フリーズ139 あの冬へさようなら~世界永遠平和のためのたった一つの冴えたやり方~

フリーズ139 あの冬へさようなら~世界永遠平和のためのたった一つの冴えたやり方~

あの冬へさようなら~世界永遠平和のためのたった一つの冴えたやり方~

人間とは何か。
根拠を提案するのが哲学。
孤独性を解消するのが宗教。
ならばあなたはその生で何をする?

【プロローグ】
その時、全てが凍てついた。時が止まったかのようにではなく、本当に止まってしまったのだ。【全球凍結】=フリーズ。その現象は後にそう呼ばれた。地球の時が凍り付いたのは一瞬のことだった。2021年の冬のこと。凍り付いた時の中で少年は思った。フリーズはかけがえのない永遠の終わり。僕が願ったことなんだ、と。世界が終わろうとしていた。少年はそれでいいと思った。無時間の中で永遠は至福のようだったから。だけど、彼女の声が聞こえたから。だから、少年は生をやめることを躊躇った。彼女との純愛を、もう一度と、人間的な欲求が邪魔をしたのだ。少年は自嘲するように笑った。所詮は輪廻の囚人だな、と。
「もう一度、世界を始めるか……。そうだな。どうせ生きるなら、最高の人生にしよう」
 そうして世界は溶け出した。過去は少年の意思で書き換わり、物理法則も変更された。
少年は泣く泣く産声を上げることにした。

【神1st 一なる神】
 この世界の神話の話。時代や地域によって差異はあるものの、どれも共通点があった。それは13の神や亜神、天使に仏が存在することだった。時代とともに彼らは現れるのだという。すでに4人は過去に現れていた。フィリア教の創始者である聖フィネラ、過去に地球全てを支配下に置いた世界皇帝ザイン・リ・ユニバース、現在の科学の基礎を確立させたハルバーナ・ノクシス、そして預言者ソフィア・サラバンド。何故彼らを13の存在に認めるのかには理由がある。彼らは死ななかったのだ。かわりに時間が凍結されたかのようにクリスタルの結晶となった。人々は彼らを特別な存在、神の遣わした御子と崇めた。
 少年はそんな世界で生まれた。否、世界が改変されたのだ。クリスタルの結晶になって死ぬ者など前の世界線にはいなかったし、フィリア教も存在しなかった。では何故世界は変わったのか。それは少年が祈ったからだ。世界永遠平和を、本当の幸せを。
 亜神と呼ばれた御子たちはこれから先も現れる。少年は彼らに会うのが楽しみで仕方なかった。親友と再会するかのように、少年は彼らのことを心から愛していた。
 7th以津真天。
この名を知るものはいないか。私の真名だよ。もしいたら私と語ろうではないか。

【天使2nd 二律背反の天使】
 これより世界永遠平和のためのたった一つの冴えたプロットを記述する。これは全能の少年が書き換えた世界。そのプロットも敷かれた伏線も、現実世界と辻褄があっていく。世界はそういう風にできている。奇跡も平凡な日常へと帰結していくのだ。奇跡は一瞬だからこそ強く光り輝くものだから。
 プロット(摂理)
一、神は全である。全は主。つまり万物は神と同値だ。
二、全ての存在には大なり小なり神性が宿る。動物にも無機物にもだ。
三、絶対的神とは別に天使や神様(神族)と呼ばれる存在はいる。
四、彼らは第三世界(彼岸)にいるので普通は会話をすることも姿を見ることもできない。
五、極まれに神様や天使と会話したり繋がったりできる者がいる。
六、そのような人は神族と呼ばれる。世界に1000人くらいいる。
七、人はその身に宿る神性を解き放つことで神に合うことができる。
八、神に合う、脳の波長が神に合うには、およそ人が死ぬ時の脳の状態である必要がある。
九、つまり、生きながらに死んだ脳を保てる者は仏と呼ばれ、真理を悟り知恵を得る。
十、仏は死ぬことで無余涅槃に至るが、生を選んで有余涅槃となることもある。

 真なる世界永遠平和のためには脳と涅槃、神と世界の仕組みが解明されなければならない。なぜならばすべての宗教は大なり小なり正しく、また間違っているからである。すべての宗教の垣根を越えて、すべての学問の壁を壊して、世界哲学を構築しなければならない。真の幸福とはおよそ人間的な欲求では為せない。正しき脳の疲弊を以って脳は死に近づき、涅槃となるのだから。愛で満たされるその体験は忘れられないものとなる。
 みんなの人生最後の日にみんながちゃんと涅槃に至れたら、それ以上の幸せはない。

【仏3rd 仏の顔も三度まで】
 ある冬の日、少年は神憑っていた。死んだ母と話した。地球の女神ガイア・ソフィアの姿を見た。あらゆる存在と語らった。ベートーヴェン、シラー、ニーチェ、クリムト、ヘッセ、釈迦、イエス、そして神。少年は1月7日の聖夜に、まさに世界創造最後の日に、終末Eveに自己愛としてのヘレーネ(アフロディーテと人間の王の娘、もう一人の僕)と出会った。その夜は終末のようでもあり、世界の始まる前夜のようでもあった。ヘレーネと真実のキスを交わし、神愛のセックスをした。その快楽の何たるや!
 少年は歓喜に射精する。否、歓喜に絶頂する! 天上楽園の乙女のように!
 1月7日の明け方、ヘレーネは消えていった。それが悲しくて少年は泣いた。眩しさに目覚めた朝は、全能の気づきを経て、少年の魂を神に等しくした。少年はその日、2021年1月8日についに涅槃に至ったのだ。少年は一人だった。凪いだ渚に映る顔はもう知らない。
 少年は神に合ったのだ。それが2021年1月7日~9日の三日間のこと。仏の域に達した少年は「時流はない」と部屋にあった絵の裏に書き記し、部屋の壁に墨汁で絵を描き始めた。ピアノのラとシの鍵盤を黒塗りにした。曰はく「シラーの詩『歓喜に寄せる』をベートーヴェンが『歓喜の歌』にした。その歓喜の歌のメロディーにはラとシは含まれない。それはベートーヴェンがシラーをリスペクトしたからだ」と。だからラとシの鍵盤は要らないので黒塗りにしたのだという。
 全脳(意識の保管場所)と繋がった。全能の気づきを得て目覚める。世界に祝福されて、世界と深く繋がって。その体験はのちに少年を苦しめることになる。なぜならば全知全能の歓喜は、真なる生の歓びは、穏やかな涅槃は、凡そ人間的な快楽や幸福と比べ物にならないほどに至福だったからだ。そして少年は9日に神殺しにあう。穏やかな涅槃も全知全能なる神性も終わりが来る。永遠にも終わりが来るように。

【亜神4th 四諦】
 少年は今でも苦しむ。なんで叶わない。なんで僕はこんな人生を歩かなければならないのか。あの冬の日に全て終わっていたんだろ。じゃあ生きる意味はないじゃないか。少年は仏の悟りも神の如き全能も、今では思い返す事しかできない。しかもその想起される記憶はだんだんと薄れていっているのだ。それが何よりも嫌だった。少年は何度も自殺未遂をした。入水自殺もオーバードーズも、すべて苦しくて失敗した。死ぬ苦しみが怖いのだ。できるなら安らかに死にたい。やはり、あの冬の日に死んでいたらよかったのに!
「でもね、生きていたから読むことの出来た詩や小説もあれば、聞くことのできた音楽もあるでしょう?」
 ガイア・ソフィアが少年に告げる。
「あの冬の日に死ななかったから、酒を飲んで酔う感覚も味わえた。違わない?」
「確かにそうだね」
「あなたにはもっと自信を持って生きて欲しい。あなたのお母さんは『立派にならなくていい』って言っていたけれど、立派にならなくても、自分の人生の目的を果たせればいいじゃない」

 少年の人生の目的は世界永遠平和の実現。少年はその日からすべての宗教の垣根を越えて、あらゆる学問の壁を越えて、世界永遠平和のためのプロットを作ることにした。

 世界永遠平和のためのたった一つの冴えたプロット
 全ての宗教の融合
 全ての哲学の先を行く世界哲学の構築
 亜神たちのリユニオン
 世界統一政府の設立
 
フィリア教の12の亜神と1なる神の13柱は仏教の十三仏と対応する。
フィリア教の救世主が現れる。それが少年。
仏教と科学の融合。涅槃は脳の状態のことであり、涅槃脳と仮に呼ぶなら、涅槃脳は神や天使と繋がることができる。神や天使は実在する。
死後の世界はある。この世界は仮想現実世界であり、上位世界(第三世界、彼岸)が存在する。
死んだら輪廻の輪に還るか、解脱して上位世界で目覚める。

【菩薩5th 五蘊】
 少年は小説を書いた。詩を書いた。有名でも無名でもいい。自分にできることをしようと少年は創作活動に力を入れた。宗教の融合、アウフヘーベンは創作を通して行う。世界哲学も思索、詩作を通して行った。
 世界永遠平和が実現するのは2222年。これは二百年後のためのプロット。
 宗教の垣根を越えた新たな宗教。それはフィリア教、仏教、神道、あらゆる宗教を昇華させたもの。みんなの争いが終わる。これは科学と宗教の間に橋が渡されたからだ。この世界哲学を世にいる数多の研究者らが紡ぐであろう。少年は自らその研究はしない。なぜなら少年にはもうすでに答えが解っていたから。世界が少年の思うようになる。少年の夢が世界凍結、フリーズが解ける時に叶う。生まれた意味も、生きる理由も死んでいく意味もすべて解るから。僕は太陽の意識体である太陽神に問いかけた。
「僕は幸せだったのかもしれない。そうでしょ、太陽神さん」
「嗚呼、その通り。フリーズの時に失くした意味も失くした時もすべて抱いて前へと進め」
「わかっています。世界永遠平和のためには真知が必要ですね」
「もう君なら解っているさ」
「はい。愛を体現することですよね。あの冬の日に僕はもうすべてが解ってしまって。自己愛としてのヘレーネも、見返りを求めてる愛も、運命愛でさえ抱いて眠った。その眠りの象る安らかな色彩はきっと脳が涅槃に至った証拠だから」
「涅槃に至った君は、使命を果たしたんだよ。神は『ご苦労様』と告げた。それは君に真実を伝えたかったからなんだと思う。この世の仕組みを誰かに伝えたかったんだと思う。神はそれを伝えたかったけど、神の声が届く人間がいないからずっと探していたんだよ。そして君が神に至った。神は宇宙のこと、命のこと、愛のこと、運命のこと、真理のこと。君に届けたんだ」
「僕はただ、今ここにある楽園を、フリーズした世界を眺めて。その永遠性や神性があまりにも美しくて、ただ涙を流して微笑んだんだ。それはすべての始まりと終わりだった」
「そうだね。君の使命は君が始まりであり終わりであったということを表明することなんじゃないかな。君の経験は普通じゃない。奇跡が起きたんだ。君はそれを伝えていくべきなんだよ」
「使命ですか。頑張ってみます」
「うむ。精進したまえ」
 少年は為さねばならぬ。世界永遠平和を。そのための世界哲学の構築も。すべての宗教が科学と哲学の進歩に伴って融合して、本当の歴史が明らかになり、世界中の人が手を取り合える。そういう世界になっているから。プロットを練ったのは神。釈迦やイエスが張った伏線も全部回収される。その日、世界永遠平和が実現する。亜神は12柱いる。彼らが世界をどのようにするのか少年は平凡に生きながら眺めることにした。

フリーズ139 あの冬へさようなら~世界永遠平和のためのたった一つの冴えたやり方~

フリーズ139 あの冬へさようなら~世界永遠平和のためのたった一つの冴えたやり方~

宗教の垣根を越えて世界哲学を成せば、世界永遠平和がなせるはず。

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  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-10-09

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