黒い仮面と黒の少女

「はーはっは!」
 高らかに。
「たあっ」
 跳び下りる。
「っくぁ」
 おかしな。声が。
「く……」
 足のしびれを。
「泣きませんわ!」
 こらえ。
「そこまでになさい!」
 凛々しく。
「宵闇をゆく黒き風! 黒き凄槍!」
 昼間だが。
「そう、私は!」
 ふれる。
 顔の。装着された。
 黒い仮面。
「ダークランサーですわ!」

「ダークランサー」
 それは。
「………………」
 胸に。苦い。
「ふぅ」
 ため息が。
(もう)
 現れて。くれないのか。
(黒い……)
 仮面。
 誰よりも気高く自信に満ちあふれた。
 この自分の〝ヒーロー〟は。
「お嬢様」
「っ」
 扉越しのノックと呼びかけに。
「いま参りますわ!」
 自室の窓辺から離れる。
 気分と真逆の。
 晴れ切った空からの朝日を受けて。


 屋敷を出て。
「………………」
 足は。重い。
「ふぅ」
 ため息。
(学校に)
 行ったところで。
「誰も」
 はっと。自分の口にした言葉に。
「関係ありませんわ!」
 あわてて。
 そうだ、関係ない。
 自分だけが。
「シエラちゃん、おはよー」
「おはよー」
 ぴくっ。
「おは……」
 返しそうに。
「……っ」
 口を。
「シエラちゃん」
 心配な顔で。
「ずっと元気ないね」
「真緒(まきお)ちゃんがいないから」
「関係ありませんわ!」
 すかさず。
「あんな人、いてもいなくても」
 そう。
「シエラちゃん」
 肩に。手が。
「元気出して」
 それを。
「………………」
 さすがに払いのけるようなことはできなかった。


「っ」
 学校を前にして。聞こえてきた。
「しろいかーめんは、せーいぎのかめん~♪」
(この歌は)
 わなわな。
「あー、見て、男子たち」
 指を。
「またやってるー」
「危ないから、ナイトランサーごっこは禁止って言われてるのに」
「ねー」
 そうは言われても。遊びたい盛りのこと。
「………………」
「シエラちゃん?」
「!」
 はっと。
 ごまかすように早足になる。
(なんですの! 何なんですの!)
 頭の中で。
(何がそんなにいいんですの! わかりませんわ!)
 止まらない。
(ダークランサーが! ダークランサーのほうが!)
 しかし。実際はその真逆で。
(私だけ)
 とたんに。
「っ……」
 胸が。どうしようもなく。
(どうして)
 押し寄せる。
 いまも決して消えることのない。
(私だけ)
 この悲しみは。どこに向けられているものなのかも。
(本物)
 だったのだ。自分にとって。
 黒い仮面のヒーローは。
(せめて)
 自分だけでも。
(っ)
 違う。〝だけ〟ではない。
 自分〝が〟。いる。
 ならば。
(………………)
 そこで。
(何を)
 すれば。
「いくぞー、ランスチャーーージ!」
「おのれ、ナイトランサー!」
 その間にも〝ごっこ〟は続いていて。それがまたこちらをいらつかせ。
「いいかげんに」
 どなりそうになった瞬間。
「――っ」
 天恵。
(そうですわ)
 現れてくれない。
 ならば。
「ナイスアイデアですわっ!」
声を。
 女子だけでなく、男子もごっこ遊びを中断して驚きの目を向ける中。
「そうだったんですわーーっ!」
 興奮が治まらないまま。
 駆け出していた。


 そしての。
 参上だった。
「はーーっはっは!」
 あぜんと。その空気にも。
「ブッ殺しますわよ、オラァッ!」
 さらなる。あぜん。
 ひるまない。
「何をボーっと見てるんですの!」
 見るなというほうが。
「私はただのダークランサーではありませんわ!」
 じゃあ、何? 言いたそうに。
「二代目です!」
 あらためて。ポーズ。
「二代目ダークランサーですわ!」
 反応が。
 あぜんを通り越して。
(う……)
 さすがに。ひるみかける。
「だ、だから、おかしくないんですわ!」
 言い張る。
「ほら!」
「………………」
 困ったと。顔を見合わせ。
「が……」
「がんばってねー」
 行かれてしまう。
「くっ」
 これくらいで。
「構いませんわ! 去りたければ、去りなさい!」
 早足になる。
「私の勝ちですわ!」
 折れる気は。
 なし。

 こうして。
 黒い仮面のヒーローとして活動する日々が始まった。
 ――が。
(おかしいですわ)
 毎日。
(こんなにも)
 がんばって。参上しているというのに。
(ぜんぜん)
 始まらない。
 周りで。
 ダークランサー人気の高まりが。みんなでダークランサーごっこを始めるというようなことが。
(何か)
 足りない。
(当然かもしれません)
 謙虚に。
(私はただの子ども。本当のヒーローでも、まして騎士でもない)
 胸に。手を当て。
 いま自分がしていることは、馬鹿にしていたあのごっこ遊びと変わらないのだと。
(それでは)
 意味が。
(なら)
 何を。そこでまた詰まってしまう。
「ハッ!」
 顔を上げる。
「修行ですわ!」
 そうだ。何事もまず第一歩から踏み出さなければ。
「第一歩……」
 すでに仮面のヒーローとして名乗りを上げてしまっているが。
「ささいなことですわ!」
 言い聞かせ。
「これから追いつけばいいのです!」
 駆け出していた。


