zoku勇者 ドラクエⅨ編 21

カラコタ編3

「……?」

「気がついたかい……?」

「くっ、て、てめえっ!」

そして此方は再びアルベルト側。アルベルトに気絶させられていた
シュウが目を覚ます。シュウは短刀を構え後ろに素早くジャンプ
すると再び警戒し身構えた。

「……もう止めよう、こんな事は……、僕達はずっとこの子を
探していたんだよ、大切な仲間のモンを返して貰えればそれで
いいんだ……」

アルベルトの手の中には既に袋詰めから解放され静かに……?眠る
モンの姿があった。それを見たシュウは激怒する。

「ぶーがぶーが……、プウ~……、今日は学校休みマスモン……」

「……」

「……畜生……っ、俺達だってそいつがなきゃ困るんだよっ!
絶対に返して貰うっ!!俺を舐めると本当に痛え目に遭うぞっ!!」

「どうしてそんなにモンを狙うんだ……?この子はモンスターだけど、
人間が大好きでとても優しい子なんだよ、……ま、まあ、誰に似たんだか
時偶悪戯もする事も多いけど………」

誰に似たんだかの人:……ぶええーーっくしょんっ!!

「う、う、くっ……」

シュウの脳裏に再びあの時の事が思い浮かんだ。モンが命懸けで
自分達を庇ってくれようとしていた事。短刀を持つシュウの手が
汗ばみ迷いで又震え始めた。だが、直ぐに感情を捨て心を無にした。

「俺達はこうでもしないと生きられないのさ……、所詮ゴミで哀れな
糞ガキだからよ……、悪魔に捕まって一生這いつくばって生きていくんだ、
解放されるその時は……、そうさ、自分が死ぬ時さ……」

「……悪魔……?」

シュウは氷の目をアルベルトに向ける。……力尽くでもどうしてもモンを
取り返す気だった。しかし、アルベルトにはこの少年が心では酷く怯えて
いるのが手に取る様に分かっていた。

「それにお前、バカじゃねえのか?俺なんかほっといてさっさと
いきゃ良かったじゃねえか、そいつを取り戻せりゃよかったんだろ?
……アホと違うか……?」

「……囈言を……聞いた……、ほおっておけなかったんだ……、
君の本当の心は違うんじゃないかと思ってね……、気になったのさ……」

「何だと……?」

「君が魘されている時、必死に誰かの名前を呼んでいた……、俺が
絶対に守るって、ねえ、君にももしかしたら……、守りたい大切な
誰かがいるんじゃないのかな……」

「うるっせーっ!この糞野郎ーーっ!!俺にそんな奴いるもんかーーっ!!」

シュウは激怒し、アルベルトに再び突っかかって来た。アルベルトは
無言でもう一度シュウの腹に拳でパンチを入れた。

「……う、ううう……、や、やっぱり俺……、駄目なのかよ、
雑魚なのかよっ!!誰も守れねえのかよ、……お、俺はやっぱり
弱いんだ……、畜生ーーっ!!」

未熟なシュウはアルベルトに勝つ事が出来ず……、地面に這いつくばり
悔しさで目に涙を滲ませた……。

「……違う、違うよ……、兄者……、弱くなんかないよ……、だって……」

「……エ、エルナっ!?」

シュウには何が起きているのか理解出来なかった。……小屋で
待っている筈のエルナが何故此処にいるのか……、どうして
自分の目の前にいるのか……。

「コラ!この家出人共っ!やーっと見つけたぞ!オイ!」

「……ジャミル、……アイシャ、ダウド……」

そしてアルベルトも少し躊躇う。見慣れない少女の側には……、
自分を探しに来たジャミル達が一緒にいたからである。

「後でオメーもモン共々デコピンだっ!つるっパゲデコ出して待ってろっ!!」

「……お断りいたす」

「!?っ、こ、この腹黒めーーっ!!」

しかし、アルベルトが大人しくジャミ公に成敗される筈がなく、
ストレートに仕置きを拒否するのであった。

「アル、お願い……、この子の話を聞いてあげて……」

「アイシャ……」

アルベルトはしゃがみ込んでいるシュウと突如仲間達と現れた少女の
姿を交互に見比べる。2人の様子からして、シュウと少女は顔見知り
なのに間違いない様だったが。

「シュウ兄者は……、いつもワチらを庇って怖い親方から守って
くれてるの、兄者は親方に殴られそうになったワチをいつも
親方から助けてくれた……、悪い事をさせられているのも、自分が
いつも身代わりになって……」

「……エルナっ!余計な事言うなっ!俺には何の感情もねえ!したくて
やってるだけだ!そうさ、これが俺の運命さ、賊として生まれて、賊と
して死ぬ……、本望じゃねえか……」

シュウは気力を振り絞り立ち上がる。そして短刀を再び構え、
ジャミル達とアルベルトを凶器の目で睨み付けるのだった……。

「オメーもデコピンが必要か……?お好みならサービスしてやるぞ……?」

「なっ!?こ、この……短足チビ野郎っ!!ふざけんなっ!!」

ストレートに言い放つジャミルにシュウは一瞬クールに構えていた
表情が崩れ掛かる。そして此方も負けてはおらず。

「うるせーこの野郎っ!俺は短足じゃねえっての!……す、少し背が
低いだけだっ!!」

「はあ、やっぱり気にしてたんだねえ~……」

「そうだよっ!……って、うるせーバカダウドっ!!」

「あいたああーーっ!!」

「止めなさいよっ!ジャミルもダウドもっ!!」

「こ、こいつら……」

いきなり目の前でどつきあいを始めた連中にシュウは唖然……。
人を小馬鹿にしているかと思いきや、そうではなく、素で
やっているのである。

「2人とも……、いい加減にしないとですね……」

「はい、すみません……」

そして、スリッパを構え、黒い笑みを浮かべたアルベルト。一瞬にして
バカ2人を大人しくさせた。

「おい、まだ話は済んでねえんだよっ!アルっ!……オメーもだよっ!!」

「あ、あはは~!」

アルベルトは慌ててその場から少し離れる。そもそも何せ今回の騒動の
大まかな原因は腹黒……アルベルトにあるのだから……。

「……其処までだよ、シュウちゃん……、お前、仕事さぼって一体
何してるの……、駄目でしょうが……、お前、お父さんの言う事に
逆らったね……」

「……っ、こ、この声……、まさかっ!?」

「……兄者っ!!」

暗闇から突如また新たに聞こえてきた声にシュウはビクッとし、身体を
硬直させる。エルナも怯え、シュウにぎゅっとしがみつくのだった……。

「この糞野郎……、さっきはよくもぼくらを川に叩き込んで
くれやがったのね!!」

「許さないのねー!」

「のね!」

「……お前達っ!!」

アルベルトが叫んだ。橋の向こう側から近づいて来る4つの影……。
豚男、そして、勝手に自分達で橋から落ちて川に流されていった
筈の基地害3兄弟であった……。

「おい、エルナ……、お前もお父さんの言う事に逆らってよくも
夜遊びなんかに行ったね?……このおバカ不良娘がぁぁぁぁ!!
……これを見な!!」

「……ペケっ!!」

豚男は無理矢理連れて来た幼いペケの姿をシュウ達の前にさらけ出す。
豚男に頭を掴まれたままのペケはぐったりしており、もう意識が無い
様子だった。

「……糞親父っ!ペケに何しやがったっ!ペ、ペケは……、まだ赤ん坊の
3歳だぞっ!!」

「あん?エルナ、さっきも言ったろう?おめえが悪いんだよ!俺に
逆らうからこういう事になるんだよ!見せしめだ、……泣いて
ギャーギャーうるせーからよ、ちょいと軽くブン殴って大人しく
させてやったまでだよ!が、がはははは!!う~ん、もう死んだかもな?
かわいそうでちゅねえ、おちびちゃーん!ばかなお姉ちゃんの所為で
ねえ~!」

