zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ57~60

エピ57・58

雨のち晴れで仲直り

サブリナはひくひく泣きながら暫くチビを撫でていたが、落着きを
取り戻して漸く嗚咽を止めた……。
 
「……すみません、取り乱したりして……、ぐすっ……」
 
「辛いのは分かるわ、酷いよね、カルロスさんも……」
 
「……あ、あの人の所へ行ったんですか……!?……あああ!い、一体
あの人に何を吹き込まれたんですか!!」
 
チビから手を放して、急にサブリナが豹変しだした……。
 
「おい、サブリナ……、あんたもすげえな……」
 
「きゅぴ~、怖いよお……」
 
「チ、チビちゃん、こっちへいらっしゃい!」
 
チビは慌ててアイシャの膝元へと飛んで避難する……。
 
「とにかく、落ち着いて下さい、サブリナさん……」
 
アルベルトが宥めるが、サブリナは怒りが収まらない様子であった……。
 
「これが落ち着いていられますかっ!がうおーー!」
 
「……遂に怪獣になっちまったよ……」
 
「もう、止めようがないよお、ほっとこうよお……」
 
「ダウド!二人をこのまま放っておけって言うのっ!?
駄目よ、そんなの!」
 
お節介アイシャが身を乗り出しダウドに抗議する。また
始まりやがったとジャミルは頭を抱えた……。
 
「……」
 
「サブリナさん……?」
 
何かを思いついた様にサブリナが急に立ち上がった。
 
「あの人の所へ……、行ってきます……」
 
「おいおいおい、まさか……、一戦交える気じゃねえだろうな……」
 
「……ジャミルったらっ!」
 
「いいえ、置いてある私の荷物を取りに行くだけです、どうぞお気になさらず
皆さんはごゆっくりなさって行って下さい……」
 
「ちょっと待って!サブリナさ……」
 
 
バンッ……!!
 
 
アイシャが止める間もなく、勢いよくドアを閉め、サブリナが外に出て行く……。
 
「サブリナさんも結構凄かったんだねえ……、お淑やかな人かと
思ってたんだけど……、人は見掛けによらないねえ……」
 
「ダウド、駄目だよ……、そんな事を言っては……」
 
「サブリナさんっ、待って!」
 
アイシャも慌ててサブリナを追って外に飛び出す。
 
「……」
 
外に出ると、サブリナが庭先でお腹を抱えてしゃがみ込んでしまっていた。
具合が悪そうである。
 
「サブリナさん、大丈夫?何処か具合が悪いの……?」
 
「……気持ち……悪い……の……、ちょっと怒鳴ったら……、
何だか……」
 
「大変だわ!早くお家の中に戻りましょっ!」
 
「あの人と仲違した後に……、体調を崩してお医者さんに
行ったの……、そしたら……、何だかやたらと情緒不安定に
なるのも……、怒りたくなるのも……、多分……、うっ……」
 
「……サブリナさん、あなた、もしかして……」
 
「そうよ……、いるのよ……」
 
サブリナが愛おしそうに自身のお腹を摩った。
 
「尚更大変じゃないっ!!あ、あああ……!!みんな、みんな~っ!!」
 
アイシャが慌てて野郎に知らせに中に戻って行った。……サブリナを
どうにかベッドへ寝かせ落ち着かせるが、こういう事に疎い
男衆はどう対処していいのか判らず困って、3匹揃って猿の様に
ポリポリ、頭を掻き掻き……。
 
「サブリナさん、大丈夫?勝手にお台所借りちゃったけど、
ミルクを温めたわ、はい……」
 
「ありがとう、アイシャさん……」
 
サブリナが美味しそうにミルクに口を付ける。
 
「きゅぴー、チビも~……」
 
お腹が空いたのか、サブリナのミルクを飲む姿を見て
チビがパタパタ尻尾を振った。
 
「はい、チビちゃんにもおすそ分けよ、こぼさない様にね……」
 
「きゅっぴ!」
 
チビもコップを借りてミルクを飲む。その姿にサブリナが
笑みを浮かべた。
 
「……可愛いわ……、もしも産まれて来たらこの子も
こんな風にミルクを飲むのね……、でも……」
 
「サブリナさん、今はあまり何も色々考えないのよ、
身体に障るわ……」
 
そう言ってアイシャがサブリナの毛布を掛け直した。
 
「でも、私……、あの人と暫く離れてみて分かったの……、
私はやっぱりあの人が好き……、カルロスがいない毎日なんて
耐えられない……、彼と別れてしまうぐらいなら……、いっその事、
もう覚悟してこの子を下ろすわ……」
 
「だ、駄目よっ、そんなの……!絶対駄目っ!!」
 
千手観音の様に横に手を広げ、アイシャがバタバタ手を振る。
 
「カルロス……、カルロス……、会いたい……」
 
(こりゃ、また典型的にバカップル度が増したなあ……、
今に始まった事じゃねえが……)
 
と、ジャミルが心で呆れてみる。
 
「ねえ、皆も何とか言ってあげてよ……!このままじゃ……」
 
頭を掻いていたモンキートリオがふと我に返る……。
 
「サ、サブリナさあん、駄目だよお……、やっと授かった
大事な命でしょ?……オイラも反対だよ、……よくないよ、
そんなの……!」
 
「本当に落ち着いて、冷静になって下さい……、僕ら、カルロスさんの
話も聞いてきましたが彼の方も決して子供が欲しくないと言う訳では
なさそうでしたよ、ただ、迷いはまだあるようでしたが……」
 
