zoku勇者 ドラクエⅨ編 22
カラコタ編4
「……こ、う、なったらあああ~、糞豚!腹いせにオメーをモンスターに
変えてやるのね!やるのね、子分B!」
「のねー!」
「……あ、あいつらっ!またっ!」
ジャミル達が止める間もなく、いつもの如く、子分Bがまた取り出した
変なリモコン装置を豚男に向けて放出。リモコン装置から怪光線が
発射され、浴びた豚男は顔を押さえ呻き出す……。
「クソ、な、何をしやが……ぎゃああーーーっ!!」
……肥満体キラーマシンが現れた!!
「……おおーーいっ!?」
「まあ、随分と太ったキラーマシンねえ……」
「こうして見る限り動きは鈍そうだけどね……」
また厄介な事をする基地害兄弟。……豚男を肥満体のキラーマシンへと
変えてしまったのだった。……やはりもうこうなった以上、ボス戦の
覚悟を決めるしか無かった。
「あの、……申し訳ないんだけど……、オイラもうMPが……、ですね……」
「おう、大丈夫だ、ダウド、ツォでよ、オリガがお守りに一個くれたんだ、
魔法の聖水さ、使うとMPが30程度回復するらしいぞ、有り難く
使わせて貰おうぜ!」
「……いーやーだあああっ!!」
バトルを免除させて貰えると思っていたらしきダウド。しかし、世の中
そんなに甘くはないのだった……。
「よし、……あんなの楽勝だな!皆、さっさと倒しちまおうぜ!!」
「了解!」
「あ~うう~……」
ジャミルの言葉に返事を返す仲間達。だが。
「そんなにあっさりと倒して貰っちゃ面白くないのねー、やるのね、子分A!」
「なのねー、ぽちっと!」
今度は子分AがCDデッキを持って来てボタンを押す、……すると、
ボス戦のバトルBGMが掛かり、辺りに響き渡るが、……何故か音の
テンポが2倍速で異様に速かった……。
「……な、何企んで……うおっ!?」
「きゃあっ!?」
「うわわわわっ!!」
4人は慌て出す。高速バトルBGMのテンポに合わせ、肥満体
キラーマシンの動きが機敏と化し、動きは素早くなり、4人に
詰め寄り襲い掛かって来た!
「……アルっ!!アイシャっ!!」
キラーデブマシンは2連続拳攻撃でまずはアルベルトとアイシャを
パンチで吹っ飛ばした。……デブ体型からは想像のつかない程に
なってしまっている……。しかも、怪力の為、エライ事態にも
なっていた。……このターンでアイシャはHPを初回から半分も
削られてしまっていた……。……カラコタ橋の向こう岸へと
吹っ飛ばされた2人は……。
「あーっ、もうっ!2人とも大丈夫かーい!?い、今、ベホイミ
掛けるからねー!!」
「そうはさせないのねー!やれ、子分共!!」
「ぼくらがいる事も忘れちゃ駄目なのねー!」
「ねえー!」
「や、やべっ!ダウドっ、逃げろっ!!」
「……そ、そんな事言っ……うわーーっ!!」
敵は当然肥満体キラーデブマシンだけではない。油断しすぎていた。
子分Bはダウドの身体を掴むとジャンプし、逆さまに急降下で落下、
モズ落としを掛ける……。結果、頭を打ったダウドはあっさり気絶……。
回復担当がノックダウン、リタイアしてしまう事態にも……。
「ふにゃあ~……」
「……ダウドぉぉぉーっ!……こ、このアホーーっ!!」
「どうなのねー!今日のぼくらはひと味違うのねえー!」
「よし、後はクソ猿、おめーだけなのねー!」
「覚悟しろなのねー!今までの仕返し、た~っぷりぷり、うんこもぷりっ!
……させて貰うのねえー!!」
「……チッ!」
ジャミルは基地害兄弟に取り囲まれてしまう。その間に、デブキラーマシンは
倒れているアルベルトとアイシャの元へ……。
「……あの機械から変な電波が流れてんだな、あれを何とか出来りゃ……、
くっ、でも、こいつらが邪魔だなあっ!!」
「だ、駄目……、動けないわ……、ジャミル……、早くジャミルを
助けに……、でも、身体が痛くて……どうすればいいのよ……」
「……アイシャ、諦めちゃ駄目だ、でも、このままじゃ……」
「何やってんだ!……しっかりしろよ!!弱えーなあっ!!」
「……お前っ!?……言う事聞かなかったなっ!?」
「うるせー!エルナ達にはモンが付いていてくれる!だから
任せて来た!お前らの方が心配なんだよっ!弱えーんだから
さあ!!」
「こいつっ……!!」
エルナ達と逃走してくれた……、と、思いきや、又シュウが現場に
戻って来たのである。ジャミルは怒鳴ろうとしたが、が、シュウは
決死のダッシュで、苦戦しているジャミルの横を横切り、呆然と
している基地害兄弟を無視し、……橋を通過しようと只管走って行く。
「はっ……、あ、あいつ!……機械を壊す気なのね!!てめーら何
ぼーっとしてんのね!!」
「アニキもアホなのね!あの機械を止められたら豚がスローに
戻ってしまうのね!」
……基地兄弟が橋の袂に設置したCDデッキ。やはり其処から
流れている高速BGMがデブキラーマシンに暗示を掛け、動きを
活発に、機敏にしているのである。……ならばそれを止めて
しまえばいいのだから。
「……だああーーっ!!」
シュウは怒りを込め、橋から川へとCDデッキを蹴り倒す。
……CDデッキは川へと墜落。途端、デブキラーマシンは
途端にスローモーションになり、ロボットダンス状態に……。
「……へ、へへ、どうだよっ!スッキリしたぜ!!」
シュウは得意げに鼻を擦る。確かに彼の機転のお陰で助かった事は
事実。そして、ジャミルはもう一つ気づいた事があった。最初に
見た時よりもシュウの顔は活き活きと、明るく輝いており、少年らしさを
取り戻していた……。
「こ、この野郎!お前らもさっさと川に落ちて機械を探して
くるのねえーっ!!」
「何を言うのね!?アニキがさっさと落ちて探してくればいいのね!!」
「冗談じゃねえのねえーーっ!!もうあんな機械とっくに
壊れてんのねえーー!!」
……また始まったなとジャミルは呆れる。そして、これはチャンスでもあった。
「なら平等に……仲良くさっさとお前らトリオで探して来いっ!!」
ジャミルの跳び蹴り、3基地にヒット。蹴られたバカトリオは
またまた橋から転落。結果、……揃って又川を流されて行った。
そして後はいつもの通り。
「……覚えてろォォーー!なのねええーー!!」
「ぼくらこれからも何回だって出てやるのねえーー!!」
「……とほほのほお~、なのねえ~……」
「……もう出て来んでええわいっ!!って、無理か……」
ジャミルは夜の川を流されていく3基地を見つめながらウンザリ。
しかし、まだ終わっていない。残るはデブキラーマシンだけである。
ジャミルはアイシャとアルベルトを助けに向かおうとするが、あっちでも
とんでもな、……嫌、またトンでもない事が起きていた。
「ぶふっ、ふびびひいいーーっ!!」
「何がどうなって……?」
「こ、今度は豚さんになっちゃったわっ!?」
「……おーい、お前ら平気かぁーーっ!?」
「ジャミルっ、私達はもう大丈夫よ、だけど……」
「キラーマシンが……、突然豚になっちゃって……」
「……い、いいいいっ!?」
ジャミルも、後から付いてきていたシュウも騒然……。豚男は完全に
豚になってしまっていたのだった。完全に豚になった豚男は……、
ブヒブヒ鳴きながらカラコタ橋を橋って何処かへ逃げて行った。時折、
鋭い目でジャミル達の方を振り返りながら……。それは、畜生、覚えてろ、
何れ又出てやるからな……、と、言う様な恨みがましい目であった……。
あれから、ジャミル達はシュウ達を連れて町の宿屋に一泊していた。しかし、
恐ろしい豚男の魔の手からシュウ達は漸く解放されたが……、何も持たず
広い砂漠に放り出された様な物なので、彼らはこれからどうしていいか
分からず困惑していた。特にエルナはまだ9歳。ペケは3歳。4人は
子供達がまだ寝ている隙に、ロビーで話し合いをしていた。サンディも
どうにか機械から抜け出た様で疲れて眠ってしまっている。少々処か、
相当機嫌が悪い様だったが……。カクテルジュースの件も含め、後処理は
大変そうである。
「オイラ達と一緒に連れて行く訳にいかないし、困ったねえ……」
「う~ん……」
「……」
「よう……」
「あっ、シュウ君達……」
皆が唸っている処へシュウ達がやって来る。昨夜はモンも一緒に
子供達と寝ていた。特にすっかり元気になったペケのモンの
懐き様は凄まじい物があったのだが。
「ぽ~、ぽ~……、たた、たた……、ぽん、ぽん、ぽん……」
モンと一緒に……、キャンディーの棒を持ったペケが出現。
「……おい、コラ、モン……」
「ペケはモンの一番弟子だモン!太鼓の極意を教えたんだモン!