「あ、兄者ああ~!どうしよう、ワチの……、ワチのせいだよううーー!!
ああーーんっ!!」

「……ちく……しょううう……」

「何て事を……、まるで人間の心を持っていないのか……?」

「ジャミル……、酷すぎるわよっ!!あんな小さな子に……!
絶対許せないっ!!」

「ああ……、けど、まだ間に合うかも知れねえ、ダウドっ!!」

「了解だよっ!あの子は絶対オイラが助けるっ!!」

極悪非道以下の糞豚男にジャミル達も怒りを爆発させた。ダウドも
何とかペケを助けようと試み、回復魔法の呪文の詠唱を始めるのだった……。

……エルナはシュウに抱きついて嗚咽する。脱走したのがばれ、自分が
罰を受けるのは覚悟で承知していた。だが、まだ何の抵抗も出来ない
幼いペケの方に見せしめに本当に暴力を振るうとは、豚男の残虐性は
シュウもエルナも地獄の毎日の中で充分分かっていたがまさか此処まで
感情と心の無い人間だとは本当に思わなかったのである……。

「大丈夫よ、エルナちゃん、ダウドがいるからね……、どうか信じて……」

「あっ、お、お姉さん……!ダウドお兄さん、ワチの怪我を治して
くれたみたいに……、お、お願いします!どうかペケを助けて!!」

再びダウドが頷いた。だが、詠唱を始めようとする物の……、ダウドに
戸惑いが浮かんだ。ペケはまだ身体が未発達の幼児である。あれだけ
容赦なく痛めつけられていたら……。本人の方も既にぐったりしている。
もしかしたらもう回復魔法を掛けても、ザオラルを掛けても……、既に
手遅れに近い状態かも知れなかった。

「……どうしたんだよ、ダウドっ!早くっ!」

「おい、またMP切れとか言うなよ……?頼むよ、俺のホイミじゃ、
あの状態じゃ絶対間に合わねえんだよ!!」

「ダウド、お願い……」

アルベルトとジャミルに急かされ、アイシャもダウドを見つめる。ダウドは何とか気力を
振り絞るが、もしも今、ベホマやザオリクが使えていたら、助かる確率が確実に上がっていたかも知れない。そう思うとやるせなさが募ってきた……。

「で、でも……、やるだけの事はやらなくちゃ!オイラ、僧侶として!!」

「……にー、ねー……、いた、いたよう……」

その時……、豚男に捕まっているペケが小さく言葉を発した。
まだ微かに息はしているのである。それは奇跡に近い状態かも
知れなかった……。

「ペケ……?お、お前……」

「兄者!ペケの声……、い、今、微かに聞こえたよ……!ま、まだ……」

エルナとシュウの心にほんの少し再び希望の明かりが灯り掛けた。
だが……。

「あ、そうはさせねえのねえー!!」

「ねえーっ!!」

「ねえーーっ!!」

「……て、てめーらっ!!」

だが、一番厄介な相手……、基地害バカ3兄弟がいたのである。
基地害トリオは再び歌舞伎ポーズを取ると、揃って並び、ペケを
人質にしている豚男の前に立ち、庇う様に援護し立ち塞がった。
……何かあれば豚男はすぐにペケに暴力をいつでも震える状態であり、
頭を掴んだまま笑っている……。

「ど、どうしよう、あいつらが妨害して……、あれじゃ回復魔法が
届いても……」

「糞基地兄弟かっ!!……まーた出やがったのかっ!懲りずにっ!!
こっちまでっ!!」

「もうーーっ!本当に何てしつこい人達なのよっ!!」

「因縁なのねえーっ!……お前らへ復習完了するまで何処へでも
追い掛けるのねえーーっ!!」

「イヨー!ポン!なのねえーーっ!!」

「宜しくお願いしまーす!なのねえーーっ!!」

あの、……復習の字、違うだろ……、復讐だよ……、と、知能の無い
バカなカシラにアルベルトは心で呆れるのであった。

「うるせーのねっ!糞パッキンめがあーーっ!!覚悟しろーーっ!!
なのねえーーっ!!」

「へへ、この先生共はね、俺の長年のワルダチなのさ、凄い研究家
なんだぜー?……おい、シュウ、無駄な抵抗しねえ方がいいぜ?
お前らは俺にはどうやったって逆らえないのさ、早くとっとと
そのモンスター搔っ攫ってこっちによこせ……、で、ないと……、
能無しチビの頭がスイカみたいにぐしゃっと本当に潰れるぞ……、
オラ、早くしろよ……」