ダウドとアルベルトも必死でサブリナを説得するが……、
サブリナは俯いたまま、ぽつりと言葉を洩らす。
 
「……うっ、ううう……、私の赤ちゃん……、カルロス……、
どちらかなんて選べないわ……、無理よ……」
 
サブリナはベッドの上で、まるでどうしていいか分からない
幼児の様に泣きじゃくる……。
 
「……あああーっ!もうーっ!めんどくせー!俺がカルロスを
フン捕まえて此処まで連れて来てやらあ、んでもう一回ちゃんと
二人で話し合えよ、待ってろ!!」
 
「……あ、ジャミルっ!」
 
アイシャが声を掛けるが、あれこれ考えるのが苦手な単細胞
ジャミルはキーキー言いながら外に逃走、……あっと言う間に
走って行ってしまった……。
 
そして、数分後……。
 
「痛いですよ、ジャミルさん……、何するんですか……!いたたたた!
お願いですから、お尻を蹴らないで下さいよ……」
 
「うるせー!この野郎、おめーは黙ってりゃいいんだっ!」
 
「カルロス……?カルロスの声がするわ……」
 
泣いていたサブリナが泣き止む……。
 
「おーい、連れて来たぜー!後は二人で何とかしろー!」
 
「カルロス……」
 
ジャミルに脅迫されて連れて来られたカルロスが部屋に姿を現した……。
 
「サブリナ……」
 
「さあ、邪魔者は外出ようぜー、さー、出よ出よ」
 
ジャミルが他のメンバーにも部屋の外に出る様に声を掛ける。
 
「でも……」
 
「アイシャ、これはあいつらの問題だからな……、あの夫婦だけで
きちんと解決させるんだ」
 
「……きゅっぴ、チビ、うんち……、もりもり出そう……、
困ったぴい……」
 
さっきのミルクがお腹を刺激したのか、急にチビが催した様であった……。
 
「……うわ!アイシャーっ!!」
 
「サブリナさーんっ!おトイレお借りしまーすっ!きゃあーー!!」
 
「きゅぴぴぴーー!」
 
毎度の事で、アイシャが慌ててチビを抱えてトイレまで走る……。
そして、部屋にはサブリナとカルロス、……二人だけになり……。
 
「久しぶりだね……、元気だった……?」
 
「あなたの方こそ……、どうなの……?」
 
お互い、睨み合いながら、どうでもいい様なお約束の会話を交わした。
 
そして、此方もお約束で……、廊下でこっそりとジャミル達も
二人の話を立ち聞きしていた……。無事にウンチの済んだチビは
ダウドに預けて、一緒にポルトガをお散歩中。そして、暫くの時間が
過ぎた頃……。
 
「私、出来たのよ……、赤ちゃんが……」
 
「何だって……?」
 
遂にサブリナが、カルロスへ……、妊娠した事を打ち明けた……。
 
「……そりゃ、やる事やってりゃ、当たりま……、
いって……!」
 
アルベルトがジャミルの脇腹を抓った。
 
「静かにしててよ……」
 
口を3の次に尖らせ、不貞腐れてジャミルが黙る。
 
「私、あなたと離れてみて分かったの……、あなたがやっぱり
いないと私は駄目……、だから、私……、あなたの意志を尊重します、
この子を下ろすわ……」
 
サブリナが潤んだ瞳でカルロスを見つめ、涙を溢した……。
 
「サブリナ……、ごめんよ……」
 
「えっ……?カルロ……ス……?」
 
カルロスがサブリナに近づいていき、サブリナを抱きしめた。
 
「……僕は君が好きだ、もう好きで好きでどうしようもないんだ、
今だって……、本当は独り占めしたいぐらいだ……、……でも、
これからはその愛情を僕の子供にも……、捧げようと思う……」
 
「カルロス……」
 
カルロスがサブリナを見つめ、小さな笑みを浮かべた。
 
「……カルロス……、ああ……、ありがとう……、赤ちゃん産んで
いいのね……?嬉しい……」
 
「辛い思いさせたね、僕の独りよがりで……、僕も君と離れている間、
とても辛かったよ……、僕だって本当は……、どれだけこの日を待ち焦がれて
いた事か……、そうだね、僕も遂に父親になるんだね……」

「カルロス……、有り難う……」
 
二人は抱き合って愛情を再確認し、漸く仲直りする……。
 
「あふあふ……」
 
そして、廊下でずっと話を聞いていたジャミルが欠伸した……。
 
「ジャミルったら……、もうっ!」
 
「……結局、お互いの意地の張り合いで遠回りしただけじゃねえか……、
たくよ……、カルロスのアホも子供が欲しいなら欲しいって最初から
はっきり言えっつーの……」
 
そう言ってジャミルが再び大口を開けた……、処にダウドとチビが
散歩から戻って来た。
 
「野生のカバ発見……!」
 
「きゅぴぴぴー!」
 
「……誰がカバかっ!このっ……!」
 
と、ジャミルがダウドにゲンコツをお見舞いしようとした処で、
カルロスが部屋のドアを開け、後ろからサブリナも顔を出した。
 
「すみません、お騒がせ致しまして……、ですがもう大丈夫です、
僕も晴れて父親になる決意を決めました……、もうサブリナは
僕だけの物じゃない……、ね?」
 
そう言いながらカルロスがサブリナのお腹を見つめた。
 
「良かった~、ちゃんと仲直り出来たのね?」
 
アイシャも嬉しそうに二人を見つめる。
 
「はい……、皆さんには本当に……、初めてお会いした時から
何もかも助けて頂いて……、本当にどうお礼を言ったらいいのか……、
感謝しても感謝仕切れませんわ……」
 
サブリナが顔を覆って再び涙を流した。
 
「……まあな、俺ら別名、お節介解決屋だからな……」
 
「それが僕らの副業だもの……、ね?」
 
「フン……、どいつもこいつも、たく……」
 
アルベルトがそう言うと、照れ臭そうにジャミルが横を向いて
鼻を鳴らした。


新しき船旅

無事、カルロスとサブリナを仲直りさせた4人は本来の目的である
此処ポルトガ城へとやって来た。
 
「……はあ~……」
 
城門を目の前にし、アルベルトが立ち止まる。
 
「アル、どうしたのかしら……」
 
「何してんだよ、お前は……」
 
「何だか久しぶりに殿下にお会いするのに緊張して……、それに
前回お借りした船をお返し出来ないのに、それで又……、違う船を
お借りしたいだなんて……、ちょっと虫が良すぎないかな……」
 
「仕方ねえだろ、こっちにはこっちの急ぎの事情があったんだからよ、
この世界の奴らは俺達の他にアリアハンのテオドールとファラ以外に
ゾーマの事を知らねんだからさ、後で纏めて船引っ張って返しに来りゃ
いいんだよ!」
 
「……はあ、君は本当にお気楽だね……、時々羨ましくなるよ……」
 
「何か引っかかる言い方だな……?」
 
ジャミルがアルベルトの方を見た……。
 
「あのさ、オイラ、チビちゃんを連れて又少しお散歩してくるよ……、
待たせて貰っていいかな?」
 
「そうね、その方がいいかもね、ダウド、チビちゃんをお願いするわ……」
 
「うん、チビちゃん行こう、お散歩だよおー!船借りてきてねー!」
 
「きゅぴー!今日はお散歩がいっぱいだね!」
 
ダウドがバッグを下げて町の中に消えていく。
 
「交換条件で又……、船を貸す代わりに何か頼まれるかもな……」
 
「それでもいいよ、それぐらいさせて頂かないと……、
殿下に申し訳ない……」
 
「……」
 
トリオは城の門番に案内され、城内へと……、入る。
 
「アル、……どうしたのかしら?」
 
「ん?」
 
「殿下殿下……、殿下……、ああ……、でんかでんか……、
殿下殿下……、電化……、でんかでんか……うふふふふ……」
 
「遂に壊れたかな……」
 
……と、ジャミルが呟いた途端、前を歩いていたアルベルトが立ち止まり、
ジャミルとアイシャを振り返る。
 
「ねえ……」
 
「どうしたんだよ!本当に!」
 
「うん、あのさ……、殿下には……、闇の大魔王の事もちゃんと
話した方がいいと思うんだ、バラモスを倒した後の僕らの足取りの事も……」
 
何故か顔が赤く、モジモジするアルベルト。
 
「……まあ、お前が話したいって言うんなら……、別にいいんじゃね?」
 
「うん、ナイトハルト殿下なら……、きっと理解してくれる!」
 
急にアルベルトが目をキラキラさせ始めた。
 
「…なんなんだ、こいつ…」
 
「アルが輝いてるわ…」
 
「さあ、二人とも行こうっ!殿下がお待ちしているよ!
この長い廊下の先に!!」
 
「はあ~……」
 
普段からは考えられないアルベルトの変りっぷりに
しどろもどろになるジャミルとアイシャであった……。
 
そして、ナイトハルトが居る玉座の間へとトリオは通される。
 
「……勇者達か……、アルベルトも……、バラモス撃破後、
……行方を眩ましたと言う噂が立っておったが、無事で
何よりであった……」
 
「ナイトハルト殿下……、お久しゅうございます……、私はバラモス
討伐前に、もう一度、殿下にお顔を見せに立ち寄り、その後……、
音信不通でしたので……、長い事ご連絡も出来ず、ご心配を
お掛け致しました……」
 
ジャミルは……、自分とは正反対のイケメン面のスカした男が
嫌いなので早く船を手配して貰って用が済むのを願わんばかりで
あった……。分からない様にナイトハルトに向けて舌をチラチラと
出してみたり、引っ込めたり。
 
「実は……、バラモス打倒後の……、その後の私達の足取りなのですが……」
 
「ふむ……?」
 
アルベルトは下の世界の事、闇の大魔王ゾーマの事など丁寧に説明し、
話していく。つまらなさと早く話を終わりにしろとで、ジャミルも
居心地の悪さに限界が来ていた。
 
「よくもまあ……、ベラベラと……、口が達者でございますわ……」
 
「ジャミルったら、駄目でしょっ!」
 
アイシャが注意するが、ジャミルはもう本当に限界の様であった……。
 
「そうであったか……、そなた達の陰の貢献、本当に見事であったぞ、
お前達は二度も世界の危機を救ってくれたのだな……、心から感謝するぞ……」
 
「はっ……、勿体無いお言葉でございます、殿下……」
 
「船はまだかにゃ……」
 
「もう~っ!!」
 
「それで、本当に……、大変申し訳ないお願いなのですが……、
実は……」
 
アルベルトが漸く本題の話に入り始めた……。
 
「そうか……、船の一体やニ体、大した事はない……、アルベルト、
あまり気を遣わなくてよいぞ……、お前達はこの世界の英雄で
あるのだからな……、船など幾らでも手配してやるぞ……」
 
「……殿下……、あああ……、重ね重ね、勿体無い
お言葉……、有難うございます!!」
 
アルベルトがナイトハルトに向かって何度も何度も頭を下げた。
 
「おい、何か俺ら、もう無視されてね?」
 
「仕方ないでしょ、今はアルがすべてなのよ、任せましょ、ね?」
 
「……折角なので、お前達に又頼みたい事があるのだが……」
 
急にナイトハルトの目線がジャミルとアイシャにも向けられる……。
 
(アウチ……!お使いキタ……!)
 
「はい、殿下!私達に出来る事でしたら喜んでお引き受け致します!」
 
(そしてこいつは……、いい加減にしろ……)
 
「ふむ、実はな、遠い異国の地、ジパングで最近、ヨウカンと言う
珍しい菓子が作られているそうなのだ……、私も興味があってな……、
是非一度味わってみたいのだが……、また手配を頼めるかな?」
 
「ジパング?……ああ、ジパングか!」
 
ジャミルがポンと手を打った。
 
「じゃあ……、又、弥生さんや皆にも会えるじゃない!行こうよ、
ジャミル、アル!」
 
「……けどよ、ジパングに行くのは構わねえけど……、又此処に寄らな……
いってー!」
 
アルベルトが笑顔でジャミルの頭に肘でエルボーし、おまけにキックで
横に蹴飛ばした。んで、更についでに足で股間をグリグリ踏んでおく。
 
「その役目……、是非!心から喜んでお引受け致します、殿下!」
 
「うむ、頼んだぞ、勇者達よ……、ハハハ、そなた達は本当に仲が良いのだな……」

「……良くねえってのっ!!」
 
事は上手く運び、無事新しい船は借りる事は出来たのだが、
アルベルトに頭を肘テツされた挙句、キックも噛まされちんこを
踏まれたジャミルはあまり面白くない様子であった……。
 