「ここが」
 仮面の姿のまま。
「………………」
 緊張。手に汗が。
「だ、大丈夫ですわ」
 中へと。
「おっと」
「きゃあっ」
 つまみあげられる。
「何ですの!? 何なんですの!」
「何だろうなぁ」
 のんびりと。
「こんなところで黒猫がつかまるなんて」
「黒猫!?」
 確かに、いつもの黒ドレス姿だが。
「失礼ですわ!」
 じたばた。暴れる。
「おーおー、ホントにひっかいてきそうだねぇ」
 言って。
「!」
 高く。放り。
「きゃあ~~~~~っ」
 ぽんっ。
「!?」
 そのまま。
「な……ななっ」
 お姫様だっこ。
「これでいいか」
「いいわけありませんわ!」
 またも。暴れようとしたところを。
「あっ」
 降ろされる。
「く……」
 赤く。屈辱に。
 相手の顔をにらみつけてやろうと。
「!」
 なかった。
「あ……あ……」
 いや、正確には。
(仮面!?)
 自分と。同じように。
「ま……」
 とっさに。
「まねっこですわ!」
「いやいやいや」
 手を。
「一応、オリジナルだし」
「オリジナル!?」
 そんな。
「あー」
 慣れない。明らかにそうとわかるポーズ。
「アクセルティーチャー!」
 すぐに。
 照れくさそうに頭をかいて。
「なんだよ、あたしは」
「………………」
 あぜん。
(こんな)
 気持ちだったのか。自分を見ていたみんなは。
(……って)
 へこんでいる場合ではなく。
「な、何者なんですの!」
「いや、言ったし」
 言われたが。
「知りませんわ!」
「まー、あまり知られたいキャラでもないんだが」
「くっ……」
 余裕か。
「負けませんわ!」
「おいおい」
 あきれたと。
「そうじゃないだろ」
「じゃあ」
 何なのだ。
「おい」
 心持ち。真剣な。
「ここをどこだと思ってる」
「ここは」
 問われるまでも。
「騎士の学園ですわ!」
 だから、自分は。
「わかってんのか」
「わかっていると」
「そうじゃない」
 ぐっ。
「わかってない」
「?」
 どういう。
「おまえは」
 言って。
「くっ」
 落ち着きを。
「ふー」
 深呼吸。
「まー、なんだ」
 それでも。声に苦さが。
「いろいろあったんだよ」
「いろいろって」
 はっと。
「あ……」
 そうだ。
「ここは」
 騎士の学園。というだけではない。
(ダークランサーが)
 かつて。
「思い出したか」
 はぁー、と。
「おまえがここにその格好で来たときはびっくりしたぞ」
(う……)
 言い返せない。
「聞いたんだよ」
 あきれた口調のまま。
「黒い仮面をつけたチビが騒いでるって」
「チビではありませんわ!」
 憤りの。
「ふふーん」
 にっこり。
「またつまみあげられたいか」
「ええっ!」
「それとも、お姫様」
「どちらも結構です!」
 あせって。
「あのな」
 と。真剣に。
「立場をわきまえろ」
「えっ」
「子どもに言うことじゃないかもしれないけどさ」
「子どもでは」
 言いかけ。
「く……」
 子どもだ。
 すくなくとも、いまこの場では完全に無力。
「アンナマリア様は」
「え……!」
「学園長を務められていた」
 そんなことは。
(あっ)
 いや。意識から。
「その家の子がな」
 頭に。
「だめだろ」
 優しく。そのぬくもりが。
「………………」
 不快ではなかった。

