキズ付くしかなかったの。ゴメンね、琴鯉チャン。カタワでゴメン」
「雫奏さんと別れたくありません……雫奏さんと一緒にいられるのなら、その可能性に賭けてみたいんです………静霞さん。こんなおばさんの身体、嫌だと思いますけれど………お願いします。お願いします……」
琴鯉さんは畳に両手をついて、頭を伏せた。
「やめてください……! 琴鯉さん!」
俺は琴鯉さんの肩を掴んだ。思ったよりも細い骨が怖かった。力加減ができない。折ってしまいそうだ。恐ろしくて、手を放してしまった。
「雫奏さんのことが好きなんです……大好きなんです。こんな素敵な人、他にいません……! 雫奏さんと別れたくない……この選択に、望みがあるのなら……」
「琴鯉チャンの頼みなら、ワタシの頼みも同然だからネ。静霞チャン……琴鯉を頼みます」
兄も畳に膝をついて、頭を下げた。
平和なクリスマスのはずだった。今頃俺は夢のなかで、斜向かいの部屋では兄と琴鯉さんが歓を尽くしているはずだった。或いはその前座の最中(さなか)にある頃合いだった。
「……分かりました」
好きな人を、弟とはいえ他の男に抱かせる、それも子供を作らせるというのは、どういう気持ちなのだろう。兄はまだ、飄々としていられるの?
【没】
寝取らせられクリスマス プロット
種の代わりに寝取らせる兄弟。
種無し夫と義兄弟。
狼狗冥館(ろくめいかん)家。
・鐘奏(かなで)…兄。破天荒。過去の事故によって種無し。三十路手前。
・静霞(しずか)…弟。兄嫁に不毛な片想いをしている。18歳。
・琴鯉(ことり)…嫁。三十路手前。
嫁に種付けしたあと、テレビに影響されて内紛地域に飛ぶ。→クリスマスなのに平和じゃないから。托卵の罪悪感。若さゆえの義憤。
冒頭は野垂れ死に直前?
DVカレシもの 寝取らせさせクリスマス 1 没
下に敷いた女の首を絞めた。きつく狭まる局部に獅狼狗井(しろいぬい)虎狛(こはく)は呻く。
白い肌が薄暗い視界を踠(もが)き、布の漣(さざなみ)を描く。
猫のような尖った爪に肌を突き刺され、胸や腕の薄皮を剥かれる痛みが好きだった。
「もっと締めろ……」
女の体内に入っておきながら、女の爪を肌に取り込む。虎狛は目を眇めた。快楽が通り抜け、実際に肉体に変化を及ぼす。確かに女の肉体のなかに入っていた。しかしほんのわずかな膜によって、粘膜同士が触れ合うことはない。その事実には腹が立った。しかし愉悦もあった。熱く締められた体内に流入することのできない粘液がラテックスを膨らます。女の肉体も変化した。仰け反り、すべての力を接合部に集中させている。
虎狛は奥歯を噛む。膜を突き破らんばかりに女肉を刺す。押し潰されるような力に抗った。激しい快感に思考を掠め取られそうだった。そしてその醜態を曝したくなかった。
首に回した手を退ける。荒い息遣いが静寂を打ち破る。女は喉元を押さえて酸素を求めた。
虎狛は起き上がり、ラテックスの小袋を剥がすと、口を結んでごみ箱に放り投げる。円形の虚空へと吸い込まれていく。彼はベッドの端に腰掛けるとたばこを咥えた。一瞬、光る。暗がりに煙がたつ。
「おい」
声を掛けると、まだ呼吸の整わない女が振り返る。虎狛はたばこを吸うと、無防備な唇に噛みついた。煙を吐く。その途端、女は彼を突き飛ばし、蹲(うずくま)って咳をする。
虎狛は笑う。たばこを口から離し、紫煙を吹く。腕についた引っ掻き傷は舐めておけば治る。舌を這わせ、薄皮を逆撫でる。
女の家の前に車を停めた。女はそれを嫌がったが、虎狛の知ったことではない。
窓から煙を吐き出した。雑な返事を繰り返すと、女が降りた。ドアが閉まる。虎狛はやっと、助手席の方向を向く。女の後姿が一軒家へ消えていく。玄関に明かりが点く。たばこを灰皿へ捩じ込んだ。
霧納(きりな)雪夜(ゆきよ)は人妻だ。学生時代のアルバイト先で知り合った。職場自体は同じであったが、部所も業務も違っていた。接点は多くはなかった。彼女は当時から既婚者であったが、夫というのは6年と少し前に行方不明になってしまった。
――女を手に入れる機会が、巡ってきた。
公園に車を停め、外へ出る。夜風に当たる。乾いた空気が肌に滲みる。虎狛は暖房が好きではなかった。人工的な熱は苛立ちに似ている。
たばこを咥え、火を点けた。
このまま、あの女の夫が消えてしまえばいい。消えしまえば、いつまでも掌に閉じ込めておける。
煙を生みながら、虎狛は園内を歩いた。口から漏れるのは紫煙か湯気かも分からない。季節は冬。カップルが目の前を横切っていった。もうすぐクリスマスだ。共に過ごす相手はいない。付き合わせることのできる相手はいるけれど。クリスマスだ。クリスマスに会うのなら、プレゼントが要る。何が欲しいのか、答えはひとつだ。帰ってこない夫だろう。
たばこを齧る。スマートフォンを取り出して、電話を掛ける。呼び出し音を数えるのはすでにやめていた。風呂か、トイレか。画面に数字が表示される。通話時間だ。繋がった。
『はい……』
「25日、空けておけ」
『…… 』
「何か予定があんのか」
コートを脱ぎ捨てたくなった。全身に汗が滲む。取るに足らない特別な意味合いのある日だ。その日に何の予定があるというのか。夫が長年帰ってこない人妻に、他に構う男がいるというのか。
『その日って……クリスマスですよね』
「それが?」
クリスマスだから何だというのか。夫が行方不明だというのに、クリスマスに他に会わなければならない男がいるというのか。身体中から湯気が上がりそうだ。口から漏れる霞は一際白くなる。
『……』
「クリスマスだから、何だってんだ? もう予定があるのか? どこの誰と何しに行く? 言え」
『いいえ、予定はありません……分かりました』
承諾を聞けば、あとは通話を切るだけである。数字が通話時間を刻むのをやめる。虎狛はそのままインターネットに繋ぎ、店を調べた。そして、我に返る。そういう間柄ではない。
【没】
DVカレシモノ 寝取らせさせクリスマス プロット
棚からぼた雪
謎の妖精が魔法をかけて優しいカレシにする。妖精の魔法が解けて3P。
獅狼狗井(しろいぬい)虎狛(こはく)…DVカレシ。ヒロインのこと本当は好き。キュートアグレッションを起こしている。26歳。18歳のときにアルバイトで知り合うが接点はなかった。
霧納(きりな)雪夜(ゆきよ)…ヒロイン。7年に夫が行方不明。人妻。30歳。
トリスマロン…妖精。カノジョ寝取られるまで人間に戻れない。「〜マス」という語尾。正体は雪夜の夫。霧納(きりな)已己巳(いこみ。)31歳。
没【季節モノ】クリスマス2024 没モノ