「……やめろおおーーっ!!」

豚男は再びペケの頭を強く掴もうとする。このままあの豚男の手に
ペケが捕まっている状態では非常に危険だった。ジャミルの脳裏に
ある考えが浮かんだ……。

「……サンディ、頼む!お前の姿は奴らには見えない筈だ!
……お前しかいないんだよ!」

ジャミルは自分の心の中に隠れているサンディに呼び掛けた。
……白羽の矢が当たってしまったらしきサンディは渋々返事を
ジャミルに返した……。

(わ、分かったわヨ、もう、……。その代わり、ジャミ公、アンタ
後で蜂蜜入りカクテルジュース50杯分おごんなさいヨッ!?)

「何でもいいっ、時間がないんだ!」

「……おんやあ~?……のねえ~?」

……バカ兄弟のカシラは独り言を言っているかの様なジャミルを見て
不審に思う。そして、サンディは発光体のまま飛び出すと、ハンマーを
片手に急いで豚男の元へと飛んだ。

(全くもー!ジャミ公ってば妖精使い荒いんだからサっ!……あんなの
相手にすんの?……マジで……?)

ジャミルは奴らには姿の見えない筈のサンディに豚男の駆除を
頼んだのである。こっそりと、サンディに豚男を殴って貰って
気絶して貰う。そう、一かバチかの作戦を試みた。

「あ、ハエが仲良くトンデレラー!なのねー!古い」

「あ、ハエが仲良くシンデレラー!なのねー!古いんだよ!」

「な、なに!?きゃーーッ!?」

「……サンディっ!!」

「……あああーーっ!!」

……だが、子分Bが見えない筈のサンディに向かって液晶パネルの様な
物を翳すと、途端にサンディの姿が一瞬現れ、誰の目にも見える様に
なってしまい、直後にサンディは機械の中に閉じ込められてしまう……。

「良くやったのね!子分B!……この機械はぼくらが共同開発した
目に見えない、変なモンをキャッチする、ボケモンGOなのね!!」

「サンディ……、そんな……嘘だろ……?」

「ちょっとおおー!ジャミ公ーーっ!アンタこの落とし前どうつけて
くれんのよーーッ!!……責任とんなさいヨネーーっ!!キーキーキー!!」

液晶画面の中のサンディが喚く。ジャミルの作戦は失敗に終わり、
サンディまでもが人質に捕らわれてしまう事態に……。やはり
こいつらは舐めたらアカンの、非常識な極度の変態集団だった……。
一方で、幼いペケの命の灯火は消えかけ、間もなく力尽きようとしていた。

「……やっぱり俺達は……所詮哀れなドブネズミなんだよ、……誰も
助けちゃくれねえ、そうさ、この世に神なんかいるもんか……もし、
いるんだったら……」

「兄者……?」

シュウは怒りで拳を握り、再び氷の目になる。そして、短刀を強く握り締め、
怒りの矛先を向ける。……その矛先は……。

「お前……」

シュウはジャミル達の方を睨む。強く。強く……。彼は怒りと悲しみで
誰を信頼したらいいのか分からなくなっており、完全に理性をもう
失い掛けていた……。

「ちょ!これマジやばいっしょ!?こらー!ジャミ公ううう!早く
アタシを此処から出せーっつ!!出せってのーーっ!!」

「わ、分かってんだよっ!けど……」

喚くサンディ。ペケは助ける事が出来ず、状況はどんどん最悪になり、
ジャミル達は追い詰められていた……。

「兄者!やめてよっ!お、お兄さん達は……、ワチ達の味方だよ!?
ワチの怪我だって治してくれた、なのにどうして!?」

「エルナ、うるせえ、黙ってろ……、どっちみちもうペケは手遅れだ、
助からねえよ……、元はと言えば……、この糞モンスターが魚を
食っちまったからこんな事になったんじゃねえか!!……何が
俺達を守るだよ……、全部あいつの所為だ!……こんなモン、
この町に連れ込んだてめえらが全部悪いんだっ!……てめえら
さえ来なけりゃ……」

「兄者……」

エルナの目に再び涙が滲む。……勝てないと分かっていながらもシュウは
4人に詰め寄る。どうしてもモンを奪い取り、基地害兄弟へと
手渡す気である……。

「お前……、自分の事自分でドブネズミって言ったな……、本当に
それでいいのか?」

「何がだっ!!」

「諦めたら其処で負けって事さ、自分で弱いドブネズミって認めてたら
本当にそうなっちまうんだぞっ!!確かに魚を食ったのはモンが悪いさ、
モンをちゃんと見ていなかった俺達にも責任はある、でも、今の状況から
どうやったら抜け出せるのか、どうやったら良くなるのか、……お前、
一度でも考えた事があんのか!?」

「そうよ、シュウ君……、諦めちゃ駄目よ!ペケ君は絶対私達が助けるわ!!」

「うるっせー!この野郎!!この偽善者糞アマ!てめえ、あの状況を
見てもまだそんな事が言えんのかよ!!……もう、助かる……、
助けられる訳ねえだろうがよーーっ!!……それに……、勝てる訳が
ねえだろ、……あの糞男に……、俺みてえな……、従って生きるしか道は
ねえんだよ……」

シュウはアイシャの言葉にも怒りをますます覚え、錯乱する……。
絶望の中に取り込まれているシュウを……もう誰も止める事は
出来ない……、出来なかった……。ジャミルはアイシャを手で制止、
顔を見て黙って首を横に振った……。

「ジャミル……、そんな……」

「ふん、やーっと分かったかよ、……シュウくん……?お前達ね、
お父さんには逆らえないんだよ、そう、だーれもお前達なんか助けちゃ
くれないの?ね?クズは一生俺の下で稼いで金渡して貢ぎゃいいの
さあーーっ!!美味い糞メシならこれからもたんまり食わせて
やるからよ!あーっはっはっはっはああーーっ!!さ、お仕事して
ちょうだいな!!」

「のーねのねののねー!」

「ねーのねのののねー!!」

「のねののねねーー!!」

絶望と悲しみの中にいるシュウとエルナをあざ笑うかの様な豚男と
基地害兄弟。しかし、まだジャミル達も諦めた訳では無い。最後の
最後まで。どうしてもペケを救いたい、助けてやりたかった。……勿論、
シュウもエルナも。

「……エルナの話には聞いてたけど、あの豚、マジ最悪だな……、
こりゃ1回や2回死んでも救われねえ……、最悪だっ!!
反吐が出るっ!!」

と、ジャミルも呆れ返った処で、ダウドが喚きだした……。

「は、早くしないとっ!あの子本当に回復魔法を掛けても手遅れに
なっちゃうよおー!……ザオラルでも呼び戻せなくなるかも知れない
よおっ!!」

「ダウド、分かってるんだよ、ジャミルも僕らも……、でも、あいつに
捕まっている限り……、どうにも出来ない……、下手に手を出せば
どっちみちあの子は殺されてしまう……」

アルベルトが俯く。はっきり言って、あんな豚男、ジャミル達には
ウンコの様な相手なのだが、何せ、何をしてくるか分からない厄介な
ガードマンも側にいる……。だから頭を悩ませているのである。しかし
もう本当に時間は無かった……。

「にー、ねー……、あ……が……と……ね……」

「ペケ……?」

遂に力尽きたペケが魘され囈言を言い出す……。旅立つ前の、
……シュウとエルナに向けた最後のお礼の言葉だった……。

「おう、そろそろ行くのか?能無しチビ、元気でな、んじゃもうお前は
要らないね、ばいばい、あの世で死んだお父ちゃんとお母ちゃんに
会いなさい、元気でねー!お前は少しだけ最後に役に立ったぐらい
だったねえー、ホント、大きくなってもこりゃ使えねえ奴だと思って
たけどよ、フンっ!!」

