『天鵞絨』

気も漫ろな初めての夜


『天鵞絨』


陰惨な欲望の成れの果て
弄んだ感情の残渣
投げ出した腕と脚を
鬱陶し気に避ける君

黒いカーテンは閉め切られ
淀んだ両の目は未だ捉えたまま
溜め息と共に吐き出される情の欠片
ビロードの夜が更に深まる

さっきまでの熱が嘘みたい
指先が震えるくらい冷えきって
それでも何処かに愛に似た何かが
有ることを祈って探ってしまう

君の薄い唇の形はすっかり
この唇で覚えたけれど
舌の熱に次も驚くのだろう
奇跡的に次があるならば

歪んだみたいに笑った君が
またアタシに気を伸ばし
思ったより早い次に戸惑う
予想通り熱い舌に火は灯され

凍った指先まで熱が行き渡れば
少しは安心したように
情を掻き集めた吐息が漏れる
それが欲しいが故の夜だった

真っ暗闇の部屋の中
灯りは小さなスタンドだけ
それでも目を凝らせば
愛に似た何かは確かにあった


「今この瞬間、愛だと思えたなら違っててもいいわ」

『天鵞絨』

『天鵞絨』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-06-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted