zoku勇者 ドラクエⅨ編 20
カラコタ編2
「畜生!あの糞豚親父め!冗談じゃねえっ!……おい、お前ら、
暫くじっとしてろよ、俺が戻るまで……、絶対に金を持って
くるからよ……、くっ!」
「だ、駄目っ、兄者……」
「何だ!エルナ、邪魔すんな!……時間がねえんだよ!!」
少年は鼻血を出したまま、顔面血だらけの状態で、よろよろしながら
再び町の方へと向かおうとする。しかし、エルナはその手にしがみつき、
少年を必死に止めようとしたのだった。
「そんなお顔で歩き回ったら死んじゃうようー、ワチ、おっさんに
殴られても痛いの我慢するよう、だから兄者……、行っちゃ駄目だよう……」
「馬鹿野郎!ふざけてんな!お前も今此処で俺に殴られてえのか!?
ええっ!?」
「……やだ、嫌だよう……」
「俺が金を稼いで来なきゃお前、もっと酷ェ目に遭うんだぞ!
分かってんだろ、さ、我儘言うな役立たず!大人しくしてろっ!」
「にー、にー……、ちゃあ、やああ……」
「……ペケ、お前まで……」
まだちゃんと喋れない男児はペケと言うらしい。までが少年に飛び付いて
再び外出の阻止をする。少年が困り果てていたその時、3人の前に……。
「モン~……」
「あ、兄者っ!怪物っ!ちっちゃいモンスターだあっ!!」
……戻って来たモンが現れたのだった。少年は急いで身構え、懐から短刀を
出すとエルナとペケを後ろ手に庇う様に身構える。
「畜生!何でんなとこにまでっ!この野郎!近づいてみろ、……俺を
舐めるなよっ!!」
「違う、違うのモン、……モン、人間を襲ったりしないモン、信じて……」
「しゃ、喋った……?」
「……おおー?」
「もー!」
突然喋り出したモンスター、……モンに子供達はびっくり仰天。
少年も短刀を手に持ったままの状態で暫く固まっていた……。
「兄者、この子、悪い子じゃないよ、ワチには分かるよ、あはは!」
「……こらっ!エルナっ!あ、危ねえから近づくなっ!!」
「モォ~ン、モンです、初めましてモン」
モンは側に寄って来たエルナの手にすり寄る。見ていたペケもモンに
近寄るとモンの耳にぺたぺたと触るのだった。
「もーん、もーん」
「……お前、本当に俺達を襲いに来たんじゃねえのか……?それに……」
「モン、皆にごめんなさいしなくちゃで、一旦逃げたけど、又此処に
来たモン……、本当にごめんなさいモン……、……此処で焼いていた
お魚を食べたのはモンなの……、モン、お腹がとっても空いてて……、
モン……」
「……何だと……?」
「モン……」
再び少年の手が震えだした。モンはただ只管頭を下げ、少年に謝罪するしか
出来なかった。
「そうか、魚が無くなったのはテメエの仕業だったのか、ふざけんじゃねえぞ
この野郎!!」
「モン……」
モンは硬く目を瞑った。何をされても今のモンは頭を下げる事しか
出来ないのだから。だが、今にもモンに斬り掛かろうとする勢いの
少年をエルナが再び止める……。
「エルナっ!……又邪魔すんのかっ!!」
「兄者、駄目……、この子悪い子じゃないよ、お願いだからやめて……、
この子をいじめたら兄者もおっさんと同じになっちゃうよ、お願い……」
「んな甘いモンじゃねえんだよっ!……おい、お前……、人間の言葉が
理解出来るなら……、分かるだろ?人間様の住むこの世界には掟がある、
テメエのやった事はテメエで落とし前付けろ……、よう……、俺はテメエの
所為で今夜中に始末金を稼いで来なきゃならなくなったんだっ!!」
「……や、うわああーーんっ!!にー、めええーーっ!!」
等々幼いペケまでがモンを庇い大泣きし、モンを斬ろうとする少年に
必死に抗議するのだった……。
「あのね、モンは本当に何も出来ないけど……、モンのお友達なら皆を
助けてくれるかも知れないモン!ジャミルなら……」
「はあ……?ジャミル……?何処にいんだよっ!そんなモンっ!!」
「モンは此処モン?それにね、モンは甘くないモン?なめてみるモン?」
「あのな……」
最初は噴火していた少年も……、段々とモンの天然に呆れてきていた。
少年は疲れ切った様子で短刀を懐にしまい、モンの方を改めて見る。
いつの間にか少年の鼻血も止っていた。
「よく見ると……、でかくて変な顔だな、お前……、プッ……」
「シャアーーッ!!」
モンは大口を開ける。見ていたエルナはきゃっきゃと笑い出した。
ペケも……、モンを怖がる処か、ますます喜んでいる……。
「よう……、随分と楽しそうじゃねえか……、シュウ、お前、夜勤は
どうしたんだ?ええ……?お喋りタイム?おじさんを仲間はずれに
して……、おじさん悲しいよ……、しくしく」
「あ、あっ!?」
「……糞親父っ!な、何でっ!!」
「モンっ!!」
モンのお陰で雰囲気が漸く少し明るくなって来た処に……、出掛けた
筈のあの荒くれ豚男が姿を現したのだった。その場は凍り付き、ペケは
大泣きする……。
「おい、言ったろう、金……、稼いで来いとさ……、オメエ、んな所で
サボってる場合かああーーーっ!!」
「うわあーーっ!!」
「兄者ーーっ!!」
少年……、シュウに再び豚男のパンチが入り、シュウは吹っ飛ばされ
地面に……。エルナは倒れたシュウに慌てて駆け寄る……。
「ち、畜生……、ぐっ……」
「兄者……、やだ、やだようう……」
「気が変わったんだよ、だから戻って来た、……ま、どうせテメエなんかに
今夜中に10000Gなんか稼ぐのはほぼ不可能に近いからよ、仕置き
だけはきちんとしておかなきゃな、エルナ、来い……、そうだな、オメエも
一応レディの端くれだ、今回は頭部ゲンコ10回ぐらいにしといてやる……、
タンコブだらけで嘸かしお洒落な頭になるぞう~……」
「……や、いやっ!!」
「オラ、来るんだよおおおっ!!」
「やだーっ!兄者っ!怖いよーーっ!!」
「……やめろおおーーっ!!」
地面に倒れたままのシュウが必死で叫ぶが体中に走る激痛で
どうにもならず……。しかし、豚男の前にモンが……。子供達を
庇おうと立ちはだかったのだった……。
「……もう意地悪は止めるモンーーっ!!」
「……お、お前……」
「……なんだあ?おい、シュウ……、テメエいつの間に俺に内緒で
こんなくだらねえ玩具なんか買いやがったんだあ……?おいコラ……」
「ひく、だ、駄目だ……よ、モンスターさん、に、逃げて……」
「モンスターだと……?ああん?」
「モンはもう逃げないモン……、魚を黙って食べちゃったのは
モンだモン……、モン、何も出来ないけど……、でも、……だから、
モンが皆を守るモン……」
豚男は自分の目の前に立ちはだかり、必死で子供達を守ろうとするモンを
じっと見つめる。直後、ゲラゲラと大笑いするのだった……。
「な、成程……、テメエ、モンスターかあ、こいつはおもしれえや、
身を挺して人間様を守るってか、こいつはおもしれえや!あーっはっ
はっはああ!……」
「……モンーーっ!!」
「……あ、あああっ!」
しかし、モンは宙を舞い、地面に倒れた。荒くれ豚男はモンの腹にパンチを
入れたのだった。豚男は気絶しているモンの耳を掴んで無理矢理引っ張り上げた。
「……喋るモンスターか……、こいつは高く売れそうだ……、俺ってば
ついてるなあ、抵抗もしなかったしな、こ~んな金蔓が飛び込んで来るたあ
なあああっ!!ヘッへ、俺だってスライムぐれえなら軽くブチ殺せるんだ
ぜえ?おい、……シュウ君?アンタの出番よ?今度こそちゃんとお仕事
して来て頂戴な、……ねえ、君なら出来るよね……、……ねええーーっ!?
そうだよねえええーーっ!?」
「う、うううう……」
豚男はモンを掴んだまま……、ドス黒い笑みで倒れているシュウに
近寄るのだった……。
「……分かってる、おっさんの……いつもの知り合いの奴の処だろ……?」
「兄者……?」
「め、めー!?」
シュウは痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる。そして目の前の豚男を
前髪で隠れていない方の片側の目で見た。……その目は何時しか氷の様な
冷たい目へと戻っていた。
「分かってんじゃねえか、流石俺の弟子だ、丁度今夜、奴らが来る頃だ、
しっかり交渉してきな、いいお友達だからよ、嘸かし高額で買い取って
くれるだろうよ、へへへ……、場所はカラコタ橋周辺だ、そら……」
豚男は小さな布袋をシュウに手渡す。……シュウはモンが目を覚まさない様、
そっとモンの小さな身体を袋に入れた。
「……兄者!その子を売る気なの!?お願い!止めてよう!こ、この子は
ワチ達を助けようとしてくれたんだよ!?」
「めー!めー!」
「エルナ、こいつはモンスターだ、モンスターは本来の人間の敵だ、
こいつだって何時モンスターとしての本能を出すか分かんねえんだぞ、
……俺は誰も信用しない……、人懐こくたって……、それ程の知能が
あるなら人間を騙す事も充分ある、危険て事だ……、分かったらその手を
離せ、これもお前らを守る為だ……」
「だ、駄目、……きゃあう!?」
シュウを必死に引き止めようとするエルナ。だが、後ろから乱暴に
エルナの横ポニテを豚男がまた引っ張りシュウから遠ざけるのだった。
シュウは後ろを振り返らず、その場を立ち去ろうとする。
「お前はね、いいのっ!お兄ちゃんの邪魔しちゃ駄目でちゅ!俺の
晩酌の相手してね、さあ、来いっ!能無しチビ、お前もだっ!!」
「やあああ!うああーーん!!」
「兄者、兄者ー!……駄目だようううーー!!」
シュウは背中腰に聞こえて来るエルナとペケの悲鳴と泣き声を耳に
受けながら無言で早足になる。向かうは豚男の言った通り、カラコタ橋
周辺。一刻も早くこんな事は終わらせたかった。……だが、モンが中に
入った布袋を掴んだその手は恐怖と後悔の念で震え始めていた。
(……畜生、何が俺達を守るだよ、何も出来ねえ低俗モンスターの癖に……、
ふざけやがって……)
その後、ボロ小屋に無理矢理連れ込まれたエルナは泣きながらも
豚男の晩酌の相手を只管させられ、……ペケは既に泣き疲れて
眠ってしまっていた。
「ひっく、ひっく……」
「へふふう~、ゲフ、うい~、一時はあの糞ガキのお陰で気分最悪様々よ、
しかし、今の俺はさいっこ~にご機嫌でしゅ、でもお~、今はもうご機嫌
るんるんでしゅう~、なぜならあ~、お金が入るから……、なので……、
ぐおおおおーーー!!」
酒を鱈腹飲んだ豚男もたるんだ腹をさらけ出し、上機嫌で眠ってしまう。
そのだらしない姿を目の当たりにしたエルナの脳裏にモンの言葉と
ある考えが浮かんだのだった。
「モンのお友達なら皆を助けてくれるかも知れないモン!
