zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ45~48

エピ45・46

大苦戦……

「チビちゃんも、ペー君も……、お腹空いてるでしょ?
これ、おかみさんが作ってくれたロールサンドの残りだけど……、
はい……」
 
「きゅぴ~っ!」
 
チビは美味しそうにロールサンドに被りつく。
 
「お、おれも……?食べていいの……?」
 
「うん、どうぞ、ハンカチも持ってきたから、食べる前には
ちゃんと手を拭いてからね」
 
「へ、へへ……、ありがとう……」
 
「美味しい?」
 
アイシャはペースケの隣に座り、頬杖をついてペースケの顔を
覗き込んだ。
 
「うん、凄くうまいよ!」
 
「良かった……、今度、宿屋のおかみさんに会ったら、ちゃんと
お礼を言ってね?」
 
「う、うん……」
 
「前はこのほこらにね、ちょっと変わった親子さんが住んでいたのよ?」
 
「す、住んでたの?こんな、せまっちい場所にかい?」
 
「うん」
 
「はあ~、色んな奴らがいるんだねえ……」
 
「ぴいい~、チビ、ねむねむ……、ぴきゅ……」
 
「あら?チビちゃん……?」
 
「zzzz」
 
やっとアイシャに会えて安心したのか、まだロールサンドも
食べ掛けのまま、チビが眠ってしまった……。
 
「本当に、まだまだ赤ちゃんなんだから、チビちゃんたら……、
それにしても最近よく眠るわね……、又大きく成長する
前兆なのかしら……」
 
「でも、おれ……、さっき、凄くうれしかったんだ……」
 
ロールサンドを食べる手を止め、急にペースケが
ぼそっと喋り出した。
 
「今まで、おれの事、邪魔にするやつらは沢山いたけどさ、
本気で怒ってくれる奴なんかいなかったから……、だから……、
凄くうれしかったんだ……」
 
「ぺー君……」
 
「姉ちゃん、おれ……、もう悪い事本当にしない……、だから……、
奴らの事、全部話すよっ……!!」
 
 
そして、ジャミル達男衆は密猟者組織との
戦いの場へと……。
 
「結局、あの親父……、あれから宿屋に来なかったなあ……」
 
「でも、空家の近くで待っててくれるんでしょ?」
 
ダウドが不安そうな声をだした。
 
「おかしいなあ……」
 
「あ、また何か考え出したな、よせよ、アル……、
頼むからさ……」
 
「何て言うか……、段々変な感じがして来たんだよ……、
その……、今はとても会いたくない物に出会ってしまう様な……、
そんな変な悪寒がするんだよ……」
 
「……おいおい、この間の俺じゃねえんだぞ、ガライ以上のモンが
待ってるっつーのか?」
 
「ねえ、もう空家に着くんだけど、あのおじさん……、
途中で会わなかったよねえ……?」
 
「……」
 
ダウドが貰った地図を見ながら、困った顔をする。
 
「とにかく、今は行ってみるしかねえだろ……」
 
「そうだね……」
 
「何だかなあ……」
 
男衆は空家に足を踏み入れた。内部は既に廃墟の為、
恐ろしいほど静かである。
 
「何だ……、誰もいねえけど……、やっぱりあの親父、
まだ来てねえな」
 
 
♪のね~のねのねのねのね~……
 
 
「のね……?」
 
「……のね……?」
 
「……」
 
「ガキ共、会いたかったのね~、嬉しいのねー……」
 
「!?お、お前らは……!!」
 
「ああああっ!!」
 
「……?」
 
男衆が声のした天井の方を見上げると、上にいたのは……。
ボロボロの天井の柱にぶら下がった基地害馬鹿トリオだった。
 
「誰だっけ……?」
 
「さあ……?」
 
「知らないよお……」
 
馬鹿トリオは激怒して天井の柱から飛び降りる。
 
「こ、この馬鹿野郎共め!この顔を忘れたとは言わせねーのね!」
 
「のねえー!」
 
「なのねー!」
 
ジャミル達は首を傾げて、暫くの間……、誰だったか考えていたが、
暫く立って漸く顔を思い出した様だった。
 
「ああ……、糞馬鹿トリオか、ふ~ん……、て、何でお前ら
此処にいるんだよ!炭鉱で働いてたんじゃねえのか!!」
 
「あんなとこ、僕らがいつまでも大人しくいると思うのね~?」
 
「隙を見て逃げ出してやったのね~!」
 
「ねええ~!!」
 
「はあ、そう言う事かよ……、たく……」
 
ジャミルがこめかみを押えた……。
 
「お~ほほほほほ!なのねー!」
 
馬鹿トリオは揃って足を上げ、肩を組み、フレンチカンカンを
踊り出す……。
 
「ぼくらは、今はお偉いさんの処で働いてるのねー!」
 
「とてもエライ人達なのねー!金になるモンスター達を殺して殺して、
殺しまくって牙を売り飛ばして金銭に替えたり、色々お仕事したり
してるのねー!!」
 
「おほほほのほ~!なのねー!!」
 
「ん……?金銭に替えて……?」
 
「お前達……!今度はもしかして密猟者側についたのか……!?」
 
事実に気づいたアルベルトが怒りを顕わにし、声を大にする。
 
「ごめいとうさーん!なのねー!」
 
「のねー!」
 
「ねー!」
 
「ど、どう言う事だよ……」
 
「何がなんだか……、わかんないよお……」
 
「ジャミル、これは罠だよ、僕ら、嵌められたんだ……」
 
「はあ…!?」
 
「僕の推測が正しければ……、こいつらは囮で……、僕らを
足止めする為に此処に派遣されたんだ……、密猟者達が本当に
狙ってるのはチビの方だ……!!」
 
「ま、待てよ……、俺ら、あの親父が言った密猟者組織と
なんか面識ねえだろ?何でチビの事知ってんだよ、おかしいだろ……?」
 
「もしも……、あの……密猟者ハンターが……、黒幕だったと
したら……?」
 
「そ、そんな事ないよお……、だって……」
 
「……そういや、あの親父……、思い出してみると何か行動が
挙動不審過ぎるしな、此処にも来ない処を見ると……、俺、信頼して
チビの事とかべらべら喋ったし……、もし本当にそうならこりゃ、
やばすぎるな……」
 
「そんなあ、オイラ達……、利用されただけなの……?酷いよお~……」
 
「チビを連れているペースケが危ない……!!」
 
「冗談じゃねえぞ!後を追ったアイシャもだよ……!!」
 
「い、急がないとだよ……!!」
 
「……こらあ!ぼくらを無視するんじゃないのねえ!!」
 
「のね~!!」
 
「のね~!!」
 
踊っていた馬鹿トリオが踊るのをぴたっと止めた。
 
「お前らは此処で、じ、えんどおお~なのね!」
 
「のね~!」
 
「なのね~!」
 
「……相変わらず、ウゼー奴らだなあ!邪魔ばっかしやがる…!
アル、ダウド、とっとと倒しちまうぜ!!」
 
「うるせーのね!今回のぼくらは一味違うのね……!
やるのね、子分A、B!!」
 
「やっちゃうのね!」
 
「のねー!」
 
子分AとBが再び、天井の柱の上に上った。そして……。
 
「この空家をアホで満たすのねー、それっ!」
 
「それーっ!!」
 
天井から子分共がジャミル達に向けて、謎の粉をばら撒く……。
 
「う、うええ!?な、何だこれ……、う、グッ……!」
 
ジャミルが慌てて粉を吸わない様、口を押えるが……。
 
「……く、くさいよおお!」
 
「だ、駄目だよ……、うっ……、吸っちゃ……!うう……」
 
「幸せのエキスなのねー!これ吸ったら、皆幸せになるのねー、
ぼくら兄弟が共同開発したのねー!特許出願中なのねー!」
 
「……何がだよ、なのね……、……!?」
 
「ジャミル……?」
 
「しゃ、喋り方が何か変なのねー?……あ、あれ……?
オイラも変……???」
 
「……うぎゃああああー!!じょ、冗談じゃねーのねーっ!!」
 
頭を抱え、絶叫するジャミル……。
 
「い、嫌だよお、なのねーーっ!?」
 
「……と、言う事は、僕も?嫌なのねーっ!!あ……」
 
「これからは、馬鹿セクステットで仲良くやるのね、よう兄弟!」
 
リーダーがジャミルの頭をポカリと叩いた。
 
「……冗談は顔だけにしとけなのね、んなろ……、あああ~っ!!
ちくしょーっ!何か調子がでねえのねーーっ!!」
 
「ジャミル……、僕、この状態であんまり今喋りたくないんだけど……、
どうも、魔法の調子も良くないみたいで……、出があんまり……」
 
「あ?」
 
試しにアルベルトがメラを出してみると……、魚のボラが出た……。
 
「ね……?」
 
「さらに、この薬の素晴らしいところは……、段々と脳波も
ぼくらと同じ、いい感じに満たされていくのね……、幸せすぎて
終いには頭にお花が咲いちゃうのね……」
 
「うん、そうなのね……、オイラ……、頭が何かぽわ~んと
してきたのねえ……」
 
「ダウド……?お前……」
 
「こ、これ……、や、やばいよ、ジャミル……、
の……ね……」
 
恥ずかしいので声を最小限に抑えたくて、アルベルトが
必死で何とか小さく喋る。
 
「……お~ほほほほほ!オイラはダウドなのねええええーっ!!」
 
遂に頭に毒が回り、ダウドが新たな馬鹿兄弟の一員として、
覚醒してしまったのだった……。
 
「……バーカーダーウードおおおおーーっ!!」
 
ジャミル再び絶叫す……。そして、男衆が足止めを喰らっている頃……。
 
「そうだったの、あのおじさん、正体は密猟者組織の
ボスだったのね、何てこと……、優しそうな顔してたからって……、
私達油断し過ぎてたわね……」
 
眠っているチビを撫でながら、疲れたアイシャが憔悴しきった
様な顔をする。
 
「宿屋に行ったのも、おれには難しいことはわかんねえけど、
いい人をよそおってさあ、密猟グループと敵対してたり、
はむかう組織なんかあちこち探して、片っ端から始末して
消してるみたいな感じだったから、本当はその辺の情報が
聞きたかったんじゃないのかなあ?」
 
「そこで、偶々、私達と会っちゃったから……、これは
大変な事になったわ……!」
 
「へへ、そりゃ大変だなあ、お嬢ちゃん……」
 
「あっ、……あんた達っ!!」
 
「アニキ達……、何で……、ここが……?」
 
ペースケが脅え、アイシャにぎゅっとしがみ付く……。
 
「ガキの浅知恵なんか、ちょろいもんだ、それより、
ボスがお怒りだぞ……、裏切り者は遠慮なく射殺だとさ……、
じゃあな……」
 
そう言って、密猟者達が二人に一斉に銃を向けた……。


振り回されて……

「……ねえちゃ~ん……」
 
ペースケがアイシャにしがみ付く力の強さが一層強くなった……。
アイシャは片手でしっかりチビを抱き、もう片方の手で
ペースケを庇う。
 
「大丈夫よ、私に任せて!」
 
「お二人さん、あの世への旅立ちの準備は出来たかい?
おっと、その抱いてるドラゴンは置いてけよ!」
 
(私、ルーラ使った事、一度もないけど……、いちか
ばちかよね……)
 
「ぺー君、私にしっかり掴まってるのよ、絶対に私から
離れちゃ駄目だからね!」
 
「え?ええええ……?」
 
「んじゃ、ま……、仲良くやれよ!」
 
密猟者の男の一人がアイシャ達にトリガーを発射する、その瞬間……。
 
「……リレミトっ!」
 
間一髪でアイシャ達は一瞬でほこらの外へと脱出する。
 
「わ!外に逃げられたっ!?」
 
「ぺー君、まだよっ!」
 
(お願い……!どうか私達を出来る限りあの人達から遠くへ……!)
 
「ルーラっ!!」
 
まずはリレミトでほこらから脱出……。そして立て続けに連続で
ルーラを唱えると密猟者組織の群れから遠くへと離れ逃げようとする。
アイシャも必死でピンチを切り抜けようとしている中、大苦戦の男衆は……。
 
「ああっ、あまり喋りたくないんだけどなあ~、なのねー……、って、
もう嫌なのねー!!ダウド、しっかりするんだなのねー!!」
 
アルベルトも口調がどんどんおかしくなってきてしまい……。
 
「おほほほ!おほほなのねーだよお~!」
 
ダウドはダウドで、ふらふらと彼方此方動き回ろうと
するのを止めない。
 
「さあ、新しい兄弟よ、こっち来るのねー!お前は今日から子分Cに
任命してやるのねー!」
 
「……っ!このバカダウドっ!やたらとフラフラすんじゃねえ
なのね!……くしょ~っ!」
 
馬鹿トリオがダウドを誘う声にダウドが反応してしまい
馬鹿トリオの方へ歩いて行こうとするのをジャミルが
大声を出し、必死に阻止するがダウドの耳には全く入っていない。
明らかにジャミルもおかしくなってきている為、どうにも出来ず……。
 
「どうしよう、このままじゃ僕らも完全に洗脳……」
 
 
……きゃあああああーーーーっ!!
 
 
「な、何だよ、今の声、どっかで聞いた事あるような……」
 
「今、何か物凄い勢いで何かが海に落ちた様な音が……、
い、隕石かな……」
 
 
「……やーだー、失敗しちゃった……、でも逃げられたから
良かったけど……、私もまだまだ修行が足らないわあ……、
コントロールが出来ないんだもの、……は、はくしゅん……!!」
 
ルーラの使用に慣れていないアイシャ。どうにか危機から脱出したが、
ペースケ、チビを抱えたまま、落ちた先は海の中であった……。
しかし、運良く、墜落した場所は偶然にもジャミル達が近くにいる
空家付近の側の海辺だったのでもあった。アイシャはびしょ濡れに
なりながらもペースケを連れ、眠ったままのチビを抱え、どうにか
海から上がり、砂浜まで辿り着いた。
 
「はあ、チビの奴すごいなあ、海に落ちても動じないで寝てるし、
大物だなあ…」
 
「きゅ~ぴ~……zzzz、お肉……もっと食べたいよお……、
ぴい~……」
 
「……ぺー君、あなたにチビちゃんを守って貰っていいかしら?
このままこのバッグにチビちゃんを入れてラダトームの宿屋の
ご夫婦の処まで逃げるのよ、頼んだわよ……、お願いね……」
 
「うん!……おれ、チビを今度こそ絶対に守るよ!」
 
アイシャがペースケの瞳を見つめる。アイシャはペースケを信じ、
チビをペースケに託す。チビを受け取ったペースケもしっかり
アイシャの顔を見て頷く。
 
「でも、姉ちゃん……」
 
「私なら大丈夫よ、このままジャミル達の方に加勢に
行ってくるわ!あそこ、家が見えてる、きっと地図に
記してあった空家よ!ジャミル達が向った筈だわ、急いで
密猟者達の事を知らせないと!」
 
「分ったよ……、姉ちゃんも気を付けてな……」
 
 
「アニキ~、今いくよおお~、なのね~……、
愛してるのねえ~!!」
 
「くっ、バカダウドめっ!大人しくしてろっ、なのねー!」
 
ジャミルとアルベルトはあっちこっち動き回ろうとし、フラフラ
落ち着かないダウドを必死で押さえて止めようとするのだが……。
 
「……ううっ、せめて真面に魔法さえ使えればっ!」
 
「邪魔なのねー!この野郎!ええい、放せー!なのねー!!」
 
「……うわっ!?」
 
いつものダウドからは考えられない凄い力で、ダウドが
ジャミルとアルベルトを拳で思い切り殴り飛ばした。
 
「くそっ、ダウドの奴め……、後で覚えてろ!船に戻ったら
又玉葱剥きの刑だっ!!」
 
「ジャミル……、ごめん、僕ももう……、限界なのねえええーーっ!!」
 
「アルっ……!!お前までかよっ!!」
 
遂に……、アルベルトの頭の中まで壊れてしまったのであった……。
 
「さあ、兄弟達よ、こっちいらっしゃいなのねえ~」
 
「ジャミルーっ!私も戦うわーっ!」
 
「……アイシャか!?」
 
漸く追いついたアイシャが急いで此方に走って来た。
 
「あれ何よ……、毎度お馴染の変な人達がいるじゃない……、
どういう事……?」
 
「ややこしい事態になっちまってよ……、とにかく又戦わなきゃ
イカンらしい……」
 
(そうなの……、あのね、チビちゃんは、ペー君に任せて、
先にラダトームまで急いで戻ってもらったの……)
 
馬鹿トリオに聞こえない様に、ジャミルの耳元でアイシャが話す。
 
(そうか、でも、今……、俺らもやべえんだよな……、なのね~……)
 
「ちょ、何よ……、その喋り方……!」
 
「あいつらもだよ、あいつらもっ……」
 
ジャミルがダウドとアルベルトの方を指差す。段々表情がイカレ始め、
ラリラリ、ラリってきている様だった。
 
「のね~、だよお……」
 
「なのねー……」
 
「……ぎょっ!?」
 
アイシャがぎょっとする。ダウドとアルベルトは
ぼーっとしたまま動かない……。
 
「……ちょっと!どうしたのよ、ダウド、アル!!」
 
「あいつらにやられたんだ、やつらが持ってる変な粉を
ばら撒かれたらさ、あの通りさ……、なのね……」
 
「私の方も大事な報告があるのよ!」
 
「……メス餓鬼襲来、やるのね!お前ら……!!」
 
アイシャに気づいた子分Aと子分Bが、アイシャに向けて
粉をばら撒こうとする。
 
「……あぶねえっ!!」
 
「きゃあっ!ジャミルっ!!」
 
ジャミルが慌ててアイシャを突き飛ばし、覆い被さって庇う。
 
「大丈夫か?、アイシャ……」
 
「うん、ありがとう……、でも、何なの?一体……」
 
「まーだオメーは完全に侵食されてねーのか!なのねー!!」
 
「のねえー!!」
 
「のねえー!!」
 
 
「おい、兄弟!おめーらも早くこっちに来るのねー!
一緒に踊るのねえ~!」
 
 
馬鹿トリオが声を揃え、怒りながら再び肩を組み、踊り出した……。
 
「どうやら、ちょっと危ねえ……、ヤクらしい……」
 
「もしかして、アルとダウドは……、吸っちゃったの……?」
 
「俺もだよ……」
 
「いやっ!しっかりしてよっ、ジャミルっ!!バカバカバカっ!!」
 
アイシャがジャミルに飛びついてポカポカ拳で胸を殴る。
 
「時間の問題なんだ……、早くどうにかして…、毒を消さねえと……、
なのね……、俺らもあいつらみたいになっちまう……」
 
ジャミルはそう言いながら、揃って足を上げて楽しそうに
バカ丸出しでフレンチカンカンダンスを踊る馬鹿トリオの方を見る。
……一刻も早く毒素を消さないと、いずれはジャミル達もこの中に
巻き込まれてしまうであろう……。
 
「ちょっ、真面目な顔して、文の最後に変な語尾つけないでよっ、
どうリアクションしたらいいのよ……」
 
「……俺だって好きで、んな喋り方してる訳じゃねえっ!……のね~!
あーーもうー!!」
 
思う様にちゃんと喋る事が出来ない為、ジャミルのイライラは募る……。
 
「お前達、優しいこのカシラのぼくが、いい事思いついたのね?
どうせなら皆仲良くお仲間の手で侵食される方がいいのね、やるのね、
新しい兄弟達!」
 
「……」
 
「……」
 
「アル?ダウド……」
 
粉の袋を子分共から手渡された二人がゆっくりと、無言でジャミルと
アイシャに近寄ってくる。
 
「冗談でしょ……?嘘よね……?」
 
「アイシャ、このままじゃお前まで大変な事になる、お前だけでも
逃げろ……、のね……」
 
「いや、嫌よ……!皆を置いて逃げられないよ……!!」
 
「バカっ!……此処で皆やられたら……、お終いなんだぞ……!
……なのね……」
 
「ぷ……、ぷぷ……」
 
アイシャが必死で笑いを堪える……。ジャミル本人は
真面目に喋っているつもりなのだが……、どうしても
余計な語尾の所為で……、台無しになる……。
 
「のねーーっ!!」
 
「のねーーっ!!」
 
「……アイシャーーっ!!」
 
「いやあああーーっ!!やだーーっ!!」
 
遂に二人に向け、近寄って来たアルベルトとダウドにより、
薬粉をばら撒かれる……。
 
「おーほほほほほ!これで皆仲良くお花畑ー!なのねえー!」
 
「なのねー!!」
 
「なのねー!!」
 
暫くの間……、空家に沈黙が流れた……。
 
「……あれ?私……、何ともない……、よ?」
 
アイシャが不思議そうな顔でジャミルを見た。
 
「ほ、ほんとか……?大丈夫か?……なのね……?
ほんとにホントか?」
 
ジャミルが焦ってアイシャの肩を掴んだ。本当にアイシャは
いつも通り、正常である。
 
「う、うん……、本当よ……」
 
「どーなってんのねー!お前ら、真面目に粉ばら撒いたのか!?
なのねえーー!!」
 
リーダーがアルベルトとダウドにキーキー怒鳴る。
 
「知らないよおお、なのね~……」
 
「僕も……、なのね……」
 
「あ、アニキ……」
 
子分AとBが申し訳なさそうに、リーダーに近づいて行った……。
 
「何なのねえ!?」
 
「奴らに渡したの、ただの小麦粉だったのね……」
 
「間違えたのね……」
 
「この馬鹿共ーーっ!!何でこんな処に紛らわしい小麦粉なんか
持ち込むのねーっ!!」
 
「戦ってお腹が空いたら、もちもちお焼き作って焼こうと思って
持ち込んだのね」
 
「のねー、腹が減っては戦ができないのねー」
 
「バカ過ぎて何も言えないのねーーっ!この馬鹿共ーーっ!!」
 
「アニキだってバカなのねーっ!!」
 
「のねーっ!!」
 
馬鹿トリオは等々殴り合いを始める……。
 
「お?何か、揉めてるみたいだなあ……、なのね……」
 
「うん、じゃあ……、この隙に……、……あっち行っちゃい
なさいーーっ!!」
 
アイシャが怒りのイオナズンを唱え、馬鹿トリオは爆発被害に
巻き込まれる……。
 
「……ウーン、なのね……」
 
「また……髪の毛も……、吹き飛んだ……のね」
 
「また……つるっぱげ……、なのね……」
 
馬鹿トリオは揃って首を揃えコテンと気絶する。
 
「……はあ、どうにかウゼー邪魔者は気絶したな……、なのね……、
けど、どうやったら一体こいつら大人しくなるんだか……」
 
「早く、その口調治して貰わないと……、後は……、この二人も
どうしよう……」
 
「……」
 
「……」
 
ジャミルとアイシャコンビは洗脳され、ラリっているアルベルトと
ダウドを見つめるのだった……。一体どうしたらいいのかと……。

エピ47・48

いつか来るその日まで

「ちょっと、アルもダウドも、いい加減、元に戻ってよ!」
 
「だよお~、なのね~……」
 
「僕も知らんのねえ~……」
 
アイシャが必死で呼びかけるが、相変わらず二人はそのままの
状態であった。
 
「俺だって……、いつまで正気を保ってられんだか……、うっ……」
 
「……やだやだやだっ!駄目よ、ジャミルっ……、嫌だよ……」
 
アイシャがぎゅっとジャミルにしがみ付いた……。
 
「もしも、俺までああなったら……、後はお前しかいねえんだ、
頼むぞ、アイシャ……、なのね……」
 
「だ、だからっ……、真面目な顔してその語尾止めてよっ……!
泣いていいのか、笑っていいのか……、判らないじゃないっ……、
もう……」
 
「……俺、この際だから……、自分が自分じゃなくなる前までに……、
やっておきたい事があるんだ……、のね……」
 
アイシャの目を真剣に見つめ、ジャミルが言う。
 
「だからっ……!そんな事……、言わないでったら……」
 
「止めるなよ、アイシャ……」
 
そう言って、ジャミルはアイシャから離れた。
 
「ジャミル……、やめてお願い……、何をするの……?」
 
ジャミルはアルベルトに近づき……、そして……。
 
「この際だから、お前に言っておきたい事がある……、
……このシスコン……!腹黒野郎!デコ!ウンコ!」
 
 
        ……パンッ!!
 
 
「……っつう~……」
 
「ア、アル……」
 
アイシャの目が潤んだ。……どうやらアルベルトはジャミルの
毒舌に刺激され、ついかっとなった事で、どうにか自分を
取り戻したらしい……。
 
「久しぶりに、スリッパ振り回した様な気がするなあ~???」
 
「おめーなっ!暫くそれ使わねーと思ったら……、ちゃっかり、
まーだ持ち歩いてんのかよっ!!……なのね……」
 
アルベルトに後頭部を思い切り叩かれ、頭を押さえながら
ジャミルが喚いた……。
 
「ん?僕、いつも持ってるけど?どうして?」
 
「この、ドS、ドMめえ……、なのね……」
 
「……アルーっ!!元に戻ったあー!あーん!!」
 
安心したのか、堪らずアイシャが泣き出す……。
 
「アイシャ、な、泣かないでよ、どうしたの……」
 
泣き出してしまったアイシャをアルベルトが慌てて慰めた。
 
「とりあえず……、魔法ももう大丈夫か……?なのね」
 
「あ、うん、調子が戻ったみたいだ……」
 
そう言ってアルベルトが再びメラを出してみる。どうやら魔法の
コンディションの方もすっかり元に戻った様であった。
 
「よし、俺と……、後、後ろのアホの毒も消してくれ、頼む……、
なのね……」
 
「たりらりら~んの、こにゃにゃちわ~……」
 
アルベルトはジャミルの毒舌により、自力で毒素を中和し、再び
魔法力の戻ったアルベルトのキアリーで、ジャミルとダウドも
どうにか毒素を中和する事が出来たのだった……。
 
