『金魚すくい』

逃げて捕らえられて
また逃げて、チャポン


『金魚すくい』


去年のあの子はダサい赤
だから今年のアタシは紺
肌蹴た襟元が下品で羨ましくて
去年は渋々あの子にあげたのよ

好きとも言ってくれない人と
聞いてるから安心して紅を差す
ちゃんと逃げ道がないと
色々と不安だってあるでしょ

神社の裏は明かりも届かない
アタシがどんな表情だったかなんて
見えてるはずがないんだから
勿論こっちからも何も見えない

知らない人とキスをして
知らない人に肌蹴させられて
目を閉じればあの子の兵児帯
赤い金魚を捕まえたかっただけよ

下手すぎて笑われるほどだった
すくえた試しがないのに
毎年懲りずに追いかけてしまう
下品で可愛くて大嫌いで大好きだから

帰り道には気をつけて
乱れた髪を整えながら言うと
きょとんとした顔でこっちを見る君
別に含みはないから大丈夫よ

夜店が立ち並ぶ参道を走り抜け
今年も金魚はすくえなかったと
人知れず涙目になった頃
あの子は見知らぬ誰かの腕の中



「アタシは誰かの金魚になれましたか」

『金魚すくい』

『金魚すくい』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-08-18

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