そして……、新しい船に乗り込んだ4人とチビは再びこの世界の
大海原へと繰り出す。
 
「うわー、相変わらず楽でいいな、この船、どういう仕組みなんだか、
また操縦自動オートだぜ……、すげえ……」
 
「きゅぴー!また海ー!海だあー!」
 
下の世界で船に乗っていた以前の時と同じように、甲板に座り
チビが燥いだ。
 
「今度、泳ぎ教えてやるからな、チビ」
 
ジャミルが軽くポンと、チビの頭を叩く。
 
「きゅぴ?泳ぎ?」
 
「……自分が遊びたいだけだろ……、全くもう……」
 
と、アルベルトが半眼になる。
 
「あの……、なるべく、ゆっくり行こうね、神殿まで……」
 
ダウドが恐る恐る皆に訪ねる。
 
「まあな、観光がてら色々回りたいからな……、ポポタとじいさん、
それにスラリンも待ってるだろうし……」
 
「ほっ……」
 
「何だか新しい旅も楽しみになってきちゃったー!うふっ、今日は
カレー作ろっと!」
 
アイシャがとてとて、下に降りていく。
 
「……おい、また山葵入れんなよー、聞いてんのかー、
……おーい!!」
 
心配性のジャミルもアイシャを追って下へ走って行った。
 
「操縦の心配もしなくていいし、やっぱり殿下の船って凄いよ、
ゆっくり本が読める、幸せだなあ……」
 
アルベルトもチビの隣に座り、腰を落ち着けて本を読み始めた。
 
「モンスターの心配もしなくていいしね!」
 
「きゅぴ~、ダウ、チビにもご本読んで?これがいい、
せんたくとうちゃん!」
 
「うん、いいよお!」
 
最近、チビが寝る前にアイシャが絵本を読んで聴かせるので、
チビも本に興味が出てきた様であった。
 
「知識は沢山高めておかないとね、本は沢山読もうね、チビ、
……でないと、何処かの誰かさんみたいになるからね……」
 
「ぴきゅ?」
 
「……ぶ、ぼふぇっくしんっ……!!」
 
「うわあ……」
 
下の階から甲板まで巨大なくしゃみが聴こえてきた……。
 
 
「……ほら、見てごらんよ、光はまだあんなに元気だ……、
許せないだろう……?」
 
「……」
 
「本来なら君の方が……、ね、……でももう少しだからね……、
必ず光は消滅させる、それが運命なんだよ、闇は目障りな光を
打ち消すのだから……」
 
……真の黒幕が、ジャミル達へ向けて、本当に動き出した事を呑気な船旅を
楽しんでいる今の皆は知る由もなかったのだった……。

エピ59・60

懐かしき国に

暫くの日数を経て、漸くジパングへ到着。
 
「懐かしいなあ……、村の中も全然変わってないな……」
 
「……オイラ達の事、みんな覚えててくれるかなあ……、
ドキドキ……」
 
懐かしさにダウドが感激する。
 
「くんくん、草と……、お日様のニオイがする……」
 
チビがバッグから少し顔を出して鼻をクンクンする。
 
「今は、皆家の中なのかな?誰も外に出ていない
みたいだけど……」
 
「てっ、て、ててて……」
 
と、其処へ……、まだ歩き始めたばかりの様な小さな赤子が
こちらによちよちと歩いてきた。
 
「……て、て?」
 
「あ、あぶないわ……!」
 
「て!」
 
転びそうになり、よろけた赤子をアイシャが慌てて支えた。
 
「大丈夫かしら?気を付けてね……」
 
「あ、あ、あ……、まん、ま……」
 
赤子はたどたどしい言葉を発しながらアイシャに触る。
 
「きゅぴ?皆よりも小っちゃいねえ……」
 
チビがバッグから顔を出し、不思議そうに赤子を見つめた。
 
「そりゃそうだよ、赤ん坊だもんな……、お前だって数か月前は
そうだったんだぞ」
 
「ぴ……、赤ちゃん……?」
 
「そうだよ、チビが成長したのは早かったけど、人間の
赤ちゃんはちゃんと大きくなるまで数年掛るんだよ……」
 
「ぴい……?」
 
アルベルトがチビに説明するが、チビは不思議がって首を傾げる
ばかりであった。
 
「トウマ、トウマったら……!また一人でお外に出てしまって……!」
 
「あの声は……、もしかして……」
 
ジャミルが声のした方に耳を傾けた。
 
「……かーた、かーた」
 
赤子も声のした方に反応する。
 
「ああ、トウマ!駄目じゃないの、もう!」
 
黒髪の女性が赤子を見つけ、慌ててこちらに走ってきた。
 
「かーた!……たあー!」
 
「あっ……」
 
赤子はアイシャの手を離れ、よちよち、女性の処まで歩いていく
 
「弥生さん……かい?」
 
「ジャミルさん……?」
 
ジャミルの声に、弥生が我に返り……、はっとする……。
 
「へへ、久しぶりだね……」
 
「どうも、御無沙汰してます……」
 
「えへへ~、オイラの事覚えてますかあ~、ダウド
ですよお~!」
 
「こんにちは、弥生さん、何だかまた大人っぽくなった
みたいね……」
 
「皆さんも……、ああ、お元気そうで何よりです……、
又、お、お会い出来るなんて……」
 
皆の顔を見て、弥生が嬉しさのあまり、感激の涙を流した……。
 
「ねえ、この子、弥生さんの赤ちゃん?……という事は……、
もう結婚したの!?」
 
アイシャが弥生と赤子を交互に見ながら目を輝かせる。
 
「はい……、お蔭さまで……、主人とは2年前に縁が
出来まして……、この子、トウマを授かりました」
 
「かーた!」
 
「可愛い~、ねえ、お名前はトウマ君だから、男の子よね?」
 
「はい、1歳になったばかりです」
 
「ちょっと抱かせて貰っていい?」
 
「ええ、どうぞ、ちょっと重いかも知れませんけど……」
 
「……よいしょ、うわあ、改めて抱っこすると、赤ちゃんて
ほんとに重いのねー!」
 
おっかなびっくり、アイシャがトウマを抱っこする。
 
「おいおい、危ねえな……、抱いたまま倒れんなよ……、
落とすなよ……?」
 
「大丈夫よっ!」
 
「それにしても……、久々に会う人会う人、何だかお目出度
ラッシュだね……」
 
「はう、ほんとだねえ~……、ん?」
 
「……ぶうび~」
 
ダウドがバッグの中から、ちらっと垣間見える不機嫌そうな
チビの様子に気づく。
 
「ねえ、ジャミル、チビちゃんがさ……」
 
「あ?」
 
「きゅぴ、ぶう~……」
 
「……ぷーっ、一人前に赤ん坊に焼きもち焼いてやがる、
あいつ……」
 
「笑っちゃ駄目だよ、ジャミル……」
 
アルベルトが慌ててジャミルを突く。
 
「チビちゃんもしっかりと成長してるんだねえ、色んな感情が
出てきたよお……、うんうん……」
 
「おい、あまり感情に浸ってる場合じゃねえぞ、ダウド、チビが
スネたらスネたで後始末が大変なんだからな、誰かに似てよ……」
 
「何よ、ジャミル!」
 
「何でもないです……」
 
……それぞれの親の、良いところ、悪いところもすべて
引き継いで、チビは確実に、精神面もどんどん成長して
いっているのであった……。
 
「……ぷちょっ!」
 
トウマが小さなくしゃみをした。
 
「あ、風が大分強くなってきましたね……、さあどうぞ、
みなさん、私の家に……」
 
ジャミル達は弥生に案内され、久しぶりに懐かしい弥生の家に
訪れる。
 
「ただいま、お母さん」
 
「弥生、トウマは大丈夫だったかい?ごめんよ、あたしが大分
足腰が悪くなったモンだから……」
 
家の奥からふくよかな女性が姿を現す……。これまた懐かしい
弥生の母親だった。
 
「ばあー!」
 
お婆ちゃんの姿を見るなり、トウマが弥生の母親に抱き着いた。
 
「平気よ、まだそんなに遠くへはいけないもの、……それより見て、
お母さん」
 
「あはは、こんちは……、おばさんも、久しぶり……」
 
ジャミルが照れ隠しに頭を掻いた。
 
「……あれあれあれ、まあまあまあまあ……!ジャミルさん
達じゃないの!!懐かしいねえ~、みんな元気だったかい!?」
 
「まあね、それなりに、色々あるけど、俺らは元気だよ……、
な?」
 
ジャミルの言葉にアルベルト達も笑って頷いた。
 
「……夢じゃないんだね……、又こうして会えるなんて……、
うう、父さんが生きてたら……、ああ、どんなに喜んだ事か……」
 
「あの……、おじさんは……?」
 
ジャミルが訪ねると、弥生は少し顔を曇らせたが
すぐに言葉を返した。
 
「はい、父は……、トウマが産まれてすぐに亡くなりました……、
心臓も大分弱っていたんです……」
 
「そうか、おじさんはもう……」
 
「……」
 
4人は悲しい訃報に揃って口を噤んだ……。
 
「馬鹿な父さんだよ、酒ばっか飲んでるから……、
こんな事になるんだよ……、幾ら止めたって聞きゃしない……、
本当に馬鹿だよ、ううう……」
 
「あの、あまりしんみりなさらないで下さい……、父も……、自分が
あまり長くない事は承知していた様なので……、でもまた、皆さんが
此処を訪れる時があったなら……、その時はどうか宜しく伝えてくれと……」
 