「はぁ」
 どうにも。
(このままではだめです)
 心の中で。
(しっかりなさい)
 叱咤するも。
「………………」
 像が。結ばない。
「ダークランサー」
 ただ。
「私はあなたのようには」
 そんなことは。
 それでも。
「集中」
 意味なく。
「ですわ」
 気合を。
「ふんっ」
 立ち上がる。
「………………」
 それでも。
「はぁ」
 しゃがみこむ。
(私は)
 何を。
 何ができると。
「ぷりゅ」
「きゃっ」
 突然。
「な……あ……」
 意表を。完全に。
「な、何なんですの!」
 声が。
「ぷりゅりゅ?」
 首を。
 よく見ればまだ幼い。生まれて半年も経っていないのではないか。
 騎士の学園の島。
 そこにはまた、騎士の〝相棒〟も数多くいた。
「ぷりゅー」
 見つめられる。
「な、何ですの」
 どきどきが。まだ収まらないながら。
 目をそらさない。
 生来の意地っ張りゆえに。
(う……)
 つぶらな。
 何のためらいもない。そのまま受け入れてくれる。
「や、やめてください!」
 こちらから。
 完全に負けだった。
「ずるいですわ」
 それでも。
「ぷりゅー」
 すりすり。
「っ」
 あわてて。また。
「おどろかせないでください、何度も!」
「ぷりゅ……」
 怒られた。思ったのか。
「………………」
 いななきなく。目を伏せる。
「あ……」
 なんてことを。
「ち、違うんですのよ」
 あたふた。
「その」
 言葉が。うまく。
「くっ」
 とっさに。
「ぷ……!」
 驚きの。が、すぐ。
「ぷりゅー❤」
 ゆだねる。たてがみをなでるその手に。
「う……」
 どうしてこんなことを。
 思うも。
 止められない。
(だ、だめですわ)
 ぜんぜん。らしくない。
「っ」
 ふりあげる。
「く……」
 降ろせない。
「ぷりゅ?」
「!」
 うろたえ。
「ち、違いますわ!」
 またもの。
「私はあなたになんて」
 何を。言おうと。
「く……」
 結局。
「知りませんわっ」
 無意味に。強がるしか。
「むぅ」
 悔しい。
「ですわ」
 意味なく。
「ぷりゅー」
「きゃっ」
 またもの。
「いいかげんになさい!」
「ぷりゅっ」
 離れる。
「いいですか」
 指を立て。
「いきなり、人にすりすりをしてはだめです」
「ぷりゅ」
 うなずく。素直に。
「それなら……よろしいんですのよ」
 勢いをそがれ。
「むぅ」
 どうしよう。向かい合ったまま。
「あなた」
 と。
「私をどう思います」
 何を。我ながら。
「正直なところを話しなさい」
「ぷりゅ」
「いえ、だから、正直な」
「ぷりゅぅ?」
「う……」
 何を。しているのだ。
「もういいです」
 ため息が。
「ぷりゅー」
 すりすり。
「だ、だからっ」
 あせって。
「だめと言ったばかりでしょう」
「ぷりゅ」
 わかっているのか、いないのか。
(ダークランサーだったら)
 こんなとき。
「………………」
 決めた。
「言うことを聞きなさい」
「ぷりゅ?」
 できるだけ。居丈高に。
「言われていることがわからないのですか!」
 無茶を。
「ぷりゅっ」
 心持ち。背筋を正したように。
「いい子で」
 はっと。
「そ、そのくらいで調子に乗ったりしないことですわ!」
 再び。居丈高。
「まったく」
 腕組み。厳しい姿勢を崩さないよう。
 それでも。
(う……)
 無垢な眼差しが。
(どうして)
 思ってしまう。
「厳しくしているのですよ」
「ぷぅ?」
「あなたに意地悪を」
 まだ何も。
(それに)
 違う。意地悪などということ、自分の望むヒーローではない。
(じゃあ)
 何を。
「お……」
 やぶれかぶれの。
「おーーーーほっほっほ!」
 高笑い。
(……違う)
 すぐに。
(こんなキャラではありませんわ)
 自分だって嫌だ。
「あなたは」
 たまらず。
「どうすれば」
 意味のない。
「ぷりゅ」
「っ」
「ぷりゅ。ぷりゅぷりゅ」
(い……)
 言われていることの。意味が。
「はぁっ」
 今度こそ。本当に。
(疲れていますわ)
 実感。
(だめですわ……)
 ますます。
「ぷりゅー」
 すりすり。
「やめなさいと」
 拒もうとする。声も。
「ふぅ」
「ぷりゅー」
 本当に。心配そうに。
「ぷりゅっ」
 突然。
「え、ち、ちょっと」
 押される。
「何ですの? 何なんですの? どこへ行かせようと……ちょっと!」


「きゃあっ」
 思わずの。
「ど、どこですか、ここは」
 島の中ではある。
 のだが。
 訪れたことのない。その理由もない。
「あわわわ」
 腰が。引けそうに。
「ぷりゅ」
 支えられる。
「っ」
 あわてて。
「こ、このようなところ、怖くありませんわ!」
 一人で立つ。
 も。足のふるえまでは隠せない。
(く……)
 情けない。その思いに。
「負けませんわ」
 やはりの意地っ張り。
 すると。
「えっ」
 隣に。そして。
「ぷりゅーーーーーっ」
 海に向かって。小さな身体からは思いがけない。
「ぷりゅ」
 こちらを見て。
(ど……)
 どういうことで。
「ぷりゅーーーーーっ」
 再び。
「ぷりゅ」
 うながされる。
「な、何をしろと」
「ぷりゅっ」
 海を。
「あ」
 ようやく。
「同じように」
「ぷりゅ」
 正解のようだ。
(つまり)
 叫べと。
「ぷりゅー」
 こちらを見る。
 その目は。あくまで優しい。
「わ……」
 溶かされるように。
「わかりました」
 うなずいて。
「………………」
 しかし。
(何を)
 叫べば。
「ぷりゅりゅ」
「えっ」
 同じに?
「ぷ……」
 口に。しかけ。
 あわてて。
「ぷひゅわぁぁぁーーーーーーーっ!」
 意味不明な。
「はぁっ……はぁっ……」
 それでも。
「はぁ」
 こぼれる。
「はっ……あはっ……」
 爽快。
「あははははっ」
 だった。
「ありがとう」
 言えていた。

(馬でも紳士なのですわ)
 この島では。
(あんな小さくとも)
 うんうん。うなずく。
「………………」
 暮らしている屋敷にも。
 多くの馬がいる。
(私は)
 中の。無理を言って、本家からこちらに送ってもらった。
 彼女に対して自分は。
(……いまさらですけど)
 あやまりたい。思う一方で。
「紳士」
 そのワードは。
「これです」
 胸に。
「紳士でなければ!」
 憧れられるヒーローであるためには。
(……けど)
 そのイメージは。すこし。
「ま、まずはですわ」
 これは。
 受け入れてもらうための第一歩なのだと。


「カンジいいよねー」
 さっそくの。
(来てますわ)
 得意の。しかし、なるべくそれを表に出さないよう。
 紳士として。
「なんか、イメージ変わったよねー」
「うん」
「同じ仮面の騎士だもんね」
 その『同じ』というところは引っかかるが、それでも。
「紳士だもん」
 そうだ。
「優しいし」
 そう。
「強いし」
 それはもちろん。
「子犬にごはんをあげたり」
 ん?
「おぼれてる馬を助けてあげたり」
「ち、ちょっと」
 さすがに。
「何なんですの、それは!」
 そもそも。
 まだなのだ。
 これから、そういうことを。
「えっ」
 きょとんと。
「シエラちゃんでしょ」
「……!?」
「だよねー」
「い、いえ」
 何が。起こって。
「あ、そっか」
 納得と。
「秘密だもんね」
「え」
「ヒーローは」
 笑顔で。
「あ、いえ、もっと詳しいことを」
 言いかけ。
「………………」
 言えるはずが。
(どうすれば)
 気弱な。ヒーローらしくないとわかっていても。


 とにかく。
(正体を)
 つきとめなければ。
「………………」
 どうやって。
「見つけますわ!」
 言い切ったものの。
(どうやって)
 堂々巡りだ。
(ヒーロー)
 らしいと。聞いている限りでは。
 つまり、その行動原理は。
(危機)
 そこに。さっそうと。
「くぅ~……」
 悔しい。自分でなく別の偽物がそんな脚光を。
「許せませんわ」
 あらためて。
(別の)
 偽物。不思議な言葉ではある。
(こちらが)
 本家だ。
 本家の偽物。それもおかしいが。
「ささいなことですわ!」
 言い切り。
「呼び出しますわ!」
 そして、話を。
「……っ」
 ふるえが。かすかに。
「話を」
 つける。つけたい。
 つけられたらいいなと。
「っ」
 弱気に気づき。
「負けませんわ!」
 力強く。
「………………」
 言ってみたものの。
(負けませんわ)
 心の中で。くり返すのが精いっぱいだった。


 そう簡単に。
 ピンチは。
(だったら)
 自分が。
(あ)
 だめだ。
(あり得ませんわ)
 思ってしまった。
 自分が誰かを襲えば、それが『ピンチ』ということに。
「そんなこと!」
 だめに決まっている。
 騎士なのだ。
(けれど)
 事実。傷つけるようなことを。
(私は)
 ゆらぐ。
「悩んでいますね」
 そのとき。
「え……」
 声をかけられた。そこに。
「!」
 いた。
「ふふっ」
 どこか気取った。
「あ……現れましたわね」
「ええ」
 悠然と。
「あなたが」
「っ」
 指が。こちらのあごに。
「求めていたから」
「う……あ……」
 何という。
「ま……」
 手を。
「負けませんわ!」
 パンッ! 払いのける。
「はぁっ!」
 こちらからも。
「く……」
 止まる。
(で……)
 できない。
「負けですわ」
 がっくり。
「嘆くことはありません」
 悠然。やはり。
「あっ」
 抱き上げられる。
「このように可憐なプリンセスが」
 お姫様だっこ。
 口にした通りの。
(か……)
 完全な。
(敗北ですわ)
 屈辱。それでも。
「認めます」
「ん?」
「あなたを」
 仮面越し。目を合わせ。
「ダークランサーを継ぐ者と」
「そうですか」
 おだやかに。
「光栄の極み」
「当然ですわ」
 我がことのように。
「ですから」
 自分は。
「もう」
 それ以上。
「レディ」
 そっと。涙を。
「ああ。なんと愛おしい」
「ダークランサー」
 その姿で。そう言われることを。
「………………」
 一気に。
「違いますわ」
「えっ」
「あなたなんて!」
 腕をふり払って。地に降り立ち。
「この偽物!」
 指をさす。
「……う」
 さすがに。
「な、何を言われるのです」
「話になりませんわ!」
 傲然と。腕を組んで。
「それでもダークランサーですの?」
 下からの上から目線。
「あり得ませんわ!」
「あ……」
 辛辣な言葉。さらなる動揺を。
「なぜ」
「では、言ってさしあげましょう」
 だめを押す。
「うわべだけの」
 再び。指を。
「そのような姿勢はダークランサーから最も遠いものですわ」
「!」
 ショックが。
「ののしりなさい!」
「ええっ」
「私を」
 胸に。手を当て。
「それでこそダークランサーですわ!」
 ゆるぎない。
「え……な……」
 動揺を。抑えられないまま。
「だめです……」
 がくっ。膝を。
「思い知りましたか」
 今度こそ。上からの上から目線。
「しょせん、あなたは偽物だということです」
 どこまでも傲岸に。
 これでこそ。
「その通りですね」
 認める。
 仮面を外し。
「わたしはラモ」
「不要ですわ」
 止める。
「ヒーローが軽々しく名を明かすことは許されません」
「えっ」
 それでは。
「ヒーローと」
「当然ですわ」
 付けさせ直し。
 そして、自分も。
「ダークランサー同盟ですわ!」
「ダークランサー同盟?」
「あるいは、ダーク団とも!」
 止まらない。
「すばらしい!」
 拍手。
「でしょう!」
 誇らしげに。
「さあ!」
 差し伸べる。
「はい!」
 ためらいなく。
「結成ですわ!」
 宣言が。なされた。

 あっという間に。
「行きますわよ!」
「おーーっ!」
 勇ましい。
「違いますわ!」
 すかさず。
「そのような野卑な奇声は、ダークランサーにふさわしくありません!」
 ぴしゃり。
「静かに。誇り高く。それであり気高く」
 胸を張り。
「私のように!」
 言い切る。
「ふっふっふ」
 笑みを。
「ふっふっふ……ふっふっふっふっ……」
 だんだんと。
「はーーっはっはっは!」
 高笑い。
「これですわ!」
 きりっ。
「さあ!」
 号令一下。
「はーーっはっはっは!」
 そろって。
「はーーっはっはっは!」
 仮面。
「はーーっはっはっは!」
 黒い。
「はーーっはっはっはっはっはっは!」
 一同が。
「おい」
 そこへの。
「なんで悪化してんだ」
「ハッ!」
 すかさず。
「敵ですわ!」
「は?」
 あぜんと。するところへ。
「ここはわたしが」
 前に。
「ほー」
 不敵な。
「おまえか、ラモ」
「無粋」
 すかさず。
「謎のヒーローに名前などありません」
「謎って」
「お互いに」
 仮面を。
「でしょう」
「はぁー」
 ため息。
「そういうことに」
 構える。
「しとくか」
 向かい合う。
「おお……」
 戦意の高まり。周りも息を。
「やっておしまいなさい!」
 バッ! 先に出たのは。
「あっ」
 するどいタックル。
 組みついた。思ったのもつかの間。
「おお!?」
 あざやかな宙返り。大きく後ろに跳ぶ。
「すげーーっ!」
「カッコいいーーっ!」
「当然ですわ」
 言うも。
「………………」
 何か。
(これでは)
 組み合う仮面騎士。
(まるで)
 必要が。
「あり得ませんわ!」
 思わず。
「あっ」
 驚く声が。聞こえるも、ほとんどは熱いバトルに夢中のままだった。


(いない)
 そうなのだ。
(偽物がいくら増えたところで)
 自分も含めて。
「………………」
 会いたい。
「ダークランサー」
 つぶやく。
「止められていたのですが」
「!」
 あわてて追ってきたのだろう。軽く息を切らせて。
「ちょっと」
 そんなことより。
「止められて?」
「ええ」
「それは」
 ひょっとして。この自分と会わせることを。
「なぜですか!」
「………………」
「私のことを」
 にじむ。
「嫌いに」
「そうではありません」
 すかさず。
「このように愛らしい」
「同情はいりませんわ!」
 パシン!
「いりません」
 くり返す。
「……ええ」
 やはり。愛らしいものを見る目で。
「だからこそ」
 静かに。
「話せない」
「っ……」
 そんな。何が。
「失格ですわ」
 たまらず。
 誰がとも。何がとも。
 言えないままに。


(割らせますわ)
 口を。
 思ったものの。
(く……)
 無理だ。物腰はおだやかなものの、容易な相手でないことは短いつき合いながら感じ取っている。
 ならば。
(この程度)
 やってみせる。
 尾行。
(初めてですけど)
 なえそうな。心を奮い立たせ。
「っ」
 止まった。あわててこちらも。
「………………」
 バレて。ないか。
(あっ)
 また歩き出す。すかさず。
「っっ」
 止まる。
(く……)
 息も。
(ふぅ)
 ようやく。後について。
「まだまだですね」
「!」
 目を。
「な……あ……」
「これから、もっと勉強しましょう」
 余裕の。
「っ!」
 とっさに。
「きゃっ」
 先回り。受け止められ。
「さあ」
 手を。
「行きましょう」
「えっ」
「エスコートです」
「ええっ!」
 どういう。
「どこへ」
「あなたの行きたいところへ」
 はっと。
「それって」
 決まっている。
「会いに」
「ええ」
 まだわずかに。ためらいを見せつつ。
「行きましょうか」

「腰が違う!」
「こ……」
 腰とはどういう。
「ほら」
 パンパン。手を。
「くっ」
 ぐっと。
「オラァァッ!」
 パシィィィィィィィン!
「痛ぇっ!」
「何度言わせる気?」
 イライラと。まったく笑っていない笑みで。
「女の子はおしとやかに」
「腰を入れろって言ったろーが!」
「『入れろ』じゃなくて『違う』って言ったの」
 あくまでも。笑みのまま。
「ちゃんとやりなさい」
「く……」
「命がある前に」
 洒落ではない。身をもって思い知らされている。
「やりゃあいいんだろ」
 逆らえない。悔しさに頭が焼けそうになりながらも。
「ほら、腰」
 パァンッ!
「痛っ。パンパン叩くなよ、何度も。しかも、腰じゃなくて尻じゃねえか」
「『尻』とか言ってるんじゃない」
「じゃあ、何て言えば」
「無駄口たたかない!」
 パァンッ!
「ぎゃっ」
 悲鳴。情けない。
(チクショウ……)
 泣けてくる。
「ヒーローでしょ」
 言われるも。
「知らねえよ」
 言い返すしか。
「情けない」
「っ」
 カチン。思ってはいても。
「ああ、わかったよ!」
 腰を。
 しなやかに曲げ。
 ポージング。
「何でもやってやりますわ❤」


 あぜん。
「………………」
 声もなく。
「っ」
 肩に。
「あ……ああ」
 ようやく。
「あれ……は……」
 うなずく。
「………………」
 あらためての。
(違う)
 事実。見た目は、自分の知る〝ヒーロー〟とかけ離れている。
 黒き騎士ではなく。
 その姿は。
「………………」
 何と。
「ヒ……」
 たまらず。
「ヒーローなのですか」
「はい」
 それだけは。間違いないと。
「そんな」
 納得が。
「あんな……」
 言葉が。
「あ」
 止めようとした。手をすり抜け。
「どういうことですか!」
 駆け寄る。
「げっ」
 こちらを見て。
「あらー」
 一方。
「かわいいわねー」
「っ」
 とっさに身を引く。
(な、何?)
 親しげな態度。しかし、危険な何かを感じ。
「あなたが」
 それでも。
「こんなひどいことを」
「えぇぇ~」
 困ったと。
「もー、ぜんぜん違うわよぉ~」
 目線の高さで。
「わたしはとーっても優しいお姉さんでー」
「よく言うぜ、ババアが」
 直後。
「ぎゃあーっ」
 ズダーーーン! いつ動いたのかもわからないすみやかさで叩きつけられる。
「ダ……」
 呼べない。違うのだから。
「まー、秘密のヒーローだから、わかりにくいかもしれないけどぉー」
 何事もなかったように。
「嘘ですわ」
 すぐさま。
「あなたがヒーローのはずありません!」
 断言。
「や、やーねー」
 あせりを。
「わたしはあなたのために」
「えっ」
「あ」
 口を。
「や、やーねー」
 無理やりな笑い。
「最低ですわ」
 誰に。ともなく。
「くっ」
 指を。
「あなたは!」
「っ」
 その勢いに。
「な、なんだよ」
 目を。
「違うでしょ」
「っっ!」
 脇から。あくまでおだやかな。
「しとやかに」
「っ……」
「愛らしく」
「バッ」
 ふざけるな。言おうと。
「ピンキー」
 威圧感。たっぷり。
「あなたは、いま何?」
「く……」
「なぁに?」
 苦しげな。沈黙。
「わ……」
 声が。
「わたしはっ」
 きゃるる~ん❤
「ピンキィミストレスですっ❤」
 絶句。さらなる。
「う……く……」
 ポーズを決めたほうも。引きつりは隠せない。
「どーう?」
 こちらだけは。
「苦労したのよー、ここまで仕込むのに」
「………………」
「我ながらさすがよねー。こんなダメダメな子のことを投げ出したりしないでー」
「つか、投げまくって」
 ズダァァァァァン!
「投げ出したりしないでー」
「ぐ……ぐふっ」
 さすがに。再度のツッコミはなかった。
「あり得ませんわ」
(う……)
 さすがに。この有様では。
「っ……っ……」
 小さな肩が。
「あっ」
 無言のまま。
「お、おい!」
 追おうと。
「……っ」
 して。
「………………」
「ちょっと」
 せかされるも。
「あーあ」
 腕を。頭の後ろに。
「やーめた」
「ピンキー」
 厳しめの。
 しかし、ひるまず。
「無駄だろ」
「ちょっと!」
「違うんだよ」
 頭をふる。
「違うんだって」
「はぁ? いいかげんにしないと」
「マスター」
 そこへ。
「ねえ、あなたからも」
「いいえ」
 こちらも。
「ちょっとー」
 困り果て。
 それに構わず。
「おい」
 覆面越し。目を。
「てめえがつれてきたのか」
 平然と。
「来たのです」
「は?」
「あなたに」
 静かな。
「会いたいと」
「っ」
「本物に」
 それは。
(本物……)
「会わせられたもんじゃないわよ」
 横から。
「教育上、絶対にね」
 力が。
「うっせーよ」
「ピンキィぃぃぃ~」
 圧。
「カンケーねえんだ」
 静かながら。
 引かない。
「何が関係ないのよ! わたしは」
「まあまあ、マスター」
 なだめる。
「あんたは黙ってなさいよ!」
 なだまらない。
「あの子はねぇ!」
 ふるえる。
「アア、アンナマリア様のおうちの子だってゆーじゃない!」
 テンションが。おかしく。
「あのアンナマリア様よ!? あの!」
 止まらない。
「女性騎士の頂点! 象徴! レジェンドと言っても過言じゃないわ! あの優雅な物腰! お年を感じさせない愛らしさ! まさに〝聖母〟! 慈悲と慈愛の方なのよ!」
 それを前に。
「……おい」
 完全に。引いて。
「こんなキャラだったか、こいつ」
「夢見る少女のようですね」
「何が『少女』だ、このババ」
 ズダァァァァァン!
「ぐほぁっ!」
 キャラは変わっても。
「わたしにもホント優しくしてくれてねー」
 話は続く。
「もう憧れちゃうわよー。しかもねー」
「マスター」
 やんわり。
「よろしくないのでは」
「は?」
 剣呑に。
「何? アンナマリア様に文句でもあるっていうの」
「そうではなく」
 やんわり。
「放っておかれて、よろしいのかと」
「あっ」
 あわてて。
「そ、そうよ! 何してるのよ、ピンキィ!」
「は?」
「『は?』じゃないでしょ! さっさと追いなさいよ!」
「う……」
 戸惑いを。
「なんで、オレ様が」
 ズダァァァァァン!
「行きなさい」
「い、行かせないようにする気かよ……」
 言いつつも。
「ケッ! てめえに言われたからじゃねえからな!」
 捨て台詞を残して。
「まったく。すぐ地に戻っちゃうんだから」
 やれやれと。
「では、わたしも」
「待ちなさい」
 逃がさないとばかり。
「まだ話は終わってないわよ」
「わたしには関係」
「あるに決まってるでしょ。アンナマリア様の話なのよ」
 確かに、同じ女性騎士ではある。
「先生でもあるのよ、このわたしの」
「えっ」
 初耳だ。
「万里小路在典(までのこうじ・ありつね)」
 初耳。
「万里小路流伝説の達人と言われている方よ。百年近く昔の方だけど」
「はあ」
 それが一体。
「何よ、その反応」
 不満げ。
「達人なのよ? 達人のこのわたしが言うほどの」
「はあ」
 やはり。まったく。
「調子乗ってるんじゃないわよ」
 ますます。
「サマナ導師の弟子だからって」
「そんなことは」
 矛先を向けられてもたまらないと。
「それで、在典という方が何か」
「会ってるのよ!」
「はあ」
「アンナマリア様がお若いころに! すごいじゃない!?」
「………………」
 伝説と呼ばれるほどの人に。百年近く前の。
「すごいですね」
「でしょう!」
 テンションの差には気づいていないようで。
「会ってるだけじゃないの! その教えも受けていて」
「それをマスターに伝えられたと」
「そうなの!」
 興奮の極み。
「すごいことよね!」
「すごいことです」
 差が。
「そんなアンナマリア様のおうちの子なのよ!? おかしなことがあったら大変じゃない!」
「なるほど」
 納得。いくつかのことに。
「あーもー、ピンキィだけで大丈夫かしら。まだまだぜんぜんピンキィじゃないピンキィなのに」
「………………」
 意図が。薄々と察せられ。
「大丈夫です」
 きっぱり。
「どこがよ」
 信じられないと。
「すでに悪影響を受けてるっていうじゃない。あの子まで不良になっちゃったりしたら、アンナマリア様に申しわけが」
「大丈夫です」
 くり返し。
「いい子ですから」
 言っていた。

「なんで、オレ様が」
 止まらない。
「あんなガキがなんだっつんだよ。知らねっての」
 蹴り飛ばした。
「!」
 石が。向かった先に。
「危ねえっ!」
「!?」
 ふり返る。
「きゃっ」
 カァァァン!
「ひゃっ」
 尻もちを。
「お、おい!」
 あわてて。
「大丈夫か!? 怪我はねえのかよ!」
「………………」
 ぼうぜんと。して。
「……たぶん」
「どっちだよ!」
 声が。
「っ」
 びくっ。
「ごめんなさい……」
「なんでだよ!」
 言って。
「く……」
 こちらも。
「大体なあ!」
 悔しまぎれ。
「なんだよ、その仮面はよ! 何の真似だよ!」
「それは!」
 顔を上げ。
「こちらのセリフですわっ!」
「っっ……」
 ひるむ。
「な、なんだよ」
 動揺。しつつも。
「なめんじゃねーぞ、ガキィ!」
 すごむ。
「なめてませんわ!」
 ひるまない。
「くっ……」
 むしろ。こちらが。
「なめているのは」
 追い打ち。
「あなたです」
 まっすぐ。
「あ……く……」
 言葉が。
 と、一転。
「そんなことないですよぉ❤」
 きゃるる~ん❤
「………………」
 効かない。
「うう……」
 汗る。
「逃げるのですか」
「に……」
 逃げたりは。
(けど)
 このままも。
「わーったよ」
 ヤケで。
「煮るなり焼くなり好きにしな!」
「しません」
 突き放す。
「ずるいですわ」
「は?」
「ずるっ子です」
「な……」
 激昂。
「オレ様の何がずるいってんだ、オラァッ!」
「ずるいです」
 引かない。
「そのような」
 指を。
「覆面で」
 すると。
「てめえだって!」
 さし返す。
「なんだよ、その仮面はよ!」
「二代目です」
「は?」
 胸を張り。
「二代目ダークランサーです」
「な……!?」
 すぐには。
「ななっ」
 それでも。
「何が、二代目だよ!」
「二代目です」
 引かない。
「初代がもういないのであれば」
 ふるえ。
「仕方ないではないですか」
 うつむく。
「………………」
 その姿に。
「おい」
 無言。
「……チッ」
 舌打ち。
「むこう向いてろ」
「えっ」
「いいから」
「は、はい」
 不意の。
(何を)
 聞く間もなく。
「いいぞ」
 ふり返る。
「!」
 そこに。
「あ……」
 同じ。
「あっ」
 違う。
 仮面。
「文句あるか」
 ふてくされたように。
 それでも、顔を背けることなく。
「これがオレ様だ」
 どうだ、とばかり。
「………………」
 しばらくは。
「なぜ」
 ようやく。
「知るかよ」
 乱暴に。
「同じだよ」
「えっ」
「二代目だ」
 あらためて。向き直り。
「二代目ローズランサーだ」
 胸を張っての。
「………………」
 共に。無言のまま。
「どうだ」
「ど……」
 詰まる。
「悪いかよ」
 そう口にしつつも。
「文句あるか」
 おだやかに。
「………………」
 しばらくして。
「ありません」
「よーし」
 頭を。
「これで手打ちだな」
「………………」
 黙って。うつむいていたが。
「……はい」
 うなずいた。


「どうなってるのよ、もー」
 納得いかないと。
「せっかく、わたしが努力したのに」
「ええ、努力していただきました」
 にこにこ。
「けど、ローズランサーですから」
「はいはい」
「ローズランサーです」
 念を。
「わかったわよ」
 ひらひら。手を。
「好きにやんなさい。けど」
 目がすわる。
「万が一にもあの子を泣かせたりするんじゃないわよ」
「わかりません」
「はぁ!?」
「だって」
 おだやかに。
「うれしくても、人は泣きますから」


「あーん」
 泣いて。
「お、おい」
 あわあわ。
「なんでだよ」
「なんででもですわっ」
 理由に。
「だって」
 言う。
「同じですから」
「えっ?」
 何が。
「二代目」
「っ」
「私もあなたも」
「ンな」
 とっさに。
「そんなの」
 猛烈に。照れくさい。
「あんま、人に言うんじゃねーぞ」
「なぜです?」
「なぜって」
 またも。
「ヒーローだからだろ」
「えっ」
 仮面の向こうの。
「あ、いや」
 ますます。
「い、いいから、そういうことにしとけ」
「はいっ!」
 元気いっぱい。
「そーだよ」
 それでいい。
 目が。語っていた。

「二代目ローズランサーだ、オラァッ!」
「二代目ダークランサーですわ、オラァッ!」
 沈黙。
「……おい」
 たまらず。
「なんでだよ!」
 きょとん。
「何がです?」
「何がって」
 その先が。
「う……」
 認めること。自体が。
「い、いいんだよ、オレ様は」
 強引に。
「てめえだよ!」
「?」
「だから」
 そこからが。やはり。
「は……」
 苦しまぎれな。
「恥ずかしくねえのかよ!」
「ありませんわ」
 堂々。
「仮面ですもの」
「そうだけどよ!」
 顔は隠れている。
 だが、むしろ仮面そのものが。
「一緒ですもの」
「一緒じゃ」
 ある。
「二代目ですもの」
 その通り。
「くぅ」
 返す。言葉が。
「いかがです」
 悠然と。
「いかがじゃねーよ」
 ぐったり。
「いかがですか」
 そこへの。
「あ?」
 ポット。そして、ティーセット。
「なんだよ、ラモなんとか」
「ラモーナです」
 気分を害した風もなく。
「いかがです」
 再度。
「……フン」
 座りこむ。いつの間にか敷かれていたシートの上に。
「おらよ」
 カップをつき出す。
 苦笑の気配。
 それでも。
「おっとっと」
 注がれる。華やかな香りをふくらませるようにして。
「いい腕じゃねえか」
 初めて。
 それは賛辞の言葉だった。

黒い仮面と黒の少女

黒い仮面と黒の少女

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-12-17

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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