五階の愛人

五階の愛人

向かいの棟の同じ五階に誰がいる?

五階の愛人

 何時頃から気が付いたのか・・ははっきりしない。

 私は、一号棟の五階がマイホーム。
 ベランダに出れば・・真正面に見えるのが三号棟。
 中でも、五階は同じ高さだから目に入りやすい。
 この辺り・・建物は数えきれない程立ち並んでいるのだから、他の建物や住民に付き、特段の関心もない。
 しかし・・或る時の事。

 階段をゆっくりと降りてくる若い女性の姿が目に入った。
 二十代後半から三十そこそこで、スタイルが良く、遠目にも器量の良さが窺えた。
 それだけなら。。このお話は終わりになる。
 私の記憶では、以前、どこかで見た事がある女性のような気がした。
 ただそれだけなのだが、何か特別な印象が残った。
 二つの部屋は、同じ造りで間取りは2DK。
 私のように一人住まいだったり、夫婦や子供がいたりと、住民の人数まで数える意味は無い。
 確か、金曜の夕刻、陽もすっかり落ちたころ。
 一台の真っ白なワゴン車が、何処からともなく走ってくると、運転をしていた中年の男性が車を駐車場に止め、一旦、あの部屋の辺りの灯りが転倒しているかを確認してから、階段を上がっていった。
 手慣れた行動のようにも思えたし、きっと家族なのだろう、など。
 それから毎週、金曜の夕刻に男の姿が見られ・・その繰りかえし・・、やはり家族なのか?年齢からすれば、女性より一回り以上上のようだから、きっと兄弟なのかも知れず。


 或る日、あの部屋の集合ポストが何か気になり・・ポストには名前が苗字のみ二文字、失礼かと思ったのだが・・つい、施錠がされていないドアポストを開けていた。
 子供か近頃の若者が良くやるような・・花文字のシールが貼ってある。
 まあ、今の世代は幼稚だし漫画やアニメ好きは常識。
 あの兄と思われる男も気にする様子もなく・・どうでも良いのだろう。
 ただ、少しおかしなことに気が付く。
 用もなく、散歩がてらのついでに、あの部屋の反対側のベランダを眺め・・物干し竿は一本も鳴く、地さな雑巾のような布だけが干されている。

 その後も何回か同じようにベランダを・・。
 何も干していない日ばかり・・。
 通常は、何人かで生活をしていれば、いや、一人者でも偶には洗濯位するだろうに・・次第に、彼是と・・考察を巡らすようになる。
 そして、やはり、あの男・・おかしくないだろうか・・?
 或る日、散歩の際、あの部屋のベランダの下を通った。
 何と・・ベランダの手すりにもたれるようにしながら、遥か彼方の空でも見るような姿・・煙草をゆっくり吸っては・・考え事でも・・。
 決して、その表情に隙は無い、つあり、男は無心に考え事をしたかったのかも知れない。
 

 そうしてみると・・やはり・・男女は愛人・・?

 
 それから暫くし・・白いワゴンは相も変わらず通ってきている・・のかどうかの関心は失せていた・・他人の事に過ぎない。


 女性が未だにあの部屋に住んでいるのかは分からないが、おそらくは、状況は変わったのかも知れず・・。

 あの年頃の女性を囲うには・・相当の費用がいるだろうし・・それだけの風貌には見えなかった・・あの男・・大変なんだろうか・・。


 ただ、一つ、女性にだけは変化があったようだ。

 

 彼女は、現在、私と共に暮らしている・・と言ってしまえば語弊がある・・。

 私は、金銭的には不自由をしていない・・だから、生活費には事欠かない。

 人類というモノは・・案外、わからないもの・・と思ったりもする。


 え?


 彼女?


 あの部屋に住んではいるのだが・・私は、よく知らない、が、何人かの男たちが入れ代わり立ち代わり出入りをしているようにも見受けられる。


 
 私?



 何も関心は無いし、自らの部屋代を支払っているだけだ。

 

 そう言ってしまうと・・非常に不可思議なのだが、偶に・・彼女は、私に夕食をこさえに来てくれたりする。

 
 いや、勿論・・材料費は私が彼女に渡すのだが・・。

 
 更に・・彼女、葵陵良しは兎も角も・・何故か、未だに、私の部屋に来ては、夕食をこさえてくれたり、日によっては、一晩泊まっていく事もある。


 愛人の筈の彼女が・・何が面白くて・・?



 人類は、思ったより・・愛人という言葉を失念しているのかも・・。

 一つ、私は、彼女の部屋のベランダに洗濯物が干してあるのを見たことは無い。

 更には・・彼女のパジャマ姿は、兎も角も・・下着がどうとか・・など・・とんと関心はない。

 しかし、見たことは無いが、ひょっとしたら・・下着の柄は、あのポストのような・・花柄、確か、真っ赤な苺のような、花というか・・瑞々しく輝いている・・苺・・。

 しかし・・この時期、何処の店に行っても、苺などを見つけることは出来ない。

 一瞬、Moscowの、場末のスーパーで葡萄と素晴らしい苺を購入し、ホテルに持ち帰り、顔見知りの子供の用に愛想の良い若い女性に土産として渡したことがあったが・・女性は言葉が通じないから・・私が自ら食するが為に購入してきたと思ったようで・・洗ってから食器に盛りつけてくれた。
 私は・・ビールのツマにと・・頬張り、たまらなく美味しく感じられたことを思い出す事が出来た。


 ひょっとしたら・・青い惑星の空間など・・会って、無いようなモノなのかも知れず・・。
 
  
 

五階の愛人

人類は・・案外・・単純なようで・・少しだけ剽軽なのかも知れない。

五階の愛人

向かいの部屋の住民に関心があるようになった。 そして・・何のことは無い・・何も無かったようなモノ・・。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-10-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted