還暦夫婦のバイクライフ34

ジニー&リン、毎年恒例のモネの庭詣でに行く

 ジニーは夫、リンは妻の、共に還暦を越えた夫婦である。
7月に入りしばらく梅雨空だったが、週末には早くも梅雨明けかというような晴天が始まった。
「ジニー、モネの庭の青い睡蓮の花が開花したって」
「そうなん、今頃だっけ?」
「少し遅いような気もするけど、確か去年も炎天下に見に行った気がする」
と言いながら、リンは写真のフォルダをめくってゆく。
「あ~全然違った。去年は4月23日に行ってた。何しに行ったんだろう」
「さあ?」
「まあいいや。せっかく思いついたから、明日行かない?」
「かまんけど、暑いぜ」
「夏は暑いものよ」
ということで、7月7日は高知県北川村のモネの庭に行くこととなった。
 7月7日朝5時30分、目覚ましの音でジニーは目を覚ます。しばらく体を伸ばしたり足を屈伸してからベッドを抜けだす。台所に行き、コーヒーを淹れる。先日コーヒーメーカーが壊れてしまったので、お湯を沸かしてドリップで落とす。それから洗面所に行き、洗濯機を確認するとエラーが点灯して止まっていた。バランスが悪いと、脱水の際にエラーが点くのだ。一度扉を開け、中の洗濯物の位置を変えてから運転スイッチを押す。
「なんてこった。少しでも早く出たいのに」
ジニーがぼやく。今度はうまく回った洗濯機から、脱水できた洗濯物を引っ張り出す。
「おはよー、洗濯できた?」
リンが起きてきた。
「今脱水が終わった所」
 ジニーはかごに入れた洗濯ものを、物干し場に持ってゆく。それをリンと二人で手早く干す。朝からドタバタしたが、やっと片付いて二人でコーヒーを飲んだ。
「さて、準備にかかるか」
おもむろに腰を上げて、二人は準備にかかる。
 6時40分、二人は家を出発した。朝が早いので、いつものスタンドは閉まっている。そこで、系列の空港通りにある24時間営業のスタンドまで行き、給油する。そこから環状線を走り、天山交差点でR33に乗り換える。砥部町を抜け、三坂を上がる。途中バイパスを走って三坂峠を越え、久万高原町の街並みを通り過ぎ、美川、柳谷を通過する。少し朝が早いので、車の流れも速く、ストレスなく走れる。大渡ダムを横に見ながら東に向かって進み、8時40分日高村に到着した。
「リンさん、この前に見つけた定食屋さんに寄るよ」
「オッケー。やってる?」
「どうだろう。あ!ここだ!」
ジニーは行き過ぎそうになって急減速する。
「おっととと」
リンがつっかかり気味に減速した。そのまま駐車場に入り、お店の前を覗く。
「あ~残念。リンさん9時からだった」
「ジニーいつもの村の駅に行こう。とにかくおなかが空いた」
「わかった」
二人は再び国道に戻った。そこから1分ほどにある村の駅に入る。いつもの位置にバイクを止めて、いつもの喫茶店に入る。今回は空席があって、待ちなしで席に着いた。
「私はピザトーストセット」
「僕はパンケーキセットでお願いします」
オーダーを店員さんに通してしばらく待つ。
「お待たせしました」
料理が運ばれてきた。朝からコーヒーしか口にしていない飢えた二人は、早速食べ始める。ひたすら黙々と食べて、最後にホットコーヒーを飲む。
「ふう、一息ついた。ジニー、コーヒーサイフォンで淹れてるよ。すごいかき回すんだね」
「へえ」
ジニーは振り返るが、淹れ終わった後だった。
「サイフォン式、手間だよなあ」
若いころサイフォン式でコーヒーを淹れていたジニーは、後片付けの手間を思い出したようだった。
 しばらく休んでから、9時30分に村の駅ひだかを出発した。R33を高知方面に走り、バイパスを走る。伊野I.Cから高知道に乗り、高知I.Cで降りる。そこから高知東部自動車道に乗り終点まで走る。県道13号経由でR55に乗り換え、東へと向かう。
「ここもなかなか繋がらんよなあ。工事はしてるようだけど」
「2㎞ほどだけど、長く感じるんよねえ」
二人はゆっくりと流れる車列の一部となる。信号のストップ&ゴーにうんざりする。物部川を渡り、さらにのろのろ運転に付き合った先に、香南のいちI.Cがある。高知東部道の残りの区間だ。無料区間のため、多くの車が流れ込む。自動車道だが出口渋滞がひどい時には、下道を走った方が早い時もある。今日は順調に流れてそうなので、I.Cから乗り込んだ。途中手結港の可動橋が上がっているのが見える。トンネルに入り、出た所が終点の芸西I.Cだ。
「ジニー、せめて安芸市の向こう側くらいまで伸びてほしいよねえ」
「そうだなあ、そうしたら室戸岬も随分近くなるだろうなあ」
ふたたびのんびりと流れる車列に眠気を催しながら、二人は先に進む。芸西を通過して安芸市の渋滞にうんざりして、伊尾木洞を左に見ながら先を急ぐ。道の駅大山入り口を通過すると、奈半利の街並みに到着する。R493へと左折して3㎞ほど走った所に、北川村モネの庭入り口がある。
「リンさん着いたよ」
「やっぱり道中眠いわあ」
駐車場までの登りを駆け上がり、いつもの位置にバイクを止める。
「あの屋根の下に本当は止めたいんだけどなあ」
「リンさん、多分あそこはだめだよ」
リンが言っている屋根は、ギャラリー、ショップ入り口横にある。何も使っていないスペースだが、駐車スペースではない。勝手に止めたら叱られるだろうなとジニーは思っている。
 夏用ジャケットもバイクにおいて、帽子をかぶって身軽な恰好で入園する。入り口でJAFカードを提示して100円引きにしてもらう。
「リンさん、もう昼だけど、睡蓮まだ開いてるかな?」
「行けば分かるよ」
二人は水の庭へ足早に向かう。真夏のような日差しが、真上から注ぐ。すぐに汗だくになる。
「あ~あった、青い睡蓮。他のもまだ開いてる」
「良かったねえ」
池の周囲をゆっくりと歩きながら、写真を何枚も撮る。充分見て回ってから池から離れ、メタセコイアの小道を通って自動販売機で麦茶を買う。
「ジニー休憩しよう」
「うん」
買った麦茶を持って、遊びの森の隅の休憩所に行き、椅子に座った。
「熱中症になりそう」
リンはジニーから麦茶をもらってぐいぐいっと飲む。
「一夜干しになりそうだ」
ジニーはリンから麦茶を受け取り、一口飲む。
「風が気持ちいい」
二人はしばらく目を閉じる。
 10分ほど仮眠を取り、再び動き始める。
「ジニー今日は風の丘まで登らない?」
「え~しんどそうなんですけど。暑いし」
「ええやん、久しぶりに上まで行こうよ」
「ん~・・・わかった」
ベンチから立ち、二人は歩き始める。ボルディゲラの庭の横を通り、作業道をひたすら上る。木陰が多くて思ったより暑くない。15分ほどで上まで上がり、眼下の景色を眺める。奈半利から太平洋まで一望できる。
「ジニー久々に来たけど、前より木が育って見難くなってるねえ」
「言われてみればそうやね。足元が全然見えなくなってる」
そのうち展望台が必要やねえと話しながら、山を下る。下りは森の中の遊歩道をのんびりと歩いてゆく。
「私、登りだったらこの遊歩道は無理かも」
「まあね、ひたすら登りで先がどれくらいあるか分からんからなあ。山登りする人ならなんとも思わんだろうけど」
二人は重力を味方にして、整備された遊歩道をどんどん下る。途中でボルディゲラの庭に向かう枝道に入り、庭に降りた。薄暗い森から真っ白な庭に出て、目が痛い。澄んだ池の周囲を歩きながら、いろいろな花や睡蓮に止まるトンボを撮影する。
「ジニーおなかすいた」
「うん。どこで食べる?」
「下のレストランで良いんじゃない?」
「空いてるかな?」
「行ってみんとわからん」
「そうやな」
二人は再び歩き始める。ボルディゲラの庭から遊びの森、メタセコイアの小道を抜け、水の庭に向かう。
「あ、ジニーあれ」
「何?」
ジニーはリンが指さす方を見る。そこには2ⅿほどにまっすぐ伸びた草があった。
「あれって、だめなやつじゃない?茎を葉っぱが巻いてるし、あの形・・・」
「ん~、あやしいなあ。つぼみは・・・見えんな。でもまあ、植物のプロが管理する庭だぜ。良く似た別の植物じゃないか?」
「そうか、そうだよね」
リンは納得したようにつぶやいた。
 庭園を出て駐車場を横切り、カフェモネの家に向かう。店内は空いていた。入り口で名前を記入して暫く待つ。席に案内されてから、メニューを見る。
「う~ん」
リンがメニューと格闘する。
「ジニー何にするん?」
「僕はカツカレー一択です」
「このカレー星人め」
「リンさんは何?」
「う~ん、何にしようかな」
そう言いながら5分ほど悩んで、ミルフィーユカツを選んだ。オーダーをしてしばらく待ってから、料理が運ばれてきた。
「いただきます」
二人は手を合わせてから早速いただく。リンはミルフィーユカツにてこずっている。うまく切れないようだ。
「リンさん、それは切った状態で出してほしいよね」
「うん。食べにくい。おいしいんだけど」
バラけたかつをまとめながら、リンは食べる。ジニーはカツカレーをさっさと食べて、アイスコーヒーを飲んでいる。リンがミルフィーユカツとの闘いを制してゆずサイダーを飲み終えてから、二人は席を立つ。ジニーが会計をすませ、ショップに移動する。
「あ、あった!」
リンはプリント柄のコップを見つけて手に取った。去年買ってお気に入りだったのに、先日割ってしまって残念がっていたコップだ。ジニーは塩ポン酢を見つけて手に取る。
「ジニー塩ポン酢先日買ったよ?」
「うん。もう無いよ。いろいろ使ったから」
「そうなんや」
リンは他にゆずドロップを取った。ここに来たら必ず買って帰るアイテムだ。ほかにゆずクッキーをつかみ、レジに向かう。
「すみません、このコップ2個ありますか?」
「あります」
「じゃあ、2個ください」
「リンさん2個買うの?」
「うん。このデザイン気に入ってるから」
「ふーん」
リンが会計を済ませ、二人は店を出る。
「ジニーここまで来たんだから、帰りに野根まんじゅう買って帰ろうよ」
「いいけど、どこにあるかな?とりあえず、道の駅を覗くか」
「じゃあ、道の駅大山から寄ってみよう」
「置いてるかなあ」
「無かったらやすの道の駅に寄ればいいよ。あそこはあったと思う」
「わかった」
二人は出発準備を整えて、14時40分モネの庭を出発した。
 R493を南下して、R55に出る。そこから西に向かって走り、30分ほどで道の駅大山に到着した。バイクを隅に止め、早速売店を覗く。
「リンさんあった。本家野根まんじゅう」
「本家?元祖じゃなくて?」
「うん、ほら」
ジニーはリンに箱を見せる。
「あー、そういう事か。ここにも本家と元祖の戦いがあるんやね。ジニーこれは是非元祖も手にいれんとねえ」
「じゃあ、道の駅やすにも寄ってみよう」
二人は休憩もそこそこに、大山を出発した。そこから30分ほどで道の駅やすに到着する。途中リンの眠い眠い呪文が始まったが、ジニーは完全無視した。
「リンさん着いた。駐輪場は向こうの端やね」
「そう。裏から入ったらすぐだったのにね」
「入り口見落としたからしょうがない」
バイクを駐輪場に止め、ヘルメットを脱ぐ。売店まで歩いて店内を見て回る。
「あった。リンさん元祖の方だ」
「良かったねえーすぐにそろって。それよりジニー、ちょっと休憩しよう。眠い」
二人は道の駅をうろうろして、二階にあるカフェに落ち着いた。リンがメニューをガン見する。
「マンゴースムージーと文旦イチゴのスプラッシュ、それと3種類シフォンケーキ盛りお願いします」
オーダーを取りに来た店員さんに注文する。しばらく待ってやって来た品を、早速いただく。
「リンさん、旨い」
「うん。これはリピートアリだね」
二人は満足して、しばらくくつろいだ。
「リンさんそろそろ動こう」
「うん。帰ろう」
会計を済ませて店を出る。バイクまで戻って出発準備をした。
 16時40分、道の駅やすを出発して、高知市向いて走る。R55を走り、物部川を渡り、南国地区広域農道との交差点を右折する。北向きにひたすら走り、途中右手にあるスタンドに寄って給油する。元の道に戻り、すぐにわき道に入り道の駅風良里の横を通過してR32に合流する。そこから南国I.Cに侵入して高知道に乗り入れる。
「リンさん入野P.Aまで走るけど、大丈夫?」
「全然平気」
「わかった。眠くならんように走る」
「どうぞー」
二台のバイクは、少しペースを上げて走る。高知道から徳島道に入り、すぐに川之江JCTから松山道に入る。18時に入野P.Aに到着して、駐輪場にバイクを止めた。
「リンさん休憩」
2人はコンビニで水を買って、少し離れたベンチに行く。幅広のベンチに寝っ転がり、青い空を眺めた。
「いい天気だなあ」
ジニーがつぶやく。
「瀬戸内側に入った途端に気温が高いねえ」
「それは僕も思った」
そんな会話をしながら、二人は寝っ転がって空を眺めていた。
 20分ほど休憩をして、入野を出発する。
「もうすぐ日没か。でも、お日様がまぶしくなくていいわあ」
松山道下りは、特に川内で夕方太陽が真正面に来て、何も見えなくなる時があるのだ。さらにペースを上げて、二人は松山I.Cを目指す。
「リンさん、インター出たら余戸までバイパス走るよ。遠回りだけど、時間的には早そうだから」
「いいよ~」
松山I.Cを降りて、バイパス経由でR56を走り、自宅に到着した。
「おつかれー」
「リンさんお疲れ様です。何時?」
「17時20分だよ」
「まだ明るいなあ」
2人はバイクを片付けて、家に入る。バックからお土産を取り出して並べる。
「リンさん、本家と元祖の食べ比べしてみよう」
ジニーは本家と元祖の野根まんじゅうを並べて置き、食べ比べる。
「うーん、私は本家が好き」
「そうやなあ、僕も本家かな。でも元祖もおいしいよ。好みの問題だな」
世の中の本家、元祖の争いなんて、実につまらないことだとジニーはつぶやいた。

還暦夫婦のバイクライフ34

還暦夫婦のバイクライフ34

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-07-17

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