……ジャミルなら……」
「今なら……、もしかしたら……、でも……」
エルナは眠っているペケと豚男を交互に見比べる。自分が今しようと
している事、チャンスは豚男が眠っている今しかない。もしかしたら
モンを救えるかもしれない、神様が与えてくれた時間なのだと。そう
思った。エルナは眠っているペケの小さな身体にそっと触れた。
「……ごめんね、ペケ、ワチ、行ってくるよ、このままあのモンスターさん
ほっとけないの、兄者にも悲しい顔して欲しくないの……、でも、絶対戻って
来るからね……」
エルナは急いで暗い外へと飛び出す。裸足のままで。……暗い夜道を
町目指して走るその足には道端に錯乱するガラスが刺さり、小石が
彼方此方踵にぶつかり既に血が滲んでいた。
「ひっく……、兄者、駄目……、駄目だよう……」
シュウもエルナもペケも皆、親のいない孤児だった。人買いを通じて、
彼、彼女らは豚男に売られた身であり、出会って一緒に生活を共に
する様になった。豚男にいつも脅され何処かの旅人達から金を
盗んでくるシュウの目はいつも何処か悲しそうな目をしていた。
……仕事に失敗すれば殴られ、傷だらけで蹴られて戻って来る。
そして豚男にも暴力を振るわれる。自分も早く仕事を覚えろと
豚男から脅されていたが、エルナにはまだ早い、俺が当分頑張る
からといつも豚男の手から悪い事をさせるのを阻止して守って
くれていた。……そしてまた悪い事に手を染めようとしている。
……自分達を守る為……。必死で走るエルナの目から涙が滲んだ。
心の傷。……それは足の痛みなんかよりも数倍辛かった……。
「ハア……、だ、駄目……、もう走れな……、でもっ、ワチが
頑張んないとっ!」
走っていて息が切れ、途中で立ち止まってしまう。しかし、走るのを
やめる訳にはいかない。モンが言っていたジャミルと言う名前……、
エルナは会った事も見た事も無い。けれど、モンの友達だと言う
その人物も今頃モンを町で探し回っているかも知れない。エルナは
只管、その人に会える奇跡を信じ、町までもう一踏ん張り走って
行った……。
……その頃、アルベルトはまだ独り、ジャミル達との合流を拒否し、
最初の場所……、カラコタ橋の中央に佇んでいた……。
「やっぱり……、もう皆の処に戻った方がいいかも知れないな……」
橋の中央から下の集落の景色を見つめ、大きく息を吐く。……一体何故
こんなに苛々しているのか自分でも分からなくなり混乱していた。此処は
その日暮らしの罪人達の溜まり場所。賭け事や盗み、この集落の人々は
日々を皆悪事に手を染めて生きている。そういった人達を許す事が
出来ないのか、それとも……。色々考えているとアルベルトを再び
頭痛が襲った。
「アニキー、アニキのお友達は今日は一体何を持ってきてくれるのねー?」
「……誰か来る……?」
「さあ~、わからんのねー、何でもいいのねー、ぼくら今回は危険な
実験に使えるもんなら何でも買い取る闇営業さんなのねー!」
「お見積もりわっしょいしょいなのねー!」
「……は、はあ?でも、この声……、何処かで……」
暗くて良く分からないが、確かに橋の向こう側から変な声がし、数名が
此方に近づいて来ていた。しかし、アルベルトの頭にはその聞こえてきた
声に微かに聞いた事がある様な危険な感じを覚えていた……。
「……お前達はっ!?」
アルベルトの方に向かって橋を歩いて来た同じ顔の変な3人組。
……カネネーノネー基地害3兄弟である。事ある事にどの
シリーズでも段々現れる様になり、4人組の妨害をしてくる
最悪のクズ共の一部類。
「よう、金髪、久しぶり~、なのね~!」
「今回も出てやったのね、ほれほれ~!」
「今回はね、ぼくら危険物を買い取るお偉いさんなのね、だから
カネネーノーネーじゃないのねー!……カネアルノネー3兄弟様と
お呼び!なのね!」
「どっちでもいいっ!そんな事っ!お前達っ、今回は一体何の
悪巧みなんだっ!!」
アルベルトは鉄の剣を取り出すと身構える。……その姿を見た基地害
バカ3兄弟は同じ変な顔を見合わせ首を傾げるのだった。
「お前、前々回共バランスサポート系だったみたいだけど、今回は
戦士みたいなのね?」
「……気が狂ったのね?」
「亀みたいな糞がまあ、無理しちゃって……、なのね~」
「……うるさいっ!僕だって日々修行してるんだっ!覚悟しろ
この基地害共っ!!」
「それはこっちの台詞なのね!……それにお前、いつも連んでる
バカな仲間が一緒にいないみたいなのね?」
「う、ううっ、だからそんな事お前達には関係ないって言ってるんだ!
いちいちうるさいなっ!!」
アルベルトはどんどこ突っ込んで来るバカ兄弟のカシラに
苛々を募らせた……。
「アニキ、こいつきっと、余りにもトロすぎで遂にパーティ
解雇されたのねー!」
「オー、不況の波がこんなとこにまで押し寄せているのねー!
リストーラ!」
ぶちっ……
アルベルト、遂に腹黒モードになり、スリッパを取り出す……。
「あ、やれるモンならア~!」
「やってみやがれェてやんでぃ!」
「なのねえ~!!」
タン、タン、タン、タタン……
「……」
基地害3兄弟は3人並んで橋の中央に立つと、カシラを間に挟み、
片手を前に突き出す歌舞伎のポーズを取る。だが、3基地は、
タンタンタンと、見得のポーズのまま、そのまま3人横に並んで
片足を上げたまま、跳ねながら横に移動、……橋から揃って転落した。
「アーーーーーーーーーーー!?」
「……な、一体何だったんだ?」
アルベルトは再び橋の下を覗き込む。……墜落した3基地は
そのまま川に流されて行ったらしい。
「よう、……アンタがおっさんの知り合いの……密売人かい?」
「えっ……?」
再びアルベルトに声が掛かる。ぼーっとしていたアルベルトは慌てて
我に返るが、振り向くと其処に立っていたのは……。
「君は……?」
「……こ、こいつ……、違う……?」
……漸くカラコタ橋に到着したシュウであった。しかし、シュウは
アルベルトの顔を見て違和感を覚えた。……何かが違うと……。
暗闇でもほのかな光を放つ金髪の髪。真面目でいかにもな清潔そうな
顔立ち。とてもあの豚親父の知り合いとは思えなかった。シュウは
豚男に汚い知り合いがいるというのは以前から聞いていたが、今回、
初めてシュウが単独で、闇取引に強制的に駆り出された。だから、
先程橋から転落した基地害兄弟の顔も知る筈がなかった。
「ねえ、君は一体誰なんだい?それに僕が密売人て……」
シュウは動揺し、手に再び汗が滲み出す。完全に人違いだった。
……彼が手にしている袋の中にまさか、探しているモンが入って
いるなどと、アルベルトは気づく筈もなく……。
「……人違いだっ!じゃあ!」
「……待てっ!」
アルベルトも不審に思い、慌てて逃げようとしたシュウの片手を
思い切り掴んだ。シュウは慌ててその手を振り払おうとするのだが……。
「は、離せっ!……畜生!ああっ!?」
「!?」
シュウは焦って手にしていた袋を地面に落とす。……衝撃で袋の中に
閉じ込められていたモンの頭部が少しだけ姿を現す……。
「……モンっ!!」
アルベルトは慌ててモンが入った袋を拾おうとする。しかし、アルベルト
よりも素早く、シュウがさっと袋を拾い回収する……。
「困るんだよ、こいつは大事なカネヅルだ、渡さねえぞ……」
「き、君が……モンを誘拐したのかっ!?」
「そうだよ、わりィか?ふ~ん、こいつはお前の知り合いか、けど、
俺も商売なんでね、上からの命令でさ、こいつをある奴に届けなくちゃ
なんねえのさ、金の為に……」
シュウは再びモンの身体を袋に押し込むとそのまま背中に背負う。
そして懐から短刀を抜くと、矛先をアルベルトへと向けた……。
「兄ちゃん、このまま大人しく黙って帰るなら許してやってもいいぜ?
怪我したくねえだろ?」
「……ふざけるな、モンは探していた僕達の大切な仲間だ、
……返して貰う……」
アルベルトも鉄の剣を持ち直すと胸の前で構える。その姿にシュウは
バカにした様に鼻を鳴らす。
「こんな奴……、何の価値もねえ、クズのモンスターじゃねえか、
庇う必要あるのかい?」
「君に分かるもんか!……分かって欲しくもない、とにかくモンは
絶対に返して貰うよ……」
アルベルトの言葉に……、シュウはモンが身を挺して豚男から皆を
守ろうとしてくれたのを思い出す。……あんな小さな身体で必死に……。
(分かってる、分かってんだよ、……一番クズなのは俺なんだ、でも
俺が此処で手ぶらで帰りゃ……、又エルナ達が酷ェ目に遭っちまうんだよ!!)
「……ウォォォーーッ!!」
「ぐっ、……は、速い!?」
シュウは短刀を構えたまま素早い動きでアルベルトに突っ込む。
アルベルトは何とか剣先でシュウの攻撃をガードするが、
……かなり押されていた……。
「く、くそっ……」
「どうだい……?ガキだと思って舐めて貰っちゃ困るんだよ、
俺だってアサシンの端くれさ……」
シュウの短刀は等々アルベルトの喉元まで矛先が迫っていた。しかし、
アルベルトも負けてはおらず反撃に出る。アルベルトは怒りに身を任せ、
敵を攻める事ばかりに気を取られ、防御は完全無防備でまだ未熟な
浅知恵のシュウの下半身を足で思い切り蹴り飛ばした。
「……ぐううっ!?……ち、畜生っ!!」
「甘いよっ!」
「い、嫌だ……、負けねえっ!何がなんでもっ!……エルナ、ペケ!
俺が絶対にお前らを守るっ!!」
「仕方が無い、少し落ち着いて貰うよ……」
アルベルトは剣を柄の方に持ち換えると、そのまま勢いよく
シュウの腹に柄を叩き込む。……シュウはゆっくりと……、
意識を失いながらその場に倒れた……。
「……ペケ……、エ……ルナ……、嫌……だ……、ちく……しょ……う」
そして、ジャミル達の方は。アルベルトが待ち合わせ場所に指定した
宿屋らしき建物がある場所に一度戻る事にしたのだが……。一向に
アルベルトが戻って来る気配は無かった。
「アルの野郎……マジで何してんだよ……」
「ねえ、アルは……、オイラ達と一緒に行くの完全に嫌になっちゃった……、
のかなあ……、もしかしたらもう、1人で先に……」
「バカねえ、どうしてそうすぐ悲観するのよ、アルがそんな事する訳
ないでしょ!」
「オイラのクセだもん……、どうしたって昔からこうなんだよお、
ほっといて……」
いつもの如く悪い方向にと悲観を始めたダウドをアイシャが注意。しかし、
彼女も本心では段々不安が増して来ていた。……モンの状況も3人は
まだ全く知らないのである。
「はあ……、どいつもこいつも……、ん?」
「まーたあの、汚いムスメッコだよ、嫌だねえ……、一体今日は
何の騒ぎだい……」
「最近この集落に変な男と越して来て川縁の空き家に住んでる子だろ?
気が悪いったらありゃしないよ……」
ジャミル達の目の前をおばさん達がべっちゃらべっちゃら喋りながら
通過して行った。
「何かあったのかしら……」
「……」
「……ジャミルさーん!あのっ、ジャミルさんと言う方はいませんかーっ!?
も、もし、まだこの町にいたらお返事してくださーーいっ!!」
「……い、いいいいっ!?」
突如、いきなり自分の名前を呼ぶ甲高い声が聞こえて来た。一体何が
起きたのか分からずジャミルは慌てだす……。
「ねえ、ジャミル……、また何かやったでしょ……」
「今度は何なのよ……」
ダウドとアイシャはジャミ公をジト目で見る。ジャミ公は再び慌てだし、
必死で否定。
「アホっ!俺ら今日此処に来たばっかだぞっ!第一、今日は俺とお前ら
ずっと一緒に行動してたろがよ!」
「……ん~、そう言えばそうねえ……」
「いつも言ってるけど、普段が普段だから疑われるんだよお~……」
「そりゃそうで……って、やかましいわっ!!」
「あいたあーーっ!!」
「……やめなさいったらっ!!」
ど付き合いを始めてしまうバカ2人。……と、其処に……、1人の少女が
フラフラと……、此方に向かって歩いてくるのが見えた。だが、うっすらと
街灯の明かりで見えた少女の容姿は凄まじかった。縛ってあるポニテは
既に解け、顔は真っ黒、服はボロボロ、……裸足の足は血まみれだった……。
「ハア、ハア……、も、もう……」
「ジャミル……、あの子大変だわ!」
(うっわ!……ま、まるで、世界ナントカゲキジョーの世界じゃネ!?)
「……ジャミル……?も、もしかして……、おにい……さ……ん……」
少女……、エルナは立ち眩みを起こし、そのまま地面に倒れる。ジャミル達は
慌てて倒れたエルナへと駆け寄るのだった……。
「大丈夫かっ!……おーいっ!?」
……エルナは夢を見ていた。久しぶりに夢に出て来た母に抱かれていた。
もう逢えない筈の母。温かい腕で自分を抱いてくれていた。
「おかあさん……、いかないで……、……?」
「大丈夫……?」
「ふぇ!?」
目を覚ましたエルナは慌てる。……倒れた自分を全く知らない
お姉さんが抱いて介抱してくれていたのである。ふわふわで甘い
優しい良い匂い。だが……。
「え、ええええ!?あ、あの、ごめんなさいっ!わ、ワチ、こんなに汚いのにっ!
……本当にごめんなさいっ!!」
倒れたエルナを抱いて介抱してくれたのはアイシャであった。しかし、
身なりの汚い自分を抱いたりなんかしたら、迷惑を掛けてしまう、
エルナは慌ててアイシャから離れた。ふと、ある事に気づく。……足の
痛みがいつのまにか治っており、キズも無かった……。
「……ど、どうして……?ワチ……」
「うん、ベホイミ効いたみたいだねえ、良かった!」
「……え、えーと、あのう……」
エルナは何が起きているのか分からずしどろもどろになるが、
ダウドは笑って、いいよ、もう少し座ってなよと、立っている
エルナに声を掛ける。
「このお兄ちゃん、ダウドは回復魔法が使えるのよ、あなたの足、
とっても痛そうだったわ、でも、治って良かったわね!」
「うん!」
アイシャとダウドは顔を見合わせて笑う。……一体何故、見ず知らずの
こんな汚い身なりの自分を平気で助けてくれるのか……、両親が死に
孤児となり、あの豚男に売られてから……、毎日泣かない日は無かった。
だが、何だか今までと違う嬉しい何かが心に込み上げて来て、エルナは
又泣き始めた……。
「うわああーーん!わち、ワチ、こんなに優しくされたの始めてだようー!
あーーんっ!!」
ジャミルは泣き出したエルナを見て、ダウドとアイシャに目で合図する。
……落ち着くまでもう少し見守ってやろうやと言う合図である。
「そうね……、ね?落ち着いたらお姉ちゃん達にお話ししてね?力に
なれるかも知れないから……」
「うん……、ひっく……」
やがてエルナの嗚咽も収まり、そろそろ話が聞けそうかなと
ジャミルは思い、エルナに尋ねてみる。
「あのさ、さっき俺の名前……、呼んでたの、嬢ちゃんかい?」
「はい、あの……、お兄さんはモンちゃんのお友達の……、
ジャミルさん……?お間違いないですか?ワチ、エルナって
言うの……」
「ああ、俺は確かにモンの……、って!もしかして、モンの居場所を
知ってるのか!?」
「……えええっ!?」
横で会話を聞いていたアイシャとダウドも騒然。まさかこの少女から
モンの名前を聞けるとは……、夢にも思っていなかった。
「ああ、やっぱり……、良かった、会えたんだ、……モンちゃんの
お友達のジャミルさんに……、神様……、有り難うございます……」
奇跡の出会いにエルナは再び涙を零す。エルナは自分の身の上、そして、
モンに起きた事、……全てをジャミル達に伝えるのだった……。
「そうか……、エルナ達はそのクズ男に……、モンの奴も
捕まっちまったのか、絶対許せねえな、その糞男はよ……」
「そんな悪い人は恒例のお仕置きが必要よ、ジャミルっ!モンちゃんを
助けたら皆で懲らしめに行きましょう!!」
「行こうよ、モンを助けにさあ!……モンに酷い事して……、
許せないよお!!」
「ああ、シメてくれるわっ!……どんな奴か知らねえけどよ、
まずはモンを助けにいかなきゃな、手遅れにならねえウチに……」
(はあ~、ま、しょうがないっしょ、ジャミル、どーしよーもねー、
デブ座布団助けに行こっか!)
「ああ!サンディ!」
「み、みなさん、ありがとう……、おっさん……、親方の取引相手は今夜、
カラコタ橋に来る筈なの、お願い、どうか兄者を止めて……、本当は
兄者だってこんな事したくないんだ、悪い事だって分かってるんだ、
でも、ワチ達を守る為に……」
「任せとけ!絶対に助けてみせるさ、モンもお前の兄さん達もな!」
「あ、あはっ、……うんっ!!」
エルナの目に再び涙が滲む。やはり、モンの言った事は間違っていなかった。
……この日、エルナにとって初めての嬉し泣きをした日になった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 20