……ターゲット、ロックオンモン!!ちんぽこモォ~ン!!」
「きゃーきゃー!おんおん!」
「……ちょっ、な、何で君までオイラの処に来るのおおーーっ!!
うわああーーっ!!」
「……」
モンはペケと一緒にダウドを追い掛け回す。取りあえず……、小さな
お子ちゃま達はダウドに任せておいて……、此方は此方で話を進めようと
思った。ジャミルは、シュウ達が良ければだが、いい方向になるまで、暫く
一緒に旅に連れて行ってもいいかなと、思っていた。だが……。
「……はあ、小さなお子様……、ですか……?」
「どうしても見つけたいんだ、大切な息子夫婦の忘れ形見なのだよ、
私はその子を探して遠路はるばる此処まで来たのだ、あの子と
引き離されてもう丸一年になる……、何か知っている事があれば
教えて欲しいのだが……」
「そうですねえ……、小さなお子さんと言えば……、そういえば……、確か……」
「きゃう!?」
「お、おお……?」
ロビーを走り回っていたペケは早朝から宿を訪れ、店主と話していた
お客さんとぶつかってしまう。直ぐに事態に気づいたエルナは慌てて
客の処へ……。
「ペケ、駄目だよう、おじさん、ごめんなさい……、ペケもごめんなさいして……」
「なさ……」
「モンちゃんも駄目よっ!……こら、めっ!!……ペケ君に変な事
教えちゃってっ!!」
「モォ~ン……」
「い、いや……、私は別に気にはしていないよ……、……」
アイシャもモンを慌てて回収に掛かる。ペケがぶつかったのは、
中折れ帽子を被った小柄でスーツ姿の服装の初老の老人だった。
しかし、老人は何故かペケの方をじっと見つめているのである……
小さくちょこちょこ謝るペケの姿に……。
「……き、君は……、も、もう少し傍で顔を良く見せてくれないかな……?」
「おかお……?ペケの?」
「ペケっ!ア、アイシャお姉さん!あの人、ペケを誘拐しようと
してるよう!」
「……た、大変だわっ!!みんなーーっ!来てーーっ!
「……ど、どうしたんだっ!!」
事態に気づいたジャミル達も慌ててすっ飛んで来る。特にシュウは
率先して怪しい老人の前に立つと、ペケを庇おうとするのだった……。
「今度は誘拐かよっ!……何があったって俺はペケを絶対に守るっ!
エルナだって……!」
「モンも許さないモンっ!!……シャアーーっ!!」
「兄者……」
「君、落ち着いて話を聞いてくれないか……?其処の大きいお兄さんの
君達も……、話をどうか聞いて欲しい、私は誘拐犯などではないよ……」
老人は帽子を一旦外すとハンカチで汗を拭く……。どうやら本当に
話を聞いて欲しいらしく、深刻そうな顔をしている。それにいち早く
了解したのはアルベルト……。
「この人は悪い人じゃないよ、話を聞くだけでも聞こう……、シュウ達も
落ち着くんだ……」
「……アルっ!お前っ!!」
「この人、行方不明になってしまった大切な小さなお子様をずっと
探して旅をしているらしいんですよ、気の毒でしょ?私からもどうか
お願いしますよ……」
店主もカウンターから身を乗り出し、ジャミル達に老人の話を
聞く様に勧める。……小さな子供……、と、聞き、ジャミルは
きょとんしているペケの方を見つめた……。
「う~?」
「分かった、俺らも一応話を聞こう……、シュウ、いいな?」
「……チッ!冗談じゃねえ!俺はゴメンだ!!暫く外にいる!!けど、
もしもペケに何か遭ってみろ、……ジャミル、俺はテメエらを絶対
許さねえぞ!!」
「シュウ君!……」
アイシャは外に出ようとしたシュウを止めようとしたが、逆にアルベルトに
止められる……。
「あの子も……、悪態はついてるけど、一応は分かってくれている、
後は僕らであのご老人から話を聞こう……」
「アル、分かったわ……」
「た、助かったぁぁ~、ほっ……」
「ダウドもお疲れ様……」
ダウドに声を掛けるアルベルト。宿屋内は狭くて質素な場所であったが、
店主は話がしやすい様、気を遣ってロビーを貸し切りにしてくれた。
……モンも何とか大人しくさせ、ジャミル達は老人の話を聞く事に……。
この現れた老人との出会いが、ペケの未来を取り戻す事になり、エルナにも
希望の人生を与える事になるのだが……。それはシュウとの悲しい
別れでもあった……。
「……爺さん、それじゃ……、ペケが……、あんたの探している
行方不明の孫かも知れないんだな?本当なんだな……、……嘘言うなよ?」
「ああ、これを見て欲しい……」
老人はジャミル達に一枚の写真を見せた。其処には……、両親に大事そうに
抱き抱えられている生まれたばかりの幼い赤子、そして、今此処にいる
老人本人が写っていた。だが、父親の方は子供が生まれた直後、不慮の
事故で他界。母親も心臓の持病が有り、旦那を失った事でショックを
受けたのか、病気が発症し、幼い我が子を心配しながらも、一年後に
亡くなったとの事。……それから数ヶ月あまりの出来事だった。老人が
悲しみに包まれたまま、続けて悲惨な出来事が起きる。……幼い赤ん坊が
突如消えてしまったのだった……。
「この手紙も……、孫が消えてしまった直後、……屋敷の郵便受けに
残されていたのだ……」
老人は更に手紙も見せた。其処には汚い字で脅迫状の様な文が
書き殴ってあった。「お前の孫を誘拐した、……返して欲しくば……、
10000000ゴールド用意しろ、それまでお前の孫は俺が
大事に預かっておいてやるよ、金を用意して俺の所まで来い、
但し、俺は子供を愛する流浪の旅人だ、何処にいるか教えねえよ?
ま、会いたかったら自分で探しに来いよ、……果たしてチビ君が
大きくなるまでに無事に会う事が出来るかな?あばよ!」と。
「バ、バカ……?」
ダウドが目を点にする……。エルナが言うには、この汚い文字は
見た事があり、豚男の文字に間違いは無いと。明らかにこの手紙は
あの豚男が書いたもんである。だが、金が欲しい割にはこんな回り
諄い事をして……、まるでゲームを楽しむかの様な。4人はあの豚が
何を考えていたのかさっぱり分からないのであった。しかも、孫を
豚男に渡したのは、屋敷で働いていた専属メイドさんだったと言う
事実。そのメイドは実は豚男の知り合いの営み屋の遊び相手だった
らしい。メイドは恐ろしくなったのか、真実を直ぐに老人に打ち明け、
謝罪。自分は自ら警察に連行されていった。その後、警察がどんなに
八方尽くしても、誘拐犯は見つからず。メイドに問い詰めても、申し訳
ありません、あの人の居場所は分からないんです、の、一点張りであり、
老人も途方に暮れていた。……それから更に一年が立ったのである。
「ふう~ん、成程成程……、しかしなあ~……」
やっぱり金持ちって厄介事に巻き込まれるんだわん……と、嫌~ねえ……、
写真を見ながら何となく人事の様にジャミルは思ったのである。
「おい、書いてる奴……、俺をカマみたいに書くなよ……」
「ちなみに……、孫の名は……、ジョナと言う……」
「う~?」
老人は切なそうに写真の中の赤ん坊と今傍に来ているペケとを交互に
見比べる。もしも、本当にペケが老人の孫なら……、連れ去られた時、
赤ん坊だった手前、老人の顔を覚えてはいないだろう。愛おしそうに
ペケを見つめる老人のその瞳は本当に優しそうだった。
「うそ、うそ……、ペケはお爺ちゃんの本当の……、うそ、うそ……」
「エルナちゃん……」
エルナは驚き、目に涙を浮かべ始め少々混乱し始めた。アイシャは
そんなエルナを優しく、慰める様に側へ引き寄せた。
「おい、爺さんよ……」
「ん?シュウっ!」
「あ、兄者……」
ジャミルが後ろから聞こえて来た声に振り向くと、外に行っていた筈の
シュウがいつの間にか宿屋内に戻って来ていた。シュウはジャミルを
無視すると、ずんずんと老人の側へ近寄る。
「爺さん……、ペケがアンタの本当の孫だっつー証拠でもあんのかよ、
完全にアンタの孫だっつー事を示す証拠がよ……、もしかしたら人違い
っつー事もあんだよ……」
「シュウ……、君はまだそんな事を言っているのか!人を疑うのも
いい加減にしろっ!!」
「うるせー!簡単に人なんか信用出来るかっ!……俺達は散々あのクソ豚に
酷エ目に遭わされたんだぞ……、そうさ……、全てこの爺さんの作り話かも
知れねえじゃねえか……、余りにも都合がよすぎらあ……、もしかしたら
爺さんはあいつの手下で……、ペケを取り返しに来た可能性だってあるのさ!」
「それは無いだろう!何て事を言うんだっ!!」
「ア、 アルも……、落ち着いてよお、エルナちゃんとペケ君がびっくり
しちゃってるよお!」
「そうよ、アルが心配なのも分かるわ、だけど……」
「……うん、ダウド、アイシャ、ごめん、つい……」
「そうモン、こんな時はモンと一緒に太鼓をぽんこぽんこ叩いて
落ちくんだモン!」
「いや、……叩かないから……」
そう言いながらアルベルトはちらっと横目でジャミルの方を見た。
近頃、モンのアホ度の具合が誰かに負けず、どんどん増している
様な気がしたのである。もしかしたら、ダーマの塔でジャダーマに
あの時、落雷を食らった所為なのかも……、と、思ってもいた。
アルベルトと口論になったシュウは再び氷の目を取り戻し、老人を
キッと睨んだ。しかし、口ではシュウを怒ったアルベルトだが……、
シュウはこれまで酷い目に遭いながらも、必死で大切な妹分と弟分を
守って来た。だからこそ……、そう簡単には素直に返事が出来ないのも
充分に分かっていた……。
「あの子の左腕には……、火傷のケロイドの跡と、手術の傷跡が
残っている筈だ、母親が他界した後の事だった、あの子からうっかり
目を離してしまったメイドの不注意でね、紅茶が入っていたお湯の
容器を悪戯でテーブルから落としてしまって……、熱湯を左腕に
被った、一命は取り留めたが、それは大変な大手術だった……、
その時の手術の……、消えない生々しい跡が残っている筈なんだ……」
「あ、兄者……、そう言えば……、ペケ……」
「い、言うなっ!エルナっ!!」
エルナの言葉に、シュウは真っ青になる。やはりシュウ達は何か
知っている様だった。……もう決定的だった。……ペケが老人と
血の繋がった本当の孫である事が。ジャミル達も確認する。確かに
ペケの左腕には……、それらしき、ケロイドの跡があった。
「お、おお、やはり君は……、私の探していた……、き、奇跡だ……、
おお……、やっと逢えた……、おお、おお、大きくなって……、
こんなに……、ジョナ……」
「じ~?」
老人は漸く逢えた本当の孫を愛しさで力いっぱい抱き締める。
ペケは良く分かっていない様であったが、泣いている老人の頬に
不思議そうな顔をしながらも小さな両手でそっと触れるのだった。
「良かったわ……、ペケ君……、これで本当のご家族さんと会えたのね……」
「う、うんっ!よ、良かったねえ~……」
「本当に……、良かった……」
「モン~……」
(ふんっ、まるでクッセードラマ状態じゃん!……な、何よ、アタシ
泣いてなんかないんだからネ!……これは目から汗が流れてるだけ
なんだから!)
アイシャもダウドもアルベルトもモンも、そして、ツンデレサンディも……、
心からのこの巡り会いと奇跡を祝福してくれた。そして最後は軽い
この男である。
「おう、ペケ!お前、マジで良かったなあー!なあ!」
「なー!」
ジャミルは軽くぐしぐしと、ペケの頭を撫でた。まだ何も分からない
ペケはジャミルに合わせて笑ってみせるのだった。
「……良くねえってんだよっ!!」
「シュウ……」
「兄者……」
だが、心から素直に祝福出来ない者もいる……。老人とペケが生き別れの
本当の家族であると分かった以上、僅かな時間ではあったが、これまで兄弟、
姉弟の一緒に暮らして来たシュウとエルナとは別れなければならない。
シュウは目に涙を溜めるエルナの方をじっと見つめ、再び老人を睨むのだった……。
「兄者、ワチだってペケとさよならは寂しいよう、でも……、ペケは本当の
家族さんと一緒に幸せにならなくちゃだよ……、これまでいっぱい辛い
思いしたんだもん……、ね?ペケ、色々あったけど……、これでさよならだね、
ワチ、ペケの事……、ずっと忘れないよ……」
「ね、ね~?……や、や~……」
エルナはそっとペケを抱き締める。だが、その姿にさっきまで笑っており、
まだ何も分からない筈のペケは何かを感じ取ったのか、急にぐしぐし
泣き始めるのだった……。
「ふむ……、君達さえ良かったらだが……、儂の屋敷で一緒に
暮らさないかね?」
「え、えっ……?」
「……じ、爺さん……?」
老人はエルナを側に抱き寄せる。勿論シュウも……。老人の行動に、
ジャミル達4人も待ってましたとばかりに顔を見合わせ笑顔になる。
「これからも孫のお兄さん、お姉さんとして一緒に暮らして
欲しいのだよ、特にシュウ君、君はお兄さんとして、
本当に有り難う、心からお礼を言いたい、君が孫を
守ってくれなかったら、儂はこうしてこの子とも無事
巡り遭う事が出来なかった……、有り難う、有り難う……、
皆、皆、儂の可愛い大切な孫だよ、これからも皆で仲良く
一緒に暮らしておくれ……」
「爺さん……、お、俺みたいな……はみ出しモンが本当に……、
じょ、冗談だろ?」
「いいや、君は何一つ悪い事はしておらんじゃないか、これまで沢山辛い
思いをしたんだろうに……、もう何も心配する事はないよ、のう……」
「へ、へへ……、マジでお人好しな奴っているんだな……、バ、
バカじゃねえの……」
「兄者……、ワチ達、これからも……、ずっと、ずっと一緒に
いられるんだね……」
「ねー!」
「ああ、そうだよ、皆ずっとこれからも一緒だよ……」
老人は再度子供達を側に抱き寄せ抱擁する。その瞬間、……等々、
……頑なであり、誰も溶かす事の出来なかったシュウの心の氷が
溶けたのである……。
「モン、はみ出してませんからモン!」
……どっから持って来たんだか、モンは巨大なパンツを履き、大口を
開けて威嚇する。アホがどんどこ加速するモンに、アルベルトは……、
おい、責任取れよ飼い主……、とばかりにジャミルの方を見るのだった。
して、これで漸く話も纏まり、3人も離ればなれにならず、その場にいる
誰しもが、ハッピーエンドを迎える事が出来る。そう思っていた……。
「爺さん……、あんたの気持ちは嬉しいよ、でも……、俺は一緒には
行けねえよ……」
「兄者……?」
「……」
シュウは自ら老人の抱擁から離れる。そして静かに下を向いた直後、
又前を向く。何か言いたい事がある様だった。その態度に……、
ジャミルはブチ切れになるのだった。
「おい……、お前まだ何か不満があんのか!?爺さんはこんなにも
お前らの事を気遣ってくれてんだろっ!?……ええっ!?」
「ジャミル、止めるんだっ!!」
「……落ち着いて、ジャミル!」
「そうモン、落ち着いてモンーっ!!」
「シュウ君の話も聞いてあげようよおー!」
(たく、どうしてアイツってあんなに気が短ケーんだか、……痔に
なるわヨ、って、もう手遅れかあ……)
仲間達はシュウに掴み掛かろうとするジャミルを止めようと
大騒ぎだった。折角幸せになれるチャンスをシュウは自らの手で
拒否しようとしている。お節介なジャミ公にはそれがどうしても
許せなかったんである……。
「う……、うあああーーん!!」
「兄者、どうしてなの……?もしかして、もうワチ達と一緒に
いるの嫌なの?……も、もしかして……、兄者は最初からワチ達の
事が嫌いで……、ワチ、迷惑ばっかり掛けたもんね、ご、ごめんなさ……」
エルナは泣き出したペケを慰めようとするが、自らも涙が溢れてきて
止らず、どうしていいか分からなくなる。
「……バカっ!んな事あっかよっ!!泣き虫めっ!!」
今度はシュウがエルナとペケを抱擁する。そして心を落ち着けた後、
エルナに向け、言葉を継げた。
「俺はまだまだ世の中に必要とされてる人間じゃねえ、それは
分かってんだ……、だから……、ちゃんと何処かで真面目に
働きてえんだ、後十年……、ちゃんとお前らに又逢える様な
真人間になったら……、エルナ、その時は必ずお前を迎えに行く、
……約束だ、……ペケ、お前にも会いに行くよ……」
「兄者あ……」
「爺さん、それまでエルナの事、宜しく頼むよ……」
「シュウ君……、本当にそれでいいのかね……?」
「ああ、そう決めたんだ……」
シュウは老人の瞳を真っ直ぐ見つめる。完全に氷が溶けたその目には
もう迷いがなかった。
「……分かった……、でも、何かあったらいつでも尋ねて来ておくれ、
待っておるよ……」
老人はシュウに一枚の紙を手渡す。其処には老人の住んでいる屋敷の
場所の地図と住所が記載してあった。
「ああ、でも、これを使わせて貰う時は俺が大人になってからさ、
……その時には、お前等、どんな姿になってんだろうな……、プ、
想像付かねえや……」
「な~?」
「も、もう……、兄者ってば……」
シュウはエルナとペケの方を見てケラケラ笑う。そして再び2人を
もう一度抱き締めた。
「約束……、する……、絶対……、だからそれまで爺さんの処で
ちゃんと世話になれ、エルナ、これからも姉ちゃんとしてペケを
宜しくな……」
「うん、ワチ……、待ってるよ、いい子にしてる、兄者が迎えに
来てくれるまで……」
「ああ……」
「にー、にー……」
老人は子供達のやり取りを微笑ましい目で優しくずっと見守っていた。
……ジャミル達も。
「たく、意地っ張り野郎め!もう知るかっての!」
「そう言ってる割にはアンタ、な~んか顔が嬉しそうなんですケド?」
いつの間にか……、サンディも妖精モードで姿を現していた。多分、
ジャミ公を構う為。
「うるせーガングロっ!だ、黙ってろってのっ!!」
「いーえ!黙ってらんないっての!夕べだってさあ、寝言で……、
アイシャあ~、俺、もう我慢出来ねえよう~……、とか、言っちゃって!