「……まあ、最後に孫の顔を一目見れてから死んだだけでも
幸せだったのかも知れないねえ……」
 
そう言いながら弥生の母親は泣きながら鼻をかむ。
 
「きゅぴ~、……チビ、もう限界……、つまんない、
バッグから出る……」
 
「チビちゃん!」
 
退屈に耐えかねたチビがアイシャのバッグからひょっこり
顔を出した。
 
「あれ、まあ……!これはまた……、可愛い動物だねえ……」
 
「本当、可愛いわ……」
 
弥生と母親は珍しそうにチビに触る。
 
「チビだよ、初めまして!」
 
チビがいつも通り、初対面の人達に元気よくご挨拶するが……。
 
「あ?あー、あーあーあー!」
 
「きゅぴっ!?」
 
「きゃっきゃ!だあー、だあー!」
 
トウマがチビに目をつけ、面白がってチビの頭を掴む……。
初めての事態にチビは慌てて戸惑い、バッグから抜け出ると
脅えてアイシャの側へと飛んで逃げる……。
 
「……ぴきゅうう~……」
 
「大丈夫よ、チビちゃんたら……」
 
「……こらっ、トウマ!駄目でしょ、悪戯しちゃ、めっ!ですよ!」
 
「まあ、チビにはいい刺激になるよ、あまり気にしないでくれよ」
 
「すみません、本当に……」
 
申し訳なさそうに弥生がぺこぺこ皆に頭を下げた。
 
「さあ、今夜は宴会の準備だね、弥生、村の皆に知らせておいで、
あたしはトウマの子守りとご馳走の準備をするからね!」
 
先程とは違い、弥生の母親が元気を取り戻し、からっとした
笑顔を見せた。
 
「お母さんたら、もう……、それじゃお願いしますね……」
 
弥生はトウマを母親に預けると、外に出て行った。
 
「何か、悪いよな……」
 
「うん……、あの、僕達も何かお手伝いを……」
 
「いいんだよ、ほらほら、お客さんは座った座った!」
 
「……ハア」
 
「もうすぐ弥生の旦那が仕事から帰ってくると思うけど、
……まあ~、聞いとくれよ、これがね、まーた、いい男なんだよ!」
 
弥生の母親は伴侶を失ったものの、相変わらず豪快で明るい性格は
そのままであった。
 
「zzzz……」
 
そして、脱走お散歩で疲れたのか、トウマが眠ってしまう。
 
「おや、寝ちまったねえ、悪いけど……、トウマを見ててくれるかい?
当分起きないとは思うんだけど、すまないねえ……」
 
「ああ、大丈夫だよ」
 
弥生の母親はジャミル達にトウマの子守りをお願いすると
台所へ姿を消した。
 
「うふっ、ホント可愛いわあ~、よく寝てる……、ねえ、ほっぺが
ぷにぷによ……、やわらかいわあ……」
 
アイシャがトウマのほっぺをそっと触る。
 
「母ちゃん不在でも本当、良く寝るなあ……、大物だ……」
 
「玉には人間の赤ちゃんと触れ合うのもいいものだね……」
 
「ね、ねえ……、皆……」
 
「何だよ、ダウド!」
 
「あれ……」
 
「あ~?だから何……」
 
「……」
 
見ると……、トウマに完全に焼きもちをやいたのか……、
チビが隅っこの方で丸くなって皆をジト目で見ていた……。
 
「お、おい、チビ……、何してんだよ、ほら、お前も来いよ」
 
 
「……赤ちゃん、嫌い……」
 
 
「こりゃ、まずいな……、予測してなかった……」
 
4人は顔を見合わせる……。チビの生まれて初めての……、
嫉妬感情の始まりでもあった……。


チビ、すねる

夜、弥生の家には知らせを受けた沢山の村人が集まり、
狭い場所ながらも皆で輪になって、居間は賑やかな場所と化す。
 
「……チビはどうしてる?」
 
「まだ部屋ですねてるの、呼んでも来ないのよ……、皆さんにも
紹介しようと思ったんだけど……」
 
「困った奴だな、あいつも……」
 
……自分の事を棚に上げ、やれやれと言う様にジャミルが
腕組をし、唸った。
 
「私、もう一度呼んでくるわ」
 
アイシャが立ち上がってチビを呼びにもう一度部屋へ……。
 
「……チビちゃん……」
 
「……」
 
部屋には座布団の上で丸まり、そっぽを向いて寝ている
チビの姿があった。
 
「チビちゃん、村の皆さんにご挨拶しましょ?皆、とっても
優しい人達だから……」
 
「嫌、……チビ、皆さんにご挨拶しないもん」
 
チビは不貞腐れたままアイシャから顔を背けると尻尾だけ
パタパタ振る。
 
「どうしたのよ、チビちゃんは知らない人に、いつもなら
ご挨拶するの好きでしょ?ほら……、弥生さんのおばさんが
沢山お肉も焼いてくれたわよ、食べに行こう?」
 
「や、お肉食べない……、チビ、いらない!ぷんっ!」
 
(……ああ、すねるチビちゃんも可愛いわあ~……、ってそんな事
言ってる場合じゃないわっ!)
 
「チビちゃん、我がままばかり言ってると、赤ちゃんに
笑われちゃうわよ!」
 
「……嫌いっ!赤ちゃん嫌いっ!!きゅぴぴぴぴぴ!!」
 
「あっ、チビちゃんっ!!」
 
赤ちゃんでチビはますます機嫌が悪くなり、空を飛んで
タンスの上に上がってしまった。
 
「……ぎゅっぴ、ぎゅっぴ!!」
 
「どうしよう……、チビちゃんたら、もう~……」
 
 
アイシャは炸裂したチビの我儘に困り果て、一旦ジャミル達に
相談に居間へと戻る。
 
「どうだったい?」
 
「駄目なの……、凄いわ、怒りのきゅぴぴぴぴぴ!!
……だったもの……、おまけに、きゅっぴが……、ぎゅっぴに
なっちゃったの……」
 
「ハア……?意味わかんねー、けど……、俺にだったら間違いなく、
放屁攻撃だったな……」
 
「いつも自分がしてる事じゃん……」
 
「……うるせーな!バカダウド!!」
 
「ご飯で釣っても駄目かい?」
 
「……駄目よ、食いしん坊のチビちゃんが……」
 
と、其処に……。
 
「あの、ジャミルさん……、ですよね?」
 
「あ?俺だけど……」
 
「どうも初めまして……、弥生の夫です、妻がとてもお世話に
なったそうで……」
 
つい先程、仕事から帰宅したばかりの弥生の旦那がジャミルに
挨拶し、握手を求めた。
 
「へえ、いや、こちらこそ……、あはは……」
 
「皆さんも、お友達ですよね?いやあ、会えて嬉しいです!
今夜は皆で楽しくやりましょう!!」
 
「こちらこそ、有難うございます……」
 
「えへへ、宜しくです……」
 
「初めまして……」
 
他の3人も旦那に挨拶する。
 
「さあ、皆、お肉どんどん焼くよー!ジャミルさん達も遠慮しないで
沢山食べとくれ!!」
 
母親と弥生が追加分の肉を居間へとどんどん運んでくる。
 
「はーい、遠慮しませーん!」
 
「……ジャミルったら……!恥ずかしいでしょ!!」
 
アイシャが注意するが、ご馳走を目の前にしたジャミルは珍野獣と化す……。
 
「折角のお肉、チビちゃんにも食べさせてあげたいよお~……」
 
ダウドが心配そうに自分の分の肉を見つめた。
 
「食いたくねえって言ってんだからしょうがねえだろ!」
 
「……意地を張ってるだけだよ……、たく、そんな事も
分かってやれないの……?」
 
「そうだよ、自分ばっかり野獣ウホウホみたいに食べてさ……」
 
アルベルトとダウドがジャミルを遠目で見る……。
 
「分ってるよ……、けど何だっ!バカダウドっ!野獣ウホウホ
っつーのは!!」
 
「あいたっ!!」
 
「きゃー、きゃー、ぷうううー!」
 
トウマが意味不明の言語を発しながらトコトコとジャミル達の
傍まで近寄ってくる。
 
「……おい、また転がりそうにならないでくれよ……?」
 
「いーぴーぴー!!ぽえええぷー!あっぽ!ぷいいい~」
 
「まだちゃんとお喋り出来ないけど、赤ちゃんて本当に可愛いわ……」
 
「あいっ!でしゅっ」
 
傍に寄ってきたトウマを撫でながらアイシャが呟いた。
 
 
そして、いじけっぱなしのチビは……。
 
「きゅぴ、……お腹すいたよお……、いい匂いする……、ほんとは
チビもお肉食べたい……」
 
「チービっ、ほーれ、肉貰ってきたぞー!!」
 
襖ががらっと開いて、今度はジャミルが部屋にやって来た。
 
「……ぷんっ!」
 
チビは部屋に入って来たジャミルを見ると慌ててそっぽを向く。
 
「何だよ、お前それでツンのつもりかー?似合わない事は
よしたまえ、はっはっ!」
 
「……」
 
チビは黙りこくり、更に不機嫌になる……。
 
「チービ、チビチビ、ほーら、降りてこい~、食いしん坊の
意地汚いチビちゃん、……ほ~ら、ほ~ら……、お肉だよ~、
ほーれほれほれ……」
 
それはアンタである。ジャミルはわざわざタンスの傍まで近づき、
チビを刺激させてしまう。
 
「ジャミル、うるさい……、……馬鹿きゅぴ?」
 
チビは一言、ぼそっとジャミルを半目で見て、冷たく言い放つ……。
 
「チビっ……!この野郎……!!いい加減に降りて来ねえとっ!」
 
「こらっ!脅してどうする!!」
 
「イテッ……!!」
 
アルベルトがジャミルの頭にチョップでげしっ……。
 
「こんな事だろうと思ったわ……」
 
「本当だよ、もう少しやり方考えなよお……」
 
他の3人も心配で様子を見に来たのだった……。
 
「……うるせーなっ、甘やかすばっかりじゃ駄目なんだよっ!」
 
「それは、そうだけど……、でも……」
 
アイシャが心配そうにタンスの上のチビを見上げた。
 
「チビ……、ジパング嫌い……、もう帰りたい……、
すぐ船に戻るなら……、チビ、此処から降りるよお……」
 
「……チビちゃん、それは駄目よ、謝りなさい……」
 
「ぴ?」
 
「此処は私達にとっても大切な思い出の場所なのよ……、
そんな悲しい事言うなんて……、幾らチビちゃんでも酷いわよ……、
もう口聞いてあげないんだから……」
 
……アイシャがぐしぐし泣き出した……。
 
「ぴ、ぴ、ぴ……、きゅぴ~……」
 
泣き出したアイシャの姿を見てチビがオロオロ、焦り出す。
 
「……どうすんだよ、チビ……、アイシャが泣いちまったぞ……?」
 
「ぴきゅ~……、アイシャ……」
 
アイシャが泣き出した事で更に騒動は広がりそうになる……。
 
「ごめんなさい……、アイシャが口聞いてくれないの嫌……、
チビも悲しいよお……、アイシャ……、泣かないで、ごめんね、
ごめんね……」
 
泣き出したアイシャの姿を見て、等々チビが観念し、
タンスから降りて来た……。
 
「……じゃあ、ちゃんと皆にご挨拶に行くのよ……?約束して……」
 
「きゅぴ、わかったよお……」
 
4人はチビを連れ、皆の集まっている居間へ戻る。
 
「おーい、どうしたんだい?主役がいなくなっちゃ駄目だろう!」
 
「あはははは!」
 
「へえ……」
 
どう返事をしたらいいのか、困って頭を掻くジャミル。
 
「あらららー、かわいいねー!それは何だい?鳥かい?
変わった鳥だねえー!」
 
チビの目の前でお酒を飲んでいたおばさんがチビを見て興奮しだす。
 
「チビは鳥じゃないよー、ドラゴンなのー!」
 
「そうなんだー、ドラゴンて言う鳥さんなんだねー、へえー!」
 
「凄いなあ、……喋るんだなあ!」
 
「きゅぴ……」
 
ちょこっとチビが又不機嫌そうな顔をする……。
 
「チビ、今日は宴会だからな、皆と仲良くしてくれよ、ホラ……、
酌代わりに挨拶して来い」
 
「わかった……」
 
ジャミルが軽くチビを肘で突くと、チビは頷き、皆の所へ飛んでいく。
 
「きゅぴーぴっ、ぴっ!」
 
チビはくるっと一回転し、ポーズを決め、尻尾ふりふり、
皆にキュートなご挨拶。
 
「あはははー、いいぞーいいぞー!」
 
「可愛いー!がんばってー!!」
 
酔い始めている所為もあるのか、大人達はチビを見て大騒ぎである。
 
「チビの奴……、段々機嫌が直って来たな……」
 
「ほーら、お小遣いだぞー!これでうまいモン食べなー!」
 
「きゅぴ?ぴ?ぴ?」
 
終いには……、遂におひねりをチビに向かって投げ始めた。
 
「……!!」
 
「ジャミル、駄目だよ……、明日、皆の酔いが醒めたら全部集めて
お返しするんだからね……」
 
咄嗟に動こうとしたジャミルの肩をアルベルトがポンと叩いた……。
 
「……くう~っ!」
 
「泣かんでもいいっしょ……」
 
アホ丸出しのジャミルにダウドが呆れた……。
 
「チビちゃん、凄いわ……、うふふ、皆さんを楽しませてくれて
本当に有難う」
 
弥生がトウマを抱いてチビの傍までやって来る。
 
「だっ、ちー、ちー!」
 
「きゅぴ……」
 
トウマがチビの頭をなでなでする。すると。
 
「ぴっきゅ!」
 
チビもお返しにトウマの頬をペロペロ舐めたのであった。
 
「良かったわ……、チビちゃんとトウマ君……、やっと仲良しに
なれたのね……」
 
様子を静かに見守っていたアイシャは安心し、胸を撫で下ろした。 
そして、宴会も終わり、酔っぱらった大人達はそのまま寝てしまい、
居間は火が消えた様に静かになった……。
 
「さあさあ、あたし達も片付けが終わったら寝ましょうかね!」
 
「楽しかったわ、本当に……、久しぶりにこんな時間が
過ごせたのもジャミルさん達のお蔭です……、楽しい一時を
本当に有難うございました……」
 
弥生が皆に向かって丁寧に頭を下げた。
 
「いや、そんな……、俺らは何も……、なあ?」
 
ジャミルが照れながら他の3人を振り返った。
 
「皆、此処で寝ちゃったけど……、大丈夫なんですか?」
 
「ああ、明日、酔いが覚めりゃ皆勝手に帰るから
いいのいいの!」
 
弥生の母親が笑いながら、心配しているダウドに
向かって手を振った。
 
「はあ……、自由奔放なお付き合いなんですねえ……」
 
「あはは!あたしらいつもこんなモンさ!」
 
弥生の母親が大きな声で豪快に笑った。
 
「ぷーぷうー……」
 
「きゅぴ……」
 
そして、トウマとチビは一緒に座布団の上で眠ってしまっていた。
 
「あなた、トウマをお願いします、私達はまだ後片付けが
有りますので……」
 
「ああ、……ジャミルさん達も……、今日は楽しい夜を
有難うございました、それでは私は明日も早いのでこれで
失礼します……」
 
「俺達の方こそ……、有難う、機会が有ればまた騒げるといいよな」
 
ジャミルが挨拶すると、旦那は笑みを浮かべて頭を下げ、トウマを連れて
自室へと姿を消す。
 
「それにしても、今回は久々の凄い反抗期だったねえ、オイラ
びっくりしちゃったよ……」
 
「玉に悪さもするけど、大体普段から基本的にチビはいい子過ぎんだよ、
……玉にはこういう事もなくちゃな……」
 
「……はあ、玉にはジャミルもいい子になってくれれば……」
 
「何だとっ……!?このシスコンめ!!」
 
「……うるさいっ!最近毛が薄くなったなあ!よし、決めた!
増毛するぞ男めっ!」
 
「ぎゃはははは!ジャミルもアルも……、バ、バカだよお~!」
 
「よしなさいったら、……本当にもう~!!」
 
「ふふ……」
 
そんな4人の様子を弥生は……、嬉しそうに温かい目で
見つめていたのだった。

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  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
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登録日
2024-05-04

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