……豚男は……、何と……、皆のいる前で表情一つ変えず、掴んでいる
ペケを真っ暗闇の川が広がる橋の下へと叩き落とそうとしているのである……。

「……な、何て事をっ!!やめろっ!!貴様……、本当にそれでも
人間なのかーーっ!?」

「ふん、知らねえな……、おらあ、不要なゴミを捨てるまでだよ……」

豚男は自分に向かって絶叫するアルベルトに平然と言い放ち、
ほじくっていた鼻糞を飛ばした……。そして、……次の瞬間……。

「……ジャミルーーっ!!……ペケ君がーーっ!!」

「……あ、あの糞野郎ーーっ!!も、もう……完全に間に合わねえっ!!」

「……く、くっ……!!」

「冗談……、だよね……?ねえ……」

「……いやああーーーっ!!兄者、兄者ーーっ!!」

「うそ……、だ……、こんなの……、う……、いやだああーーっ!!」

「あ、あああ、も、もう駄目……、う、アタシ……、も、もう
知らないわヨっ!!」

豚男の余りにも卑劣すぎる行動と、この瞬間は……、ジャミル達も、
シュウもエルナも……、基地害兄弟を除いたその場にいた全員を
凍り付かせ、絶望の淵へと叩き込んだ……。だが。

「……守るって言ったモン、……モン、約束絶対に守るんだモンーーっ!!」

「……モンっ!!」

「モンちゃんっ!!」

「……な、何なのねえーーっ!?」

「……の、のおおおーーーっ!?」

しかし、まだ希望は失われておらず……。意識を取り戻したモンが、
橋の下へと急降下で、猛スピードで飛んで突っ込み、川へと落ちそうに
なる寸前のペケを救い出した……。余りの出来事に豚男と基地害兄弟は
暫くの間、鼻水を垂らし、スカシをこき、口を開け方針状態に……。
その間に、モンは急いで抱えているペケを連れてジャミル達の元へと
戻った。皆が見守る中、ダウドは急いでペケにベホイミを掛け捲るのだった……。

「大丈夫、大丈夫だよ……、神様、どうか……、お願いします、この
幼き命にもう一度光を……」

「や、やっ……、う、嘘だ、嘘だろ……、こんな、こんな事って
あんのかよ……、嘘だろ……」

「あ、兄者……、兄者あああ……」

エルナがシュウに飛び付き、再び泣き出す……。しかし、それは再び
希望を取り戻した喜びの涙へと変わっていた……。

……ダウドは基地害兄弟と豚男がアホ放心状態の間に必死でペケに
ベホイミを掛け捲る。そして、等々ペケの呼吸が落ち着いた事を確認し、
安堵したのだった。

「や、やったああ……」

「兄者!ペケが、ペケが!!……すやすや眠ってる……」

「……ほ、本当に……なのかよ……、ペケ、助かったんだな……」

「ダウド、良く頑張ったな!ありがとな!モンもな!……けど、
する事は後でするからな、全部終わったらな……」

「良かった……、けど、も、もう……、オイラ……、疲れた……、
少し休ませて……」

「モォ~ン……、分かったモン……」

エルナもシュウも……、再び喜びの涙を目に浮かべた。ダウドの
頑張りのお陰、そして、モンの決死の行動、ジャミルはダウドと
モンに礼を言うが、モンに対してはするべき事はする様である。

「ちょっとおおーっ!アンタ達っ!アタシの事忘れてんでしょっ!
ちゃんと助けろっつーの!コラーーッ!!」

「あ、もう1人捕まってたの忘れてたわ、悪ィけど、モン、
もうひとっ飛び頼めるか?」

「モーンッ!」

モンは急いで基地兄弟の側まで飛ぶと、子分Bが握っている変な機械を
回収。再び皆の処まで飛んで逃げた。サンディが閉じ込められている
機械も何とか奪ったが、肝心の、機械の中に閉じ込められている
サンディは……。

「……で、ちょっとっ!アタシはどうなんのッ!早く出しなさいって
いってんのヨ!」

「サンディ、今はちょっとんな場合じゃねえんだ、必ず出してやるから……、
もう少し辛抱しててくれるか……?」

「わ、分かったわヨッ!たくっ!……カクテルジュース、100杯追加に
してやるんだからッ!」

「うわ……」

サンディは怒りながらも承諾してくれたが、ツケは大変そうだった……。

「さてと、最後の仕事だ、後は俺らに任せとけ、お前らは何処か安全な
場所に隠れてろ!急いで避難してくれ!!」

「あんたら……」

「お兄さん……」

「うん、あいつらは僕らが仕置きしておくから、ま、毎度の事だけどね……、
諦めてるから、大丈夫だよ……」

アルベルトは困った様に頭を掻いてシュウとエルナの方を見る。
……この2人を安全な場所に逃がすには、糞共が放心状態の、
今が絶好のチャンスである。

「大丈夫、私達に任せて!!」

「……嫌だ……」

「シュウ君……?」

「兄者……?」

しかし、シュウはアイシャの言葉を拒否し、黙って首を横に振った。
もう表情に険しさは無かったが、何か心に思い詰めている様な
不安定な心境の面持ちは消えていなかった。