うっわ、イヤラシーっ!!」
ジャミ公は飛んで逃げたサンディをドタドタ追い掛け回す。
既にサンディはシュウ達にはもう姿を見せていたが、老人には
見えないので、ジャミルが一体何を追い掛けて走っているのか、
まるで?状態である。アイシャは顔真っ赤。アルベルトとダウドは
困って呆れ……、ついでにモンも大口を開け、キャンディーの
棒を持ってジャミルとサンディを追い掛け回す。最後に来て、
この連中はもう無茶苦茶に雰囲気をブチ壊していた。いつもの事だが。
そして……。
「よう、お前……、しつこい様だけど、マジで良かったのかよ?」
「何がだよ?」
シュウとジャミル達は昨夜、カラコタ近くの浜辺に老人を迎えに
訪れた船を見送ったのである。これで、シュウとエルナとペケは
数年間の間、離れ離れになる事になる。だが、シュウは後悔は
していないと言う。それが自分の選んだ道なのだと。繋いだ絆は
決して離れない。……例えどんなに遠く離れていても。
「ふん、ペケの癖に、結局はアイツが一番先に出世しちまったって事さ、
さてと、俺ももう行かなきゃな……」
「当てはあんのかよ?」
「んなモンあるもんか、ま、風の吹くまま気の向くままさ、
取りあえずはカラコタを出たら俺を雇ってくれそうな大きな
都会を探してみるつもりさ、……おっさん達も元気でな!」
「だからおっさんじゃねえってんだよっ!たく、最後まで
可愛げねえなっ!!……あばよっ!!」
「元気でね、私達ともまた何処かで逢えたらいいわね!」
「旅の無事、祈ってるよお……」
「ふん、のたれ死にすんじゃねーわヨ!」
「辛くなったら太鼓を叩いて元気出すモン!」
「……叩くかっ、アホっ!!」
「身体に……気を付けるんだよ……」
ジャミルは悪態をつきながらも、仲間達はそれぞれの言葉で去って行く
シュウを見送る。そして、最後に……、アルベルトがシュウに手を差し出す。
シュウもその手を握り返す。少し照れ、笑みを浮かべて……。
「ああ、あんたもな……、じゃあな……」
カラコタ橋。シュウはジャミル達とは反対の方向に向かって静かに歩き出す。
真っ直ぐに、新しい道へと歩き出した彼はもう後ろを振り返る事はなかった。
アルベルトは消えていくシュウの背中を見送り、橋の下に屯する集落を
見つめながら……、こう思ったのである。
(僕はやっぱりこの町が苦手だ……、好きになれない……、でも、皆
生きる為……、毎日の日々、明日への暮らしの中を必死に生きている、
盗みや賭け事を行なっていても……、それは此処、カラコタに生きる
人々の症……、仕方が無いのかも知れない、そして……、シュウの様に
本心から泥棒なんて望んでいなくても……、そうしなければ生きられ
なかった複雑な事情を抱えている者……、本当に此処には沢山の人が
寄り添って生きているんだ……)
「はあ……」
「おい、アル、もういいか?行くぞ……」
「う、うん……」
「あ、やられたよお……」
「へへ、ごめんなっと!」
先に進もうとしていた矢先、又やられたらしい。ダウドの小遣いが
通りすがりのスリにやられたのである。……そう言えば、アルベルトも
財布をスられっぱなしで、結局、スリ犯を捕まえられないままだった
のを思い出す……。
「やられたよお……じゃねえってのっ!たくっ、……このヘタレ目っ!」
「ヘタレ目って何さっ!バカジャミルっ!!」
「もうっ!ケンカしてる場合じゃないでしょっ!ジャミルもダウドもっ!!」
「そうだよっ!追い掛けなくちゃ!……僕はやっぱりこの町が嫌いだ……、
うふ、……うふふ~ふふふ!」
「う、うわ、あぶネっ!……チョーキモいんですケドっ!?」
「追い掛けるモンーっ!!……アルベルトを……」
「あーーっ!たくっ!!仕方ねえなあーーっ!!」
結局、一番最初にスリ犯を追い、最初にすっ飛んで行ったのはスリッパを
持ったアルベルトであった……。4人はまだまだ、当分このカラコタ橋の
集落から、出られそうになかった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 22