「はあ~、まさか……、僕がジャミルの毒舌で助けられるなんて……、
何か妙にムカムカしてきたなと思ったら……、自然と自分の意志と感情が
戻ってきたんだ……」
 
「感謝しろよ、俺に!」
 
「いやですっ!!」
 
アルベルトがジャミルにアカンベーをした。
 
「なっ……!?こんのシスコンめ……!!」
 
「何だか、今日は二人のケンカをみられるだけでほっとしちゃうわ……、
何も変わらないって、本当に嬉しい事なのよね!」
 
涙を拭きながらアイシャが二人を見て微笑んだ。
 
「アイシャ……、へへっ、そうかもな……」
 
「うん、そうだね……」
 
照れながらジャミルも笑い、照れながらアルベルトも笑う。
 
「だけど、ねえ……、これどうするの……?」
 
お騒がせダウドも、もうすっかり元に戻っていた。
 
「この野郎……、早くここから出せなのね……」
 
「砂って熱いのね~え……」
 
「しっこもれそうなのね~……」
 
馬鹿トリオは北京ダックの如く、首から下を地面に埋められ、
頭だけが地上に出た状態でジャミル達に向かって吠えている……。
 
「おい……、おめえらに聞きたい事があるんだよ……」
 
「フン!話す事なんかないのねえ~!」
 
「ねえ~!」
 
「のねえ~!」
 
馬鹿トリオは揃って抵抗する。それを見たジャミルはやれやれと
声を洩らした。
 
「……仕方ねえ、古典的だけど……、リンチさせて貰うぞ……、
やれ、ダウド!」
 
「うん、……はい、これ……」
 
ダウドが棒に刺した茶色の物体を馬鹿トリオの顔の正面に付き付けた……。
 
「これはリンチじゃなくて……、……ウンチなのねえーーっ!!」
 
「うりうりうり……」
 
「……この外道めっ!何て酷い事をするのね~っ!!」
 
「鬼~っ!!」
 
「悪魔~っ!!」
 
馬鹿トリオは揃ってぎゃんぎゃん泣き喚く。
 
あまりのアホな状況にアルベルトは側にあった置き石に座り、
事が進むのを只管待つ……。
 
「……時間の無駄だなあ……」
 
「でも、ここ廃屋の空き家さんで良かったわね、殆ど土と
瓦礫ばっかりだもんね……」
 
「ああ、あいつらを頭から埋めるのには丁度適してたなあ……」
 
「いい加減、全部しゃべってよお~……、ほら、食べてよ、
美味しいからさ……」
 
遂にダウドが痺れをきらし、茶色の物体をリーダーの口元へ……。
 
「わかった、わかったのね~!全部話すのね~!」
 
「あのおっさんが全部悪いのねー!」
 
「あのおっさんは密猟者のお偉いさんなのねー!」
 
馬鹿トリオはあまり、細かい詳細や状況などが判っておらず、
それ以上の事は話せない様子であった。
 
「……そうかい、判ったよ、んじゃあ、やっぱり、アイシャが
伝えてくれた通り、あの糞親父が密漁組織の黒幕っつーことは
本当なんだな……、ま、こいつらからこれ以上聞き出すのは
無理そうか……」間も無く奴が此処に来るのは間違いないな……」
 
「そうね、私が逃げたほこらからもうすぐ、手下の追手も
此処まですぐ来るわよね……」
 
「つんつん、つんつん……」
 
「こら~っ!!ちゃんと喋ったのにっ!お前は何をするのね~っ!!」
 
「おい、ダウド、もういいぞ……、次は恐らくちゃんとした
バトルになるからな……、お前もきちんと準備しとけよ……」
 
「わかったよお~!」
 
ダウドがウンチの付いた棒をほおり投げた。
 
「助かったのねえ~……」
 
「のねえ~……」
 
「ねえ~……」
 
そして、馬鹿トリオは邪魔なので、アルベルトがラリホーを掛けた後、
バシルーラで遠くへ飛ばす……。
 
「よし、有害物質、排除完了したな……」
 
「どうせ、いずれまた何処かから現れるだろうけどね……」
 
と、アルベルトがぼやいたその時……。
 
「……皆、足音がするわ……!!」
 
「来たな……!大丈夫さ……、大した事ねえよ……」
 
やがて、あの親父を筆頭に密猟者集団が空家に姿を
現したのであった……。
 
「……」
 
「皆様……、大変お待たせ致しましたね……、こちらの方が先に
行って待っていると言ったのですが、変更してしまい失礼しました」
 
親父の後ろには銃を構えた子分が数十人……。
 
「別に、待っちゃいねーけど?全然……」
 
「私達は、あの大魔王ゾーマを倒したと云う、勇者一行をずっと
探しておりました……、とても面白い相手だと思いまして、是非
お相手をさせて頂きたいと日々願っておりまして、あなた達を
長い間探しておりました、そうしたら念願叶って、偶々滞在した
ラダトームでお会いした方々だったとは、本当に光栄でしたよ……、
あなた方の事はラダトームに来る前に、道で拾った基地害トリオさんから
お話を伺いましたので……」
 
「じゃあ……、……私達の事も、最初から狙っていたの……?」
 
アイシャの顔が真っ青になる……。
 
「密猟だけじゃなくて……、オイラ達も狙われてたんだ……」
 
「本業、密猟ですが……、暗殺業も営んでおりますので、
頼まれましたら快くお殺し致します、貰える金次第では
依頼者様の最高のお好みの殺し方を致します」
 
「……趣味悪いよお……~」
 
「そいつはどうも……、けどあんたも随分回りくどい事すんね……、
わざわざ味方を装ってさあ……、俺らを探してたんだったら、
さっさと奇襲すりゃ良かったんじゃね?」
 
「私は紳士なのでですね……、きちんと過程を踏んでから
事を始めるのです……」
 
そう言って、親父が腕を上げると、後ろの子分共がジャミル達に
一斉に銃を向けた。
 
「何が紳士だ、アホンダラめ……!!」
 
「……まあ、あなた方が子供ドラゴンを保護していると、
教えてくれましたので……、すぐに殺さず作戦を練ったわけです……、
ドラゴンは何処です……?」
 
「教えるかよっ……!馬鹿野郎……!!」
 
「やれ……」
 
親父が合図すると、子分共が構えていた銃がジャミル達に
向かって一斉に火を吹くがダウドが投げた炎のブーメランが
子分共が撃った玉を粉々に砕き、銃本体も一斉に叩き割り破壊する。
 
「……伊達に大魔王と戦ってないんだよおー!!」
 
「……流石ですね……、本当に素晴らしい……」
 
親父が蛇の様に舌なめずりをした……。
 
「諦めろよ、お前は俺達に絶対勝てない……」
 
「嫌ですね!必ずお前らを抹殺し……!あのドラゴンを
この手に入れてやる!!」
 
親父が後ろの子分共に再び合図をすると、子分共の姿が今度は
一斉にアークマージに変化する。
 
「えっ……?な、何で!?モンスターが……!?」
 
「あの人達、人間じゃなかったの……?」
 
アルベルトとアイシャも唖然とし、状況が掴めないでいた……。
 
「こいつらは、人間である事を捨て、悪魔に自ら魂を
売り渡し……、モンスターになった哀れな人間の末路です……、
最も、私もそうなんですがね……」
 
親父はそう言い放つと、自身も殺人キラーマシンへと姿を変えた……。
 
「ククク、モンスター……、サイコウ……、クク、ククク……、
アンサツ、サイコウダア……」
 
「こいつ、狂ってやがる……」
 
「ジャミル、此処までやられたら、躊躇する事ないよ、倒してしまおう……、
こいつらの魂の浄化の為にも……」
 
「だな……」
 
4人は目の前の敵の姿をしっかりと見据える……。
 
「……俺がキラーマシンをやる、お前らはアークマージの方頼むわ!」
 
「分った!ジャミルも気を付けるんだよ!」
 
アルベルトが頷くとジャミルはキラーマシンの方へと走って行く。
 
「あう~っ!モ、モンスターとまともに戦うの暫らくぶりだから、
大丈夫かなあ……?」
 
不安に駆られながらも、ダウドが再び炎のブーメランをぐっと
握りしめる。アークマージ達の氷雪魔法攻撃に耐えられる様、
アルベルトがフバーバを張った。
 
「この手のモンスターは私の方の魔法が効きにくいのよね……、
アル……、お願い出来る……?」
 
「大丈夫だよ、バギクロス……!!」
 
強烈な鎌鼬がアークマージ達の身体を切り刻み致命傷ダメージを
与えていく。
 
 
「向こうは何とか、押してるみたいだな、心配ねえや……」
 
「ジブンノシンパイヲシタラドウダ?コゾウ……!!」
 
「おっと!危ねえなっ!」
 
キラーマシンが2連続攻撃を繰り出すが、機敏なジャミルは
咄嗟に避けて交わす。
 
「随分親切だね、あんた、注意してくれるとかよっ!!」
 
王者の剣を握りしめ、ジャミルが不敵な笑みを浮かべた。
しかし、キラーマシンも負けず機敏の為、どんどん動き回り
ジャミルを次第に追い詰めていく。
 
「……うっ!!や、やべ……」
 
キラーマシンの一撃がジャミルの右腕を切り裂いた。
 
「フフフ、ゾーマヲタオシタトキイテイタガ、タイシタコトハ
ナイデハナイカ、コゾウ……」
 
「はあ~、この一年……、俺も身体が鈍っちまってたからかなあ……、
マジでやべえかも……」
 
……斬られた腕を押さえながらジャミルが少し焦りを見せた。
 
「シネッ……!!」
 
キラーマシンが再び刃を振り下ろすがジャミルは咄嗟に
勇者の盾で辛うじて攻撃を受け止める。
 
「えいっ!当たれっ!」
 
「ダウド!!」
 
ダウドが加勢に入ってくれ、炎のブーメラン攻撃が
キラーマシンの頭部に命中した。
 
「向こうはアル達だけで大丈夫みたいだから、オイラも
こっちに物理で加勢するよ……!」
 
そう言って、ダウドもキラーマシンを見据えた。
 
「助かるぜ、ダウド!」
 
ジャミルがそう言うとダウドが頷いて白い歯を見せ
ニッと笑った。
 
「ダウド、……いけるか?」
 
「うん、大丈夫……!」
 
「ギガディンで一気にやっちまおう……、詠唱の間、何とか
持ちこたえてくれ、頼む……、俺、普段あんまし魔法使わねえからな……、
でも何とか、やってみっから……」
 
「わかったよっ……、ジャミルっ……!!」
 
ダウドが何とか足止めしてくれている間にジャミルは
呪文の詠唱を始めた。
 
「ジャマダ、ザコメ!オマエニハヨウハナイッ……!!」
 
「き、傷つくなあ~……!オイラだって、やる時はやるんだぞっ!!」
 
ダメージを全然与えていないのはダウドも承知だが、それでも何とか
時間を稼ごうとダウドが奮起する。
 
「……あうっ!!いっ……いった~!!」
 
キラーマシンがダウドの身体を斬り裂き、ダウドは地面に倒れ込む。
 
「よしっ、魔法力キタっ……!ダウド、待たせたな!
電撃最大級魔法っ……!!ギガディンっ……!!」
 
ありったけの魔法力を最大限に込めたギガディンを
キラーマシンにぶつけ……、鋼鉄のボディは一瞬で
黒焦げになった……。
 
「……あああ~、これやると……、やっぱ、俺にも
すんげー副作用……」
 
「あ、アルーっ!!早く来てーーっ!!ジャミルがーーっ!!」
 
何とか、アークマージの方も粉砕したアルベルト達が
慌てて駆けつける。
 
「大丈夫かい……?」
 
「ああ、大丈夫だ、……久々だったからな……、ダウドの方も頼むな、
斬られちゃってんだ……」
 
「わかった……」
 
ジャミルの方も治療し終えると、ダウドにもアルベルトが
べホマを掛けた。
 
「はあ~、助かったあー、アル、ありがとう……、えへへ、
オイラもちょっとは戦える様になったかなあ……?」
 
「……グググ、ウウウ、グ……」
 
「……まだ、動いてるわ!気を付けて!!」
 
「フン……、ワレラソシキヲ……、カイメツサセタカラトイッテ……、
イイキニナルナ……、……ニンゲントイウエゴガコノヨニ
ソンザイスルカギリ……、ドラゴンハエイエンニネラワレ
ツヅケルデアロウ……、シンニオソロシイノハ……、ニンゲン
ナノダカラナ……、……ク、ククク……」
 
キラーマシンはそれだけ言うと完全に事切れ、機能を失い停止した……。
 
「分ってんだよ、それでもチビは……、守れる限り、
俺らが守るのさ……、守ってやんなきゃ……、側に
ついていてやれる限り……、な?皆……」
 
ジャミルの言葉に他の3人も静かに頷く……。だが、
上の世界に戻ればその役目も、もうすぐ終わる事を
4人は嫌でも理解していた。
 
……密猟者との戦いなど永遠に終止符を討てない事も……。


漸く掴んだ小さな手掛り

ジャミル達4人と密猟者組織との戦いから数日が過ぎた頃……。
 
 
「ただいま……」
 
「ああ、お帰りなさい、皆さん、今日はどうでしたか…?」
 
「駄目だった、さっぱりだよ……」
 
「そうでしたか……、お疲れ様でしたね……」
 
ジャミル達はあれからも情報収集の為、毎日の様に宿屋から
城に通いづめであり、夕方に帰宅するその姿はまるで大学から
寮に帰ってくる学生の様でもあった。
 
「兄ちゃん達、お帰りー!」
 
「おう、ペースケ、さぼらずちゃんとおじさんとおばさんの
手伝いやってんだろうな?」
 
「何だよ、ちゃんとやってるさあー!!」
 
「本当に、毎日毎日手伝ってくれるのでとても助かって
いるんですよ、ね?ペースケちゃん」
 
「……お、おれ……、買い物行ってくるっ!確かおじさんが
パン粉足りないって言ってたからさあーー!」
 
おかみさんに褒められて照れながら、ペースケがダッシュで
宿屋を飛び出していった。実の親もおらず、孤児で身よりの無い
ペースケは子供の出来ない宿屋の夫婦の養子として迎えられたのだった。
 
「……ま、俺の事、短足って呼ばなくなっただけ、成長したかね……」
 
「あの、おかみさん、チビちゃんは……?」
 
アイシャがこそっとおかみさんと会話する。
 
「大丈夫ですよ、今日もペースケちゃんに沢山遊んでもらって、
疲れてお部屋で寝てますよ」
 
「そうですかー!うふっ、寝顔見にいっちゃおーっと!これが楽しみでー!
一日の疲れもふっとんじゃうわあー!」
 
親馬鹿アイシャがルンルンで部屋に走って行った。
 
「……旦那さん、おかみさん、本当にすみません……、僕ら
何日も宿をお借りっぱなしで……、このお礼はいつか必ず……」
 
アルベルトが夫婦に頭を何度も下げた。
 
「いやいや、気にしないでおくれや、わしらあんたらの事が本当の
子供の様に可愛くてしゃーねーんだよ、もちろん、ペー公もな……」
 
「そうですよ、お気になさらないで下さいね、どうか……」
 
「え、えへへ……」
 
照れ臭そうにジャミルが頭を掻いた。
 
「ほわあ、取りあえず密猟者の方も、これで一旦は
落ち着いたのかなあ……」
 
「まあ、大丈夫だろ……」
 
ダウドが呑気に欠伸するその横で、ジャミルが腕組みをし、頷く。
そして、次の日も、4人は城の地下資料室で本の山と格闘していた……。
 
「もう、大分此処の本も重要書籍も、読んだ様な気がするんだけど……」
 
「まだまだ、半分もいってないよ、ダウド……」
 
「あうう~……」
 
どうしようもない事実にダウドが思いっ切り首を横に曲げた。
 
「……はあ、常夏の島、ワイハかあ~、いいなあ……」
 
「ジャミル、何読んでるのよ、見る物が違うでしょ……」
 
「オメーこそ、何だ?その本、それ猫の写真集じゃん…」
 
「え?こ、これは別に……、少し息抜きよ……」
 
アイシャが顔を赤くし、慌てて本を閉じた。
 
「二人とも、ちゃんと真面目に探そうよ……」
 
アルベルトが注意するが……。
 
「……ぐう~!ぷうう~……ふにゃ……、?あっ!いけない!
本にヨダレ垂らしちゃった……、えへへ……」
 
ダウドが誤魔化し笑いをする。作業、相変わらず一向に進まず。
それでも、いれば悪戯をするチビを日中おかみさん達に預かっていて
貰えるだけでも資料を探す分、大分楽にはなっていたのだが。
 
「はあー、いつになったら終わる事やら……」
 
「そう言うけどよ、アル、この莫大な資料の中から目当てのモン
探すとなると、相当の時間掛るのが当たり前だろうが……、しかも
ほぼ誰も知らん知識だしよ……」
 
「それはそうだけど……」
 
「いいじゃん、ゆっくり探そうよおー!その方がいいんだからさ……、
えへへ……」
 
本にうっかりつけてしまったヨダレを拭き拭き、何故か嬉しそうな
顔をするダウド。
 
「……そろそろ、今日も時間だわ、引きあげましょ?チビちゃんが
待ってるわ」
 
今日も何も進展はないまま日も暮れ、4人は宿屋へと戻って行く……。
 
「きゅっぴー!お帰りなさーい!」
 
部屋へと戻った4人をチビがお帰りなさいのご挨拶。
 
「きゃー!チビちゃーん!ただいまー!今日もいい子
だったかしらー!」
 
帰宅後の、アイシャのチビハグハグ攻撃が炸裂する……。
 
「ちょ、アイシャ……、ずるいよおー!オイラにもチビちゃん
抱かせてよおー!」
 
アイシャの後ろでぴょんぴょん跳ねダウドが嫉妬する。
 
「……」
 
「ジャミル、本当は君もチビをギュウギュウしたいんでしょ……?
プ……」
 
「はあ?ば、馬鹿言ってんじゃねえっつーの!」
 
「いいんだよ、無理しなくて……、人間、素直が一番
なんだからさ……」
 
「うるせーな、このシスコンめ!」
 
「……意地を張るなって言ってるんだよ!この、動く
爆弾屁こき大仏!!」
 
「未来のアデランスinアートネーチャーは黙ってろっつーの!!」
 
……ジャミルとアルベルトの意味フ毒舌合戦が始まる中、
後ろでは癒しを求めてマイペースな皆様。
 
「今日もペーに沢山遊んで貰ったのー!楽しかったよおー!」
 
「そうなの、いいお兄ちゃんが出来て良かったわねー、
チビちゃん!」
 
「でも、今日はね、ペー、何となく元気なかったよお……?」
 
チビがアイシャの顔を見上げる。
 
「そうなの……、でも、心配ないわよ……」
 
「きゅぴ~……」
 
「さあーっ!チビちゃん、夕ご飯の前に、オイラと散歩いこーねっ、
アイシャ、ショルダーバッグーっ!」
 
「もう、ダウドったら……、はい……」
 
アイシャがダウドにバッグを手渡すとダウドは張り切って
チビをバッグに入れる。
 
「んじゃあねー、行って来まーす!さあチビちゃん、オイラと
愛の逃避行だあーっ!」
 
「きゅぴーっ!だあーっ!」
 
「……おい、そのまんま、本当に逃走すんなよ……?」
 
しかし、部屋を出て行った後、すぐにダウドとチビが部屋に
戻って来た……。
 
「ありゃ、もう逃避行やめたのか……?」
 
「行きたかったんだけど、ペー君が大変みたいなんだよお……」
 
「何かあったの!?」
 
「そういや、今日は顔見てねえな……、俺らもペースケが
起きる前に朝早く城に出掛けたしなあ……」
 
「うん、夕方の買い出しに出たまんま、まだ帰ってこない
らしくて……、旦那さんとおかみさんが心配してる……」
 
ペースケに何かあったのか、4人は心配になり顔を見合わせる……。
 
「俺達もロビー行って見るか、心配だしな……」
 
4人がロビーに行ってみると、旦那さんとおかみさんが
夫婦でオロオロしていた。
 
「また雪も降ってきましたし……、心配だわ……、私が
ちょっと見てくるわ……」
 
「いや、俺が行こう……、お前は待ってろ……」
 
「まだ、帰ってこないのかい?ペースケの奴……」
 
「ジャミルさん……、ペースケちゃん、お買い物に行って
貰ったまま、もう一時間以上たつんですけど……、まだ
帰らないんですよ、暗くなって雪も降ってきましたし、
私達、心配で……心配で……」
 
「……も、もしかして、誘拐されたとか……?あわわ……!」
 
「こら、変な事言わないんだよ、ダウド、旦那さんと
おかみさんのいる手前で……」
 
「だってえ……、アル、心配だよお……」
 
「み、皆で探しに行きましょっ!!」
 
アイシャが促すが、ジャミルが首を横に振った。
 
「いや、ゾロゾロ行って入れ違いになっても困るし、
お前らは待っててくれや、おじさんとおばさんもまだ客の接待も
あるだろうから、俺が行くよ」
 
「そうだね、ジャミルが一番足も速いし、此処は任せた方が
いいかもね……」
 
「大丈夫……?気を付けてね……」
 
「すみません、本当に……、どうか宜しくお願いします……」
 
「頼むね……、本当にすまないね……、ジャミルさん……」
 
夫婦が申し訳なさそうにジャミルに頭を下げた。
 
「ああ、すぐに探して戻ってくるよ」
 
おかみさんに再びコートを貸して貰い、ジャミルが外へ
飛び出して行く。……外はどんどん雪が降って来ていた。
 
「確か今日は、肉屋まで出掛けたっておばさんが言ってたっけな……、
……へ~っくしっ!!……それにしても、寒いなあ~、こりゃ……」
 
雪の降る町中を暫く歩いていくと……。
 
「……お、ペースケだ、何してんだ、あいつ……」
 
道具屋の側で買い物かごをぶら下げたまま、ペースケが
暗くなって来た空をぼけっと見上げ突っ立っていた……。
 
「おい、ペースケ!!」
 
ジャミルが大声で呼ぶとペースケが反応した。
 
「兄ちゃん……」
 
「何してんだよ、お前……、おじさんとおばさんが
心配してるだろうが……」
 
「おれ、こわいんだよ……」
 
「はあ……?何がだよ……」
 
呆れながら、ジャミルがペースケの側に近寄って行った。
 
「幸せすぎて、こわいんだよ……、こんな幸せなこと
ばっか続いたら……、おれ、未来が不幸になっちゃうかも
知れない……、こわくて……」
 
「アホっ!!」
 
「イテッ!何すんだよ!この短足親父っ!!」
 
ジャミルにデコピンされたデコを押さえながらペースケが喚く。
 
「今から誰も判らん未来を勝手に想像して悲観してどうする!
……俺はそういうのが一番嫌いなんだよ!」
 
「……兄ちゃん……、ごめんよ……」
 
「戻るぞ、皆、心配してんだぞ……」
 
「うん……」
 
そして、ジャミルはペースケは連れ宿屋へと戻る。ペースケの
無事な姿を見るとおかみさんは涙を流し喜んでペースケを抱きしめた。
 
「寒かったでしょう……?さあ、温かいシチューを
作ってありますよ……」
 
「ありがとう……、ごめんな、父ちゃん、母ちゃん……、
おれ、ちゃんといい子になるから……、だから……、ずっと
ここに置いておくれよぉ……」
 
「あなた……、ペースケちゃんが……」
 
「ああ、やっと、父ちゃん、母ちゃんて呼んでくれたのか……、
嬉しいよ、ありがとうな、よしよし……、ははは……、お前は
いい子だよ、本当に……」
 
夫婦が今度は二人で揃ってペースケを抱きしめた。
 
「さてと、邪魔者は退散するかねー、チビも待ちくたびれて
うるせーだろうしな」
 
「そうだね……」
 
「良かったわね、ペー君……」
 
「うん、本当に良かったよお……。」
 
そんな親子のやり取りの様子を4人笑顔で見守る。そして……。
ペースケはハッピーエンドを迎えたが、相変わらずの4人は
事が何も進まず、今日も城の地下で書籍と本の山に埋もれて
いたのだった。
 
「……ああ~っ!もう嫌だ~っ!幾らこの大量の本の山、
漁ったって目当ての情報なんか絶対みつかんねーよーっ!!
きいーーっ!!」
 
遂にジャミルが床にねっ転がって幼児の如く暴れ出した。
 
「やっぱり、此処でも無理なんじゃないのかなあ~……」
 
「もう、ダウドまで、そんな事言わないのよ、……もう少し
頑張りましょ……?」
 
不貞腐れ始めたジャミルとダウドの方を見ず、アルベルトは黙々と
本を読み続ける。
 
「……くしょ~、おかしいんじゃね?アルの奴……、
大体において、俺は本嫌いなんだからさ……、ああ~、
此処、糞寒いなあ~、糞、……常夏の南の島でダイビングやりてえ……」
 
「……マイラの温泉で、潜ってきたら……?プ……」
 
本を読んだままアルベルトが吹きだした……。
 
「プ、ププププ……」
 
「……いいよ、いいよ、皆してそうやって俺の事
馬鹿にしてろ、フンだ……」
 
胡坐をかいて不貞腐れ、ジャミルがアルベルトと
ダウドを横目で見る。
 
「ジャミルったら!いじけてないで真面目に情報探してよ!」
 
「わっかりましたよーっ、真面目に探しまーっすと、別に
俺はいじけてねーよ!フン、どっかの誰かさんじゃねえっての!」
 
「何だよお!」
 
「もう……」
 
アイシャに注意され、しぶしぶジャミルが立ち上がった。
 
「はあ~、しかし見てるだけで、頭いた……」
 
どうにか気力を振り絞り、まだ未回覧の棚の方を探し回ってみる
 
「……この本だけ、異様にうす汚ねえなあ……、
埃だらけだ……」
 
他の本の間に交じって、その本はあった。気になったのか、
ジャミルが本を開いてみる。
 
「何だい?この本、何も書いてねえや……、おい、
こんなの置くなよ……」
 
呆れてジャミルが本を棚に戻そうとした、その時……。
 
「?な、何……!?鍵が光ってる……?何で急に……」
 
慌てて腰のポーチにしまってある鍵を取り出す。
 
「どうしたの……!?」
 
他の3人も慌てて集まって来る。
 
「俺にも分かんねえんだ、ただ、この本開いたらさ、
鍵が……」
 
鍵は光を放つと、本を照らし出す……。
 
「……さっきまで、何も書いてなかったのにな、急に文字が
浮かんできたし……、おい、どうなってんだよ、これ……」
 
「あぶりだし……、みたいな物……、なのかなあ……」
 
「この鍵がヒントをくれるの……?」
 
4人が見つめる中、今まで何も書いていなかった本に完全に
不思議な文字が浮かび上がる……。
 
「えーと、悪しき者栄える城……、隠されし魔法の扉って、
書いてある、何のこっちゃ……???」
 
そして、本からは再び文字が消え、又、ただの真っ白な本に戻った……。

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  • 短編
  • ファンタジー
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  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-20

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. エピ45・46
  2. エピ47・48