「俺もやる……、今ならあの糞親父に復讐出来る……、俺らを散々
苦しめてくれた落とし前……、今此処で付けさせて貰うっ!!」

ハイスピードぴんぴんデコピン×5

「……いっ、てえええーーっ!!」

「……兄者あああーーっ!!」

しかし、シュウのデコにもジャミ公のデコピンが発射された。
……余りに痛かったのか、シュウはデコを抑え、激怒する……。

「……何しやがるっ!てめえーーっ!!」

「だからいいってんだよっ!邪魔なんだよ、オメーはっ!まだ真面に
戦えねえ癖に……、強がってるだけで本心は戦うのを嫌がってる癖に
何言ってんだっ!!」

「な、何だとーーっ!?……この糞野郎っ!!」

ジャミルはシュウの方を見る。全部分かっていた。彼を見た時から……、
何回も短刀を握り直すシュウの姿を見た時から……、微かに彼の身体が
震えていた。だが、大切な妹分、弟分達を守りたい、……その気持ちだけは
本当なのだと。感じ取っていた。

「だから……、悔しかったら強くなれよ……、本当に大事な奴らを
守りたいと思ったら……、お前に今出来る事をしろ、安全な場所で……、
チビも怖い思いしただろ、側に付いててやれよ……」

「俺に……、今、出来る事……、分かったよ、……エルナ、行くぞ、
尺に触るけど、今はこのおっさん達とおばさんに任せようや……」

「……お、おっさんだとっ!?」

「……がああーーんっ!!」

「ちょ、誰がおばさんなのようーーっ!!」

シュウはジャミル達に向かって舌を出す。……先程弱いと言われた分の
仕返しである。

「きゃーはははっ!いい気味だっつーの!きゃーははははっ!!」

「……ガングロっ!オメーもやかましいわっ!……おい、暫くの間、
この機械も預かっててくれよ、たくっ!!」

「わ、分かりました、ワチがお預かりいたします、どきどき……」

「宜しくネ、丁寧に扱ってヨ!……もしもうっかり落としてくれたりなんか
しちゃったら……」

エルナはおっかなびっくり……、サンディが閉じ込められている機械を
慎重そうに受けとった。……後は……。

「よし、モン、お前も仕事だ、……一緒にこいつらを守ってやっててくれ、
直ぐに終わらせるからさ!」

「うん、分かったモン、……おじちゃん」

「……コラああああーーっ!!」

モンはシュウ達と共にジャミル達に背中を向け、ついでにおならを落とし、
一目散に横に並んで逃げ出すのであった。

「へえ、お前、中々やるな……」

「えっへんモン!」

「たくっ!モンの野郎、口が達者になりやがって!誰に似たんだっ!!」

お前だよ、……お前……、と、言う表情でジャミルの方を見るアルベルト。
そして、丁度子供達の逃走が無事終わった後、漸く3基地バカ兄弟と
豚男が我に返った……。

「こ、この野郎……、何もかもお前の所為なのねえーーっ!!役に立たねえ
この糞豚っ!!」

「何でえ!俺の所為にするってのか!?ええーーっ!?冗談じゃねえぞ!
このエテ糞基地害野郎共め!!」

「アニキに何を言うのねえー!この豚っ!!許さんのねえー!」

「ミンチにしてやるのねえーーっ!!」

「……あてっ!?い、今後ろからぼくの頭はっとばしたの
誰なのねえーーっ!?」

「はーい、ぼく、子分Aなのねー!」

……大体こうなる事は4人も予想していたが、豚男も交え、良心の
カケラもない糞共は醜い擦り付け合いのケンカを始める。この間にと、
もうさっさとシメてしまおう、ジャミル達はそう思っていた。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 21

zoku勇者 ドラクエⅨ編 21

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-12-01

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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